会長挨拶

会長挨拶

創立記念日に寄せて

2021年4月22日

  情報処理学会は、本日、61回目の創立記念日を迎えました。60周年で還暦を迎え干支を一巡したことから、学会としては新たなスタートとなり、その1周年を迎えたことにもなります。

  昨年、学会としての60周年記念事業を様々執り行い、学会の来し方行く末について議論しました。これからの学会が目指すところについては、”情報処理学会創立60周年宣言 ~More local and more diverse for global values~”としてまとめました。ここに改めて提示します。

1. 情報社会において各地域や各分野の担い手と共に先端技術で社会課題を解決し,そのプラクティスをグローバルに通ずる新価値創造に繋げる
2. 情報処理の最先端を先導する学会として常に新しい領域の開拓と人材ネットワークの構築に寄与する
3. 情報に関する学びの場を提供し,生涯にわたる個々人の成長に寄与する

  コロナ禍が世の中に与えたインパクトは大きく、本学会でも全国大会をはじめとする各種イベントがオンライン開催になるなど、この1年、学会活動にも大きな変化がありました。時代の変化にあわせ、新しい学会となるために以前から準備をしてきたもので、最近具体化されたものも多々あります。昨年10月から、学会誌は紙とオンラインのハイブリッドに移行しました。記事を紙媒体と電子のハイブリッドにしたことに加え、会員間でのコミュニケーションの促進を意図してnote,twitterを導入しました。今後、情報提供の即時性をさらに高めていきます。

  また今月から学会のホームページがリニューアルされました。ジュニアや若手を前面に出した構成になっています。3月に、令和7年度の大学入学共通テストから、「情報」が出題の対象の7教科のひとつとなることが発表され、本学会は直ぐに賛同表明を出しました。情報が生活に必須となる中で、初等、中等教育から情報への取り組みがさらに強化されることになります。情報処理学会は、2017年にジュニア会員制度をスタートし、全国大会で中高生情報学コンテストを行うなど、ジュニア向けの企画を積極的に推進しています。学会誌には、“情報の授業をしよう!”や“先生、質問です!”などのコーナーがあります。ジュニア層に、情報により大きな興味を持ってもらうという意味で、本学会が果たす役割がこれからますます大きくなります。さらに取り組みを強化し、期待に応えていきたいと思います。

  情報に係るエンジニアに向けた取り組みに関しては、これまでも「認定情報技術者制度」(CITP制度)により、情報技術者のプロフェッショナルとしての能力の可視化、認定を進めてきました。昨今の情報に係るエンジニアへの期待の拡大を受け、データサイエンティスト育成戦略を策定し、先日、公表しました。関連する機関や大学との連携を強化して、この戦略を今後具体化していきます。関連する施策の強化のため、昨年、傘下に400万人の総従業員数を有するIT団体の連合体「一般社団法人 日本IT団体連盟(IT連盟)」との連携をはじめました。新年度からは相互に理事を出し合うことで有機的な連携をさらに強化することになっています。学会のカバーするところが、ここでも拡がっていきます。

  今年はデジタル庁が創設されます。それに合わせ“デジタルの日”も創設され、今年は10月10日、11日に設定されています。デジタルそして情報の重要性を広く社会に認知していただくためにはとても重要なイベントになると認識しています。学会としても各種イベントで企画を行いながら、デジタルの日が成功するよう最大限のサポートをしていく予定です。

  学会の大きな役割は、研究者、技術者が最先端の成果を論文等で提供し、分野の成長に寄与するところにあります。それを支えるものとしてピアレビューがありますが、情報の分野ではアーカイブへ論文をアップするのが一般的になりつつもあります。論文のオープンアクセス化も進んでいます。学会が本来持っていた役割についても、従来のやり方を見直し、新しい仕組みをつくっていくことも必要になっています。一方で、上記したように学会が寄与できるところはどんどん広がっています。本学会が次の60年も継続して進化していくためには、学会として変化し続けることが必須です。しっかりした技術に裏打ちされた学会ならでは取り組みを新たに展開していくことで、情報処理学会は社会にさらに大きな価値を提供できると確信しています。

  6月8日の定時総会で2年間の私の任期が終了します。この間に学会の60周年を無事迎えることが出来ました。会長就任時に掲げた方向性は、60周年宣言の中にほぼ取り込まれたと思っています。学会の基盤強化については長期戦略理事を中心に検討をいただき基本的な方向性が見えてきたところです。これら検討を進めてきたことの具体化は徳田新会長をはじめとする新しい体制にゆだねることになります。情報処理学会が広く役立つ学会に進化していくのをこれからも支援していきます。社会に大きな変化があり、学会にも大きなインパクトがあった2年間でしたが、理事や事務局をはじめとする多くの皆様の支えにより、ここまでくることが出来ました。ありがとうございました。ますます情報処理学会が発展することを祈念しています。
 
