会長挨拶
会長挨拶
徳田英幸
情報処理学会会長/情報通信研究機構 (NICT)
<目次>
- 創立記念日に寄せて(2023年4月22日)
- Beyond 5GとCPSが拓く未来社会のかたち(2022年10月4日講演ビデオ)
- 新年のご挨拶(2023年1月5日)
- 創立記念日に寄せて(2022年4月22日)
- 新年のご挨拶(2022年1月5日)
- IPSJ2021ニューノーマル時代を切り拓く学会を目指して—会長就任にあたって—
(2021年6月8日)
創立記念日に寄せて
*1 人類とICTの未来:シンギュラリティまで30年?:3.シンギュラリティをめぐる論点 ~Ray Kurzweil氏との対談を通じて~
http://id.nii.ac.jp/1001/00107440/
Beyond 5GとCPSが拓く未来社会のかたち(2022年10月4日講演ビデオ)
協力:(株)XYOU ( https://xyou.co.jp/ )
こちらからご覧ください⇒https://youtu.be/dMKZV1p0L20
新年のご挨拶
創立記念日に寄せて
*1 古機巡礼/二進伝心 : オーラルヒストリー 和田弘氏インタビューより
http://id.nii.ac.jp/1001/00069850/
*2 Chief Marketing Officerの略:最高マーケティング責任者
新年のご挨拶
新年明けましておめでとうございます。
昨年は、2020年から続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐために、人々の働き方は大きく変化し、アナログ・対面からデジタル・リモートへと大きくシフトしました。在宅勤務で使うWeb会議システム、ワクチン接種予約システム、新型コロナウイルス接触確認アプリなどこれまで以上にICTが身近に利用されるようになりました。同時に、既存の就労規則や業務フローの課題、導入されたシステムの使い勝手や相互運用性の悪さといった課題も広く認識され、社会のデジタルトランスフォーメーションがますます重要だと感じさせられた1年であったと思います。
学会活動においても、昨年6月の総会、9月の理事会、支部長会議、10月のアドバイザリーボードまですべてオンラインで開催し、11月の理事会で初めてハイブリッド開催となり、新しい理事の方々と対面でお会いすることができました。アドバイザリーボードでは、永井良三座長から学会創立60周年宣言の「More local and more diverse for global values」に対して賛同のコメントをいただき、グローカル公共哲学と共通な考え方であり、「一人ひとりが孤立し無縁社会になるのではなく、他者への慈しみや地域社会への貢献を重視する」姿勢が重要であるとのご指摘をいただきました。またボードメンバーからは、情報倫理の問題、社会的なAI活用の問題、フェイクニュースの問題などさまざまな課題についても議論していただきました。学会が、情報の技術的な側面だけでなく、制度的、社会的な課題に対しても積極的に取り組み、発信していかなければならないとの意を強くしました。
また、昨年10月にはデジタル庁が、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を」をミッションにスタートしました。学会でも、「デジタルの日」に合わせて、「社会全体でデジタルを思い出す・感じる」といった趣旨に沿った記念講演会をIT連盟と共催しました。1回だけのイベントに終わらせることなく、「デジタルの日」のたびに社会のデジタル化を推進し、災害に強いレジリエントなスマートシティやカーボンニュートラルな持続可能社会の発展にも大きく貢献していきたいと思っています。
学会活動の新陳代謝を測るバロメータの1つに、新しい研究会や研究グループの創設が挙げられますが、昨年は、41研究会(コンピュータサイエンス領域11研究会、情報環境領域16研究会、メディア知能情報領域14研究会)+5研究グループが活動していました。最も若い研究会は、2020年に設置された量子ソフトウェア(QS)研究会ですが、会員の皆様のニーズに合わせて、より容易に議論する場が提供できればと思っています。また、ジュニア会員だけでなく、シルバー世代の方々にも学会での活動にいろいろな形で参加いただければと考えています。
また、情報教育関連に関しては、大学入試センターが2025年に実施する大学入学共通テストへ「情報」が出題されることが決まりましたが、学会として初等中等教育から大学•大学院までの情報教育にかかわる人々を支援する体制、環境整備を強化してまいります。本年8月には、IFIPのWCCE 2022 (World Conference on Computers in Education)も8月に予定されており、未来を創造していく人たちの教育において情報教育、Computational Thinking、学習/トレーニングのためのデジタルテクノロジーの重要性や課題などが議論されることを期待しています。
情報処理の学会として、学術的な懐の深さや学際的な広がり、産業界との連携、社会課題の解決を意識しつつ、新しい試みや学会のDXを推進できる年になることを祈念しています。情報分野の進展は、学術的な新しい分野やパラダイムの創出だけでなく、社会のあらゆる産業の発展に直結していますので、今後とも学会の活動にご支援、ご協力をお願い申し上げます。
最後になりましたが、本年が皆様にとって素晴らしい年となりますように祈念して、年頭の挨拶とさせていただきます。
会長就任にあたって
IPSJ2021ニューノーマル時代を切り拓く学会を目指して
—会長就任にあたって—
徳田英幸
情報処理学会会長/情報通信研究機構 (NICT)
(「情報処理」Vol.62, No.7, pp.322-324(2021)より)
新型コロナウイルス感染症対策とディジタル変革の加速
この間,リモートワーク,遠隔授業,遠隔医療,行政のオンライン手続きなどが急速に進展した一方,押印処理だけに出社したり,データ収集にFAXが利用されていたなど,データのディジタル化,業務プロセスのディジタル化やデータ連携,共有,流通などのシステム的な課題が数多く露呈しました.
