会長挨拶

江村克己 
江村克己
情報処理学会会長/日本電気(株)

<目次>

会長就任にあたって

より多くの人と社会価値創造に取り組む

—会長就任にあたって—


江村克己
情報処理学会会長/日本電気(株)

 

(「情報処理」Vol.60, No.7, pp.580-582(2019)より) 

 元号も令和となり,本会が来年還暦を迎えるという節目で第30代の会長を務めることになり身の引き締まる思いです.世の中はディジタル変革の真っ只中にあり,大きな変化があらゆるところで起きています.データやAIが変革の源泉であり,情報処理の貢献がより大きくなっています.これまで歴代の会長や会員の皆さんが築き上げてきた本会がさらに広く社会に貢献する学会となり発展することを目指します.
 

社会課題解決と価値創造に貢献する

 国連のSDGs(Sustainable Development Goals)や政府・経団連が推進しているSociety 5.0に代表されるように,経済成長とともに社会課題の解決を行いながら人間中心の社会を創るという動きが活発になっています.SDGsが誰も取り残さないと謳っているように,グローバルな人口増の中で,1つの地球を分かち合いながら皆が豊かに暮らす社会を創ることが目指されています.人口が減少する中で人生100年時代を迎える日本では,世界とは異なる課題に取り組むことも必要になっています.

  ディジタル化により,社会課題解決や価値創造に新たな形で対応することが可能になりました.ディジタルトランスフォーメーションとも呼ばれますが,その源泉となっているのがデータやAIです.この大きな流れの中で,私たちはどのような貢献ができるのかを徹底的に考え,具体的なアクションにつなげることが重要になっています.

ディジタル化がもたらす新しいパラダイムを学会の価値向上につなげる

  ディジタル化の進展の背景には,大きなパラダイムの変化があります.これまでは物理法則や数式によって解を求める演繹的なアプローチが主流でした.これに対し,データを起点とするデータサイエンス,AIは,帰納的なアプローチになります.データセットから答えを導くというアプローチなので,使うデータセットによって出てくる答えも変わります.100%正しいという解はないということになりますので,新しいタイプのエンジニアリングが必要になります.会誌「情報処理」2019年1月号の特集“機械学習工学”でこのことがしっかりと議論されています.機械学習を工学として確立すること,それを担う人材の育成をしっかり行うことが大切です.そのために本会が果たすべき役割は非常に大きいと考えます.

  自然災害の予兆検知やシステムの故障予測など十分なデータが得られない場合には,演繹的なアプローチと帰納的なアプローチを組み合わせていくことも必要になります.ここに新しい融合学問領域が出現します.このような新領域で本会は先導的な役割を果たすべきです.異なる分野の学会やグローバルな学会との連携を視野に入れ検討します.

  データによる価値創出においては,データの多寡が性能に影響を与えます.この議論をするとよくGAFA(Google,Apple,Facebook, Amazon)や中国によるデータ囲い込みの問題が話題になります.地政学上,産業的に対応が難しい場合も出てきていますが,アカデミックで中立な学会ならできるグローバル対応もあります.これまでにも本会は,ACM(Association for Computing Machinery)やCCF(China Computer Federation)などグローバルにプレゼンスのある学会との連携を進めています.複雑な国際情勢の中では,このようなアカデミックな連携を強化することの意味は非常に大きいと考えます.
 

人を活かすという観点から学会の今後を考える

  最近,将棋の藤井聡太さん,囲碁の仲邑菫さん,卓球の張本智和さん,フィギュアスケートの紀平梨花さんなど若くして才能を開花している人たちが数多く出てきています.情報処理の世界でもゲームやハッカーの領域で若くして天賦の才を発揮している人たちがたくさんいます.会誌「情報処理」を読んでいる小学生のジュニア会員もいます.天賦の能力を磨くのに早すぎるということはありません.西尾前会長はジュニア会員を中心に会員増に尽力されました.この活動を継続・拡大し,将来を担う世代に魅力あるサービスを提供することが学会のサスティナビリティを高めることそのものです.