 

新年のご挨拶

2021年1月5日

 新年あけましておめでとうございます。昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大が急激な変化を社会にもたらしました。気候変動の影響も顕わになる中で、地球の持続可能性を如何に担保していくかがグローバルに解くべき課題として意識されるようになりました。日本ではコロナによりデジタル化の遅れが明白になりました。一方で、仕事、教育、医療などでリモートでの取り組みが一挙に進み、新しい社会の姿の端緒が見え始めてもいます。課題が顕在化する中で情報処理の重要性が一般に広く認知された一年だったとも言えます。
 
 このような環境の中、本学会は昨年創立60周年を迎えました。環境が大きく変わる中で、世の中により役に立つ学会となることを意識して“情報処理学会創立60周年宣言 ~More local and more diverse for global values~”を出しました。宣言で述べているように、以下の3つを柱にして、学会として更なる進展を目指します。
 
1.情報社会において各地域や各分野の担い手と共に先端技術で社会課題を解決し,そのプラクティスをグローバルに通ずる新価値創造に繋げる
2.情報処理の最先端を先導する学会として常に新しい領域の開拓と人材ネットワークの構築に寄与する
3.情報に関する学びの場を提供し、生涯にわたる個々人の成長に寄与する
 
 
上記の3点に関し、それぞれにかかわる思いとこれからの取り組みについてお伝えします。
 
1.については、世の中の不確実性が増す中で、解くべき社会課題が数多くなっていることがその背景にあります。日本に軸足をおいて活動する本学会は、日本の課題にしっかり向き合いながらその解決に積極的に貢献すべきと考えています。情報技術への期待に応えるべく、関連するすべてのステークホルダと連携しながら課題解決に会員の皆様とともに取り組みたいと思っています。この取り組みが結果として、新しい先端技術の創出と、さらにはグローバルな競争力の確保につながると考えています。これが将に、More local and more diverse for global values が意味するところでもあります。
 
2.はアカデミックな学会のベースとなる部分です。国立情報学研究所の協力のもと、1年ほどをかけて、今後の情報科学の進むべき方向性について研究会横断で議論し、新しい取り組みの提案につなげました。その第2ラウンドを今年はスタートさせ、学会として活動のひとつとして定着させたいと考えています。
学会の運営面では、コロナの影響による社会の変化を見据えながら、研究会、大会、論文誌のあり方を見直し、学会の機能を進化させ続けます。昨年10月から郵送される学会誌は厚さも提供される情報もコンパクト化しました。あわせてオンライン側のコンテンツを充実し、より豊富な情報へのアクセスが可能になりました。新しい時代を先取りした取り組みのひとつです。大会、研究会はコロナでオンライン開催を余儀なくされましたが、アフターコロナでは、オンラインの良さを活用した新しい形態での開催を模索します。昨年は中国や韓国の連携学会の会議には、情報処理学会としてオンラインで参加・招待講演をし、関係を継続しています。これからはBuild Back Betterです。様々な面で、より良い学会活動への変革のための重要な年と今年を位置付け活動を進めます。
 
3.に関しては、世の中の変化を見据えた対応を進めます。コロナでギガスクール構想が一気に進展しました。大学入試への“情報”の導入をにらんでの動きも進んでいます。本学会はジュニア会員の増強とともに、ジュニア向けの諸活動を強化しています。高等学校等の先生へのアプローチも進めています。昨年は、400万人のIT技術者が関係する一般社団法人 日本IT団体連盟(IT連盟)との連携も始まりました。さらに多くの方々との接点を拡げるためには、シニア向けの施策を検討することが必要になります。進化が激しい情報技術が、一般市民にとって切っても切れないものになっています。学会の果たすべき役割がより大きくなっています。情報発信の強化を含め、学会としての活動のスコープを広げながら、より多くの人に、直接・間接に貢献できるようにしていきたいと考えています。
 
 
 不確実で変化が激しい時代となる中で、情報技術への期待が益々高まっています。より多くの期待に応えられる学会を皆様と一緒につくっていきたいと思っています。今年もよろしくお願いいたします。
 

