2021年度受賞者詳細

2021年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細

コンピュータサイエンス領域奨励賞は,コンピュータサイエンス領域に所属する研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な研究発表を行った若手会員に贈呈されます.本賞の選考は,CS領域奨励賞表彰規程,CS領域奨励賞受賞者選定手続およびCS領域奨励賞受賞者推薦内規に基づき,領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は11研究会の主査から推薦された計21編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定しました.本年度の受賞者は下記21君で,各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,賞金が授与されます.

●スタンス検出タスクにおける評価方法の選定
 [DEIM2021(2021/3/1)](データベースシステム研究会)

雨宮 佑基  君 (正会員)

発表時所属:早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 情報理工・情報通信専攻 修士2年
受賞時所属:富士フイルム株式会社 インフォマティクス研究所
[推薦理由]
本論文では,ニュース記事やSNS上の投稿における書き手のスタンスを特定するスタンス検出システムにおける,最適な評価方法について論じている.既存の9つの評価手法に対し,システムランキングの類似度,順位安定性,Ordinal Classの区別という3つの観点で比較実験をおこない,順位安定性とOrdinal Classの区別という2つの観点で結果のよかったCEM^ORDが評価手法として最も適切であると結論づけている.このようなデータ分析において評価方法の選定は重要であり,また,スタンス検出システム以外にも広く適用可能な結果であることから,他の研究者に対して非常に有益であるといえる.以上から,CS領域研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●高次元空間における効率的な近似 k Nearest Neighbor 検索アルゴリズム
 [DEIM2021(2021/3/2)](データベースシステム研究会)

新井 悠介  君 (学生会員)

発表時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科マルチメディア工学専攻(原研究室)1年
受賞時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科 マルチメディア工学専攻(原研究室)
[推薦理由]
高次元ユークリッド空間における近似k近傍検索は,機械学習や情報検索など,コンピュータサイエンスの幅広い分野で用いられている基盤的なアルゴリズムである.本論文は,Locally Sensitive Hashing 法に近接グラフを組み合わせることにより,理論的な性能保証のある近似k近傍検索アルゴリズムを提案した.提案手法は,性能保証がない従来の最先端の手法に対する理論的な利点があることに加えて,従来手法よりも高速かつ高精度に検索できることが,実世界のデータを用いた実験により示されている.本論文の成果は,近似k近傍検索を基礎とする技術に広く貢献するものであり,その波及効果は大きい.よって,本研究をCS領域研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●RNNの抽象化モデルに対するバグ限局とその評価
  [2021-SE-207(2021/3/1)](ソフトウェア工学研究会)

石本 優太  君 (学生会員)

発表時所属:九州大学 工学部 電気情報工学科 4年
受賞時所属:九州大学大学院 システム情報科学府 情報理工学専攻 修士課程1年
[推薦理由]
ディープニューラルネットワーク(DNN)に対するバグ限局に関する既存研究の多くは画像処理用モデルを対象としており,自然言語処理に用いられるRNNを対象とするものはほとんどなかった.本論文は,RNNから確率オートマトンを抽出する技術と,ソースコードのバグ限局技法を組み合わせたRNN向けのバグ限局手法を提案している.評価実験を実施し,RNNのバグに関連するデータを抽出できることを示している.ソフトウェア工学知見をRNNという新たな分野に展開する将来有望な論文である,以上より,CS領域奨励賞にふさわしい論文である.
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●訓練履歴を用いた欠陥局所化によるディープニューラルネットワーク修正技術の開発
  [2021-SE-207(2020/3/2)](ソフトウェア工学研究会)

徳井 翔梧  君 (正会員)

発表時所属:株式会社富士通研究所 ソフトウェア研究所 デジタルシステムプロジェクト
受賞時所属:富士通株式会社 研究本部 人工知能研究所 AI品質プロジェクト
[推薦理由]
ディープニューラルネットワーク(DNN)が誤判定をした場合のDNNモデルの修正は,DNNを搭載したシステム開発において重要な問題となっている.本論文はこの問題に対して、データを変更した再訓練を行うのではなく,DNNモデルを直接的に修正する技術を提案している.同様の修正技術は既存技術が存在するが,本論文では訓練履歴を用いる新たな手法を提案している.評価実験により誤判定の修正が可能であるほか,既存技術に比べて成功判定に対する退行が少ないことを示している.技術の先進性に加えて,工学的な有用性の期待できる論文である.以上より,CS領域奨励賞にふさわしい論文である.
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情報量に着目したインフォメーションフロー追跡による情報漏洩防止手法の検討
 [2020-ARC-242(2020/10/12)](システム・アーキテクチャ研究会)

