2026年10月01日版:河合 由起子(論文誌担当理事)

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    「Connecting the dots ─投資としての学会活動─」

    河合 由起子(論文誌担当理事)

     今夏、ブラウザの母こと瀧田佐登子氏にベイエリアをご案内いただける機会に恵まれた。かつてのNetscapeオフィスビルでのGoogleとの交渉やオープンソース化の瞬間の述懐を伺えたのは、Webマイニングの研究者として、Webのルーツに立ち会えたかのような特別な時間となった。私が10年ほど前に訪れたときと様変わりしていたのは、広大なGoogleplex(いわゆる“Google村”)や、周辺を走るカラフルなGoogle自転車、ハイウェイの車線変更や一般道のAll-way stop(全方向一時停止)で行儀よく進入してくる無人の自動運転車「Waymo」の多さであった。一方で、企業や大学などでのオープンなMeetingは変わらず繰り広げられていた。

     この時期は新学期スタート直前ということもあり、スタンフォード大学の構内の至るところで、熱意あふれる学生たちがこの夏の成果を熱心に発表していた。かつて、ジョブズがスタンフォード大学卒業式で若者に伝えた「connecting the dots」が思い出された。「未来に向かって点をつなぐことはできない、できるのは、過去を振り返ったときに点と点がつながっていたと気づくことだけだ」である。学問や技術の進歩において、研究者が持つ知見、データ、あるいは失敗の経験こそが未来を変える無数の点であるが、散らばったままではイノベーションは起き得ない。ジョブズがカリグラフィ(西洋書道)の文字の美しさやデザインの歴史に関する純粋な芸術の知見をコンピュータ工学につなげたことや、ラリー・ペイジ(コンピュータ工学)とセルゲイ・ブリン(数学、計算機科学)がつながったことで検索エンジンのイノベーションは起きた。あるいは、脳神経科学が明かした視覚の仕組みを福島邦彦氏が「ネオコグニトロン」という数理モデルに翻訳し、それが時を経てジェフリー・ヒントンらのアルゴリズムやコンピュータ工学の圧倒的な計算パワーと結びついたことで、現在のディープラーニングにおける劇的なパラダイムシフトが起きた。

     自分が打った点(研究)が、他者の視点や異なる分野の点と合わさることで、予想もしなかった新しい線(イノベーション)へと進化する。シニア研究者が過去に打った点を若手研究者が受け取り、新しい線が描かれる。こうした学生や若手・シニア研究者が新たな「点」を打ち、そしてそれらの貴重な点を「つなげる」機会が必要であり、本会はそのプラットフォームとして役割を果たしていく必要がある。未来の「線」は、一見無駄に見える点への投資からしか生まれない。ジョブズがカリグラフィを受講したように、当時は「何の役に立つか分からない点」こそが、10年後に他社との圧倒的な差別化を生んだ。また、少ない点や偏った点で「役に立ちそうな線」だけを狙わせると、既存研究の延長線上の改善にとどまり、長期的な研究開発の活力や独創性が失われてしまう。学会は、大学や企業の組織の閉塞感を打破し、新しい研究の芽を育成し、イノベーションの創出を促すことができる場所になり得ると考えている。本会に登録されている2万人ほどの学生や研究者が、論文誌や研究会など外の世界で新たな「点」を打っており、それらが交差する瞬間に次のブレークスルーは存在する。そうした多様な点をつなぎ合わせられる本会プラットフォームでの活動のチャンスが、大学や企業などの組織から研究者個人に与えられてこそ、研究者や学会だけでなく組織にとっても、中長期的に最もリターンの大きい投資につながるのではないだろうか。

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