学会創立60周年記念週間(11月23日~27日)とメモリアルページ

2020年11月23日
 <学会創立60周年記念週間メモリアルページ>

 新型コロナウイルス感染症の終息がなかなか見通せないため、10月30日に予定していたオンサイトでの60周年記念式典は中止をし、11月23日から27日を学会創立60周年記念週間として、様々なコンテンツをオンラインで発信することにしました。11月26日にはIEEE会長の福田敏男先生による記念講演も予定されています。また中止した式典に代えて同日に開催した60周年記念パネル討論や、各界からのご祝辞、特別寄稿等もアップされます。オンサイトのイベントでは参加者が限られますが、オンラインではその制約から解放されます。是非多くの方にメモリアルページを訪れていただき、学会の来し方、行く末に思いを馳せていただければと思います。このタイミングで、「情報処理学会60年のあゆみ」と「情報処理技術遺産とパイオニアたち」の2冊の書籍も刊行されました。こちらも是非ご参照ください。

 記念週間にも関連しますが、このひと月ほどで私にとって学会のあり方を考えさせられるイベントがいくつもありました。ひとつは、創立記念週間に向けて収録を行った学会歴代会長・有識者による上記のパネル討論です。第1部では第25代から28代の白鳥、古川、喜連川、富田の歴代会長と議論を行いました。第2部では外部有識者としてIEEE会長福田先生、IEEE-CS前会長笠原博徳先生、Yahoo! JAPAN研究所田島玲所長、メディアアーティスト他多様な顔を持つ落合陽一さんを迎え議論しました。詳しくはオンライン配信を見ていただきたいのですが、その中で学会と社会のつながりの強化、尖った人材を引き立て、新しい技術分野を拓くなど難しいことに積極的にチャレンジすることの重要性、ローカルな問題解決に貢献するためにダイバーシティを高め、外部連携を強化すべきことなどについて意見をいただきました。

 11月2日には、学会のアドバイザーの皆様にオンラインでお集りいただきアドバイザリーボードを開催しました。ここでもコロナ禍で情報の重要性が明らかになってきた中で、情報を扱う学会として情報発信や提言の機能を強化すべきとの指摘がありした。女性やジュニア会員への対応を含めダイバーシティを高めることの重要性、技術のみならず情報の利活用への取り組みを強化することの必要性などについても議論がありました。

 10月23日には、中国最大の情報系の学会Chine Computer Federationの全国大会CNCC2020で情報処理学会会長としてリモートで招待講演を行いました。昨年はCNCC2019 に現地参加し、参加者数が約8000名というその規模の大きさに驚かされました。今年は北京で規模を縮小して開催と聞いていたのですが、北京以外にも5か所に特別会場を設置、全6か所で7000名が参加、加えてオンラインで2万名が参加したそうです。環境変化に素早く対応し新しい開催方法を模索しながらも、多くの人が情報技術に取り組んでいることを見るにつれ、グローバルな中での情報処理学会の立ち位置を明確にするとともに、グローバルな連携をどう進めるかを再度明確にすることの必要性を感じました。

 情報処理技術が成熟し、世の中に浸透するとともにデータの時代へのシフトが起きています。新型コロナウイルスや気候変動が大きな問題となる中で世の中の変化も激しくなり、不確実性も高まっています。学会も、従来の姿にとらわれることなく、新しい形に変化を遂げていくことが必須になっています。そこで学会60周年のこのタイミングで、これからの学会の進むべき方向をまとめ“情報処理学会創立60周年宣言”として発することにしました。多くの皆様とともに、これからも広く社会に寄与する学会となるべく活動を進めていきますので、よろしくお願いします。

2020年5月15日から7月31日までの豪雨による災害 (*1)について

2020年9月10日

 2020年7月豪雨にて亡くなられた方々のご冥福を謹んでお祈りするとともに、被害を受けられた方々には心よりお見舞い申し上げます。
 
 情報処理学会では、昨年度と同様、被害地域の会員の皆様に対して2020年度分の会費を免除いたします。大変恐縮ではございますが、本ページからリンクされている会費免除手続きのページをご参照いただき、お手続きをお願い致します。
 
*1)令和2年5月15日から7月31日までの間の豪雨による災害(令和2年7月豪雨など梅雨前線等による一連の災害)
 
 
 

2020年度新体制のスタートにあたって

2020年6月4日

 6月3日に2020年度定時総会が開催され、新しい役員体制がスタートしました。Covid19の影響で総会はオンライン開催となり、必要最小限のメンバーが現地で対応して進めました。例年、総会に合わせて行われる表彰式は、総会がオンライン開催となったため中止となりました。今年新たに名誉会員になられたのが、西尾章治郎様、土井美和子様、Zide Du様、また、2019年度功績賞の受賞者が富田悦次様、松本裕治様、笠原博徳様であったことをお伝えします。いずれもこれまでの大きな業績によるものであり、ここにこれまでの活動への感謝とお祝いを申し上げます。
 
