「マルチコアCPUの電力消費特性を考慮した仮想CPUスケジューラ」

2012年度論文賞受賞者の紹介

マルチコアCPUの電力消費特性を考慮した仮想CPUスケジューラ

[情報処理学会論文誌 コンピューティングシステム Vol.4 No.2 pp.25-39]
[論文概要]

 仮想化データセンタでは,DVFS を用いた CPU の電力制御が行うことで消費エネルギーを削減している.ここで,既存のマルチコア CPU は,全コアの周波数を揃えて下げないと消費エネルギーの削減量が小さい.しかし,既存の VM 環境はこの特性を考慮していない.本論文では,この特性を考慮する仮想 CPU スケジューラである Accele スケジューラを提案する.Accele スケジューラは,全コアに同周波数の仮想 CPU がスケジューリングされる時間を長くする.その結果、全コアの周波数が揃って下がる時間が長くなり,消費エネルギーの削減量が大きくなる.実験の結果,Xen のCreditスケジューラよりも消費エネルギーが最大 22.8% 小さくなった.


[推薦理由]

 仮想化技術を駆使するクラウドコンピューティング環境は現在広く利用されており、このような環境における消費電力削減の急務の課題である。この問題に対し、これまでも、ワークロードに応じて周波数と電源電圧を制御するシステムソフトウェア技術は存在した。しかし、近年のチップマルチプロセッサのアーキテクチャな特性を考慮することができないため、効果が限定的であった。本論文の新規性は、低消費電力化に対するアーキテクチャ技術とシステムソフトウェア技術が密に連携・協調することで、今後主流となる広い範囲のシステムプラットフォーム上で極めて有効な低消費電力化技術を提案している点である。また、評価においては、提案するスケジューラをオープンソースのVMMであるXen上に実装し、有効性を実マシン上で客観的に評価している。以上のように、本論文は扱う問題の重要性、提案手法の新規性、実現可能性、手法の有効性、いずれの観点からも学術的価値とこの分野への貢献が極めて高い論文であり、論文賞に値する。

吉田哲也 君

 2005 年電気通信大学電気通信学部情報工学科卒業.2011年慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻後期博士課程修了.同年,慶應義塾大学大学院理工学研究科特任助教.現在,プレシオ国際特許事務所特許技術者.博士(工学).平成21年度情報処理学会論文賞受賞.オペレーティングシステム等のシステムソフトウェアに興味を持つ.情報処理学会会員.

山田浩史 君

 2004年電気通信大学電気通信学部情報工学科卒業.2009年應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻後期博士課程修了.同年慶應義塾大学理工学部特別研究助教.現在,東京農工大学大学院工学研究院先端情報科学部門准教授.博士(工学).情報処理学会より論文賞(平成20年度,21年度),山下記念研究賞(平成20年度)を受賞.仮想マシン技術,オペレーティングシステム等のシステムソフトウェアの研究に従事.ACM,USENIX,IEEE/CS各会員.

佐々木広 君

 2003年東京大学工学部計数工学科卒業.2005年同大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了.2008年同大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学).同年東京大学先端科学技術研究センター特任助教,2010年より東京大学大学院情報理工学系研究科特任助教を経て,現在九州大学大学院システム情報科学研究院特任准教授.計算機アーキテクチャ,オペレーティングシステムの研究に従事.情報処理学会,ACM,IEEE,USENIX各会員.

河野健二 君

 1993年東京大学理学部情報科学科卒業.1997年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻博士課程中退,同専攻助手に就任.博士(理学).電気通信大学情報工学科講師等を経て,2005年より慶應義塾大学理工学部情報工学科准教授.平成11年度,20 年度,21 年度情報処理学会論文賞受賞.平成12年度山下記念研究賞受賞.オペレーティングシステム,システムソフトウェア,ディペンダブルシステム等に興味を持つ.IEEE/CS,ACM,USENIX各会員.

中村宏 君

 1985年東京大学工学部電子工学科卒業.1990年同大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了.工学博士.同年筑波大学電子・情報工学系助手.同講師,同助教授を経て,1996年東京大学先端科学技術研究センター助教授,2010年東京大学大学院情報理工学系研究科教授.この間,1996~1997年カリフォルニア大学アーバイン校客員助教授.高性能・低消費電力VLSIシステム,省電力コンピューティング,ハイパフォーマンスコンピューティング,ディペンダブルコンピューティングの研究に従事.情報処理学会より論文賞(平成5年度),山下記念研究賞(平成6年度),坂井記念特別賞(平成13年度)各受賞.IEEE,ACM Senior Member,IEICE会員.