第1部「ITガバナンスの海外における現状」
第2部「今後のデジタルトランスフォーメーションのガバナンスについて」
(1)ITガバナンスの各国の現状
SC 40に来日したITガバナンスの専門家へのインタビューをとりまとめて報告する。ISO/IEC 38500が国際規格となって5年立ちました。日本でも2015年にJIS Q 38500となっています。また、政府のIT関連の資料ではITガバナンスがよく使われています。先進国では、OECDのコーポレートガバナンスの指針が出たことや株式市場の活性化のためにコーポレートガバナンスは重視されています。日本でも安倍政権は、成長戦略の重点課題としてコーポレートガバナンスコード及びスチュワードシップ・コードを作成して、企業経営の透明化と投資家に日本企業の信頼性向上を図っています。今日ではITが経営と密接な関係となっているため、ITガバナンスはコーポレートガバナンスの一部を担う観点からも、企業の経営者にとって重要なものとなってきています。今回は、ITガバナンスの規格について議論するためにSC 40に来日した各国の有識者にITガバナンスの現状と課題について語ってもらいました。発表では、この内容を紹介します。
インタビュー内容:
①ITガバナンスのガイドラインはありますか(政府,民間を問わず)
②ITガバナンスのカバー範囲は、IoTやAIなど新しいIT分野を含んでいますか
③企業の経営者はITガバナンスについての認知度は高いですか
④経営でITを重視しているか(ITは企業経営にとって莫大な投資やセキュリティなどの運用費がかかります。経営者は、この事実をどう捉えていますか(仕方がないと捉えている企業が多いのか、前向きに捉えているか)
⑤ISO/IEC 38500やISO/IEC 27014などのITに関するガバナンスの規格の各国における位置づけはどうなっていますか。ある場合には利用されていますか
⑥政府のITガバナンスの取り組み方(政府内部にITに関する責任ポストはあるか)
⑦政府や企業がITのトラブルや情報漏えいが起きたときにはITガバナンスの問題と捉えられているか(年金機構の情報漏えいの場合には政府がITのガバナンスの問題として、長官が謝罪会見をした)、各国で、このよう場合の取り組みはどうなるか
⑧ITガバナンスの普及に向けて各国で進めている方策について
⑨システム監査はITガバナンスにとって重要な機能と考えていますか。監査以外にITガバナンスの実効性を担保するのは何ですか
⑩グローバルなITガバナンスは必要ですか。その場合、ISO/IEC 38500が役立ちますか。
(2)これまでのITガバナンスの発展から見た今後
後半の発表では、ITガバナンスが向かうべき方向として、データトランスフォーメーションについて紹介する。データトランスフォーメーションとは、企業がITを業務の効率化を目的に導入する段階、ITが企業内に普及したことからITをベースに事業を見直すBPRの段階(企業のビジネスがITをベースに動くようなる)、2つの段階のあとに来る段階である。データトランスフォーメーションでは、既に企業の主要なビジネスをさらに最適化する。例えば、Kodaxがあげられる。Kodaxでは様々なITを先導的に導入して写真業界をリードしてきたが、デジタル化が既存の写真を変革する(アナログ写真のビジネスを置き換えてしまう)ことについて読み誤り、結局は倒産した。ITを進めていく中で、今後、経営者はIT化のビジネスへのインパクトを十分に考える必要がある。現在のITガバナンスでは、企業の内部ビジネスプロセスへのインパクトをEDMで評価する仕組みになっている。このプロセスは、ITを効果的かつ効率よく利活用する場合には大変よいモデルである。しかし、経営者が対峙するビジネスにとって重要なのは、外部からのInputとPressureへの対応である。すなわち、企業の内部の能力と業界や世界のトレンドを的確にEvaluateすることが求められている。今までは、M->Eでは、ITとビジネスプロセスとを考えればよかった。しかし、デジタル化が進めば、ビジネスそのものを変革する。デジタル技術は、BitCoinのように既存通貨の概念を超えて取引を根本から変えてしまう。単に内部プロセスのみを評価していてもダメで、破壊的なイノベーションがビジネスに与える影響をも考慮に入れなければならない。今後のITガバナンスでは、デジタルトランスフォーメーションに向けた対応が必要となる。すなわち、経営者が企業のビジネスのデジタル化のイノベーションについて、企業の内部プロセスのみならず自社のビジネスがデジタルの世界の中でどういう位置づけにいて、どう変わることが必然なのかを評価する必要がある。

講師:
原田 要之助(情報セキュリティ大学院大学)
【略歴】1979年、京都大学大学院工学部数理工学専攻を修了、電信電話公社(現NTT)の研究所で通信ネットワークの監視、制御システムを開発。1999年から、情報通信総合研究所にてセキュリティコンサルやセキュリティ監査に従事、2005年から大阪大学工学部大学院工学研究科の特任教授として組織のリスクマネジメントを担当。2010年から、情報セキュリティ大学院大学教授、リスクマネジメント・情報セキュリティマネジメントを担当。情報セキュリティ監査については、1999年より2010年まで、国連傘下基幹の情報セキュリティ監査に従事し、2000年から2008年までチームリーダとして活躍した。ISACA本部副会長2008−2010、情報処理学会 電子化知的財産社会基盤研究会の幹事、セキュリティマネジメント学会の会長、システム監査学会の理事ほか。