「新たな価値創造を推進する情報教育」
遠⼭ 紗⽮⾹(教育担当理事)
情報教育の大きな転換点
私は、手に職をつけたいとの思いから工業高校の情報技術科を選び、そこでの学びを通じて、「情報」が個人の可能性をいかに広げるかを身をもって体験してきました。だからこそ、日本の情報教育が現在、かつてない大きな転換点を迎えていることを、自分事として感じています。
2022年度から高等学校で共通必履修科目「情報Ⅰ」が始まり、プログラミングやデータサイエンスは、すべての高校生にとって必須の学びとなりました。その学習成果は、大学入学共通テストの「情報」において発揮する機会が設けられています。
さらに近年では、小学校・中学校・高等学校から大学までを見通した「一気通貫」の情報教育課程の実現に向けて、中学校における「情報・技術科」の新設や、小学校への「情報の領域」導入といった、学習指導要領改訂に関する議論も進められています。
かつて情報教育は、「オフィスソフトの操作方法を身に付けるためのもの」と曲解されることもありました。現在では「日常生活や社会における問題解決」を主目的とした、情報技術を活用した探究型の学びを指すものとして理解されることが多くなり、本来の意味で情報教育をご理解いただけるようになってきたように思います。
このような激動期に、2024年度より本会教育担当理事を拝命したことは、非常に身の引き締まる重責であると感じております。
生成AIの到来と、社会が求めるスキルの再定義
人が自然言語で指示を出し、AIがプログラムやコンテンツを生成する「バイブコーディング(Vibe Coding)」が、社会に浸透し始めています。この動向は、情報教育の現場にも大きな問いを投げかけています。
プログラミング教育において生成AIをどのように活用すべきかを考えるには、どのような能力を育成したいのかを明確にする必要があります。たとえば、プログラムを読み書きし、その振る舞いを予測する能力を育てたいのか、あるいはモックアップとしてのシステム制作・改変を通じて、ユーザーの要求を的確にくみ取る能力を育てたいのかによって、生成AIの位置づけや使い方は大きく異なります。
また、定型的な作業を速く正確に行う「定型的熟達者」としての役割は、今後AIによって代替されていくと考えられます。しかし、AIが普及するからこそ、人間にしか担えない役割の重要性はむしろ高まります。それは、ユーザーの真の要求を読み解き、AIが生み出した成果物がその要求を満たしているかを評価し、必要に応じて修正していく「監督」としての能力です。
2026年3月31日には、IPA(情報処理推進機構)より、情報処理技術者試験等に関する抜本的な試験体系見直しの方針が発表されました。本会情報処理教育委員会傘下の資格制度委員会では、この内容をいち早く確認し、業務における生成AIの活用や、生成AIの基盤となるデータの重要性が十分に考慮されていることを確認しています。
本学会の取り組み:次世代を担う若者への足場掛け
本会では、情報技術そのものを創り出す若者、また情報技術を活用して新たな価値を創造する若者の挑戦を積極的に応援しています。
その代表的な取り組みの一つが「ジュニア会員」制度です。本制度では、無償で最新の学術情報に触れる機会を提供しています。また、発表の場として「中高生情報学研究コンテスト」を開催しています。本コンテストでは先端技術の活用を尊重し、すべての発表者に対して専門家3名が丁寧なフィードバックを行う体制を整えています。優秀な成績を収めた発表は、大学の総合型選抜において評価対象となる場合もあり、志の高い生徒たちの活動を力強く後押ししています。
さらに「情報科学の達人」事業では、大学生も驚くような先端的な情報科学を学ぶ機会に加え、大学の専門家による研究指導や研究発表の機会を提供しています。
加えて、本会は情報教育に携わる指導者への支援にも力を入れています。昨年度は、文部科学省が推進する「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」に関連し、「DXハイスクール伴走支援事業」を通じて、全国各地で「情報」や「探究」を指導される高校教員の皆様に対し、本会から多数の助言者を派遣しました。
結びに代えて
ダイバーシティの観点からの取り組みも、今後も継続していきたいと考えています。都市部と地方、ジェンダー、企業と教育機関など、私たちの身近なところには多様な違いが存在します。学会活動を一層推進していくためにも、多様性を意識し、問題があれば対話を通じて理解を深めること、意見の違いが解消されない場合であっても、その「わかり合えなさ」を記憶にとどめ続ける姿勢を大切にしていきたいと思います。
教育もダイバーシティへの対応も、新たな価値創造を長期的に発展させていくための基盤となる取り組みです。短期的な成果が見えにくいにもかかわらず、これらを学会の重要な活動として位置づけていただいていることに、心より感謝申し上げます。