会長挨拶

会長挨拶

情報処理学会 創立記念日に寄せて

会員各位

2017年4月22日
会長  富田 達夫

情報処理学会は本日で創立57周年を迎えました。
学会がスタートした1960年は、東京オリンピックを4年後に控えた時期であり、コンピュータの世界では1951年初めての商用コンピュータ(真空管式コンピュータ)が世の中に出た後、第二世代のトランジスタの時代の頃であり、集積回路による第三世代コンピュータが生まれる前のことでした。それから57年の間にコンピュータは大きな進展を遂げてきましたが、その間、学会におきましても幾多の困難や苦労があったであろうことは推察に余りあるところです。多くの先人たちのご努力、ご活躍により、今日の素晴らしい時代が生まれたこと、そして学会が今日まで無事に活動を継続できたことを会員一同で感謝したいと思います。

今、時代はIoT、ビッグデータ、AIの発展、そこから生まれる多くのイノベーションやビジネスの変革が期待されています。すでに海外では、既存のビジネスモデルを壊すような破壊的なイノベーションが始まっています。車を持たないタクシー業社や、建物を持たない宿泊業社、倉庫を持たない物流業社が業界を圧巻し、ビジネスを大きく伸ばしています。日本でも以前に比べれば新たなベンチャーが増え始めており、ICTによるイノベーションを起こそうとする試みは少しずつではありますが芽を出し始めています。しかし、世界の潮流を見るとき、まだまだ変革へのアクセルが踏まれたという感じには程遠いのが実情です。産業界そのものの問題もありますし、それを許す国民感情や社会風土も背景にはあります。このまま座していては日本の競争力は間違いなく低下していくことになります。変革を目指す企業を増やし、若い将来性のあるベンチャーを育てる社会文化を醸成し、それを支えるアカデミア自身の変革が求められていると思います。
こうした時代にあって、情報処理学会が日本の牽引役として産業界を引っ張っていきたいという強い思いはありますが、実態はまだ残念ながらそうではありません。現実には正会員の減少、特に企業会員の減少が続いています。未来を見据えて投資する企業が減っているのか、未来を見据えた企業から学会が期待されていないのか、その答えはいろいろあろうかと思いますが、いずれにしても企業ではより多くのIT人材を必要としているのに、一方で学会の企業会員が減るという現実に直面しています。一昨年より最大の懸案事項として、多くの理事の方々に議論していただいており、さまざまな試みも進めてきましたが、なかなか数字に表れた効果にはつながってきておりません。今後も、粘り強く努力を続けていきたいと思っております。
小学生から大学の3年生までが無料で会員になれるジュニア会員制度をスタートしました。単なる会員増のためではなく、将来の日本の成長を担う人材育成を目指しています。情報処理学会のファンを増やし、育成していく取り組みが大切だと考えております。1人でも多くの方々に学会の活動や魅力をまずは知っていただくことが重要でありますので、まずは会員の方々のご子息ご息女、お孫さん、親戚、知り合いなどの入会をご検討ください。
いろいろと厳しい状況にあることをお話ししてまいりましたが、情報処理学会としての活動については この1年もいろいろなことに挑戦してまいりました。明るい話題も含めまして、そのいくつかの取り組みをご紹介します。
研究会活動、学会誌の発行、論文誌の発行など学会のコアな活動に加え、さまざまな新しい取り組みを始めています。
全国大会では若手研究者のトークイベントIPSJ-ONE、国際AIプログラミングコンテストSamurAI Coding、女性エンジニア活躍支援コミュニティ COPINE(コピーヌ)のセッション等多彩なイベントを行い、ニコニコ動画の来場者数は10.8万人となりました。
学会誌ではITあるあるマンガ「IT日和」の連載や学会公式LINEスタンプの販売等も行いました。2017年度も新しい企画が続々登場します。どうぞご期待ください。

