2026年07月30日版:荒川 豊(事業担当理事)
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2026年07月30日版
「人が集う場としての学会 ─生成AI時代に問い直すコミュニティの価値」
荒川 豊(事業担当理事)
4年前に技術応用担当として理事を務めて以来、再び理事を拝命いたしました九州大学の荒川です。今期は事業担当として、全国大会、FIT(情報科学技術フォーラム)、プログラミング・シンポジウムの3つを主管いたします。前任の木村朝子先生から本会の基幹イベントを引き継ぐにあたり、改めて身の引き締まる思いでおります。
就任にあたり私がいま最も伝えたいのは、国内の研究コミュニティと、人が対面で集う場の重要性です。背景にあるのは、言うまでもなく生成AIの急速な進展です。政府がAI for Scienceを掲げるように、AIが研究を立案し、AIが執筆を支える時代が現実のものとなりました。研究の効率は確かに高まっています。その一方で、基礎を十分に身につけていない学生でも「それらしい」成果を出せてしまうために、本人の力が伸びないという副作用も無視できません。
学術界はこの変化に揺れています。カリフォルニア大学バークレー校ロースクールが生成AIの全面的な利用禁止に踏み切ったというニュースは、私がXで共有した際にも大きな反響を呼びました1)。トップ会議に目を向ければ、NeurIPSのポジションペーパー査読において、投稿の約28%に大幅なAI利用が認められ、18.4%がデスクリジェクトされたと報告されています2)。プレプリントサーバーのarXivも、AIによって粗製濫造された論文への対応を表明しました3)。先日の人工知能学会全国大会でも、「生成AI・プレプリント時代における研究成果公開の再設計」と題した企画セッションが開かれ、査読制度そのものをどう設計し直すかが正面から議論されています4)5)。
学会や学術ジャーナルという仕組みは、生まれてから約360年ものあいだ、ほぼかたちを変えずに続いてきました。その作法がいま、成果公開のメディア、研究者のコミュニティ、研究機関のあり方とともに、大きく揺らいでいます。長く変わらなかったものが変わるときだからこそ、その中で何が置き換えのきかない核心なのかを、私は考えたいのです。
その核心とは、人と人とのコミュニティとしての機能であり、日本語で深く議論できる場の提供ではないか、というのが私の考えです。コロナ禍を契機にオンライン発表が広がり、全国大会でもハイブリッド配信を続けています。旅費やライフイベントの制約を越えて、参加の門戸を広げるこの取り組みは、ダイバーシティの観点からも欠かせません。その価値を認めた上で、なお、私は、場である以上、対面で集まることを大切にしたいと思っています。会場に足を運び、発表し、議論を交わし、他者の発表に耳を傾け、好奇心が満たされ、人と人とのネットワークが立ち上がっていく。全国大会やFIT、プログラミング・シンポジウムが、そうした楽しさを覚えてもらえる場にしていきたいと思います。
2026年も、多くの皆さまに会場でお目にかかれることを楽しみにしております。
参考文献
1)Forbes JAPAN:(バークレー校ロースクールの生成AI利用禁止に関する記事)、https://forbesjapan.com/articles/detail/98704?read_more=1
2)NeurIPS Blog:AI-Generated Papers in the NeurIPS 2026 Position Paper Track、https://blog.neurips.cc/2026/06/02/ai-generated-papers-in-the-neurips-2026-position-paper-track/
3)GIGAZINE:プレプリントサーバーのarXivが『AI生成の粗雑な論文を取り締まる』と発表、https://gigazine.net/news/20260530-arxiv-ai-science-paper-penalty/
4)人工知能学会全国大会(JSAI2026)企画セッション:生成AI・プレプリント時代における研究成果公開の再設計 ─トップカンファレンス文化はどこへ向かうのか、https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/2C4-KS-22-01
5)一般社団法人 情報科学技術協会(INFOSTA):査読は「ほぼ破綻」している──生成AI時代の研究成果公開を、もう一度設計し直す:JSAI2026 企画セッション開催報告、https://note.com/infosta/n/nb717c9c3c3d0
