イベント企画 講演概要

船井業績賞受賞記念講演:人と社会,そして,コンピュータとネットワーク

9月6日(木)14:00-15:15[第1イベント会場(4号館1F 411教室)]
 
 [講演概要]
コンピュータはその名前通り,計算する機械として登場し,オペレーティングシステムやその他の基盤的ソフトウェアにより,人の知的活動を支援する技術として発展してきた.一方,コンピュータを相互に接続するネットワーク技術は,デジタルデータを交換し共有するための独立した技術として発展を遂げてきた.汎用オペレーティングシステムとネットワークのそれぞれに関する研究開発は1970年代から本格的に拡がった.これらは,1980年代にはワークステーションベースの分散システムとしての完全な融合を果たし,1990年代には,インターネットとしてグローバルな情報共有のための分散処理基盤を確立した.今世紀に入り,デジタル情報が光の速度で共有できるグローバルな環境が整いつつある.コンピュータとネットワークを要素とし,世界の市民とグローバルな情報社会の具体的な要求と期待に応える,新しいアーキテクチャへ向けた研究開発の方向性を議論する.
 
 村井 純(慶應義塾常任理事/慶應義塾大学環境情報学部教授)
現任:学校法人慶應義塾常任理事.現職:慶應義塾大学環境情報学部教授.1955年生まれ.1984年慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学.1987年博士号取得.1984年東京工業大学総合情報処理センター助手,1987年東京大学大型計算機センター助手.1990年慶應義塾大学環境情報学部助教授を経て1997年より教授.1999-2005年慶應義塾大学SFC研究所所長.
1984年JUNETを設立.1988年WIDEプロジェクトを設立し,今日までその代表として指導にあたる.
社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター理事長.
著書「インターネット」,「インターネットII」(岩波新書),「インターネットの不思議,探検隊!」(太郎次郎社エディタス).監訳「インターネットシステムハンドブック」(株式会社インプレス),「IPv6:次世代インターネットプロトコル」(プレンティスホール),「アンワイアード 果てしなきインターネットの未来―4Gへのシナリオ」(株式会社インプレス)他.
 

 
船井業績賞記念パネル討論:グローバル情報社会:日本での研究の責任と役割

9月6日(木)15:30-17:30[第1イベント会場(4号館1F 411教室)]
 
 [討論概要]
インターネットの浸透により,情報に関わる研究活動のグローバル化が進んでいる.こうした背景の元,研究活動そのものだけでなく社会的貢献,経済活動への展開,人材育成といった面での日本の責任と役割を見直さなければならない時期にきている.このパネルでは第一線の研究現場で活躍していながら,社会・経済活動や人材育成の現場でも幅広く活動しておられる方々を迎えて,日本の果たすべき責任と役割を考える.
 
 特別ゲスト:村井 純(慶應義塾常任理事/慶應義塾大学環境情報学部教授)
現任:学校法人慶應義塾常任理事.現職:慶應義塾大学環境情報学部教授.1955年生まれ.1984年慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学.1987年博士号取得.1984年東京工業大学総合情報処理センター助手,1987年東京大学大型計算機センター助手.1990年慶應義塾大学環境情報学部助教授を経て1997年より教授.1999-2005年慶應義塾大学SFC研究所所長.
1984年JUNETを設立.1988年WIDEプロジェクトを設立し,今日までその代表として指導にあたる.
社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター理事長.
著書「インターネット」,「インターネットII」(岩波新書),「インターネットの不思議,探検隊!」(太郎次郎社エディタス).監訳「インターネットシステムハンドブック」(株式会社インプレス),「IPv6:次世代インターネットプロトコル」(プレンティスホール),「アンワイアード 果てしなきインターネットの未来―4Gへのシナリオ」(株式会社インプレス)他.
 