最後になりますが、6月2日の総会をもちまして、2年間務めさせていただきました会長職を辞することになります。2年間、いろいろと至らぬ点もあったと思いますが、理事、事務局の皆様方の強い支えがあり、ここまで駆け抜けてまいりました。やり残したことは多々ありますが、6月以降、新たな会長の下で、情報処理学会が課題を乗り越え、発展していきますことを応援してまいります。ありがとうございました。

新年のご挨拶

会員各位
 
                                     2017年1月5日
                      情報処理学会会長 富田 達夫
 
 
新年あけましておめでとうございます。
 
昨年は、イギリスのEU離脱のBrexitに始まり、年末にはアメリカ合衆国の次期大統領にドナルド・トランプ氏の就任が衆目の予想に反して決定するという大きな出来事がありました。どちらも、自国の強化を唱えていますが、このような変化がイギリス、アメリカに限らず世界中で起きています。背景にはグローバル化の進展と格差の拡大があるといわれており、情報処理技術(IT)の進展がもたらした急速なグローバル化の波への恐怖とITを使いこなせる人と取り残され仕事を奪われる人との格差がこうしたポピュリズムを生むのだということを指摘する人も多くいます。本来は豊かで便利な社会を実現し人々に幸せをもたらすはずのITの進展が、一方では全く異なる影響を人々に与えてしまう可能性を持つということを思い知らされた一年でもありました。ITは世界中の人々を繋ぎ、物理的な国境を越えたコミュニケーションを可能とすることができるものです。しかし一方で人々の心に壁を、心の国境を生み出していることを意識しないわけにはいきません。またITの進展により情報の氾濫が起こり、必ずしも正しくない情報に振り回されるケースや、あるいは異なる世論を作り出してしまう怖い実例を見てきました。情報処理技術に携わる者として、こうした弊害を取り除き、信頼に耐えうる、そしてデジタルデバイドを作らない真のIT時代の到来に向け、私たちは技術を更なる高見に向けて磨いていく必要があります。 今年は世界の動きが大きく変化する激動の年になるものと予想されます。
 
ITの世界に目を移しますと、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能(AI)が社会の注目を集め、 これからの未来を大きく変えようとしています。産業界のあらゆる分野で大きな動きが始まっています。自動運転、AI医療診断、介護ロボット、ドローン配送、フィンテック、ブロックチェーン、自動倉庫、オンライン教育、農業工場、インフラ自動監視等々、実証実験レベルもあれば、新たなサービスビジネスの創出もあり、多くのベンチャーも誕生してきています。既存ビジネスの破壊を伴うイノベーションは確実に進行しています。2020年東京でのオリンピック・パラリンピック開催もこの動きを加速しており、2020年をターゲットとした新ビジネスは大きな広がりを見せると思います。この動き、大きなうねりを追い風として情報処理学会は、これらに必要な技術の健全な発展に向けて、会員皆様の力をお借りしながら、情報の発信を続けていきたいと考えております。
 
昨年の年頭に課題として挙げましたテーマは大きな課題でもありまして、取り組みは開始しておりますが、今後も継続した努力が必要なものばかりです。 企業に対して魅力ある学会を目指す取り組みとして、連続セミナーやデジタルプラクティス、ソフトウェアジャパン等々、いろいろな策を進めてきておりますが、企業所属の会員減ストップには至らず、まだ十分な効果を発揮するには至っておりません。なお一層の、地道な努力の継続が必要です。学会のグローバル化も中国CCF(China Computer Federation)、韓国KIISE(Korean Institute of Information Scientists and Engineers) との具体的な連携はこれからです。
 
いずれにしましても、情報処理学会はそれを構成する学会会員の皆様が、自身の技術を磨き、社会の課題に果敢に挑戦をしていくための支援をする場であります。学会という入れ物は皆様方の活動によってその価値が決められていくものであります。皆様方にとって活動のしやすい場作り、役に立つ仕組み作り等を目指しておりますので、皆様方の忌憚のないご意見ご要望や、ご提案がありましたら、president@ipsj.or.jp にお寄せいただければ幸いです。
 
