「全国大会とFIT」
木村 朝子(事業担当理事)
昨年度より、全国大会、FIT、プログラミング・シンポジウムの3つを主管する事業担当理事を務めています。特に全国大会とFITは学会の基幹イベントであり、多様な研究者が集まる場として重要な役割を担っています。
2025年3月には、私の所属する立命館大学大阪いばらきキャンパス(OIC)で全国大会を開催しました。研究発表、教育企画、若手支援企画など幅広いプログラムが展開される中、毎年人気の高い「IPSJ-ONE」では、各研究会推薦の若手研究者が短時間で研究内容を紹介し、中高生から専門家まで多様な層が集まりました。今年はYouTuberのヨビノリたくみ氏も登壇し、1,000人規模の会場がほぼ満席になるほど多くの参加者が集まりました。研究の魅力を社会へ開いていくアプローチの一つとして、より広い層に届く企画であることを改めて実感しました。
並行して実施された「中高生情報学研究コンテスト」では、全国のブロック大会を勝ち抜いた中高生が自身の研究成果をポスター形式で発表しました。大学教員も多く聴講し、研究内容の緻密さや問題設定の幅広さに注目が集まっていました。情報学に取り組む中高生の活動の広がりを実感し、今後どのように成長していくのか楽しみになる内容でした。
また、全国大会では特別講演も実施されました。「万有知能化(Ubiquitous Intelligence)」をテーマに、モビリティ・都市空間・宇宙という3つの領域から、実世界でのAI活用を牽引する研究者が登壇し、それぞれの現場で進む知能化の状況が紹介されました。各領域を牽引するトップ研究者の方々が、実世界でAIを活用する際の課題や、これまでの取り組みで直面した具体的な苦労話を語ってくださり、研究・実践の裏側を知ることができる貴重な機会でした。異なる3つの分野の第一線で活躍されている方々の視点を一度に聞ける場は貴重で、とても密度の高いセッションでした。
さて、9月に開催された FIT2025は北海道科学大学で実施されました。北海道開催ということもあり、ハイブリッド形式ながら現地参加者が比較的多い回となりました。
FITでは、まず五十嵐健夫先生による船井業績賞記念講演が行われました。最初に先生の初期研究である “teddy” がデモを交えて紹介され、手書きスケッチから3Dモデルを生成するこのシステムが20年以上経った今もスムーズに動作する様子に、「まだ動くんだ!」という驚きの声が会場のあちこちから上がりました。その後に紹介された複数の研究事例でも実演が多く、創造的活動をインタラクションで支援するための多様なアプローチを直接見ることができました。
続いて、FITの特別講演セッションでは、山下直美先生のご講演に加え、山下直美先生と五十嵐健夫先生が、日本で国際会議のジェネラルチェアを務めた経験を共有してくださいました。準備体制の構築や国際委員との調整、会期中の意思決定の難しさに加えて、日本開催ならではの期待やメリット、実務上の負担となった点、そして会場でしか聞けない裏話も紹介されました。国際会議がどのように動いているのかが具体的に伝わる内容で、非常に学びの多いセッションでした。
2019年から継続しているトップコンファレンスセッションも開催されました。近年の国際会議・学術誌に採録された研究成果を著者自身が紹介する企画で、分野横断的に最新動向を把握できる場として定着しています。研究コミュニティ内の知識循環を可視化する取り組みであると同時に、コミュニティ外の研究動向を俯瞰できる場としても良い機会となっています。
全国大会とFITの双方に携わる中で、オンラインと対面を組み合わせた現在の開催形式は、中学・高校の先生方や生徒たち、また当日どうしても現地に行けない参加者の参加しやすさを向上させ、この分野を知ってもらう機会を広げているという実感があります。一方で、研究者同士、とくに他分野や他コミュニティの参加者間での交流のつくり方には、まだ工夫できる余地もありそうです。利便性と密な交流の両立に向けて、今後も改善を続けていく必要があると思います。
2026年も、多くの皆さまにご参加いただき、新たな議論や連携が生まれることを期待しています。