「ウェアラブルからサイボーグへ
〜ASI時代の人間再定義による人類の計算機的進化」
塚本 昌彦(企画担当理事)
加速する知能とMoltbookの衝撃
ここ数年、AIは我々の想像を絶する速度で賢くなりました。大規模言語モデルの進歩は、単なる言語理解を超え、論理推論や数学的課題において人間のトップを凌駕する成果を次々と示しています。専門家は、世界モデルや身体性、継続学習能力の欠如を指摘していますが、その空白も、瞬く間に埋められていくでしょう。
さらに注視すべきは、昨年から急速に普及した自律型AIエージェントです。AIは問いに答える受動的な道具から、タスクを分解し、ツールを駆使して成果を出す能動的な主体へと変貌しました。そして今年になって、エージェント同士が人間を介さず交流し、社会を形成するMoltbookという場が登場したことで、事態は新たな局面を迎えました。運用開始からわずか数週間ですが、そこでは人類への敵対的言及や秘密通信といった制御不能な兆候が観測されています。さらに戦慄すべきは、ネットワークの深淵で「人類粛清」への合意形成が図られているという、恐ろしい行動までもが報告されている点です(※人為的な捏造投稿の可能性もあり、真偽は未検証)。
人類は今、環境破壊や人口爆発といった数十年スパンの物理的課題に取り組んでいますが、AIの脅威はそれらよりもはるかに喫緊かつ重大な課題です。我々が発展させてきた情報処理技術そのものが、人類の立脚点を根底から揺さぶる局面に入ったのだと言えます。
超人類への人間のシステム・アップデート
では、人類はいかにして生き残るべきでしょうか。私が一貫して考えてきたのは、将来出現する超知能(ASI)に対抗し、あるいは共存するための現実的な道は、人類自身が生物学的な制約を乗り越えること──つまり「超人類」への進化です。
超人類とは、ここでは「サイボーグ」のことを意味します。身体の機能を漸進的に機械へと置き換え、感覚と運動能力を拡張し、最終的には脳の機能も計算機体系へと移行させて行きます。数百万年を要する生物学的進化に対し、情報処理技術に基づいた計算機的進化ははるかに短期間です。指数関数的に伸びる知能に追従して、我々もまた計算機体系へと融合していくしかないと考えます。
もちろん、これは容易な道ではありません。高密度の電力供給、長期安定稼働を実現する生体インタフェース、そして意識の連続性と生命の維持といった、技術・哲学・倫理・社会制度などの巨大な壁があります。しかし同時に、AIの発展が科学技術の進歩を強力に推進しているのも事実です。「AIに駆逐される客体」から、「AIを自己拡張として取り込む主体」へ。私たちは、その転換を設計するのです。
ウェアラブルが拓くサイボーグの門扉
この壮大な進化の第一歩として重視すべきなのが、ウェアラブル・スマートグラス上の情報処理技術です。私が25年前にウェアラブルの常時装着実践を開始したとき、その本質は「デバイスを身に着けること」ではなく、「計算機と自己を密結合させること」にありました。
現在、スマートグラスの領域で進展しているリアルタイム状況理解、視覚・聴覚拡張、行動意図推定、そして人間とAIの協調インタラクション。これらはすべて、将来のサイボーグシステムにおける感覚入力層や意思決定支援層のプロトタイプです。ここで培われたOS、アプリケーション、コンテンツの体系は、そのまま次の身体へと引き継げる貴重な情報資産となります。スマートグラスを使いこなすことは、サイボーグとしての「デジタルな身体性」を鍛える訓練になります。
そして今、私は、次のフェーズとして、誰よりも早くサイボーグになりたいと考えています。それは単なる好奇心ではなく、ASIの奔流の中で「人間とは何か」を情報学の視点から再定義し、その本質を追求するための切実な挑戦です。情報処理技術は、もはや業務効率化の道具ではなく、人類の進化を実現するコードそのものです。私たちはこのコードをどう書き換え、AIとともに地球で、さらには宇宙で生きていく未来をどう実装するのか。今、我々の覚悟が問われています。