本年もよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
 

会長メッセージ

2016年熊本地震と学会の目指すもの

—会長メッセージ—


2016年4月27日
一般社団法人 情報処理学会
会長 富田 達夫
 
このたびの熊本地震により被災された方々、その家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。
情報処理学会には熊本県に83名、大分県に65名の会員がおられます。皆様方の無事を心よりお祈りいたしますとともに、今後の一日も早い復興を願い、学会としてもそのための支援をしていきたいと思います。

2016年熊本地震に思う(数字は23日午後4時時点)


4月14日午後9時26分、マグニチュード6.5の地震が熊本地方を襲った。その後、ある程度の余震が続くことはだれもが想定できたが、28時間後の4月16日未明1時25分にマグニチュード7.3の地震があり、実はこれが本震で14日の地震がその前震であったということは、後になって判明した。連続して震度7を超える地震が発生することは残念ながら事前に予測はできなかった。1,500を超える家屋が全壊し、1,500近くの半壊家屋を含め、被害家屋は10,000を超えた。震災による死者も48名に達し、なお行方不明者も存在する。60,000人を超える方々が避難生活を余儀なくされ、車中で宿泊する人々も多く、そのため発生する静脈血栓塞栓症いわゆるエコノミークラス症候群を含めた地震関連死者は12名を数えた。
地球はまさに生き物であり、そのメカニズムについての研究は長い年月をかけて進められてきており、最近になって大きな発展を見せてきている。しかしそれでもその全容が判明できるまでにはまだまだ多くの時間を必要とする。残念ながら、人類はなお、長い時間、自然災害との戦いを続けていかないわけにはいかない。
東日本大震災から5年が経過し、その経験から情報処理によるレジリエンス社会の迅速な実現に向けた取り組みも進められてきたが、その復興はまだ途上にある。そして今回の熊本地震であり、その間にも巨大台風や土砂災害、火山噴火など自然による災害が続いた。突然起こる地震に比べ、予知の進んできている災害もあるが、災害の場所の特定や内容、規模の特定などの予測は現時点でもかなり難しい。一方で今回の熊本地震では、災害発生後の避難指示や、発生予測に基づく避難誘導など、過去の反省に基づく改善も多く見られた。避難場所での過不足はあるものの援助物資の準備やコンビニエンスストアの再開、物流等では以前よりは迅速な対応が多く見られた。レジリエンスな社会に向けた研究が進んだ結果、多くの改善が図られたことは事実であろう。今後の復興には多くの時間を要するし、長期的な視点で被災者を支援していくことが必要であり、改善すべきところについては速やかな対応が必要であることは言うまでもない。そして今回の震災を通して得られた知見や教訓、反省を今後新たに起こるであろう災害対応の改善に活かしていくことも重要である。日本では高齢化が加速している。人口が減少している中で弱者と呼ばれる人の割合が増えているということである。避難所での報道映像を見るにつけ、超高齢社会の到来は目に見えた形で進んでいると言わざるを得ない。レジリエンスな社会の実現の中で、弱者比率の増える状況をきちんと見据えていかなければならないことを痛感した次第である。

