2019年度受賞者詳細

2019年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細

コンピュータサイエンス領域奨励賞は,コンピュータサイエンス領域に所属する研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な研究発表を行った若手会員に贈呈されます.本賞の選考は,CS領域奨励賞表彰規程,CS領域奨励賞受賞者選定手続およびCS領域奨励賞受賞者推薦内規に基づき,領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は9研究会の主査から推薦された計16編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定しました.本年度の受賞者は下記16君で,各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,賞金が授与されます.

●自動パターン検出のためのストリームアルゴリズム
 [TOD Vol.11 No.1(WebDBF2018)(2018/9/13)](データベースシステム研究会)

川畑 光希  君 (学生会員)

発表時所属:熊本大学大学院 自然科学教育部 博士後期課程1年
受賞時所属:大阪大学 産業科学研究所 トランスレーショナルデータビリティ研究分野
[推薦理由]
本論文では,これまでは行われてこなかった時系列データストリームからの特徴抽出する方法として StreamScope を提案している.時系列データではなく,時系列データストリームからの高速自動パタン抽出を実現したことにより,各種IoT アプリケーションから得られるストリームデータからの特徴抽出がオンラインで可能となり,ビッグデータ時代にふさわしい研究であるといえる.こうした時系列ストリームデータからのパタンを自動的に高速抽出する方法はこれまでになく,その意味で,本研究は CS 領域奨励賞にふさわしい論文であると言える.
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●トークンのN-gramによるプログラム表現を用いたコードクローン検出手法
[2018-SE-199(2018/7/18)](ソフトウェア工学研究会)

向井 達郎  君 (学生会員)

発表時所属:京都大学大学院 総合生存学館 修士1年生
受賞時所属:京都大学大学院 総合生存学館 修士2年生
[推薦理由]
本論文では,ソースコードから得られるトークン列のN-gramを用いたコードクローン検出手法を提案している.具体的には,コード片をトークンのN-gramを用いて多重集合に変換し,多重集合間の距離を計算および比較することで,コードクローンを特定する.N-gramによる多重集合を利用することで,文の追加や削除を含むタイプ3クローンの検出精度の向上を達成している.また,類似度計算を行う対の数を削減するヒューリスティックスを導入することで高速化にも成功している.計算機実験ではあるものの,実用性の高いクローン検出手法を提案している点より,CS領域研究賞にふさわしい論文である.
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●TypeScriptにおけるインタフェースの生成
  [2018-SE-199(2018/7/19)](ソフトウェア工学研究会)

中村 晋太  君 (学生会員)

発表時所属:立命館大学大学院 情報理工学研究科 博士課程前期 1回生
受賞時所属:立命館大学大学院 情報理工学研究科 博士課程前期 2回生
[推薦理由]
構造的な型付けと型推論を採用したTypeScriptでは,ソースコードの柔軟さと簡潔さが向上する反面,型注釈の過度な省略は静的な型検査による誤りの検出を阻害することがある.本論文では,関数の引数において型注釈が省略されたオブジェクトに対して,関数内部でそのオブジェクトがどのようにアクセスされているかを解析した結果からオブジェクトの型を特定し,その型を表現するインタフェース宣言を生成する手法を提案している.型を特定するメカニズムが明確に示されており,実際のプログラミング環境に組み込んだ実装も提供している.実際のプログラミングにおける高い効果が期待できる点より,CS領域研究賞にふさわしい論文である.
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パイプライン構造の動的制御による命令フェッチ・スループットの向上
 [2018-ARC-232(2018/7/30)](システム・アーキテクチャ研究会)

松尾玲央馬 君 (学生会員)

発表時所属:名古屋大学大学院 工学研究科 博士前期課程 第1学年
受賞時所属:名古屋大学大学院 工学研究科 博士前期課程 第2学年
[推薦理由]
近年のサーバー・アプリケーションやブラウザ上で実行される JavaScript では命令キャッシュミスの多発が性能律速要因の一つとなっている.この問題を解決するアプローチとして命令キャッシュ向けプリフェッチ法に関する研究が多く行われているが,テーブル実装のための大容量メモリの追加や無駄な命令の取得による消費電力の浪費といった問題が生じる.これに対し本研究では,命令プリフェッチとは全く異なる方法として「ミスを前提とした新しいパイプライン構造の導入」を提案している.これは,マイクロアーキテクチャの工夫によるフェッチ・スループットの改善といった,従来とは一線を画す新しい取り組みであり,価値ある内容である.よって,CS領域奨励賞受賞候補として推薦する.
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●敵対型生成ネットワークにおける学習の低ビット化の検討
 [2018-ARC-232(2018/7/31)](システム・アーキテクチャ研究会)