小川 愛理 君 (正会員)

発表時所属:日本アイ・ビー・エム 東京基礎研究所/ 東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 博士2年
受賞時所属:日本アイ・ビー・エム 東京基礎研究所
[推薦理由]
コンピュータシステムにおけるセキュリティの担保は現代の情報化社会において解決すべき喫緊の課題である.特に,個人情報や機密情報の漏洩は極めて深刻であり,その抜本的解決手段が模索されている.その一つとして,動的インフォメーションフロー追跡 (DIFT: Dynamic Information Flow Tracking)があるが,既存技術では,マイクロプロセッサでのソフトウェア実行において直接の依存関係にない条件分岐などを介した暗黙的フローを適切に追跡できず,情報漏洩を正しく検出できない(または誤検出する)問題があった.この問題を解決すべく,本研究では,フロー追跡に使用する付加情報を従来の二値ではなく,有限の範囲を持つ多値情報として取り扱う新たな手法を提案した.これは,セキュア・プロセッサ研究において価値ある内容であり,CS領域奨励賞受賞候補として推薦する.
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●FPGAを用いたデータベースクエリ処理の高速化
 [2021-ARC-243(2021/1/26)](システム・アーキテクチャ研究会)

尾作 洋彦 君 (正会員)

発表時所属:電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻
受賞時所属:株式会社シンカーミクセル
[推薦理由]
ビッグデータ解析は Sociey5.0 において欠くことのできない主要アプリケーションであり,その高速化が望まれている.しかしながら,演算当たりのデータ量が多く,主記憶へのデータ転送がボトルネックになり,その抜本的な解決が必要となる.これに対し本研究では,データ転送経路上で演算を行う高性能化実行プラットフォームに着目し,フラッシュストレージと主記憶のデータ転送経路上で動作する集約演算専用ハードウェアを提案している.定量的評価の結果,従来技術に対して約10倍の実行速度を達成しており,その有効性は明らかである.これは,今後のビッグデータ解析を対象とした情報処理基盤技術として価値ある成果であり,CS領域奨励賞受賞候補として推薦する.
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●GPUからの疑似的なシグナル送信によるプロセスレベル障害からの復旧
  [2020-OS-150(2020/7/30)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

木村 健人 君 (学生会員)

発表時所属:九州工業大学 情報工学府 情報創成工学専攻1年
受賞時所属:九州工業大学 情報工学府 情報創成工学専攻2年
[推薦理由]
大規模化したシステムにおいて障害の発生自体を防ぐことは難しく,障害発生時に迅速かつ安全に復旧する必要性が増している.本研究では,GPUがOSカーネルのメモリを直接操作し,プロセスへのシグナルを発生させることで,プロセスレベルでの障害復旧を実現している.本手法の利点として,強制的なリセットと比較し,復旧までの時間が短くデータが失われる可能性が低いという特徴が挙げられる.本研究は,GPUがOSカーネルのメモリを書き換えるという斬新な手法を用いているだけでなく,障害復旧という新たな領域においてもGPUが有用であることを示し,CS領域奨励賞の受賞に相応しい先進的な研究成果であると認められる.
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●コンテナ型クラウドサービス基盤におけるハードウェア仮想化技術の併用によるネットワーク制御の検討
  [ComSys2020(2020/12/1)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

中田 裕貴 君 (学生会員)

発表時所属:公立はこだて未来大学大学院 システム情報科学研究科 博士前期課程1年
受賞時所属:公立はこだて未来大学大学院 システム情報科学研究科 博士前期課程2年
[推薦理由]
クラウドサービス基盤において複数のテナントに対しインスタンスを提供する際には,複数のテナントに対する平等な資源分配が重要となる.本研究では,インスタンスの軽量化および高集積化のために,コンテナ型仮想技術によりインスタンスを割り当てる方式が用い,その際に生じるネットワーク処理の公平性を実現するために,ネットワークインタフェースのハードウェア仮想化技術を用いる方法を提案,実現している.本研究の成果は,ソフトウェアとハードウェアの機能分担により高い実用性が期待されるものであり,優れた論文である.以上の理由により,本論文は情報処理学会CS領域奨励賞に相応しいと判断し,ここに推薦する.
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●クリティカルパス・アイソレーションとビット幅削減を用いた過電圧スケーリング向け省電力設計手法
 [DAシンポジウム2020(2020/9/8)] (システムとLSIの設計技術研究会) 