情報処理学会の目指すもの


東日本大震災の経験から、情報処理によるレジリエンス社会の迅速な実現に向けた取り組みも進められてきた。今回の震災ではSNSによる支援の輪の形成がいち早くとられたことも報じられている。復興に向けた活動の中で情報処理は大きな役割を担っていかなければならないし、これまで以上に使い勝手の良いシステムを目指していかなければならない。現場検証を通して得られた課題を迅速に解決して次に備えていくことが肝心である。
今、IoT、AIの研究が脚光を浴びる中、課題である災害の予知に向けて、さまざまなセンサの活用、ビッグデータの研究、AIの研究を通して取り組むべき研究は多く存在している。遠回りと思えることでも研究を積み重ねていくことがやがて大きな課題解決へつながることを信じて各自の研究を深く進めていっていただきたい。地球規模の災害解決に向けては、情報処理の研究だけでは解決できないものも多く、他の学問分野の研究と協同することで見えてくるものもあるはずである。分野横断的な研究についても一歩踏み込むことが重要である。
情報処理学会では、今後の研究会活動の中で、長期的に取り組むべき課題を議論いただくとともに、今、すぐに現場の復興に役に立つ直近の対応策についても議論していただき、今後の研究活動や、各種イベント活動を通じて具体化していくことを進めていきたいと思う。被災された会員の方々への支援についても考えられる措置を検討したい。
情報処理学会は、ICTを通じて安全で安心できる社会の実現、快適で信頼できるシステムの提供を目指している。また、IoTやAIにより新たなビジネスの創成と豊かな超スマート社会の実現も目指している。高年齢化する日本の現状や、災害の多い地域性を考慮した真の意味での安心、安全な社会作りに貢献できるより良い情報環境の創成に向けて、情報処理学会員一同、力を合わせて取り組んでいきたい。


 

情報処理学会 創立記念日に寄せて

会員各位

2016年4月22日
会長  富田 達夫


この度の熊本・大分を震源とする地震で、被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申しあげます。一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

さて、学会は今年で創立56周年を迎えました。
56年という半世紀を超える長い年月の間には、幾多の困難や苦労があったであろうことは推察に余りあるところですが、多くの先人たちのご努力により、今日が迎えられましたことを会員一同で感謝したいと思います。

今、時代はIoT、AIへの期待で膨らんでいます。 多くのイノベーションがそこから生まれてくることを、国も、企業も期待しています。多くのビジネスチャンスがあり、国際的な産業競争力の強化が期待されてもいます。産業構造の大きな変革の到来を予測する人もいます。一方で、システム障害による飛行機の運航停止や、さまざまなサービスの停止、さらにはサイバー攻撃によるシステムへの影響や情報の漏えいも頻繁に報道されております。 社会への強い影響力をICTが持っており、素晴らしい未来への期待があるとともに、一方では安全・安心面での不安が共存しているということではないでしょうか。
これからの時代を生き抜くために、企業はより多くのIT人材を必要としていますが、人材の不足は明らかであり、長期的な視点に立ったIT人材育成は教育界の大きな課題といえるでしょう。
情報処理学会では正会員の減少が続き、ジュニア会員を増やすことで歯止めをかけてきましたが、現実には企業会員の減少は続いています。企業ではより多くのIT人材を必要としているのに、一方で企業会員が減るという現実に直面しています。学会が企業から期待されなくなりつつあるという事実を直視しないと、この現象に歯止めをかけることは難しいのではないかという気がしています。今、この課題が学会の最大の懸案事項であり、多くの理事の方々に議論していただいておりますが、企業の期待にも応え得る学会を目指すための施策をぜひ皆さんで考えていただきたいと強く思う次第です。ジュニア会員制度も、単なる会員増のためではなく、長期的なIT人材育成の観点からの取り組みとして今後も力を入れていきたいと考えております。

