2020年度受賞者詳細

2020年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細

コンピュータサイエンス領域奨励賞は,コンピュータサイエンス領域に所属する研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な研究発表を行った若手会員に贈呈されます.本賞の選考は,CS領域奨励賞表彰規程,CS領域奨励賞受賞者選定手続およびCS領域奨励賞受賞者推薦内規に基づき,領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は10研究会の主査から推薦された計18編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定しました.本年度の受賞者は下記18君で,各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,賞金が授与されます.

●点過程を用いたフェイクニュース検出
 [DEIM2020(2020/3/3)](データベースシステム研究会)

村山 太一  君 (学生会員)

発表時所属:奈良先端科学技術大学院大学 情報科学領域 D1
受賞時所属:奈良先端科学技術大学院大学 情報科学領域
[推薦理由]
SNSの普及とともに,「フェイクニュース」と呼ばれる誤った情報が多く投稿・共有されており,民主主義を脅かす深刻な社会問題の一つとなっている.本研究は,SNS上の投稿からフェイクニュースを検出する問題に取り組み,既存研究では考慮されていなかったSNS上での投稿数の時間的変遷に着目し, "infectiousness values"と呼ぶ新たな時間的特徴量と既存の特徴量を組み合わせたフェイクニュース検出モデルを提案した.また,3個のデータセットで実験を行い提案手法の有効性を確認している.このように,本論文は社会的に重要な問題に取り組み,新たな手法を提案するとともにその有効性を確認している.よって,本研究は,CS領域研究賞にふさわしい論文として推薦する.
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●大規模時系列テンソルからの長期イベント予測
 [DEIM2020(2020/3/3)](データベースシステム研究会)

本田 崇人  君 (正会員)

発表時所属:大阪大学 産業科学研究所
受賞時所属:大阪大学 産業科学研究所 産業科学AIセンター
[推薦理由]
本論文では,大規模時系列データのための予測アルゴリズムとして,SplitCastを提案している.事前知識を必要とせずに特徴的なパターンやその変化点を抽出し,これらを要約することで長期的なイベントの予測を可能としている.さらに,これらの処理をデータサイズに対して線形な計算量で実現できている.また,実データを用いた実験により,これまでよりも大幅な精度と性能を向上させたことが確認できる.多種センサからの時系列データの収集が様々な分野で大規模に進められ,その活用が広く求められており,提案手法の活用が期待できる.よって,本研究は CS 領域奨励賞にふさわしい論文であると言える.
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●ソースコード構文木とコールグラフの統合的な埋め込みに基づくメソッド名の推定
  [2020-SE-204(2020/3/2)](ソフトウェア工学研究会)

米内 裕史  君 (正会員)

発表時所属:筑波大学大学院 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 博士前期課程2年
受賞時所属:ヤフー株式会社
[推薦理由]
ソフトウェア開発において,ソースコード中に現れるメソッドに対する適切な名前付けは,開発の知識や経験を必要とする困難な作業である.本論文では,メソッド定義を実現するソースコードの構造的情報とメソッド間の呼び出し関係を利用した,メソッド名の推薦手法を提案している.従来手法が名前の推薦対象であるメソッドの情報だけを利用しているのに対して,そのメソッド内部で呼び出しているメソッドの情報も利用する点が新しい.提案手法に対する評価実験を通して,メソッド名の推薦精度の向上が確認されており,実用性の高い研究である.以上より,CS領域奨励賞にふさわしい論文である.
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NDCKPT: 不揮発性メインメモリを用いたOSによる透過的なプロセスチェックポインティングの実現
 [2020-ARC-240(2020/2/27)](システム・アーキテクチャ研究会)

西田  耀 君 (正会員)