岸 裕真 君 (正会員)

発表時所属:東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 工藤研究室  修士2年
受賞時所属:株式会社電通 CDC 高草木部
[推薦理由]
近年,敵対型生成ネットワークに関する研究が盛んに行われているが,学習にかかる計算コストの低減が大きな課題となっている.本研究では,識別器ならびに生成器の双方のパラメタのビットサイズ削減を目的とした新しいデータ表記フォーマットを提案している.ポイントは,浮動小数点数の表現に用いられるゲタ履き(バイアス)の値に着目し,従来は固定値が用いられるのに対し,提案方式ではパラメタの中央値を基準に決定する点にある.提案方式によりパラメタのビットサイズを縮小し,かつ,従来と同程度の学習収束速度を達成しており,価値ある内容である.よって,CS領域奨励賞受賞候補として推薦する.
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●GPGPUアプリケーションのマイグレーションを可能にするフレームワーク
  [2018-OS-144(2018/7/31)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

湯原 昌 君 (正会員)

発表時所属:慶應義塾大学 理工学研究科 開放環境科学専攻 修士2年
受賞時所属:ヤフー株式会社
[推薦理由]
クラウド環境の運用管理では負荷分散や消費電力の削減のため,アプリケーションのマイグレーション機能の利用が有効である.しかし,GPUを用いたアプリケーションは,GPUのハードウェア機構が実行コンテキストの停止や保存・復元機能を提供していないため,マイグレーションが困難であった.本研究ではイベント駆動型プログラミングモデルに基づいたソフトウェア機構による解決手法を提案しており,その知見はシステムソフトウェアの分野に大きく貢献するものである.さらに,提案機構はGPUドライバやアプリケーションコードを修正する必要がなく,実行時オーバヘッドも小さく設計・実装されており.実用面でも有用性が高い.よって,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●A High Performance File System for Non-Volatile Main Memory
  [2019-OS-145(2019/2/28)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

重光 史也 君 (正会員)

発表時所属:島根大学大学院 総合理工学研究科 情報システム学コース専攻
受賞時所属:イーソル株式会社
[推薦理由]
本論文は,PCのメモリアーキテクチャ(NUMA)を考慮することでNon-Volatile Main Memory (NVMM)の低遅延性を活用するデータ配置方式とNVMMのバイトアクセス機能を用いて高速化したメタデータ更新方式を含むAEONファイルシステムを提案している.既存のNVMMを前提にしたファイルシステムでは,NUMAのローカルメモリとリモートメモリのアクセスレイテンシの違いまで考慮したデータ配置の研究は行われていない.さらに,ブロックデバイスを前提としたConsistency Without Ordering (CWO)をNVMMのバイトアクセス性を利用して拡張したCWO for NVMMs (CWON)を用いることでメタデータアクセスの高速化も行っている.これらの手法はNVMMを用いてファイルシステムを高速化する上で極めて有用な手法であり,CS領域奨励賞を授与するのに相応しいと考える.
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●ビアスイッチFPGA再構成時のスニークパス問題を回避するプログラミング順決定手法
 [DAシンポジウム2018(2018/8/29)] (システムとLSIの設計技術研究会) 

土井龍太郎 君 (学生会員)

発表時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科 博士後期課程 2年
受賞時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科 情報システム工学専攻 集積システム設計学講座 橋本研究室
[推薦理由]
従来FPGAのエネルギー効率の低さを解決するため,ビアスイッチと呼ばれる不揮発スイッチを活用した次世代FPGAの研究開発が行われている.しかし,ビアスイッチFPGAの回路構造に起因し,スイッチのプログラミング時に意図しないスイッチを書き換えてしまうスニークパス問題が実用上の課題であった.本論文では,この問題の発生条件を明らかにし,問題を回避するスイッチのプログラミング順序の決定手法を提案した.また,実用上全てのコンフィギュレーションにおいて常に提案手法が有効であることを示した.本論文は,ビアスイッチFPGAの正常かつ高効率な運用技術に大きな指針を与える価値の高い論文であることから,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する性を示す価値の高い論文であることから,CS領域奨励賞受賞論文として強く推薦する.
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●FiCCを用いたCMOS互換な超低消費電力不揮発性メモリ素子の特性測定回路の設計と試作
 [2018-SLDM-185(2018/12/7)] (システムとLSIの設計技術研究会)