情報処理学会としての活動については この1年もいろいろなことに挑戦してまいりました。そのいくつかの取り組みをご紹介します。
学会のコアの活動である研究会、学会誌の発行、論文誌の発行はいずれも好調に推移しています。 2015年度においては、39の研究会が161回の研究発表会と24回のシンポジウムを開催しました。学会誌は月刊で12冊の学会誌を発行。 論文誌は454編の論文を採録しました。アクセシビリティ(AAC)研究会の新設、 女性編集者が会誌記事を執筆する「女子部が行く」の企画、新論文査読システムへの移行など新しい取り組みも行いました。
正会員が減少する中、 小学生から大学の3年生までが無料で入会できるジュニア会員制度を始めました。プログラミングが大好きな子供や中高生を育て、日本の将来の成長を担う人材になってもらいたいと思います。 一方で在会5年以上の方に、シニア会員の称号と楯を差し上げています。末永く学会でのご活躍とご支援をお願いいたします。
長期戦略理事を中心にグローバルな連携も強化しています。 IEEE、ACMは言うに及ばず、中国CCF(China Computer Federation)や韓国KIISE(KoreanInstitute of Information Scientists and Engineers)との連携も進めています。 近い将来CJK(China Japan Korea)の連携イベントを何か始めたいと思っています。
女性の活躍も広がっています。6月の総会で役員29名のうち女性役員は7名になります。女性の活躍を支援するInfo-WorkPlace委員会も立ち上げました。女性のネットワーク構築や女性会員を呼び込むためのイベントを開催します。
学生や若者向けのイベントは新世代理事を中心に取り組んでいます。最先端の若手研究者による弾丸トークイベントIPSJ-ONEやイベントのニコニコ生放送は昨年度も継続しました。新規のものとしてニコニコ静画での学会コンテンツ(論文や会誌記事)の販売や勉強会の開催や連携を支援する勉強会フォーラムの設立等を行いました。 勉強会のWeb開設、オンラインチャット、資料の共有とアーカイブなど勉強会に役立つ情報インフラを提供します。
一方で企業に所属するITプロフェッショナル向けのサービスの充実も行っています。連続セミナー、ソフトウエアジャパンの開催、論文誌デジタルプラクティスの発行は従来通りです。高度IT人材資格の認定情報技術者制度(CITP:Certified IT Professional)も年々広がりつつあります。 2016年度には認定者3,000人を目指しています。企業会員を中心にした新しいコミュニティが構築されることでしょう。


情報処理学会は変わります。そして変わり続けます。あなたもぜひ一緒に活動しませんか?

今年度の取り組みにご期待ください

「Move Forward」


 

新年のご挨拶

会員各位
 
                                     2016年1月5日
                      情報処理学会会長 富田 達夫
 
 
新年あけましておめでとうございます。
 
会長に就任して半年、理事の方々、事務局の方々の絶大なるご協力のおかげで何とか駆け抜けてまいりました。これから更に馬力をかけて様々な課題に取り組んでまいります。
 
ご存じの通り、昨年末に第5期科学技術基本計画の答申が決定されました。この中で我が国の目指すべき社会を「超スマート社会」と定義し、ICTの進展を積極的に取りこみ、システム化・サービス化を加速することにより商品・サービスの価値と新たなビジネスモデルの創出を目指しております。併せて、第4期の柱であった経済・社会的課題への対応を深化させていこうとしております。この「超スマート社会」の実現や経済・社会的課題への対応のためには情報処理技術の活用が不可欠です。期せずして、3月に予定している第78回全国大会のタイトルがまさに「超スマート社会への扉」ということであり、情報処理学会が、わが国の目指す未来社会を支える技術の推進役の一端を担うことができることを希望してやみません。
 
喜連川前会長の主導のもとに減少の続いた会員数を増加に転じたのはご存じのとおりです。しかし、その実情はジュニア会員増によって支えられています。もちろん、将来の学生会員・正会員候補であるジュニア会員の増は喜ぶべきことであり、今後学会Webコンテンツの充実により更に加速したいとも思っておりますが、一方で企業所属の会員の減少はなお続いております。企業にとって、あるいは企業に属する会員にとって、魅力ある学会とはどうあるべきかを根本に立ち返って考えてみたいと思っております。重い課題であるとは思いますが、今年は真正面からこの問題を取り上げて検討していきたいと思っております。この課題解決抜きには長期的な会員の減少は止まらないと考えています。
 
