2025年07月31日版:大場 みち子(長期戦略担当理事)

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    「多様性を力に変える:10年後を見据えて

    大場 みち子(長期戦略担当理事)

     2022年度から情報処理学会の長期戦略理事を務めてきました。今年度がその最後の年となります。社会や技術の変化がますます加速する中で、「学会の10年後をどう描くか」という問いと向き合いながら過ごしたこの任期は、私自身にとっても大きな学びと挑戦の連続でした。

     この間、私が一貫して大切にしてきたのが「多様性(ダイバーシティ)」の視点です。さまざまな立場や背景を持つ人たちが出会い、学び合い、協働することでこそ、学会は豊かに、そして強くなっていく──そう信じて活動してきました。

     2023年には、学会の制度改革の一つである「女性理事枠」導入から10年を機に、ジェンダー・ダイバーシティの取り組みを振り返る記事⭐︎1を執筆しました。制度によって理事会の構成が変化し、学会の風通しをよくするきっかけになったと思っています。

     しかし、制度だけではまだ足りません。現場での声を直接聞くこと、悩みや違和感に耳を傾けることも、同じくらい大切です。そこで、2023年から始めたのが、Info-WorkPlace 委員会⭐︎2主催の全国大会やFITでのダイバーシティイベント「わたし研究者・技術者やっていけるの? ランチタイム情処ラジオ」です。私はこのイベントでパーソナリティを務め、多様なゲストとともに、キャリアや生活、研究との両立にまつわる本音トークをお届けしてきました。楽しいミッションでしたが、次回のFITでは若手にバトンタッチしたいと考えています。

     私は本業の研究テーマとしてラーニング・アナリティクスに取り組んでいます。学習ログの分析を通して、個々の学びのプロセスを見える化し、誰もが自分らしく成長できる学習環境を支える技術の開発にかかわってきました。また、情報教育の現場でも、高校生や大学生一人ひとりが「わかる」「できる」実感を得られるような支援を日々模索しています。

     このような研究と実践を通じて実感しているのは、「多様な学び手がそれぞれのスタイルで挑戦できる環境」を整えることの難しさと格差の是正の大切さです。

     ダイバーシティとは、「誰でもウェルカムですよ」ということではなく、「本当にその人が自分の力を発揮できる条件や仕組みがあるかどうか」を問い続けることだと思います。性別、年齢、雇用形態、障がい、地域、国籍、そして“学び方”の違い……。多様な人が安心して参加できる学会をどうデザインしていくか。そこには、情報技術を活用した柔軟で可視性の高い支援や、教育データに基づく意思決定も欠かせません。こうした視点を学会運営にも組み込んでいくことが、これからますます重要になっていくと考えています。

     長期戦略理事として、この問いを持ち続けてきましたが、これからもこの視点は私の中で変わりません。理事としての役割は今年度で終わりますが、一会員として、そして一研究者・教育者として、情報処理学会が多様な人々の「居場所」となり、「出番」を生む場であり続けるよう、かかわっていきたいと思っています。

     
    ⭐︎1 大場みち子:情報処理学会のジェンダー・ダイバーシティへの取り組み ─女性理事枠の導入から10年─、情報処理、Vol.65、No.11、pp.e1-e7 (2024)。https://doi.org/10.20729/00239910
    ⭐︎2 2025年度よりダイバーシティ委員会。
     
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