 今年の定時総会がいつもとは違った開催形態となったこともあり、本年度の活動方針を会員の皆様にお伝えする意味も含め、今回このメッセージを発信します。
 本年度の基本的な活動方針は、昨年度に引き続き、学会の価値向上と活動活性化としました。その中で、①学会運営体制の充実・財政基盤の強化、②ITエンジニア向け活動の強化、③学生・若手研究者育成の活動推進、④グローバル化の推進、⑤会員サービスおよび広報の拡充、⑥情報システムの拡充、⑦各種学会創立60周年記念事業の実施、を行います。昨年度から取り組みを始めた、情報処理に関する将来技術の展望とその発信、ジュニア向けサービスの拡充に合わせた教員の皆様との連携・支援についても引き続き強化していきます。
 
 Covid19は社会に大きな変化をもたらしています。遠隔授業、テレワーク、遠隔医療などが推進され、私たちの暮らし方、働き方が大きく変わろうとしています。新しいライフスタイルが世界的に浸透すると想定されます。このコロナ禍でデータやITの活用における日本の課題が顕在化していますが、パラダイムが変わるタイミングは、現状を変え、新たに優位なポジションを築くチャンスでもあります。本学会としても、今の厳しい環境で起きていることにしっかり目を向け、学会が新しい形にいち早く変貌をとげるために何をなすべきかを検討して具体施策につなげていきたいと考えています。
 
 本学会の今年の全国大会はオンラインでの開催となりましたが、オンラインならではの良さもいろいろと認識することができました。アフターコロナにおいては、オンラインとオフライン双方の良さを取り入れた新たな取り組みが進むと想定されます。大会、研究会、セミナーの新しいあり方を構想し、新しい学会の形をつくっていくことに挑戦します。
 新しいライフスタイルの実現には、情報処理が大きな役割を果たすことが再認識されています。日常生活に情報処理が大きな影響をもたらすことを考えると、市民への情報発信機能の強化とともに、情報処理技術を活用して新しい社会を創っていくための提言を積極的に行うことが必要と考えています。新しい体制のもと、これからの学会のあり方のデザインを進めます。10月には、本学会の60周年記念式典を予定していますが、その時に目指す方向性を発信すべく検討を進めていきます。今後の学会のあり方についての、会員の皆様からの提案に期待するところも大です。是非、いろいろとご意見をお寄せください。よろしくお願いします。
 
 
(追伸)
学会の新しい役員体制は学会サイトで確認いただけます。その中に理事の皆さまの抱負もアップされていますので、一度目を通していただければと思います。理事からのメッセージの欄もあわせて参照ください。
 

創立記念日に寄せて

2020年4月22日 
情報処理学会は本日創立60年を迎えました。
 
 60周年すなわち還暦という節目の年になりますが、時代は将に歴史上の大転換点にあります。創立記念日の本日4月22日現在、全国に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が出されており、国をあげてこの感染症と戦っています。この感染症の被害に遭われた皆様に心よりお見舞いを申し上げるとともに、現場の最前線で取り組んでいらっしゃる医療従事者の皆様、生活基盤を支える活動をされている皆様に敬意と感謝の意を表します。
 
 この危機に対応するために、リモートワークや遠隔授業、遠隔医療、行政のオンライン手続きなどが急速に進展しています。通信を含めた情報処理の重要性が多くの人に再認識されていると言えます。感染の予防や予測へのデータ活用の議論が行われるとともに、データの信頼性やトレーサビリティ、セキュリティの問題が取り上げられています。多くの人がリモートでの対応に取り組む中、市民の情報リテラシーや情報へのアクセシビリティの問題も顕在化しています。情報処理を議論する本学会が意識すべき範囲も拡大していると認識し、活動を見直していくことが必要になっています。
 
 本学会でも、この環境下、創立60周年記念にあたる第82回の全国大会の現地での開催を中止し、一般・学生セッションすべてと一部のイベント企画をオンラインで開催しました。従来と異なったやり方にトライすることで、従来のセッションの進め方を超える新しいやり方があるのではないかという議論もなされています。学会webサイトにはオンライン開催の経緯などを報告した解説記事を含む、「情報処理学会 オンライン会議・リモートワーク・遠隔授業関連記事ディレクトリ*」を公開する予定です。こうした発信がこの難局に取り組む方々の一助となることを願っています。是非活用いただければと思います。
 またオンラインでの授業が不可欠になっている状況を鑑み、日本データベース学会と連携の上、学会の著作物をICT人材育成のためのオンライン教育に無償で利用いただく施策を開始しました。今回のコロナ禍は、社会の大きな変容をもたらすことは間違いありません。アフターコロナの社会を意識し、新しい時代に合った学会活動を今から模索していくことが重要になっていると考えます。
 