増田  豊 君 (正会員)

発表時所属:名古屋大学大学院 情報学研究科 附属組込みシステム研究センター
受賞時所属:名古屋大学大学院 情報学研究科 附属組込みシステム研究センター
[推薦理由]
過電圧スケーリングは,計算品質の制約下で電源電圧を積極的に低減することで,集積システムを省電力化する技術である.過電圧スケーリングを行う際,タイミング故障による誤動作を防ぐため,クリティカルパスの遅延時間を削減するクリティカルパスアイソレーション(CPI)と呼ばれる技術を適用する.本論文では,CPIを用いても遅延削減が困難なクリティカルパスを含む場合でも,計算品質制約下で演算器等のビット幅削減を行い,電力を削減する方法を提案した.GPGPUプロセッサを用いた評価実験により,50%程度の電力削減効果を確認した.本研究は,集積システムの高性能化,省電力化に貢献する価値の高い論文であることから,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●Approximate Computingを用いた不揮発性メモリへの画像データ書き込みにおけるエネルギー削減手法
 [2020-SLDM-192(2020/11/18)] (システムとLSIの設計技術研究会)

小野 義基 君 (正会員)

発表時所属:芝浦工業大学大学院 理工学研究科 電気電子情報工学専攻 修士2年
受賞時所属:ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 イメージング&センシング エッジコア技術部門 PF開発4部
[推薦理由]
不揮発性メモリは,読み書き性能が良く,細粒度電源遮断が可能である一方,書き込みエネルギーが大きいという課題がある.本論文では,書き込むデータのビット列をグループに分割し各グループの書き込み時間を最適化することで,データ品質を維持しながら書き込みエネルギーを削減する手法を提案した.画像データを使用してシミュレーションによる評価実験を行った結果,画質をほぼ落とさずに,書き込みエネルギーを最大50%削減でき,画像処理を行った場合にはさらに17%のエネルギー削減を達成した.本研究は,不揮発性メモリを活用した省電力なIoT端末の実現に向けた価値の高い論文であることから,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●余剰コアの活用に向けた実行中プロファイリング手法の検討
 [2020-HPC-177(2020/12/21)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

工藤  純 君 (正会員)

発表時所属:東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学
受賞時所属:合同会社DMM.com
[推薦理由]
近年,CPUが内蔵するコア数は増加傾向にあり,アプリケーションの性質によっては,すべてのコアを使い切ることが必ずしも最良でないことが生じている.本研究では,このような状況下で発生する「余剰コア」を活用するための取り組みを行っている.本発表では,余剰コア管理フレームワークの開発への一歩として,余剰コア上でSystemTap を動作させることで主計算の動作を監視し,フックを行わせることで実行中プロファイリングと並列数の変更を可能とした.また,今回の手法がパフォーマンスに及ぼす影響についてオーバーヘッドを評価し,フックから得られたプロファイリング結果の妥当性を示した.本研究は,余剰コアの活用により,計算機システムをより効率的に利用することを可能にするための重要なもので,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に値するものとして推薦する.
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●時間発展Stokes方程式に対する粗格子集約を用いたMultigrid Reduction in Timeの適用
  [2021-HPC-178(2021/3/15)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

依田  凌 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 数理情報学専攻
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 数理情報学専攻
[推薦理由]
時間発展偏微分方程式に対する時間並列解法は,近年の超並列大型計算機向けの解法として注目されている.本解法の一つに,空間方向に加えて,時間方向にもコースニングを行うMultigrid Reduction in Time (MGRIT) 法がある.しかし一般の空間領域のみに対するMultigrid 法と同様に,超並列環境においては最粗グリッドの通信コストが増加し,スケーラビリティの悪化が問題となる.本研究では,本問題に対して,段階的なコースニング,最粗グリッドにおける反復法の利用,マルチグリッド法を前処理として活用するという3つの技術の導入により,従来法と比べて10倍以上の高速化を実現した.本研究は,時間並列解法に関する研究における大きな貢献であり,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に値するものとして推薦する.
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●CENTAURUS: A Dynamic Parser Generator for Parallel Ad Hoc Data Extraction
  [PRO-2020-1(2020/6/1)] (プログラミング研究会)

