2009年度受賞者詳細

2009年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細

コンピュータサイエンス領域奨励賞は,コンピュータサイエンス領域に所属する研究会および研究会主催シンポジウムにおける研究発表のうちから特に優秀な研究発表を行った若手会員に贈呈されます.本賞の選考は,CS領域奨励賞表彰規程,CS領域奨励賞受賞者選定手続およびCS領域奨励賞受賞者推薦内規に基づき,領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は9研究会の主査から推薦された計13編の優れた論文に対し,慎重な審議を行い,決定しました.本年度の受賞者は下記13君で,各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,賞金が授与されます.

●商用検索エンジンのヒット数に対する信頼性の検証
  [2008-DBS-146 (H20. 9.22)] (データベースシステム研究会)

舟橋 卓也  君 (学生会員)

発表時所属:早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 情報理工学専攻
受賞時所属:早稲田大学大学院基幹理工学研究科 情報理工学専攻 山名研究室
[推薦理由]
受賞対象論文は,検索エンジンのヒット数に関する調査を行っている.特に,検索開始オフセットを変化させることにより,クエリ間のヒット数の大小関係が入れ替わるか否かと,1つのクエリにおける,検索開始オフセットの変化によるヒット数の変動幅について,調査している. Web技術の分野においては,検索エンジンのヒット件数を用いた研究は多く,社会ネットワークの構築や,シソーラス・オントロジーの構築など,一つの研究分野を確立するほどであった.本研究は,上記研究分野において,検索エンジンのヒット件数を用いることの信頼性を保証するものであり,極めて重要といえる.よって,本論文発表者を山下記念研究賞受賞候補者として推薦する.
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●モデル検査のためのアスペクト指向メカニズム切り替え手法の提案
  [2008-SE-161 (H20. 9. 26)] (ソフトウェア工学研究会)

金井 勇人 君 (正会員)

発表時所属:北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士後期課程3年
受賞時所属:北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士後期課程4年
[推薦理由]
本研究はUML設計モデルをモデル検査技術によって検証する際に,検証目的に応じてリソース確保などのメカニズムを変更するなど,検証モデルに対して横断的な変更を行う必要がある問題に対し,UMLモデルを拡張したアスペクト指向モデリング技術を適用することで,同一設計モデルに対する複数項目の検証を効果的に行う手法を提案するものである.モデル検査を実際の設計検証に適用する際には,基本となる検証モデルに対して様々な横断的な修正を施して検証する必要があるが,本研究はそうした側面を支援する実用的な手法を提案しており有用性が高い.また,従来は設計や実装のために使われていたアスペクト指向技術を設計検証に適用するというアプローチは新規性も高く,CS領域奨励賞にふさわしい.以上の理由からここに推薦する.
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●ソースコードの編集内容を用いたソフトウェア部品の自動推薦手法
  [2008-SE-162 (H20.11.19)] (ソフトウェア工学研究会)

島田 隆次  君 (学生会員)

発表時所属:大阪大学大学院 情報科学研究科 博士前期課程2年
受賞時所属:東芝ソリューション(株)プラットフォームソリューション事業部
[推薦理由]
本発表は,開発者が意識せずとも再利用可能な部品を検索するための手法について研究発表したものである.この検索手法では,単純なコピーペーストの再利用だけでなく,入手後に軽微な変更を行うことによって可能となるような再利用についても検索結果として表示可能な工夫がなされている.また,単にアイデアの提案にとどまらず,開発環境として広く用いられているEclipseのプラグインとして実装も行っている.これらの成果は,ソフトウェア開発者のコーディング時における負担の軽減に大きく寄与するものと考えられ,現時点の成果はもちろん,将来の研究の発展にも期待が持てるものである.以上の理由により優秀な若手研究者の発表としてここに推薦する.
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●マルチコアのためのコンパイラにおけるローカルメモリ管理手法
  [2009-ARC-181 (H21. 1.14)] (計算機アーキテクチャ研究会)

桃園  拓  君 (正会員)