発表時所属:早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科4年
受賞時所属:グーグル合同会社
[推薦理由]
近年,コンピュータシステムの信頼性向上は喫緊の課題となっており,特にアプリケーションの耐障害性を向上させる手法の一つであるチェックポインティングが注目されている.従来の実装法ではプロセス状態の保存先として外部記憶が用いられていたが,近年,不揮発性メモリを活用することで高速動作を可能にする試みが多く提案されている.しかしながら,主記憶から不揮発メモリへのデータ移動は依然としてシステムの性能ボトルネックとして存在するのが実情である.この問題に対し,本研究は,不揮発メモリに対するアプリケーションの直接マッピングを可能にすることで性能オーバヘッドを大幅に低減する新しい方式を提案している.コンピュータシステムの高信頼化は今後ますます重要性を増すことが予想され,本研究の成果はこの課題に対する有望な方向性を示す価値あるものである.よって,CS領域奨励賞受賞候補として推薦する.
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●宇宙機制御用 Space Responsive Multithreaded Processor (SRMTP)
 [2020-ARC-240(2020/2/28)](システム・アーキテクチャ研究会)

中別府将太 君 (学生会員)

発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 修士課程2年
受賞時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 博士課程1年
[推薦理由]
宇宙空間で稼働する電子機器システムには極めて高い信頼性が要求される.特に,リアルタイム性が要求される応用の場合,信頼性との両立が必要不可欠となる.本研究では,高機能なコンピュータ群とセンサやアクチュエータなどのシンプルな機器群で構成された分散リアルタイムシステムである宇宙機システムへの搭載を前提とした Space Responsive Multithreaded Processor (SRMTP) を設計し,その有効性を明らかにしている.宇宙空間では地上とは異なるレベルの高信頼設計が必要となり,アーキテクチャや回路設計など様々な観点からの対策が必要である.これを実現すべく,SRMTPには様々な工夫が施されている.本研究の成果は宇宙機システムでの応用に留まらず,高い信頼性が求められる他のリアルタイム・アプリケーションへと展開できるものであり,今後の高信頼コンピュータ・アーキテクチャの方向性を示す価値ある成果である.よって,CS領域奨励賞受賞候補として推薦する.
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●Pause Loop Exitの多発につながるKVMにおける仮想CPUスケジューリング
  [2019-OS-147(2019/7/25)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

安野 直樹 君 (正会員)

発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 修士2年
受賞時所属:ソニー株式会社 R&Dセンター Tokyo Laboratory 13
[推薦理由]
Pause Loop Exit (PLE)は仮想CPUが長時間ビジーウェイトした際に仮想マシン(VM)から仮想マシンモニタ(VMM)へ処理が遷移するイベントであり,VMMは適切な仮想CPUスケジューリングでPLEの原因を短時間で解消すべきである.本論文は,KVMの仮想CPUスケジューリングがうまく機能せずPLEが多発していること,またその原因の詳細を明らかにしている.さらに,それぞれの原因に対する改善手法を提案し,これによりPLEの連続発生数を減らし,一部のワークロードでは性能が大幅に改善することを実験により示している.この論文は,複雑なシステムであるVMMにおける仮想CPUスケジューリングの調査と考察を詳細に行っている点で優れ,また示された改善手法はVMの性能改善に寄与する有用な成果である.よって,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●secureTCP: Securing the TCP/IP stack using a Trusted Execution Environment
  [ComSys2019(2019/12/10)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

相原 啓汰 君 (学生会員)

発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 修士1年
受賞時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻 修士2年
[推薦理由]
本研究では,Trusted Execution Environment (TEE)を活用したセキュアなTCP/IPスタックであるsecureTCPを提案している.TEEは信頼を要するアプリケーションの一部コードを暗号化された信頼環境で,その他の非信頼環境と分離して実行する方式で,その活用法は様々に検討されてきた.本研究では,アプリケーションに加えて,TCP/IPスタックも独立した信頼環境で実行することで,通信に関するメタデータの機密性,完全性を保護し,セキュリティを高めている.TEEでは,信頼コードの最小化も課題となるが,パケットI/O処理を非信頼環境で実行するなど工夫されており,研究の完成度も実用性も高く,将来的な研究の発展が期待される.よって,本研究はCS領域奨励賞にふさわしい論文であると言える..
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●デバイスシミュレーションを用いたFDSOIプロセスにおけるラッチ構造の違いによるソフトエラー耐性の基板電圧依存性の評価
 [DAシンポジウム2019(2019/8/29)] (システムとLSIの設計技術研究会) 

