2026年08月27日版:河合 和哉(標準化担当理事)
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2026年08月27日版
「JTC 1の活動から見える日本の現在地」
河合 和哉(標準化担当理事)
通算4期まで務めることができる標準化担当理事ですが、私も3期目の後半に入り、これまでの活動を振り返る中で、最近気になっている点を紹介したいと思います。
情報処理学会は、日本産業標準調査会(JISC)から、情報技術(IT)分野の国際標準化を担当するISO/IEC JTC 1の国内審議団体を受託しています。標準化担当理事は、規格部門である情報規格調査会の委員長として国内審議を統括するとともに、JTC 1に対する日本代表として国際対応にも携わっています。
標準化から見える日本の技術戦略
さて、企業の事業戦略においては、ルール形成の重要性が指摘されるところですが、標準化はルールを形成する方法の一つです。情報処理学会としてJTC 1の活動に参加する中で、標準化の動向から日本の産業競争力や技術戦略の変化の一端が見えてくることに気付きました。本稿では、その一例としてJTC 1の幹事国の推移を取り上げたいと思います。JTC 1の活動に参加していると、日本の標準化活動の現状には一つ気になる点があります。それは、現在でも多くのSCの幹事国を務める一方で、この四半世紀に新設された分野では幹事国となっていないことです。
幹事国に表れる各国の戦略
ISO、IECでは規格の開発は、専門委員会(technical committee/TC)およびその傘下の分科委員会(subcommittee/SC)で行われますが、各委員会(committee)は幹事国が継続的な運営責任を担います。幹事国はほとんどの場合、委員会の提案国が担いますので、分科委員会の設立提案には相応の人的・資金的コミットメントが必要です。そのため幹事国の分布は、各国がどの分野に戦略的に注力してきたかを示す一つの指標と見ることができます。
日本は成熟分野で強みを維持
この観点でJTC 1の幹事国を見てみました。「情報処理学会50年のあゆみ」によると、1987年にJTC 1が設置された時点で「JTC 1にある17のSCのうち,わが国は現在五つのSCの幹事国を担当しており,アメリカと並んで参加国中で最多である.」とありました。日米の2カ国でJTC 1の6割近くのSCの幹事国を占めており、JTC 1が担当する情報技術(information technology)分野での存在感の大きさが感じられます。JTC 1の設立時点では、SC 1からSC 24までで17のSCがありました(JTC 1の基になったISO TC 97ですでに統廃合により欠番があったようです)が、現在はSC 2からSC 44までの24のSCで活動しています(ちなみに、JTC 1の幹事国は米国です)。
一方で、新規分野での存在感は課題
以下が現在の分科委員会とその設立年と幹事国を一覧にしたものです。現在の幹事国数を見てみると、米(7)、日(5)、英(3)、韓(3)、独(2)、仏(1)、印(1)、豪(1)、中(1)となっています。JTC 1設立時点で17あったSCですが、現在は統廃合により7つに減少しています。これに対して2000年以降には8つのSCが設立されています。興味深いのは、1980年代から90年代に設立されたSCでは幹事国として担当するSCの数について、日米に大きな差は見られないことです。しかし2000年以降に設立されたSCを見ると状況は大きく異なります。2000年以降に設立された8つのSCのうち、米国は9.11を契機としたSC 37(バイオメトリクス)、その後はSC 38(クラウド)、SC 39(データセンター)、SC 42(AI)と正に現在のAI時代に重要な役割を果たしている3つのSCと、合わせて4つで幹事国となっています。米国は産業界が注力する分野の推移に合わせて、注力する標準化の分野も推移させているようです。これに対して、残念ながら、日本は2000年以降に設立したSCでは幹事国となっていません。これはこの四半世紀、日本から新しい標準化分野の提案ができていなかったことを示していますが、情報技術分野の進展によって今後新たな標準化ニーズが生まれると考えられることから、日本が再び新分野の提案国となる機会は十分に残されていると思います。

日本型標準加速化モデルへの期待
日本としては、経済産業省が2023年に「日本型標準加速化モデル」を公表して、市場創出のために経営戦略と一体的に展開する「戦略的活動」の重要性と3つの主要課題・対応施策を提示し、これに続いて2025年には「新たな基準認証政策の展開─日本型標準加速化モデル2025─」を公表しました。また、民間でも(一社)日本経済団体連合会が、2024年に「グローバルな市場創出に向けた国際標準戦略のあり方に関する提言」を公表しています。情報規格調査会としても、産業界における標準化戦略の議論と歩調を合わせながら、新たな技術領域における国際標準化の推進や、必要に応じた新規分野の提案にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
情報処理学会に期待される役割
学術研究と産業界、そして国際標準化を結び付けることができるのは、情報処理学会の強みの一つと考えます。新たな技術領域が次々と生まれる現在、研究成果を社会実装につなげるツールとして、標準化の重要性はますます高まっています。日本の産業界が世界で存在感を発揮し続けるためには、新しい技術領域を自ら提案し、ルール形成を主導する挑戦を続けなければなりません。学術界と産業界の双方を結び付けることのできる情報処理学会は、新たな技術領域を国際標準化へとつなぐための重要な基盤となり得ます。情報規格調査会としても、研究成果を産業界の発展につながる国際的なルール形成へと結び付ける活動をさらに進めていきたいと考えています。