発表時所属:早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 情報理工学専攻 修士2年
受賞時所属:ソニー(株) 半導体事業本部 LSI事業部
[推薦理由]
マルチコアは電力あたりの性能が高い有望なアーキテクチャである.本研究は,ローカルメモリを持つマルチコアを対象としたコンパイル手法を提案し,プログラムで広範囲に使われるデータを長い期間CPU近接のローカルメモリに配置することで主記憶へのアクセスを極力減らすこと,ローカルメモリと主記憶間のデータ転送を自動的に行うこと,を特徴とする.組み込み分野で以前から広く使われていたローカルメモリは,従来はプログラマが管理を行う必要があったが,本研究の自動化によりプログラム生産性の著しい向上が期待できる.評価においても,コア数に応じたスケーラブルな速度向上を達成することを示しており,その有用性の高さを示している.以上より,本研究を行った桃園拓君の将来性を認め,CS領域奨励賞に推薦する.
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●L4マイクロカーネルにおける省電力スケジューラの開発
  [2008-OS-108 (H20.4.24)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

林  和宏  君 (学生会員)

発表時所属:東京農工大学大学院 工学府情報工学専攻 博士前期課程1年
受賞時所属:東京農工大学大学院 工学府情報工学専攻 博士前期課程2年
[推薦理由]
本研究は,省電力化の方式として実行時情報に基づいた性能予測を行い,性能制約の範囲内でDVFSを行う方式をL4マイクロカーネル上に実装し,その有効性を確認している.既存の研究では,Linuxのようなモノリシックカーネルでユーザプロセスのみを対象としていたが,本報告ではマイクロカーネルアーキテクチャ上でのサーバプロセス群も省電力の対象とすることにより,省電力化の方式がより広範な資源管理に適用可能であることを示している.本研究の成果は省電力を実現する資源管理に有効であり,今後の展開を期待できることからCS領域賞として推薦する.
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●WebVDIのためのVNCProxy
  [2008-OS-109 (H20. 8. 7)] (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)

高橋 一志 君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 修士2年
[推薦理由]
本研究は,シンクライアントとしてWebブラウザで仮想ディスクトップ環境を実現するために,VNCをHTTPで利用する方式を提案,proxyにより方式を実装し,評価により方式の有効性を確認している.デスクトップ環境の仮想化という観点から本研究会の研究内容として他の研究に有益な情報を含むと同時に,今後の展開を期待できることからCS領域賞に推薦する.
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●メタスタビリティを利用した真性乱数生成回路のFPGAによる実装
  [2009-SLDM-138 (H21. 1.29)] (システムLSI設計技術研究会)

畑  尚志  君 (正会員)

発表時所属:豊橋技術科学大学 知能情報工学系 修士課程2年
受賞時所属:(株)ルネサステクノロジ 設計開発本部 システムコア技術統括部
[推薦理由]
本論文は,真性乱数発生回路をFPGA上に実装する手法を提案している.従来から数多くの真性乱数発生回路が提案されてきたが,カスタムLSIを用いたものやアナログ信号の遅延ばらつきを用いたものが一般的で,柔軟性が低く設計コストが高くなるという問題があった.提案手法は,FPGAのRSラッチのメタスタビリティを利用することにより真性乱数発生回路をディジタル同期回路として実現した.商用のFPGA上にいくつかの真性乱数発生回路を実装し乱数品質を評価した結果すべての回路に対して後処理なしでNISTテストに合格することを確認している.手法の独創性・有効性ともに高く評価できる.以上の理由により本論文をCS領域奨励賞に推薦する.
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●動的リコンフィギャラブルプロセッサMuCCRAの結合網に関する研究
  [2009-SLDM-138 (H21.1.30)] (システムLSI設計技術研究会)

加東  勝  君 (正会員)

発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 修士課程2年
受賞時所属:パナソニック(株)セミコンダクター社 汎用事業本部
[推薦理由]
本論文は,従来型の動的リコンフィギャラブルプロセッサのアーキテクチャであるアイランド型と直結型を組み合わせた新しいアーキテクチャを設計し面積・電力・性能を定量的に評価している.直結型は動作周波数は一定だが,遠隔PEへのデータ転送に余計なサイクルがかかる.一方,アイランド型はデータ移動の柔軟性は高いが,結合網内の遅延が大きい.実アプリケーションを用いた実験により,上記の二つの特徴を合わせ持つアーキテクチャが最も高速であることを確認している.商用の先端テクノロジを用いてチップを設計し,3種類のアーキテクチャを定量的に評価している点は高く評価できる.以上の理由により本論文をCS領域奨励賞に推薦する.
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●NUMA並列型クラスタ上での効率的なスケジューリング
  [2009-HPC-119 (H21. 2.28)] (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)