 司   会:砂原 秀樹(奈良先端大)
奈良先端科学技術大学院大学情報科学科学研究科.1960年兵庫県生まれ.88年慶應義塾大学理工学部博士課程修了.電気通信大学情報工学科助手,94年奈良先端科学技術大学院大学情報科学センター助教授を経て,2001年から教授.2005年情報科学研究科教授村井純(慶應義塾大学環境情報学部教授)らとともに,1984年からJUNET,1988年からWIDEプロジェクトを通じて,日本におけるインターネットの構築とその研究に従事.
現在は,自動車や様々なセンサをインターネットに接続して新たな情報通信基盤を構築するプロジェクトを進行中.
 パネリスト:後藤 滋樹(早大)
1971年東京大学理学部数学科卒.1973年同大学院修士課程修了.1973年から1996年まで電電公社(NTT)の研究所に勤務.この間に1984〜1985年米国スタンフォード大学客員研究員.1991年工学博士(東京大学).1996年早稲田大学理工学部教授となり現在に至る.国立情報学研究所客員教授.総務省情報通信審議会委員.(社)JPNIC理事長,APAN副議長.情報処理学会フェロー.
 パネリスト:下條 真司(阪大)
1986年3月 大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻(後期課程)修了(最終学歴).同年4月 大阪大学基礎工学部助手.1989年2月 大阪大学大型計算機センター講師.1991年4月 大阪大学大型計算機センター助教授.1998年4月 大阪大学大型計算機センター教授.2000年4月 大阪大学サイバーメディアセンター教授副センター長.2005年8月 大阪大学サイバーメディアセンター教授 センター長.特定非営利活動法人バイオグリッドセンター関西理事長,日本学術会議連携会員.
1995年10月 郵政大臣表彰(大阪大学大型計算機センター).2001年6月 情報通信月間推進協議会会長表彰志田林三郎賞.2001年7月 日本医用画像工学会 論文賞.2005年11月 大阪科学賞.
情報処理学会(国際担当理事)・電子情報通信学会(正員)・IEEE(Computer Society)(Member)・ACM(Member)・日本学術振興会インターネット技術第163委員会・(Internet Technology Research Committee(ITRC))(委員長).電子情報通信学会インターネットアーキテクチャ研究会(専門委員).
 パネリスト:近山 隆(東大)
1977年東京大学工学部計数工学科卒.1982年同大学院工学系研究科情報工学専門課程博士課程修了.工学博士.同年(株)富士通入社後,(財)新世代コンピュータ技術開発機構に出向,第五世代コンピュータプロジェクトに参加.1995年東京大学工学系研究科助教授.1996年同教授.現在同新領域創成科学研究科基盤情報学専攻教授.プログラミング言語と処理系・開発環境,並列分散処理,機械学習と応用等の研究に従事.
 パネリスト:古川 享(慶大)
1978年2月株式会社アスキー入社.1979年(株)アスキー出版にて,月刊誌アスキーの副編集長.1980年(株)アスキーにてソフトウェア開発部門を創設.1981年(株)アスキー・マイクロソフトにて副社長.1984年(株)アスキー,ソフトウェア開発本部にて,4.2BSD版のUNIXを日本語化.1986年5月マイクロソフト株式会社設立.初代代表取締役社長に就任.1991年同社代表取締役会長兼,米国マイクロソフト社極東開発本部長に就任.2000年4月米国マイクロソフト社 コンシューマ戦略担当バイスプレジデントに就任.2002年米国マイクロソフト社 アドバンスト・ストラテジー&ポリシー担当バイスプレジデントに就任.2004年マイクロソフト株式会社 最高技術責任者を兼務.2005年6月マイクロソフトを退社.2006年4月慶應義塾大学デジタルメディアコンテンツ統合研究機構,教授.
アスキー,マイクロソフト株式会社を経て現職.現在,教育の現場で何か新しいことをやりつつ,新規技術,通信・放送に対する私見を展開中.
 

 
FIT学術賞表彰式

9月6日(木)13:00-13:50[第1イベント会場(4号館1F 411教室)]
 
 ・FIT2006 ヤングリサーチャー賞 表彰
・FIT2007 論文賞 表彰
・FIT2007 船井ベストペーパー賞 表彰
・FIT2007 船井業績賞 表彰
 

 
ここまで使える数理計画法

9月5日(水)10:00-12:00[第1イベント会場(4号館1F 411教室)]
 
 [企画概要]
計算機の急激な性能向上と,それを上回る数理計画法の飛躍的な進歩により,多くの分野において実際に現れる大規模かつ複雑な問題を解くための環境が整いつつある.そこで,本チュートリアルでは,数理計画法の現状と展望を紹介することで,さまざまな分野の研究者の方々に,数理計画法が「使える道具」であることを認識していただき,より一層活用していただくことを目的としている.今回は,(1)数理計画法の適用事例,(2)数理計画法ソフトウェアの現状,(3)数理計画問題へのモデル化の話題を中心としたチュートリアルを予定している.
 