 情報処理学会がサステナブルに次の60年(大還暦)を迎えることを意識し、理事会で長期戦略担当理事を中心に学会の中長期戦略を議論してきました。新型コロナによる環境の変化を反映することは必要ですが、目指すべき大きな方向性は変わらないと考えています。
 情報の重要性が広く認知されるようになってきました。小学校のプログラミング教育にはじまり、中学高校においても情報教育が拡充されつつあります。情報は、現代人が持つべき基本的素養(読み・書き・そろばん)のひとつになっているのです。今回の新型コロナの問題でより多くの人が情報処理の重要さを認識しています。本学会はこれまでジュニア向けサービスやセミナーの拡充を進めていますが、世間一般での本学会への認知度は決して高いとは言えません。これは、本学会が情報処理の高度な技術とそれを支える人材をベースとして成り立っていることに起因します。学会の軸足をしっかりしておくことは決して悪いことではありませんし、これまでの活動により、学会は高い見識を持つ人材と豊富なコンテンツを有することができています。これを広く活かしていくことが今後重要になります。
 
 情報の重要性が広く認知されるとともに、人生100年時代を迎えるにあたり一人ひとりのキャリアデザインも変わってきています。本学会が寄与できるところがこれからますます拡がっていくことは間違いありません。今、有している有形・無形の資産を活かしながら、活動の範囲を拡げていくことに本学会のこれからの大きなチャレンジがあります。より多くの皆様に価値を提供する学会となることを目指したいと思います。
 活動を拡げるにあたっては、単一の学会として出来ることには限界がありますので、他機関との連携強化を進めます。現会員の皆様に加え、より多様なメンバーを受け入れることが、広く社会に役立つ学会に変わるためのもうひとつの重要な点と考えています。
 
 新しい取り組みを柔軟に進めるために制度の見直しも必要になると考えています。現在の活動を維持強化し、学会の財政基盤をより強固にしながら新しい取り組みを進めなければなりません。皆様の多方面からの継続したご協力をよろしくお願いいたします。
 
 
*covid19対策 情報処理学会 オンライン会議・リモートワーク・遠隔授業支援ディレクトリ
 

全国大会のオンライン開催の成功をうけて

2020年3月13日

 第82回の全国大会は、新型コロナウイルスの感染を防ぐという観点から、金沢工業大学での開催を中止し、一般・学生セッションすべてと一部のイベント企画をオンラインで開催しました。現地開催中止の決定からオンライン開催まで2週間という短期間でしたが、岡部大会運営委員長、中野副委員長、中沢プログラム委員長、河並副委員長、齋藤現地実行委員長、事業担当理事をはじめとする各委員会委員の皆様やサポーター、事務局の皆様の多大なるご尽力で大きなトラブルもなくオンライン開催を無事に実施することができました。ご協力いただいたすべての皆様に感謝します。

 私もいくつかの講演を聴講しましたが、発表はクリアでしたし、議論もスムーズに行われていました。短期間でオンライン開催の手引きが作成されたことも大変大きかったと思います。何よりオンラインでセッションを進行していただいた座長の皆さん、オンラインで発表いただいた講演者の皆さん、積極的に質疑に参加いただいた聴講者の皆さん、それぞれが高い情報リテラシーとオンラインでの実施への深い理解を持たれていたということが成功につながったのだと思います。それぞれのセッションの運営にあたっては、研究会・研究グループの皆さんの強力なサポートがありました。ありがとうございました。 20を超えるセッションが同時に粛々と進行され、3日間で約750件の発表と延べ約3000人の参加があったということは素晴らしいことで、将に本学会の面目躍如たるところかと思います。

 将来を見据え、今、学会として力を入れていることに、グローバル化の推進とジュニア層を中心とした会員層の拡大があります。今回はいつも参加いただく米中韓のSister Societyからの参加は残念ながら見送られました。この新型コロナウイルスの問題が一日も早く収束することを願っています。落ち着いたタイミングでグローバル化対応の強化、海外学会との連携促進にも再度注力していきます。  ジュニア層を中心とした会員層の拡大に関しては、昨年から土曜日までの開催を断行し、中高生やジュニア会員のために多くのセッションを組むようになりました。今回のような状況でも、中高生情報学研究コンテストを従来のポスターセッションとは形を変えて実現することができましたし、「先生質問です!」公開セッションやSamurAI Codingコンテストもオンラインで実施されました。若い人たちとの接点の持ち方についても新しい可能性のヒントがあったのではないかと思っています。