  AI人材の不足が叫ばれていますが,ディープラーニングのオープンソース化が進み,情報処理の基礎的知識を有している人なら誰もがAIを使える環境になってきています.AIは敷居が高いものという印象を払拭し,AI活用人材の底上げに貢献することも学会の役割です.本会ではソフトウエアジャパン,各種セミナを通してのIT人材の育成やITエンジニア向けの認定技術者制度を推進しています.この範囲をさらに広げていくことを検討します.

  データの活用による価値創出において,情報処理技術に携わる人はドメイン知識を持つ他の領域の人たちと連携して活動することが不可欠です.このとき我々のカウンターパートの人は,情報処理の基礎を理解していることが望まれます.データ活用にあたっては社会科学的な視点も重要になります.他分野の方々との出会いの場を,学会として提供していくことで学会の価値を上げていきたいと思います.

  データを活用する価値創造では,市民を加えた産官学民連携が必要と言われています.データを使うことへの過度な心配は価値創造の阻害要因になりかねません.一般市民のAIやデータ利用への理解を高め,リテラシーを上げることが重要です.本会には情報処理について公平で最も見識が高いメンバが集まっています.本会が社会や市民へのアウトリーチ活動を行い,データ活用のメリットを丁寧に説明することが重要になっています.人生100年時代を迎え,リカレント教育の必要性も高まっています.私たちが接点を持つべきは老若男女を問わず,ありとあらゆる世代の人たちです.皆が集う場として,より多くの人に本会に興味を持っていただくことが本会の成長と新たな展開につながると考えています.
 

新しい時代に向け学会の基盤を強化する

  本会が新しいことにチャレンジし,より良いサービスを提供していくためにも,学会の運営基盤をさらに強固にしていくことが不可欠です.その基本は会員の増加を図り,財政基盤を確固たるものにすることです.本会の魅力を上げていくことが必要で,科学技術面での高いポテンシャルを維持するとともに,人材の育成や社会課題にも積極的に対応していくことが必要になります.カバーする話題のスペクトルを広げること,グローバル化を促進すること,会員のダイバーシティを高めることをあわせて考えることが必要です.

  科学技術面でのポテンシャルの高さは学会が最も大切にしてきた生命線です.情報処理に関する論文の発表先として本会が選ばれ,最先端の情報が常に本会にあるようにすることが重要です.大会や研究会の魅力をさらに上げるとともに,英文論文誌の質を向上し,グローバルな認知度を上げていきます.

  人材育成に関しては,初等中等教育を含めた情報教育,技術者の認定プログラムを提供しています.時代の流れに合わせてその内容を見直し拡大すること,リカレント教育を意識したプログラムをつくることを検討します.これらをより多くの機関や企業に活用いただくことで,結果として情報処理学会に目を向け,加入いただける個人が増えると考えています.

  データ活用やAI利用が進む中で,社会受容性や倫理的な問題が顕在化することも想定されます.このような場合に,技術的な見識が高い学会として提言や意見表明をタイムリーに行います.最近の会誌「情報処理」の特集は非常に多岐に渡り,しかも時宜を得た内容になっています.一般の方々の生活や仕事に関連するものも多くなっています.市民との接点を増やし,こういった情報を広く発信することで,情報処理技術がより広汎に世の中に浸透し,それが社会価値創造への貢献につながると期待しています.


  ディジタルトランスフォーメーションの進展とともに世の中が大きく変化しています.変化を先取りする形で新たな取り組みを進めれば,本会の提供する価値がより大きくなり,会員としての仲間も増えると確信しています.学会のさらなる発展に向け会員の皆様と一緒にチャレンジしていきたいと思いますので,ご支援,ご協力よろしくお願いいたします.

(2019年4月26日)


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