井原 央翔 君 (正会員)

発表時所属:株式会社日立製作所 研究開発グループ テクノロジイノベーションセンタ
受賞時所属:株式会社日立製作所 研究開発グループ テクノロジイノベーションセンタ
[推薦理由]
本研究は,データ交換によく使われるXMLやJSONなどのテキスト形式の巨大なデータから必要な情報をアドホックに抽出する方法に関する研究である. 本研究発表では,データの文法とアクションの簡潔な記述を入力として並列処理によってアドホック抽出を行うための動的構文解析器を自動生成するライブラリの設計・実装を示し,その実効性について評価している. その実装では Python および C++ によるアクションの記述を可能にしており実用性も高く,特に Python においては本実装により自動生成された構文解析気は専用構文解析器よりも優れたパフォーマンスを示している.以上の点から,本賞にふさわしい研究発表として推薦する.
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●実行時リージョン解析による動的言語Rubyのメモリ割付け最適化
  [PRO-2020-1(2020/6/2)] (プログラミング研究会)

齋地 崇大 君 (学生会員)

発表時所属:クックパッド株式会社
受賞時所属:クックパッド株式会社 技術部
[推薦理由]
本研究は,動的言語であるRubyの処理系におけるメモリ管理の問題に対し,静的言語で利用されているリージョン解析が有効であることを示す研究である. 元来のリージョン解析は,メモリ空間をリージョン単位に分割し,オブジェクトの生存区間を実行前に解析することで,どのリージョンにオブジェクトを配置するかを定めることで,効率的なメモリ管理を実現するものであった.本研究では,動的言語であるRubyにおいても,JITコンパイル時にリージョン解析を適用することで,効率的なメモリ管理が実現できる場合があることを示している.効果が得られない場合についても細かい原因の分析を行っており,本賞にふさわしい研究発表として推薦する.
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●Approximation of the Independent Feedback Vertex Set Problem
 [2020-AL-177(2020/5/9)] (アルゴリズム研究会)

田村 祐馬 君 (正会員)

発表時所属:東北大学大学院 情報科学研究科 博士2年
受賞時所属:東北大学大学院 情報科学研究科 システム情報科学専攻
[推薦理由]
本研究ではフィードバック独立点集合問題を扱っている.この問題は与えられたグラフから独立点集合であり,かつフィードバック頂点集合であるような頂点部分集合のうち,サイズが最小であるものを見つける問題である.この問題は二部平面グラフですらNP困難であることが知られているため,本研究ではこの問題の近似可能性について解析を行っている.具体的には二部平面グラフに対して効率の良い近似アルゴリズムが存在しないことを示す一方で,二部グラフに対して近似率が最大次数に依存する効率的な近似アルゴリズムを与えている.本研究の結果は理論的な観点から大きな意味を持つものである.以上の理由から,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●A 3/4 Differential Approximation Algorithm for Traveling Salesman Problem
 [2021-AL-182(2021/3/17)] (アルゴリズム研究会)

天野 雄樹 君 (学生会員)

発表時所属:京都大学大学院 理学研究科 数学・数理解析専攻 博士後期課程 1年
受賞時所属:京都大学大学院 理学研究科 数学・数理解析専攻 博士後期課程 2年
[推薦理由]
本研究では巡回セールスマン問題の微分近似性について扱っている.巡回セールスマン問題とは,全ての都市をちょうど一度ずつ巡り出発地に戻る巡回路のうち,移動距離が最小のものを求める問題であり,微分近似性とは1996年にDemangeとPaschosによって提案された,近似アルゴリズムの性能を測るの指標の一つである.本研究では巡回セールスマン問題を解く微分近似率が3/4であるようなアルゴリズムを与えている.これは従来知られていた3/4-O(1/n)を改善するものであり,本研究の結果は理論的な観点から大きな意味を持つものである.以上の理由から,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●サイド情報を活用した水中病原体と指標微生物の相関解析
 [2021-MPS-132(2021/3/1)] (数理モデル化と問題解決研究会)

曹  洪源 君 (正会員)