 今年は本学会創立60周年にあたります。感染を防ぐという目的ではありましたが、オンライン開催が成功したことを受け、全国大会や研究会の今後のあり方を検討したいと思っています。次の60年も、持続可能な学会であるために何を変えていくかを考える契機とすることで今回の出来事をプラスにしていきましょう。今回のオンライン開催ではいろいろな気づきがありました。今回は時間の関係で既存の遠隔会議のアプリケーションをそのまま使う形でしたが、気づきをベースに学会発表や遠隔授業に適した機能を追加することにチャレンジし、広く展開していくことも重要と考えます。 コロナウイルス対応でリモートワークやオンライン学習が本格化し、遠隔診療の議論も進んでいます。情報をメインとする本学会での検討が、今後の社会の変革に寄与できるところは大きいと考えます。会員の皆さんとともに、技術の進展への貢献はもちろんですが、教育や情報技術の社会浸透への貢献についても取り組んでいきたいと考えていますのでよろしくお願いします。

 最後になりますが、現地開催に向け準備をいただき、最終的にはオンライン開催への対応含め大会の開催・運営にご尽力いただいた金沢工業大学の関係者の皆様には、大変お世話になりました。厚く御礼申し上げます。オンライン開催にあたっては、多くのスポンサー、サポーター、委員の皆さんに多大なるご協力・ご尽力をいただきました。改めまして関係したすべての皆様に感謝の意を表し、結びとします。ありがとうございました。

新年のご挨拶

2020年1月6日

  新年あけましておめでとうございます.昨年は,新しく令和の時代が始まり,ラグビーワールドカップで国中が盛り上がりをみせるなど明るい出来事が数多くありました.一方で,台風による豪雨など多くの災害が発生しました.グローバルに地球温暖化問題への関心が高まり,各国情勢に数多くの不安定要素が見られる等,変化が激しい時代になっていることを改めて痛感した1年でもありました.

  情報処理を取り巻く環境も大きく変わりつつあります.本会創立60周年にあたる今年2020年が,情報処理にかかわるすべての人や関係機関にとって良い年になることを祈念しています.昨年6月の会長就任以来,これまでさまざまな活動を通して,学会として新たに取り組めるものがたくさんあるのではと思うようになってきました.新年でもありますので,将来への期待も込めて,その内容をお伝えします.今年を,大還暦(次なる60年)に向けて,次なる新しい一歩を踏み出す年にしたいと思っていますので,よろしくお願いします.

  デジタルトランスフォーメーションに向けた取り組みがあらゆるところで進められるようになってきました.デジタルの力でこれまでのやり方を変革し,新しい仕事の進め方や文化を創り上げていくことがデジタルトランスフォーメーションの本質です.それを支えるのが情報処理そのものです.数年前からデジタルトランスフォーメーションへの取り組みが主に企業で進められるようになりました.今ではその取り組みが多くの業界にひろがっています.さらに,大学や自治体など他の多くの機関でも変革への取り組みが行われるようになりました.こうしたデジタルトランスフォーメーションにかかわる人は,プロセス変革や文化改革をしている人からデジタル化・IT化を現場で支えている人までを含めると膨大な数になります.私たちの学会が寄与できる範囲が大きく拡がっていますし,学会の会員として迎えることができるメンバも私たちの想定をはるかに超えて多くなっていると言えます.

  本会ではジュニア会員の増強を進めており,小中学生のジュニア会員も増えています.昨年末,小学4年生が数学検定一級に合格したということがニュースになりました.昨年の全国小中学生プログラミング大会でグランプリに輝いたのは小学2年生でした.ジュニア会員には,情報オリンピックやロボコンにチャレンジする高校生や高等専門学校の学生さんもいます.ジュニア会員の興味も多様になっており,本会が提供できるものは多岐にわたると思います.小学校からのプログラミング教育推進,生徒1人1台タブレット端末の配布,大学入試科目への情報の導入を目指す取り組みなど関連した変化もいろいろと起きています.情報教育を広く展開するプラットフォームの構築が不可欠になっていますが,教える側の人材が大幅に不足することが懸念されています.一方で,情報に関する高い知見と豊富な経験を有しながら,すでにアカデミア,産業界の第一線を退かれた方が,多数いらっしゃいます.こういった方々の能力の認定を行うとともに,必要なところとのマッチングを行うことにも学会として取り組む価値が十分にあると思います.

  以上のことを考えると本会がカバーするポテンシャルがある領域とその人財層は,現状,学会がカバーしているものをはるかに超えていると思います.従来の固定観念にとらわれることなく,学会としてもトランスフォーメーションにしっかり取り組むことが大切です.学会としてのサステナビリティを高め,さらに成長を続ける学会への変革です.今年は学会創立60周年にあたるので,いろいろなイベントが企画されています.それらの中で学会の来し方を振り返り,行く末に思いを馳せながら,次の一歩を皆さんと一緒に踏み出していきますので,よろしくお願いします.