また,スマートフォンを利用した新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAにおいても,ソフトウェアの不具合に気づかず利用されていたといったソフトウェアのバグがもたらす社会的インパクトの影響なども体験しました.このようなWithコロナ期が長引く中,情報分野に携わる多くの専門家を擁する本会として,COVID-19の感染症対策とともに,社会のディジタル改革(デジタルトランスフォーメーション)を加速することに尽力する必要があります.
学会のディジタル変革
SDGsを含む社会課題の解決と価値創造
SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられているさまざまな社会課題や地球温暖化の問題に対しても,学会として積極的に貢献していくことが重要です.特に,ICTを使ってのデータに基づく問題解決の方法論は,汎用的に貢献し得る手法の1つです.学会としては,これまで以上に,オープンデータやオープンサイエンスを進めて,他分野のスペシャリスト達と連携し,社会課題の解決に向けて積極的に関与していくべきと考えます.一方,AI, IoT, ビッグデータなどの利活用によって,データセンタでは非常に多くの電力が消費されています.JST(科学技術振興機構)の低炭素社会戦略センターによれば,現在の技術のまま,まったく省エネルギー対策がされないと情報関連だけで,2030年には年間消費電力が42PWhとなり現在の世界全体消費電力の約24PWhを大きく上回るという予測がされています.情報分野でのあらゆる側面からの超低消費電力化に向けた技術革新をリードし,CO2排出量に関して,“Computing and Communication for Carbon Neutral”を達成することも重要な課題の1つです.
学界や産業界への貢献と関連団体との連携強化
本会の持っている大きな強みの1つは,情報学における広い分野をカバーする数多くの研究会で,研究者,技術者,学生が最先端の成果を議論する場を提供するとともに,新しい分野の創出にも貢献している点です.日本の大学の多くは,伝統的にディシプリンごとに学部が設立され,ディシプリンを跨いだトランスディシプリンやインターディシプリンのような研究教育が遅れていたと思います.一方,情報の分野は,メタサイエンスとしての性格を持っており,計算化学,材料情報科学,計算デザイン,計算社会学,計算公共政策学,計算倫理学など,これまでの学問分野との融合を加速し,新しい分野の創出に挑戦していくことが重要です.産業界との連携に関しても,本会は,これまでも「CITP認定技術者制度」を開設し,情報技術者のプロフェッショナルとしての能力の認定を進めてきました.今年度(2021年度)からは,IT団体の連合体「一般社団法人 日本IT団体連盟(IT連盟)」との連携が始まりますので,社会で必要とされる情報系のプロフェッショナルコミュニティとの連携を強化し,プロフェッショナルコミュニティのニーズを把握し,学会の魅力が感じられる新しい企画を創出していきます.
若手人材の育成と国際連携の推進
本会は, 2015年度からジュニア会員制度を開始し,若手人材の育成に積極的に取り組んでいます.ジュニア会員向けの企画の強化もさることながら,学部・大学院レベルの若手研究者・技術者予備軍の方々への支援も強化していくことが重要です.それには,学生時代から国際会議やワークショップでの発表に加えて,海外でのインターンシップや国際会議などのステューデントボランティアの経験などを積める支援なども必要です.また,現役の先生方が欧米やアジアの研究者たちとの共同研究プロジェクトなどを実施し,積極的に若手を起用し,国際的に通用するトップクラスの若手研究者・技術者を持続的に育成していくことを支援することが大切であり,その研究コミュニティを支援する学会の役割は重要です.以上,コロナ禍での学会について,さまざまな制限をピンチと考えず,むしろチャンスと捉え,次の60年に向けてディジタル変革を推進すべきと考えます.会員だけの学会でなく,社会の中の学会であり,さまざまなコラボレーションを通じて新しい価値を創出し,社会に還元し,ニューノーマル時代を切り拓いていく所存です.
(2021年4月30日)
目次に戻る