小島健太郎 君 (正会員)

発表時所属:京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 電子システム工学専攻 修士2年
受賞時所属:オムロンソーシアルソリューションズ株式会社
[推薦理由]
本論文は集積回路のソフトエラーに関する論文である.集積回路の微細化に伴い,放射線起因の一時故障であるソフトエラーの顕在化が問題になっている.本論文は,65-nm FDSOIプロセスにおいて標準的な構造のラッチと高ソフトエラー耐性構造のラッチをデバイスシミュレーションを用いて評価している.ソフトエラーに対する有感領域と,ソフトエラーが発生する放射線エネルギー強度の臨界点を表す臨界LETを用いて,ラッチ構造と基板電圧がソフトエラー耐性に与える影響を明らかにした.本論文は,ソフトエラー耐性に対して大きな指針を与える価値の高い論文であり,CS領域奨励賞受賞論文として強く推薦する.
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●有機薄膜トランジスタの実測に基づくバイアス・ストレス劣化の要因とモデル化に関する検討
 [DAシンポジウム2019(2019/8/30)] (システムとLSIの設計技術研究会)

大島 國弘 君 (学生会員)

発表時所属:京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻 修士課程1年
受賞時所属:京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻 修士課程2年
[推薦理由]
本論文は有機トランジスタの劣化のモデル化に関する論文である.有機トランジスタは,バイアス・ストレスすなわちゲート電界とオン電流により劣化が進むと考えられている.どちらが支配的な要因であるかを特定することは,劣化メカニズムを理解しバイアス・ストレス劣化をより正確にモデル化する上で重要である.本論文では異なるストレス条件下における実測に基づき,バイアス・ストレスの主要因を特定するとともに,測定結果に見られる変動パラメータの回復成分を考慮可能なモデル式を提案している.本論文は,有機トランジスタの劣化特性に対して大きな指針を与える価値の高い論文であり,CS領域奨励賞受賞論文として強く推薦する.
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●アスペクト指向言語を用いたHPC向けDSL作成プラットフォームの構築
 [2019-HPC-170(2019/7/26)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

石村  脩 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学研究科
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学研究科 博士課程
[推薦理由]
ドメイン特化言語(DSL)は複雑化するHPCシステムにおいて,効率的なプログラム開発を行う上で重要な技術である.本研究では,アスペクト指向言語に着目し,これを利用することにより,特定のシステムに対して開発されたDSLを複数の計算機システムに容易に展開する技術の構築を目指している.推薦対象となった研究発表では,HPCにおいて重要なステンシル計算を対象に,過去の研究において明らかになった問題点を解決するため,データ領域をブロック単位で管理することを提案し,その実装と評価を行っている.本研究は,HPCにおける将来のプログラミング方式を一変させる可能性を有する野心的な研究であり,その重要性は高い.本見解に基づき,本研究をコンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に推薦する.
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●GPU-FPGA協調プログラミングを実現するコンパイラの開発
  [2019-HPC-172(2019/12/18)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

綱島 隆太 君 (学生会員)