2019年8月から10月までの台風および停滞前線 (*1)による豪雨および暴風雨災害について


  このたびの台風や停滞前線による河川氾濫等により亡くなられた方々に哀悼の意を捧げますとともに,被災された方々,今なお家屋破損等で不便な生活を余儀なくされている方々,関係者の方々に心よりお見舞い申し上げます.

  今回の台風・前線影響は広範囲に及んでおり,被災された地域には多くの情報処理学会員がいらっしゃいます.本災害による被害の大きさに鑑み,当面の被災者支援として,被害にあわれた会員の方々の2019年度分の会費を免除することにいたしました.つきましては,本件に該当する会員の方々にはご面倒をおかけしますが,本ページからリンクされている会費免除手続きにかかるページをご参照いただき,お手続きをお願い致します.

  8月には線状降水帯が27日から29日にかけて九州北部に停滞し,特別警報が発令された3県(長崎,佐賀,福岡)に豪雨をもたらしました.9月には関東地方に接近した台風15号が9日に千葉県に上陸し,暴風雨により家屋や送配電設備に甚大な被害をもたらしました.10月には台風19号が12日から13日にかけ,東海/甲信越/関東/東北地方を縦断し,特別警報が発令された13都県(静岡,神奈川,東京,埼玉,群馬,栃木,山梨,長野,新潟,茨城,福島,宮城,岩手)においては,豪雨による堤防決壊や河川氾濫,家屋浸水等甚大な被害が発生しました.本来「数十年に一度」の災害時に発令される特別警報が頻発される事態は,残念ながら今後も継続すると推定され,情報処理学会としては,情報処理技術により,短期的には発生時の被害規模の縮小,長期的には地球温暖化の防止等に貢献すべく,研究開発に取り組んでいく所存です.

*1)2019年8月から10月の前線等に伴う大雨(台風第10号,第13号,第15号,第17号および特定非常災害に指定される可能性がある台風第19号の暴風雨を含む).




会長就任にあたって

より多くの人と社会価値創造に取り組む

—会長就任にあたって—


江村克己
情報処理学会会長/日本電気(株)

 

(「情報処理」Vol.60, No.7, pp.580-582(2019)より) 

 元号も令和となり,本会が来年還暦を迎えるという節目で第30代の会長を務めることになり身の引き締まる思いです.世の中はディジタル変革の真っ只中にあり,大きな変化があらゆるところで起きています.データやAIが変革の源泉であり,情報処理の貢献がより大きくなっています.これまで歴代の会長や会員の皆さんが築き上げてきた本会がさらに広く社会に貢献する学会となり発展することを目指します.
 

社会課題解決と価値創造に貢献する

 国連のSDGs(Sustainable Development Goals)や政府・経団連が推進しているSociety 5.0に代表されるように,経済成長とともに社会課題の解決を行いながら人間中心の社会を創るという動きが活発になっています.SDGsが誰も取り残さないと謳っているように,グローバルな人口増の中で,1つの地球を分かち合いながら皆が豊かに暮らす社会を創ることが目指されています.人口が減少する中で人生100年時代を迎える日本では,世界とは異なる課題に取り組むことも必要になっています.

  ディジタル化により,社会課題解決や価値創造に新たな形で対応することが可能になりました.ディジタルトランスフォーメーションとも呼ばれますが,その源泉となっているのがデータやAIです.この大きな流れの中で,私たちはどのような貢献ができるのかを徹底的に考え,具体的なアクションにつなげることが重要になっています.

ディジタル化がもたらす新しいパラダイムを学会の価値向上につなげる

  ディジタル化の進展の背景には,大きなパラダイムの変化があります.これまでは物理法則や数式によって解を求める演繹的なアプローチが主流でした.これに対し,データを起点とするデータサイエンス,AIは,帰納的なアプローチになります.データセットから答えを導くというアプローチなので,使うデータセットによって出てくる答えも変わります.100%正しいという解はないということになりますので,新しいタイプのエンジニアリングが必要になります.会誌「情報処理」2019年1月号の特集“機械学習工学”でこのことがしっかりと議論されています.機械学習を工学として確立すること,それを担う人材の育成をしっかり行うことが大切です.そのために本会が果たすべき役割は非常に大きいと考えます.

  自然災害の予兆検知やシステムの故障予測など十分なデータが得られない場合には,演繹的なアプローチと帰納的なアプローチを組み合わせていくことも必要になります.ここに新しい融合学問領域が出現します.このような新領域で本会は先導的な役割を果たすべきです.異なる分野の学会やグローバルな学会との連携を視野に入れ検討します.

