2018年03月05日版

「研究会雑感」

徳永 健伸(調査研究担当理事)

 自然言語処理学会主査、メディア知能情報領域委員会財務委員、同委員長兼調査研究担当理事という流れでこの8年間近く情報処理学会の運営に携わらせていただいております。最初は学会組織や各種委員会の関係についての知識が乏しく、右往左往しておりましたが、任期も残り4カ月を残す今になってようやく全体像が分かってきたような気がします。それだけ現在の情報処理学会の守備範囲が広く、組織も複雑化しているということでしょうか。遠い昔、研究会幹事、学会誌、論文誌の編集委員として学会にかかわらせていだいた経験がありますが、そのころからするとずいぶんと様変りした印象を受けました。もちろん、情報処理学会の理事という立場は初めての経験なので立場の違いもあるのだと思います。

 私が拝命した調査研究担当理事の重要な役割として40研究会と3研究グループ(2017年度;以下研究会)と理事会のインタフェース役があります。研究会はこれまでかなりの自由裁量で分野ごとにさまざまな活動を行い、国内における各分野の研究活動の活性化に貢献してきたと思います。年に数回開催される研究会で、比較的長い時間の発表に対してその分野の専門家からのフィードバックを直接得ることができる機会は特に若い研究者にとっては貴重な場です。良い意味で「放置」されていた研究会ですが、その分、理事会などの執行部からは分断されていたともいえるでしょう。その弊害として一昨年度に研究会が管理している剰余金の扱いについて理事会と研究会で行き違いが生じました。これを契機として、政策企画委員会や新世代企画委員会などの関連委員会に調査研究担当理事も出席するように規則を改訂して、企画立案の段階に研究会からのフィードバックを反映させていただける機会を設けていただきました。個人的には会議が増えるという意味では大歓迎という訳にはいきませんが、活発に活動している研究会が学会全体の運営にもっと貢献できるようになり、組織にとっては良い効果をもたらすのではないかと期待しています。

 研究会に関して、ほかにも今後検討すべき事項がいくつかあると思います。ひとつは研究会の予稿集に収録される予稿の扱いです。研究会で発表し、そこでのフィードバックを参考にして内容を洗練し、国際会議に投稿するという流れが一般的にあると思うのですが、最近ではその予稿の存在をもって既発表の内容ではないかというコメントが国際会議の査読者から返される事例が散見されるようです。これに対する予防措置として研究会の予稿から英文アブストラクトをなくしてからずいぶんたちますが、最近では機械翻訳技術のめざましい進展のおかげで和文の予稿でも概略内容が分かる程度には翻訳されてしまうようです。研究会が始まった初期の予稿は、発表者が自分で「青焼」コピーしたものを持参したという話を聞きます。今は予稿の事前提出が義務付けられていますし、論文といってもいいほどの内容と体裁を備えたものも多くあります。また、他の論文から研究会予稿を引用している現状を考えると、予稿は口頭発表の資料であって論文ではないので既発表にはあたらないという主張は、国内では通用しても、国際的には難しいでしょう。一方、最近では国際会議に採択される前の論文がarXivなどのプレプリントサイトに数多くアップロードされ、投稿論文の中で引用されることも珍しくなくなってきました。国際会議のプログラム委員会の中にはプレプリントサーバにアップロードされた論文の扱いをどうするかについての規定を明確にしているところもあります。情報処理学会でも研究会予稿の取り扱いをどのようにするかは検討課題のひとつでしょう。

 2つ目は研究会のビジネスモデルです。現在、研究会は登録会員制になっており、これが研究会運営のための安定した財源になっています。登録会員のメリットは研究会と予稿集へのアクセス、メイリングリストなどによる研究会から配信される情報の受信が主なものです。しかし、最近では、研究会の発表をビデオ配信する研究会も増えてきました。発表はインターネットにアクセスできれば誰でも視聴できるので、研究会活動を広報するという点では大きなメリットですが、一方で登録会員になるメリットを損なう可能性があります。これは予稿集や論文誌の論文についてもいえることですが、研究内容を広く配信したい一方で、研究内容へのアクセスを会員になる動機付けとするために会員限定としたいという相矛盾した対立があります。また、研究会が網羅する分野が広がるにつれて、教育学や社会学など情報処理以外の分野の研究者や実践者を研究会に取り込みたいという要望も増えてきています。分野によっては学会費であったり研究会の登録会費を非常に高額に感じる方もいらっしゃるようです。このような方をうまく取り込める仕組みが研究会あるいは学会として必要だと思います。

 3つ目は研究会というより領域制度の問題です。研究会が現在のように三領域に分かれてからすでに四半世紀近くがたとうとしています。現在のような領域分けが適切かどうかをそろそろ検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。たとえば、昨今の人工知能ブームは確かに「ブーム」の様相を呈している面もありますが、その根底となる機械学習という基礎技術は確かにこの20年間で大きく進展しており、今や多くの研究分野で必需品となっています。現在の領域は学術的な研究分野という観点から分類されているように見えますが、機械学習のような分野横断的に利用可能な技術は、特にその実社会への応用の可能性を議論しようと思うと、必ずしも現在のような領域分けのひとつにうまく収まらない気がします。シンポジウム的なイベントを通して横串を差すのもひとつの手かもしれませんが、恒常的な議論の場も同時に考える必要があるかもしれません。この点については調査研究運営委員会の方でも検討が始まったばかりです。

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