田中 一平 君 (学生会員)

発表時所属:立命館大学大学院 情報理工学研究科 1学年
受賞時所属:立命館大学大学院 情報理工学研究科 2学年
[推薦理由]
太陽電池など不安定な電源で動作するセンサノードの実現において,不揮発性メモリは有用である.本論文では,CMOS標準プロセスで製造できるようメタルフリンジキャパシタの一種であるFishbone-in-Cage Capacitor (FiCC)をNMOSのゲートに接続して疑似的にダブルゲート構造を実現したメモリ素子を提案し,書き込みと消去の消費電流の小さいFNトンネリング方式の利用可能性を検討している.リングオシレータを用いた閾値電圧測定回路により,5Vの書き込み電圧を10秒間印加すれば閾値電圧が3V程度まで上昇すること等を確認している.本論文は,超低消費電力CMOS互換不揮発性メモリの実現性を示す価値の高い論文であることから,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する.
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●論理タイムスタンプに基づく分散共有メモリライブラリの実装
 [2018-HPC-165(2018/7/31)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

遠藤 亘 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 博士課程2年
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 博士課程3年
[推薦理由]
本研究では,分散メモリ型並列計算機で高生産なプログラミングシステムを提供できるソフトウェア分散共有メモリに着目し,インターコネクトが持つ高速化機構であるRDMAの活用を前提として,新たなキャッシュコヒーレンスプロトコルを提案した.具体的には,論理タイムスタンプとWrite noticeという2つの手法を組み合わせることで,ディレクトリが不要でかつRDMAと相性がよいキャッシュ無効化手法となっており,さらにホームマイグレーション機能を統合して分散型のプロトコルを実現した.提案したプロトコルを実際に分散メモリ型計算機用に実装し,NAS Parallel Benchmarkを用いた性能評価によって複数ノードでの性能向上を示して,提案手法の有用性を示している.本研究の技術は分散共有メモリの高速化において有望であり,今後の発展も期待されることから,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に推薦する.
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●分散並列計算環境における行列・ベクトル積の高精度な実装と丸め誤差解析
  [2018-HPC-167(2018/12/18)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

小林 亮太 君 (正会員)

発表時所属:芝浦工業大学 システム理工学部
受賞時所属:ソフトバンク・テクノロジー株式会社
[推薦理由]
本研究では,分散並列計算環境において行列・ベクトル積演算を高精度に行うアルゴリズムを取り扱っている.具体的には,浮動小数点演算による和・積に関するエラーフリー変換アルゴリズムを元に,任意の順序で計算可能な内積の高精度計算アルゴリズムを提案している.また,本アルゴリズムに基づき,分散並列計算環境における行列・ベクトル積の高精度な実装を行い,評価を行っている.本研究は,大規模システムにおけるコア数の増大等の理由から,近年注目される高精度演算に関する有望な技術で,今後の展開も期待されるため,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に推薦する.
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●Haskellにおける型クラス制約を満足する型変数割当ての唯一性検査に基づく型の曖昧性解決
  [PRO-2018-1(2018/6/8)] (プログラミング研究会)

河野 雄也 君 (ジュニア会員)

発表時所属:広島市立大学 情報科学部 情報工学科 2学年
受賞時所属:広島市立大学 情報科学部 情報工学科
[推薦理由]
本論文ではHaskellの型システムにおける曖昧な型の問題に対処するために,型変数に掛かっている制約を満たす型をプログラム中に実在する型の中から検索するという手法を提案している.さらに提案手法をGHCプラグインとして実装し,その妥当性を検証している.Haskellの型に関する立場に反しない範囲で,システムに内蔵されることで許容されているtype defaultingの機構をユーザ定義の型に拡張するもので,これにより型注釈の必要性を減らし簡潔なプログラミングを実現する.実用性が高いHaskellの機能拡張についてきちんと議論・実装している.また,重要な問題を具体的に指摘し,プロトタイプ実装を含め解決策を提示しているのは高く評価できる.よって,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●先読み付き正規表現の微分
  [PRO-2018-3(2018/11/1)] (プログラミング研究会)

