60周年記念特別寄稿

『世界に先駆けてCAD時代の扉を切り開いた秘話』

  電子計算機黎明期に設計自動化用計算機を創った苦闘の物語


情報処理学会名誉会員

渡部 和

1960年に創立された情報処理学会は本年めでたく創立60周年を迎え、情報技術の世界で中核的存在としてますます発展していることをお悦び申し上げます.私個人にとっても本年は電気回路の設計自動化の実現を目指して、世界に先駆けてCAD のための計算機を創った年から60周年の記念の年に当たります.それはその後のCAD時代の幕開けとなりました.本会創立60周年の記念の年に因んで私自身の計算機幕開けのころの思い出をご披露いたしたく存じます.

[第一の絶壁]
—技術的絶壁—

[1]私はNECに入社し濾波器設計担当を命ぜられ精密設計基礎理論を開発しました.

1953年3月に京都大学工学部電気工学科を卒業した私は、4月1日にNECに入社し伝送通信事業部に配属となりました.当時の通信システムは電気信号を濾波器 によって周波数帯域ごとに分別し、それらを重ね合わせて多重化して送受信する周波数分割多重通信方式が主流で、濾波器がシステムの心臓部でした.その設計手法は既設計の標準回路(テンプレート)を縦続接続して濾波器回路を構成し、それぞれの標準回路の伝達特性を重ね合わせて全体の伝達特性とする近似的設計法(影像インピーダンス法)でした.この方法ではそれぞれの標準回路の相互干渉によって全体の伝達特性が乱れ、実際の特性は目的とする伝達特性と大きく外れる致命的な欠陥がありました.……

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渡部 和
略歴

1930年島根県生、1953年京大電気卒業、NEC入社、濾波器設計を担当し設計理論を完成。

その設計のための計算機を独力で設計し東北大学と共同で完成し1958年11月に稼動。

その改良機2号機は1960年に稼動し回路設計自動化に活躍。1980年同社支配人。

1991年創価大学教授。工学部長等歴任。情報処理学会名誉会員。

2010年IEEE Gustav Robert Kirchhoff Award。


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