2017年05月01日版

「勉強会フォーラムと研究マッチング 〜学会の役割変化〜」

河口 信夫(新世代担当理事)

 情報処理学会には、新世代企画委員会という「新しい発想で企画を生み出す」委員会があることをご存知でしょうか? 委員会の設置の経緯については、後藤前委員長のメッセージ(https://www.ipsj.or.jp/annai/aboutipsj/goto_masataka.html)に詳しく述べられていますが、このような委員会が必要になったのは、情報技術の進展によって学会を取り巻く環境が大きく変化し、学会の役割が変化しつつあるという背景があると思っています。

 さて、委員となってほぼ2年、ほぼ毎月開催される委員会を通じていろいろなことを議論してきました。特に「学会の価値を高める」新たな施策とは何かについて議論を深める中で、「学会の価値」の再発見を目指し、学会の存在意義や価値を改めて見直しました。その結果生まれたのが「勉強会フォーラム」と「研究マッチング」です。以下ではこれらを紹介します。

 最初に一つの価値として挙がったのは「記録と権威づけ」です。学会には、全国大会や研究会といった講演発表の場や論文誌、学会誌といった情報発信の場があります。これらの場は「新しい発見・知見を発表する」場であり、学会を通じた発表・発信により記録され、権威づけがなされます。学術の世界では、新しい技術や知識を発見・構築する能力が主に評価されるので、学会としてはこのような体制が生まれてきたわけです。

 一方、社会としては、既存の技術や知識を上手に紹介する能力も評価されるべきです。適切に論文紹介や技術紹介がなされれば、研究分野の裾野が広がります。しかし、この「既知の技術・知識やノウハウを紹介・共有する」活動において、学会の「記録と権威づけ」という価値が十分に整備されているとはいえません。進歩が著しいITの世界では「勉強会」と呼ばれる集まりが多数存在します。学術の世界でも「論文読み会」や「国際会議報告会」といったイベントが存在しますが、さまざまな場所に情報が分散しており、イベントが下火になったり、主催者が変わったりするだけで、貴重な情報が失われています。大学の研究室や地域、分野別で行われている勉強会にはレベルの高いものも存在し、貴重な紹介資料が作成されていたりするのですが、これらも十分に共有されているとはいえません。

 この課題を解決するために設立したのが「情報処理学会 勉強会フォーラム(http://study.ipsj.or.jp)」です。フォーラムといっても、基本的には情報共有のためのWebサービスと理解してもらってよいと思います。ユーザ登録をするだけで、学会メンバでなくとも公開されている勉強会を閲覧できますし、学会メンバであれば、すべての勉強会を閲覧できる権限が得られます。勉強会フォーラムでは、高機能なWebプラットフォームであるDrupalを用いて以下の機能を実現しています。
  • 誰でもメールアドレスでユーザ登録可能
  • ユーザは申請によって新しい勉強会を主宰できる
  • 勉強会主宰者は簡単にメンバを追加できる
  • 特定の勉強会メンバは、その勉強会にコンテンツが追加できる
  • 勉強会には、イベントが登録でき、そのイベントに論文紹介が登録できる
  • メンバは、特定の人だけが公開できる勉強会やイベントを公開したり、誰でも閲覧できる公開の勉強会やイベントが作成できる
 まだ実現できてはいないのですが、個人ごとに紹介した論文やその評価を集計できれば、多数の秀逸な論文・技術紹介を登録している人を高く評価する、といったことも可能になると考えています。ぜひご活用いただければ、と思います。

 もう一つ注目した学会の価値が「研究者コミュニティ」です。情報処理学会には40の研究会が存在し、それぞれ多数の研究者が所属して活発な活動を行っており、継続的な議論を通じ、研究者間で互いの研究分野の理解が進んでいます。一方、研究会報や論文誌には最新の研究成果が公開されますが、こうした公開情報だけから、学会外の企業や異なる研究分野の研究者が専門的知識を得ることは往々にして困難です。研究分野が細分化・高度化しているため、今現在注目を浴びている、あるいは業務の必要上活用が期待される最先端の分野・内容と、各研究者が基盤としている分野に乖離がある場合が少なくないためです。

 一方、近年では情報処理への期待が高まっており、特定の研究課題に対して、適切な研究者を見つけることが社会の要請として高まっています。その結果、多くの研究成果を有する著名な研究者には多数の企業からの研究依頼が集まり、若くて優秀な研究者にもかかわらず、知られていないために研究依頼が集まらない、といったことが起こっています。

 「研究マッチング」は、学会の持つ研究者コミュニティを活用し、このギャップを埋めるために作った枠組みです。企業から希望する共同研究テーマを募集し、シニアな研究者(コーディネータ)によるヒアリングを通して、適切な研究者の紹介を目指しています。これは論文に対するメタ査読者と査読者の関係に似ており、学会の中でもうまく運用できるのでは、と考えました。

 実は、この3月に実施した「試行サービス」では幅広い共同研究依頼が集まり、コーディネータの選定に大変苦労しています。しかし社会の要請を学会として受け止める活動ですので、サービスとして継続できるよう検討していきたいと思います。皆様のご協力をお願いいたします。

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