学会のグローバル化ももうひとつの課題です。とりあえずアジアでの他学会との連携からということで、すでに韓国のKIISE(*1)や、中国のCCF(*2)との連携が始まっています。コンファレンス等への理事等の相互参加が始まったところですが、一歩踏み込んだ連携について今後検討していきたいと思っております。
 
今、産業界でも大学でも、産学連携への取り組みに対して新たな見直しが始まっています。大学発のベンチャーも少しずつですが増えてきています。情報処理に関わる、あるいは情報処理を武器とした新たな産業がどんどん芽生えています。情報処理学会がこうした産学連携の接着剤、推進役としての役割を担えたら嬉しいと考えています。
 
学会の価値を支えるのは学会の議論を通してどれだけ価値のある研究を生み出していけるかということにあるのは間違いありません。そのためにどんな取り組みやどんな仕組みが必要か、考えていきたいと思っております。いずれにしましても、明るい開かれた学会にしていきたいという思いでおりますので、会長の意見のみにこだわらず、魅力的な学会にしていくための提案、ご意見を president@ipsj.or.jp にお寄せいただければ幸いです。
 
本年もよろしくご支援の程お願い申し上げます。
 
*1: KIISE: Korean Institute of Information Scientists and Engineers
*2: CCF: China Computer Federation
 

会長就任にあたって

情報処理技術が牽引する明るい未来

—会長就任にあたって—


富田 達夫
情報処理学会会長/(株)富士通研究所

 

(「情報処理」Vol.56, No.7, pp.622-623(2015)より) 

 今,社会は大きな変革点を迎えていて,産業界も,研究・教育機関も,自らの変革を強く求められております.本会も,喜連川前会長の強いリーダシップのもと,学会価値の向上や社会の役に立つ学会を目指して中長期の施策を手掛けるとともに,短期的にもあらゆる手段で会員増を目指し,変革を推進されてこられました.このたび,喜連川前会長の後を継いで,第28代の会長に就任することになりましたが,これまでの変革への足取りをとどまらせることなく進めていくことが私の責任と認識しております.
 

取り巻く環境

 情報処理技術の急激な普及に伴い,誰もがインターネットを通じて世界中の情報に瞬時に接することができるようになりました.世界の距離は縮まり,世界中で起きるさまざまな社会問題が,遠い世界にも影響を与え,単なる「他所の問題」では済ませられなくなってきています.常にグローバルな視点で,価値観の異なる多種多様な人々がいることを前提に,問題に取り組むことが求められてきています.地球環境も,私たちが進めた文明の急激な発展の影響も含めて,変化の速度を上げています.時には大きな災害を引き起こして私たちの暮らしを襲ってきています.
 
 情報処理技術の進展により,個人は手にスマートフォンを持ち,多くの人と繋がりを持ちながら,新しい情報をいち早く手にすることもできるようになりましたが,一方で,人から「ものを考える時間」を奪っているのではないかという見方もされています.スマホ中毒の人々を生み出し,過多の情報,風評被害,あるいはソーシャルメディアやブログの炎上といった社会現象を生み出してきているのも事実です.

  産業界は情報処理技術を用いて効率化を進めコストダウンにより競争力を得てきましたが,グローバル化する競争環境の中で,情報処理技術による新たな価値創造により自らのビジネスを変革しなければならないと感じてきています.
 
 研究機関,教育,大学の在り方が,社会とのかかわりの中で問われ,これまでの延長線上での研究活動や教育ではもはや立ち行かない状況になりつつあります.自らの強い意思で変革していくことが求められてきています.

  このように私たちを取り巻く環境は待ったなしに各自の変革を要請しています.情報処理技術が自身の進展がもたらした課題も含め,さらにその技術を高めて,解決への大きな役割を担っていく必要があると考えます.
 