小西 祐介  君 (正会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学研究科 修士課程2年
受賞時所属:グーグル(株)
[推薦理由]
本論文発表では,近年高性能計算向けクラスタの代表的アーキテクチャとなっている,NUMA構成マルチプロセッサをノードとする大規模PCクラスタにおけるジョブスケジューリングの最適化を行っている.NUMA構成ノードは複雑であり,各ジョブが要求するメモリバンド幅やI/Oバンド幅に基づくバランスの取れたジョブミックスを実施することが重要である.本研究では,代表的なHPCベンチマークであるNAS並列ベンチマークの各種カーネルセットの組み合わせを対象に,メモリ及びI/O要求を定量解析し,スケジューリングの最適化が性能向上に寄与することを示した.このような質の高い研究を修士課程において行っていることはCS領域奨励賞に値 し,今後のさらなる研究に期待して本賞に推薦する.
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●並列プログラムの候補生成と適合性検査による並列化
  [PRO-2008-3 (H20.10.29) ] (プログラミング研究会)

森畑 明昌  君 (正会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 博士課程3年
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 数理情報学専攻 数理第七研究室
[推薦理由]
本研究では,逐次プログラムから並列プログラムを得る自動並列化手法を提案している.このプログラム並列化は,関数型言語パラダイムにおいて知られている第三準同型定理と呼ばれる性質を応用したものとなっている.そして,その手法に基づいた自動並列化器を実装している.これは,算術演算,条件分岐を含む再帰関数の定義から,その再帰関数を計算する並列プログラムを抽出するものである.実装に対して実験結果を示すことにより,提案手法の有効性を示している.研究会運営委員,研究会編集委員会により議論及び投票をおこなった結果,本研究がCS領域奨励賞に値するという結論を得るに至り,ここに推薦するものである.
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●ORCA:実行トレースと画面変化の対応を可視化することによるGUIプログラム理解支援システム
  [PRO-2008-4 (H21. 1.26) ] (プログラミング研究会)

佐藤 竜也  君 (正会員)

発表時所属:筑波大学大学院 システム情報工学研究科 博士前期課程
受賞時所属:日立製作所中央研究所 プラットフォームシステム研究部
[推薦理由]
GUIプログラムは,GUIへの操作,ソースコード上に分散している実行部分,画面の変化の三者を結びつけることが従来困難であった.本研究ではこの状況を,GUIプログラムの実行情報を可視化する手法により改善することを提案している.この提案手法に従ってGUIプログラム理解支援システムORCAを実現し,その有効性を学生を対象とした評価実験を通して確認した.研究会運営委員,研究会編集委員会により議論及び投票をおこなった結果,本研究がCS領域奨励賞に値するという結論を得るに至り,ここに推薦するものである.
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●ImprovedFormulaSizeLowerBoundsforMonotoneSelf-DualBooleanFunctions
  [2008-AL-121 (H20.12. 3)] (アルゴリズム研究会)

上野 賢哉  君 (学生会員)

発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 博士課程2年
受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻
[推薦理由]
論理式サイズの下限に対する証明技術の開発は,計算理論における最重要課題の一つであり,論理式サイズの超多項式下限を示すことにより計算量クラスに関する重要な結論が導かれることが知られている.本研究では,線形計画法と安定集合多面体の理論から論理式サイズの下限を改良する新しい証明手法を提案し,多数決関数などの基本的な論理関数に対して,長年の間,多くの研究者が破ることができなかった証明技術の限界を打ち破り,論理式サイズの下限を改良することに成功した.この成果はさらなる発展が期待される重要なものであり,その技術的貢献は国内外の研究者から高い評価を受けている.以上のことからCS領域奨励賞に推薦する.
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●魚養殖業者の価格変動リスクヘッジを目的としたスワップ取引の設計
  [2008-MPS-72 (H20.12.18)] (数理モデル化と問題解決研究会)

戸谷  薫 君 (学生会員)

発表時所属:名古屋大学大学院 情報科学研究科 博士課程前期課程2年
受賞時所属:名古屋大学大学院 情報科学研究科
[推薦理由]
本研究発表は,魚養殖業者の価格リスクを回避するためのスワップ契約を提案している.スワップ契約は,魚養殖業者とデリバティブハウス,漁業協同組合とデリバティブハウスの間で締結されるものとしている.養殖業者とデリバティブハウスの収益を計算し,スワップ契約を導入することで,両者の収益を安定化できることを明示しており,わかり易く興味深い研究発表である.
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