  データによる価値創出においては,データの多寡が性能に影響を与えます.この議論をするとよくGAFA(Google,Apple,Facebook, Amazon)や中国によるデータ囲い込みの問題が話題になります.地政学上,産業的に対応が難しい場合も出てきていますが,アカデミックで中立な学会ならできるグローバル対応もあります.これまでにも本会は,ACM(Association for Computing Machinery)やCCF(China Computer Federation)などグローバルにプレゼンスのある学会との連携を進めています.複雑な国際情勢の中では,このようなアカデミックな連携を強化することの意味は非常に大きいと考えます.
 

人を活かすという観点から学会の今後を考える

  最近,将棋の藤井聡太さん,囲碁の仲邑菫さん,卓球の張本智和さん,フィギュアスケートの紀平梨花さんなど若くして才能を開花している人たちが数多く出てきています.情報処理の世界でもゲームやハッカーの領域で若くして天賦の才を発揮している人たちがたくさんいます.会誌「情報処理」を読んでいる小学生のジュニア会員もいます.天賦の能力を磨くのに早すぎるということはありません.西尾前会長はジュニア会員を中心に会員増に尽力されました.この活動を継続・拡大し,将来を担う世代に魅力あるサービスを提供することが学会のサスティナビリティを高めることそのものです.

  AI人材の不足が叫ばれていますが,ディープラーニングのオープンソース化が進み,情報処理の基礎的知識を有している人なら誰もがAIを使える環境になってきています.AIは敷居が高いものという印象を払拭し,AI活用人材の底上げに貢献することも学会の役割です.本会ではソフトウエアジャパン,各種セミナを通してのIT人材の育成やITエンジニア向けの認定技術者制度を推進しています.この範囲をさらに広げていくことを検討します.

  データの活用による価値創出において,情報処理技術に携わる人はドメイン知識を持つ他の領域の人たちと連携して活動することが不可欠です.このとき我々のカウンターパートの人は,情報処理の基礎を理解していることが望まれます.データ活用にあたっては社会科学的な視点も重要になります.他分野の方々との出会いの場を,学会として提供していくことで学会の価値を上げていきたいと思います.

  データを活用する価値創造では,市民を加えた産官学民連携が必要と言われています.データを使うことへの過度な心配は価値創造の阻害要因になりかねません.一般市民のAIやデータ利用への理解を高め,リテラシーを上げることが重要です.本会には情報処理について公平で最も見識が高いメンバが集まっています.本会が社会や市民へのアウトリーチ活動を行い,データ活用のメリットを丁寧に説明することが重要になっています.人生100年時代を迎え,リカレント教育の必要性も高まっています.私たちが接点を持つべきは老若男女を問わず,ありとあらゆる世代の人たちです.皆が集う場として,より多くの人に本会に興味を持っていただくことが本会の成長と新たな展開につながると考えています.
 

新しい時代に向け学会の基盤を強化する

  本会が新しいことにチャレンジし,より良いサービスを提供していくためにも,学会の運営基盤をさらに強固にしていくことが不可欠です.その基本は会員の増加を図り,財政基盤を確固たるものにすることです.本会の魅力を上げていくことが必要で,科学技術面での高いポテンシャルを維持するとともに,人材の育成や社会課題にも積極的に対応していくことが必要になります.カバーする話題のスペクトルを広げること,グローバル化を促進すること,会員のダイバーシティを高めることをあわせて考えることが必要です.

  科学技術面でのポテンシャルの高さは学会が最も大切にしてきた生命線です.情報処理に関する論文の発表先として本会が選ばれ,最先端の情報が常に本会にあるようにすることが重要です.大会や研究会の魅力をさらに上げるとともに,英文論文誌の質を向上し,グローバルな認知度を上げていきます.

  人材育成に関しては,初等中等教育を含めた情報教育,技術者の認定プログラムを提供しています.時代の流れに合わせてその内容を見直し拡大すること,リカレント教育を意識したプログラムをつくることを検討します.これらをより多くの機関や企業に活用いただくことで,結果として情報処理学会に目を向け,加入いただける個人が増えると考えています.

  データ活用やAI利用が進む中で,社会受容性や倫理的な問題が顕在化することも想定されます.このような場合に,技術的な見識が高い学会として提言や意見表明をタイムリーに行います.最近の会誌「情報処理」の特集は非常に多岐に渡り,しかも時宜を得た内容になっています.一般の方々の生活や仕事に関連するものも多くなっています.市民との接点を増やし,こういった情報を広く発信することで,情報処理技術がより広汎に世の中に浸透し,それが社会価値創造への貢献につながると期待しています.


  ディジタルトランスフォーメーションの進展とともに世の中が大きく変化しています.変化を先取りする形で新たな取り組みを進めれば,本会の提供する価値がより大きくなり,会員としての仲間も増えると確信しています.学会のさらなる発展に向け会員の皆様と一緒にチャレンジしていきたいと思いますので,ご支援,ご協力よろしくお願いいたします.

(2019年4月26日)


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