「生成AI時代の学術コミュニティ設計」
寺⽥ 努(長期戦略担当理事)
私は現在、長期戦略理事を務めています。長期戦略という立場から学会の将来像を考えるとき、いま最も大きな環境変化は、言うまでもなく生成AI技術の急速な発展です。大規模言語モデルや生成系モデルの高度化は、単なる研究対象の一分野にとどまらず、研究の進め方そのものを変えつつあります。
たとえば、文献調査やアイデア創出の初期段階において、生成AIは強力な思考支援ツールとなっています。実装やデータ解析の補助も進み、プロトタイピングの速度は飛躍的に向上しました。論文執筆においても、下書き生成、表現の洗練、図表作成の支援など、多方面で活用が広がっています。こういった変化は研究成果の発信方法も変化させる可能性があります。
このような変化は不可逆であり、かつ国境を越えて進行しています。日本国内だけでルールや指針を整備しても、研究活動はグローバルな文脈の中で行われる以上、十分とは言えません。生成AIの利用範囲、著作権や責任の所在、研究倫理、査読の在り方など、検討すべき論点は数多くあります。これらは各国が個別に対応するのではなく、国際的な連携のもとで方向性を共有していくことが不可欠です。
そのような中、アジア・パシフィック地域の情報系学会が連携する新たな枠組みとして、Asia-Pacific Alliance for Computing(APAC)が立ち上がりました。APACは、中国(China Computer Federation, CCF)、韓国(Korean Institute of Information Scientists and Engineers, KIISE), 香港(Hong Kong Computer Society, HKCS)、シンガポール(Singapore Computer Society, SCS)、そして日本の情報処理学会からなる連合体です。これらの組織はそれぞれの国・地域を代表し、学術的・教育的・技術的・産業的側面まで幅広い連携を目指す共同プラットフォームとして設立されました。
このAPACは、2026年1月10日に中国・北京で正式に発足し、地域における共通課題への対応と未来志向の協働基盤としての活動を開始しています。生成AIが前提となる時代において、私たちは何を守り、何を変えるべきでしょうか。研究の質をどのように担保するのか、若手研究者の挑戦をどのように支援するのか、査読や評価の仕組みをどのように設計すべきか。これらの問いは、一学会や一国だけで完結するものではありません。
だからこそ、APACのような国際的枠組みを活用し、各国と率直に議論を重ねながら、共通のビジョンを描いていく必要があります。情報処理学会として、そしてその一員として、この大きな変化を受け身で捉えるのではなく、主体的に方向性を示していきたいと考えております。生成AI時代の研究と学会の在り方について、ぜひ多くの皆様と議論を深めていければ幸いです。