「Cプログラムの割込み競合の動的検出法」

2010年度論文賞受賞者の紹介

「Cプログラムの割込み競合の動的検出法」

[情報処理学会論文誌 Vol.51, No.9, pp.1816-1831]
[論文概要]

 データ競合の検出法は多数提案されているが,それらの殆どがスレッド競合(スレッドによるデータ競合)を対象とし,高精度なものも多いが割込み競合(割込み処理によるデータ競合)を検出できない.一方,割込み競合の検出手法は数が少なく精度も低い.そこで,本論文は割込み競合の高精度な検出法を提案する.提案手法の要点は,割込み処理を擬似的なスレッド実行として扱い,割込み競合の検出問題をスレッド競合の検出問題に帰着させて解くことである.実用Cプログラムの割込み競合を対象とした実験では,提案手法に基づく検出器がそれらを高精度に検出できることを示した.



[推薦理由]

 本論文は,実用C プログラムの割り込み競合(割り込み処理によるデータ競合)に対する新たな検出法を提案している.既存のデータ競合の検出法は,そのほどんどがスレッド競合を対象としていた.これに対し,著者らは割り込み競合を対象とした検出法を提案している.Sendmail等の実用的なCプログラムはシグナル処理を実装しており,シグナル処理によるデータ競合が報告されている.このことを踏まえると,非同期割り込み処理によるデータ競合の検出も重要な課題であるといえる.割り込み競合を対象とする研究は数が少なく,検出精度も低かったが,著者らの試みによって高精度な検出法が提案された.その結果,SendmailやWU-FTPDを含む実用的なCプログラムの割り込み競合を高精度に検出できるようになった.著者らの結果は有用性が高く,新規性も十分である.よって論文賞に推薦する.

荒堀 喜貴 君

 2010年東京工業大学大学院情報理工学研究科計算工学専攻博士後期課程修了.同年同大学同専攻特別研究員. 2011年より電気通信大学情報システム学研究科情報システム基盤学専攻助教. 専門はシステムプログラミング,ソフトウェア開発環境,プログラム解析,バグ検出.博士(工学).IEEE,ACM,USENIX各会員.

権藤 克彦 君

 1994年東京工業大学理工学研究科博士課程情報工学専攻修了.同年同大学情報理工学研究科情報工学専攻助手,講師を経て,1998年より北陸先端科学技術大学院大学助教授.ブラウン大学客員研究員(2000-2001). 2003年より東京工業大学助教授.2011年より同大学教授.博士(工学).ソフトウェア開発環境・システムプログラミングに興味を持つ.著書「例解UNIX プログラミング教室」「Java によるプログラミング入門」.ACM,日本ソフトウェア科学会,電子情報通信学会各会員.

前島 英雄 君

 1973年東京工業大学大学院理工学研究科制御工学専攻修士課程修了.同年(株)日立製作所日立研究所に入社.同社中央研究所,半導体事業部を経て,1999年より東京工業大学大学院総合理工学研究科教授.専門はマイクロプロセッサ・アーキテクチャで,最近は統合開発環境を着手.工学博士.情報処理学会,IEEE各会員,電子情報通信学会フェロー.