発表時所属:筑波大学大学院 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 博士前期課程2年
受賞時所属:筑波大学大学院 理工情報生命学術院 システム情報工学研究群 情報理工学位プログラム 博士後期課程1年
[推薦理由]
本研究では,GPUとFPGAの両者を備えた計算機環境において,これらのアクセラレータを有効に活用するためのプログラムをより簡易に開発するためのソフトウェア開発を行っている.具体的には,複数のアクセラレータ向けAPIとしてその利用が広がりつつあるOpenACCに基づいて記述されたプログラムを自動的にGPU向けの処理部分とFPGA向けの処理部分に切り分け,それぞれを別ファイルとして個別にコンパイルした後に,それぞれの出力であるオブジェクトファイルをリンクすることで実行モジュールを作成する.本ソフトウェアは,一部に現在開発中の機構を有するが,筑波大学のCygnusにおいて基本的な実行フローの検証を行い,その有効性を確認している.本研究はGPUとFPGAの双方を有効活用するプログラミングに関して大きな貢献や発展が期待できる基盤研究であり,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に推薦する.
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●An extended SECD machine with a first-class macro mechanism
  [PRO-2019-1(2019/6/7)] (プログラミング研究会)

福田 陽介 君 (学生会員)

発表時所属:京都大学大学院 情報学研究科 博士後期課程3年
受賞時所属:千葉工業大学 STAIR Lab/京都大学大学院 情報学研究科 博士後期課程 D4
[推薦理由]
関数型言語のコンパイラのターゲット(目的機械)を意図したLandinのSECDマシンは,単純であるにもかかわらず表現力の高い抽象機械として知られる.本発表では,関数型メタプログラミングに向けて,一階のマクロ機構を持たせ拡張を行っている.また,発表資料では拡張したSECDマシンについては構文と意味論を形式的に与えている.応用の一例であるmicro Lispの実装は基幹部分は非常に小さいにもかかわらず,拡張の特徴の一つであるmacro closureによりプログラミング言語の多くの機能を実現している.拡張に関する理論的な成果ならびに応用に関する実装が十分に行われている点は高く評価できる.よって,本賞にふさわしい研究発表として推薦する.
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●Lift中間言語における動的長配列の追加
  [PRO-2019-4(2020/1/16)] (プログラミング研究会)

新美 和生 君 (学生会員)

発表時所属:東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 数理・計算科学コース 1学年
受賞時所属:東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 数理・計算科学コース 2学年
[推薦理由]
GPGPUプログラムのための配列指向の中間言語であるLift ILでは動的に長さが決まる配列を表現できない.Lift ILを拡張することは,高級言語の表現力を拡大につながり有意義である.本発表では,List ILにて動的長配列を扱う方法を提案している.具体的には,存在型を用いて配列の長さを隠蔽し,型から配列長を隠蔽・展開する操作を適切な場所に自動で挿入する.提案に基づいたList ILコンパイラを実装し,問題集を用いて記述,コンパイラ,実行が正しく行えたことを示している.動的長配列を扱いたいという問題を単純である一方で妥当でかつ有効である方法で解決している点が高く評価できる.よって,本賞にふさわしい研究発表として推薦する.
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●一般化最小マンハッタンネットワーク問題に対する動的計画アプローチ
 [2019-AL-174(2019/9/17)] (アルゴリズム研究会)

増村 優哉 君 (正会員)

発表時所属:大阪大学 大学院情報科学研究科 情報数理学専攻
受賞時所属:株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革サービス部
[推薦理由]
一般化最小マンハッタンネットワーク (GMMN) 問題は,平面上に与えられた点ペアに対し,各ペアを軸平行なパスのうち最短のもので繋ぎ,長さ最小のネットワークを設計する問題である.この問題は,特殊ケースとして NP 困難な問題を含んでおり,多項式時間定数近似アルゴリズムが存在するかどうかが未解決である.入力ペアの位置関係により定まる intersection graph に着目したとき,それが定数次数の木であるような場合には,多項式時間厳密アルゴリズムが知られていた.本研究では,GMMN 問題のもつ部分構造に注目し,次数制約がない場合について,動的計画法に基づく多項式時間厳密アルゴリズムを提案している.本研究の結果は理論的な観点から大きな意味を持つものである.以上の理由から,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●Online Row Sampling from Random Streams
 [2020-AL-176(2020/1/29)] (アルゴリズム研究会)