発表時所属:群馬大学大学院 理工学研究科 修士2年
受賞時所属:グラッド・ソフトウェア
[推薦理由]
曹洪源君の研究は,水中微生物濃度間の相関係数を推定するために,トビットモデルと呼ばれるモデルを使うものであった.ドメイン知識を導入できるようモデルを改良することによって,従来のほぼ変わらない計算量で,大幅に推定精度を向上できることを数値実験によって実証した.精緻な理論構築によって新技術を打ち立て,かつ,大規模な数値実験によって実用性を例示した優れた研究成果であった.口頭発表においては,取り組んだ問題の説明から徐々に詳細に入っていくように心がけ,聴衆へのわかりやすさを担保した.質疑応答にも的確に回答した.以上の理由より,曹洪源君はCS領域奨励賞に相応しいと判断した.
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●組み込みシステムに適したRISC-Vソフトプロセッサの設計と実装
 [2020-EMB-54(2020/6/26)] (組込みシステム研究会)

金森 拓斗 君 (学生会員)

発表時所属:東京工業大学大学院 情報理工学院 情報工学系 修士1年
受賞時所属:東京工業大学大学院 情報理工学院 情報工学系 修士2年
[推薦理由]
本発表は,組込みシステムでの使用を目的としたRISC-Vソフトプロセッサに対し,圧縮命令の実行時の性能低下の要因に着目し,効率の良い圧縮命令フェッチのための新しいアーキテクチャを提案するものである.更に提案アーキテクチャを含むプロセッサをFPGAを対象として実際に設計・実装し,ハードウェア量およびパフォーマンスに関して関連研究との詳細な比較評価を行っている.評価の結果,提案手法の優位性が示されている.これらの新規性,有用性の観点および組込みシステム分野での発展可能性が期待できることから本論文をCS領域奨励賞に推薦する.
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●Dynamic Linking Method for an Embedded Component System
 [APRIS2020(2020/11/10)] (組込みシステム研究会)

山内 克哉 君 (正会員)

発表時所属:東海国立大学法人 名古屋大学大学院 情報学研究科 情報システム学専攻 博士前期課程2年
受賞時所属:株式会社日立製作所 横浜研究所
[推薦理由]
本発表は組込みコンポーネントシステムであるTOPPERS Embedded Component System (TECS) を利用したダイナミックリンクの方法を提案するものである.提案方式により,アプリケーションモジュールを個別に更新することが可能となり,ソフトウェアの更新コストを削減できる.評価において,提案手法の適用による使用メモリ量への影響が微小であることが示されており,メモリ資源制約の厳しい組込みソフトウェア開発においてダイナミックリンクの仕組みを導入できる可能性を拡大している点に大きな意義がある.これらの新規性,有用性の観点および組込みソフトウェア開発分野での発展可能性が期待できることから本論文をCS領域奨励賞に推薦する.
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●ノイズ付き浅層回路に於ける量子優位性
 [2021-QS-2(2021/3/29)] (量子ソフトウェア研究会)

長谷川敦哉 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 修士課程
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻
[推薦理由]
量子計算の古典計算に対する優位性の証明を試みる研究は様々なアプローチで行われてきたが,2018年以降,浅層の量子回路が古典回路よりも優位性があることを示そうという研究が活発化してきている.本発表は,量子グラフ状態をエクスパンダーグラフで考え,一定の割合で任意に頂点の削除があっても,すなわち,局所性のない量子ビットの破損があっても,同様の優位性があることを示した.Quantum Advantageに関する独創的な理論的成果であり,実験的応用の可能性もある.CS領域奨励賞にふさわしい発表であると考える.
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●超伝導回路を用いた量子誤り訂正向けオンライン復号器の提案
 [2021-QS-2(2021/3/29)] (量子ソフトウェア研究会)

上野 洋典 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 博士課程2年
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 博士課程3年
[推薦理由]
超伝導量子コンピュータを作るための効率的なアーキテクチャ設計に向けて,ボトルネックの一因である量子誤り訂正の復号に対して,スケーラビリティを大きく向上させる方法を提案した優れた発表である.量子計算,量子アルゴリズム,計算機アーキテクチャ等,幅広い知見がないと出せない結果であり,今後重要になってくるであろう量子コンピュータのアーキテクチャ研究の先駆的な成果といえる.今後の研究分野の拡がりを推奨する意味でも,CS領域奨励賞に推薦したい.
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