宮嵜 貴之 君 (学生会員)

発表時所属:東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 修士1年
受賞時所属:東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 修士2年
[推薦理由]
本論文では正規表現の微分が先読み付き正規表現に拡張できること,微分を用いた方法によっても決定性有限オートマトンへ変換できることを示している.そのために,先読み付き言語をいくつかの演算を持つ文字列の集合として形式化し,先読み付き言語に対する左商を2種類に分けて定義し,それぞれに対応する微分を相互再帰によって定義している.そして,微分を繰り返して得られる表現の種類がある同値関係の下で有限になることを示し,決定性有限オートマトンへの変換を与えている.本成果は,先読み付き正規表現に対して決定性有限オートマトンへ変換できることを示した先行研究に対しても十分に新規性があり,先行研究の成果を一般化したという点でも興味深い.正規表現の先読みはさまざまな正規表現エンジンに実装され普及しており,その性質に関する考察はプログラミング分野に関連する重要な知見である.よって,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●Graph Exploration Using Constant-Size Memory and Storage
 [2018-AL-168(2018/5/26)] (アルゴリズム研究会)

柿澤 一輝 君 (学生会員)

発表時所属:名古屋工業大学大学院 工学研究科 情報工学専攻 博士前期課程1年
受賞時所属:名古屋工業大学大学院 工学研究科 情報工学専攻 博士前期課程2年
[推薦理由]
グラフ探索問題は,入力グラフの頂点に配置されたエージェントを辺に沿って移動させて,全頂点を訪問させるという問題であり,分散アルゴリズム設計における最も基本的な問題の一つである.理論計算機科学の分野において,グラフ探索を可能とするエージェントおよびシステムの計算能力を特徴づけることは興味深い課題であり,特に必要なメモリ使用量についての議論は,計算量理論における空間複雑性の問題と関連が強く,重要な問題の一つと認知されている.本研究では,探索対象となるグラフの各頂点が白板と呼ばれる記憶領域を持つモデルを考え,その上でエージェントの永続的メモリの容量ならびに各頂点の白板サイズが入力グラフの大きさに依存しない定数ビットに制限された状況で,エージェントによる深さ優先探索を実現するアルゴリズムを提案した.このアルゴリズムは極めてシンプルでありながら,これまでに知られている既知のグラフ探索アルゴリズムと同程度の性能を有している.また,提案アルゴリズムを利用して,より多いエージェントメモリを必要とするアルゴリズムをシミュレートする一般的な方法を併せて提示しており,理論的な観点から本研究の結果は大きな意味を持つものである.以上の理由から,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する.
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●FPGAを用いた機能回路コンポーネント間のPublish/Subscribe通信フレームワークの提案
 [ESS2018(2018/8/30)] (組込みシステム研究会)

新井 健太 君 (学生会員)

発表時所属:宇都宮大学大学院 工学研究科 情報システム科学専攻
受賞時所属:宇都宮大学大学院 工学研究科 情報システム科学専攻
[推薦理由]
本論文の提案手法は,非同期メッセージングモデルの一種であるPublish/Subscribe通信モデルに着目し,FPGA上のディジタル回路の開発生産性の改善を狙ったものである.送受信回路モジュール間を疎結合ととすることで回路の再利用性を向上することが期待される.提案手法の評価のために,コンポーネント間の通信を仲介するスイッチモジュールを高位合成技術を用いてFPGA上に実装した.その結果,現実的なリソース使用量でモジュール間スイッチが実現可能であることが明らかになった一方,回路間のバッファメモリの使用量が課題であることが示された.この成果は,新たな観点でFPGAの回路開発を効率的にすることが期待されることから受賞論文として推薦する.
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●DFEAM: 動的フィーチャ指向消費電力適応型モデリング
 [ESS2018(2018/8/31)] (組込みシステム研究会)

田中 文也 君 (正会員)

発表時所属:九州大学大学院 システム情報科学府 2年
受賞時所属:株式会社シティアスコム
[推薦理由]
本研究ではサービス品質を変化させて消費電力を増減することで,与えられた消費電力制約において最大のサービス品質を提供するように振る舞うソフトウェアを,モデル駆動開発を用いて開発するための方法論を提案し,評価している.従来はハードウェアについて深く知らなければ作れなかったシステムをソフトウェア技術者でも開発できるようにしており,産業界においても有用性の高い技術である.
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