情報処理技術への期待

 インターネットにより世界が繋がり,クラウドによってコンピュータパワーが簡単に手に入るようになりました.映像技術や通信技術の進展により動画が簡単に流通できるようになり,今後はIoT (Internet of Things) と呼ばれる技術の進展により,環境や社会,個人やものの情報が簡単に入手できるようになっていくでしょう.まさしくビッグデータ時代の到来です.この大量データを分析し,価値を生み出し,実社会に還元していくことにより素晴らしい未来が開けるはずです.農業や漁業,林業に情報処理技術が取り込まれ,第一次産業が第六次産業として生まれ変わっていくことができるかもしれません.これにより地方創生が実現し,少子化問題にも歯止めがかけられるかもしれません.これらは単なる夢物語ではなく,実現可能な未来予測です.しかし,そのためには情報処理技術が今のままでは実現できません.アカデミアによる基礎研究の深堀り,システムアーキテクトによる構想展開,異分野,特に社会科学系を交えた知見との融合,そして国や産業界による大規模システムの実証が不可欠です.予想されるセキュリティの問題や,モラルの問題の解決,価値観の異なる人々との間でのコンセンサスの形成といった難問も避けて通るわけにはいきません.
 
 今,日本では成長戦略が強く叫ばれ,産業界もこぞってイノベーションの実現を目指しています.そのためには情報処理技術の役割は重要です.そして真の成長戦略のためには,人口減少への歯止めや,エイジング社会への対応,安全な社会インフラの形成といった社会問題の解決もまた不可欠であり,そこにも情報処理技術のなすべきことがあります.そして日本の問題だけにとどまらず,課題先進国としての日本の取り組みがグローバルな展開を図ることで,世界の人々の役に立つことを目指していくべきでしょう.
 

取り組むべき課題

 以上の視点を踏まえ,本会として取り組むべき事項は,魅力のある学会を目指して中長期的視野で学会のさらなる活性化を実現していくことです.2015年度事業計画でも述べている通り,これまで,推進してきた学会の抜本的改革を継続し,中長期戦略の策定,若手アイディアの実現と小中高生にまで範囲を広げた会員制度の拡充,研究会による諸活動の推進と社会への提言・情報発信,グローバル化,会員サービスの拡充を実現してまいります.論文誌のインパクトファクター(IF)取得と採録論文数の増加を推進し,学会の価値を高めていくことが時間のかかることかもしれませんが基本であると考えます.短期的な止血には限界があり,長期的視野で魅力のある学会を作っていくことが実は何よりも近道です.このことを私自身は企業経営を通じて経験してきました.また,学会が長期的に強くなっていくために,基礎体力としての「収支改善」にもしっかり取り組みます.

 学生の情報離れが危惧されています.ICT(Information and Communications Technology)はあらゆる分野に広がる可能性を持った魅力ある学問であることを強くアピールし,学生の情報離れを阻止していきたい.最近では,情報処理を単なるツールと見なして,新たな研究分野が少なくなったように見る意見もありますが,まだ解決すべき課題も多く,研究分野としても未知の領域は限りなく存在しています.むしろ今だからこそ,情報処理分野が再度,脚光を浴びる時期にきているとも言えるでしょう.真の意味で,人の役に立つために情報処理技術がなさなければならないことは山積みです.まさしく学問としても,技術としても,テーマの宝庫です. 

 すでに,述べてきたとおり,情報処理技術は情報処理業界だけのものではなく,それを活用して変革を目指す他業界の人を含めた大きな取り組みに広げていってこそ,真に社会や人の役に立つ価値あるものになっていくと考えます.本会といたしましても,他学会とのコミュニケーションが重要で不可欠であり,このことを意識して取り組んでいきます.自由闊達な議論が,分野を越えて,アカデミア,産業界の枠を超えて,世代を超えて,さらに国境を越えて,当たり前のこととしてできるように,そして本会がそうした場を提供し,その中心になって活動していけるような存在になることを目指してまいります.会員の皆様のご支援,ご協力をよろしくお願い申し上げます.

(2015年4月15日)


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