合田 理貴 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 数理情報学専攻 修士課程
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 数理情報学専攻 修士課程
[推薦理由]
行数が非常に大きいある行列 A が入力で与えられる. このとき半正定値行列 A^T A の二次形式を任意のベクトルについてよく近似する半正定値行列 B^T B を考える.このとき行列 B を A のスペクトラル近似と呼び,B の行数が小さいほど良い近似とされる.オンライン制約の下でこのスペクトラル近似を求める先行研究を発展させ,本研究では行列 A の各行がオンライン制約を満たしかつランダム順列に沿うという仮定をおくことで従来のタイトであった理論保証を改善する高速なアルゴリズムを提案し,加えて本アルゴリズムが圧縮率の意味で漸近的に最適であることを示した.本研究の結果は理論的な観点から大きな意味を持つものである.以上の理由から,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●パラメータ多様体の記述手法の提案とウイルスダイナミクスの解析への応用
 [2019-MPS-123(2019/6/18)] (数理モデル化と問題解決研究会)

小松 瑞果 君 (学生会員)

発表時所属:神戸大学大学院 システム情報学研究科 博士課程前期課程 2年
受賞時所属:神戸大学大学院 システム情報学研究科 計算科学専攻 博士課程後期課程 1年
[推薦理由]
時系列データの背後にある系について,未知パラメータをもつ状態空間モデルを用いて解析する場合,データを用いた未知パラメータの推定が問題となる.このような問題を扱うとき,モデルの可同定性,すなわち,データから未知パラメータが一意に定まるかどうかを考慮する必要がある.特に,パラメータが一意に定まらない場合,何らかの手法によって得られたパラメータは,候補となるパラメータの集合の一部でしかないため,このような手法ではモデルとデータから定まる情報を見落とす可能性がある.本研究は,そのような場合に,状態空間モデルと時系列データから定まる情報を,パラメータ多様体として一意に記述する方法を新たに提案し,また,生体内におけるウイルスダイナミクスに関するモデルに適用することで既存のパラメータ推定手法では見落とされていた重要な知見が得られることが示された為.
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●異なる時空間における3次元点群地図の統合
 [ESS2019(2019/9/6)] (組込みシステム研究会)

福富 大輔 君 (正会員)

発表時所属:立命館大学 情報理工学部
受賞時所属:トヨタ自動車株式会社
[推薦理由]
本論文は,自動運転などで用いられる3次元点群で構成される基盤地図の更新コストを削減するため自動運転車両の走行データで作成可能な地図で更新する手法を提案している.提案手法は,2つの地図が同一箇所である判定を地図という特性に応じて最適化し,自動運転車両の走行データに含まれる動的情報とオクルージョンの影響を抑える点において新規性が認められる.評価においても,新規の静的な建築物を74%追加することが可能であること示したうえで,更新後の地図を利用することで自動運転の走行安定性が向上したことから有用性を具体的に示している.これらの新規性,有用性の観点および自動運転分野での発展可能性も期待できることから本論文をCS領域奨励賞に推薦する.
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●A functionality expansion of the lightweight runtime environment mROS for the user defined message types
 [APRIS2019(2019/11/2)] (組込みシステム研究会)

祐源 英俊 君 (学生会員)

発表時所属:京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻 修士1年
受賞時所属:京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻 高木研究室所属 修士2年
[推薦理由]
受賞候補者らが研究開発を進めているmROSは,ロボット向け開発プラットフォームであるROSに組込み技術を活用できる軽量実行環境である.本研究発表では,ROSで提供されるユーザ定義のMessageTypeについて,これと同等のデータ構造をmROSの開発環境に対して自動生成する手法を提案した.これにより,mROSソフトウェアの省メモリ化および開発効率の向上が達成できることを示した.本研究の成果により,ROSフレームワークへの組込み技術のさらなる導入促進が期待される.また,本論文はSIGEMBの主催する国際会議APRIS2019で発表されたものであり,研究成果の国際発信に繋がっている.CS領域奨励賞に値する特に優れた研究発表であると判断しここに推薦する.
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