特集論文募集

「社会を変える量子コンピュータ活用」論⽂募集

論文誌デジタルプラクティス編集委員会

 

現在、量子コンピュータ技術に関する社会的な関心はこれまでにないレベルで高まっている。これまでは従来のコンピュータでは解くことが困難な計算が可能な未来技術としてごく一部の研究者の中で学術的なトピックとして議論されてきたが、2024年現在は現実社会やビジネスに向けての議論が進んでおり、いよいよ本格的な実用化に近づいている状況になっている。

量子コンピュータはすでに商用のサービスが複数の企業から提供されており、多くのユーザーが量子コンピュータ実機を用いた研究開発を行っている。一口に量子コンピュータといっても、使用している「量子」によって、超伝導回路、イオン、光子、中性原子、シリコン回路、磁性体などのタイプがある。いずれもハードウェアの構成の違いではあるものの、数10量子ビットから1000量子ビットほどが実現されており、各方式の開発競争が進展している。またゲート方式とアニーリング方式という大きな2つの方式があり、前者は任意の演算処理を行うことができ、後者は最適化問題を解くことが特長である。量子コンピュータを計算リソースとして使うユーザーから見た場合には、ハードウェアの構成による違いはほとんどなく、提供されている関数を用いてプログラミングを行えばよい。したがって、ハードウェア構成のある程度の理解を持つことは有用であるが、それ以上に、量子アルゴリズムに精通する必要があり、量子コンピュータに独特の計算手法(具体的にはゲート演算)を理解する必要がある。アプリケーション開発環境も量子コンピュータ実機を提供している会社などから同時に提供されているため、初心者でも取り扱いはスムーズであり、Pythonで書かれるものがほとんどなので、従来の資産を転用することも可能である。

多くの技術論文がarxivでまず投稿されており、現時点での1年間の量子コンピュータに関する論文数は6000を越えている。適用分野としては、主に、量子化学計算を用いた材料開発や創薬、ライフサイエンスに関するものや、金融・物流・製造における最適化問題やモンテカルロシミュレーション、機械学習の応用、素粒子科学や物性科学での科学計算や統計計算などがある。

現在の量子コンピュータのフィデリティ(忠実度)はかなり高くなってきているが、計算中に発生するエラーを訂正する機構を入れていくことが今後の課題の1つである。誤り訂正の手法はいろいろあるが、通常、訂正のために使う冗長な量子ビットを用意する必要があり、実際の量子ビットの数(物理量子ビットの数)よりも、誤りを訂正された量子ビットの数(論理量子ビットの数)はずっと少なくなる。しかし、2020年代末頃には、200論理量子ビット以上が実現されるという予測もなされている。一方で、現在のエラーが少し入った状態の量子コンピュータでも誤り低減技術を用いることで、古典的なアプローチでは計算が精度よくできない問題に対しても、有効な結果を得られるという発表もある。このように今の量子コンピュータによっても実用的な計算は可能であり、100量子ビットぐらいを使って、実ビジネスや科学分野での意味のある計算を行うことが現在のフォーカスとなっている。

また、量子現象の振る舞いを現在のコンピュータ上で模倣する量子インスパイアード技術も注目を集めている。特に組合せ最適化問題に特化した量子アニーリングは、現代のコンピュータ上で実現可能な量子インスパイアード技術として早期の社会実装が期待されている。

このような技術的、社会的状況を踏まえ、本特集では、量子コンピュータの社会への実装、具体的にはそのプラクティスやユースケース、あるいはQXに向けたシナリオ考察やこれらの導入事例、導入・運用に際して直面した課題、およびその解決方法に関する論文を幅広く募集する。その中では、ゲート方式/アニーリング方式、量子技術/量子インスパイアード技術、を問わずに募集し、新規性よりも有用性を重視する。

以下は、具体的なトピックの例であるが、上記の範疇で、その他のトピックも歓迎する。

  • 組合せ最適化:物流、金融、製造など、さまざまな分野における量子コンピュータによる最適化問題に関する知見
  • シミュレーション:新素材開発、創薬、化学反応シミュレーションなどに量子コンピュータを活用した知見
  • 機械学習:画像認識、音声認識、自然言語処理などに量子コンピュータを活用した知見
  • 量子暗号:情報セキュリティ、通信セキュリティなどに量子コンピュータを活用した知見
  • その他:上記以外で量子コンピュータが社会に貢献できるユースケースに関する知見

なお、この特集は学会誌 情報処理2025年5月号特集と連動しています。

投稿要領

(1) 論文の執筆要領
論文執筆にあたっては, 「論文誌デジタルプラクティス」原稿執筆案内をご一読のうえ, 「論文誌デジタルプラクティス」原稿テンプレートによりご投稿ください.提出の際は,投稿者チェックリストをチェックし,原稿と合わせて提出ください.原稿は電子メールでデジタルプラクティス担当(tdp@ipsj.or.jp)宛てにSubjectに特集名を記載して送信してください.

(2) 投稿締切: 2024年8⽉5⽇(月) 9:00

(3) 掲載特集号:2025年4月刊行号

(4) TDP特集号編集長:中野大樹 (IBM東京基礎研究所)、山岡雅直((株)日立製作所)、佐藤 聡(筑波大学)

副編集委員⻑:上條浩一(東京国際工科専門職大学)

コーディネータ:上條浩一

編集委員:飯尾 淳(中央大学)、岩倉友哉(富士通(株))、小野田弘士(早稲田大学)、鎌田真由美(日本マイクロソフト(株))、烏谷 彰(富士通(株))、木村直紀(LINEヤフー研究所)、込山悠介(国立情報学研究所)、坂下 秀(アクタスソフトウェア)、坂下幸徳(LINEヤフー/ゼットラボ)、下沢 拓((株)日立製作所)、土屋英亮(電気通信大学)、滕 琳(日本大学)、戸田貴久(電気通信大学)、長坂健治(キンドリルジャパン)、西尾直也 ((株)日立製作所)、服部雅一((株)東芝)、平山 毅(日本IBM)、福原知宏(マルティスープ(株))、藤瀬哲朗((株)三菱総合研究所)、藤原真二((株)日立製作所)、細野 繁(東京工科大学)、細見岳生(NEC)、水田秀行(日本IBM)、南山泰之(国立情報学研究所)、三宅悠介(GMOペパボ(株))、宮下健輔(京都女子大学)、森村吉貴(京都大学)、山口晃広(東芝研究開発センター)、山口大輔(NTTソフトウェアイノベーションセンタ)、横山和秀(日本IBM)、吉野松樹((株)CIJ)、除補由紀子(NTTソフトウェアイノベーションセンタ)、梁 宇昕((株)日立製作所)、渡邉輔祐太(三菱電機(株))
(論文募集公開時点(2024年4月))