 司   会:梅谷 俊治(電通大)
1998年大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程修了.2002年京都大学大学院情報学研究科博士後期課程退学.博士(情報学).現在,電気通信大学電気通信学部システム工学科助教.
主として,アルゴリズム,組合せ最適化,数理計画法,およびそれらの手法の現実問題への適用に関する研究に従事.
情報処理学会,日本オペレーションズリサーチ学会,スケジューリング学会,INFORMS,MPS各会員.
 
[10:00-11:00]講演1「数理計画法を用いた問題解決の事例−南山大学プロジェクトN」
 
 [講演概要]
南山大学では2005年にオペレーションズ・リサーチ(OR)を用いた大学業務の改善プロジェクトを開始した.われわれは,南山大学の頭文字をとって,このプロジェクトを「プロジェクトN」と呼んでいる.
プロジェクトNのメンバーは,OR,統計学を専門とする教員4名と事務職員5名である.
プロジェクトNでは,図書館雑誌の見直し,東海地震注意情報発令時の避難計画の策定,インターンシップ報告会のスケジューリング問題,入試監督割当の自動作成問題など,数多くの問題を取り扱い,実際の業務の改善に役立てている.その中でも,実際の問題を数理計画法のモデルとして定式化し,そのモデルの最適解を市販の最適化ソフトウェアによって求める方法は大きな成果をあげている.
この方法によると,オペレーションズ・リサーチや統計学をほとんど知らない事務職員でも,ORの専門家の助言に従って,実際問題を解決することができる.本講演ではその事例を挙げ,さらにこの手法が大学だけでなく,多くの企業でも適用可能であることを紹介する.
 
 鈴木 敦夫(南山大)
東京大学工学部計数工学科卒.同大学院工学系研究科計数工学専攻修士課程修了,工学博士.
東京大学工学部計数工学科助手,南山大学経営学部教授などを経て,現在,南山大学数理情報学部教授.
専門はオペレーションズ・リサーチ.南山大学でのORを用いた業務改善で,2005年,INFORMS(Institute for Operations Research and the Management Sciences),Franz Edelman Finalist賞,2007年度日本オペレーションズ・リサーチ学会実施賞受賞.
 
[11:00-12:00]講演2「ここまで解ける整数計画」
出典:システム/制御/情報 第51巻,第3号,pp. 363-368 解説題目「ここまで解ける整数計画」
 
 [講演概要]
近年の計算機パワーの増大により,様々な分野において以前には計算不可能であった大規模な問題が扱えるようになっている.さらに数理計画の世界では,最適化アルゴリズムそのものがハードウェアの進歩に勝るとも劣らない速度で進化しており,最先端のアルゴリズムを実装した最適化ソルバーの性能は数年前に比べて飛躍的に向上している.
本発表では整数計画問題を取り上げ,モデル化の基本的なテクニックを紹介するとともに,整数計画モデルがうまく解けない場合の基本的な対処方法について述べる.
また,ベンチマークを通して現在の最適化ソルバーの性能を紹介する.
「整数計画を使おうと思うが,どのくらいの規模の問題まで解けるのかが知りたい」,「以前に整数計画問題としてモデル化したが,計算時間がかかりすぎた」という方に,本発表が参考になれば幸いである.
 
 松井 知己(中央大)
1990年東京工業大学大学院総合理工学研究科博士後期課程修了.
1990年東京理科大学理工学部助手.
1992年東京大学工学部講師.
2001年東京大学大学院情報理工学系研究科助教授.
2006年中央大学理工学部情報工学科教授.
 
 宮代 隆平(農工大)
2004年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了.
2004年東京農工大学共生科学技術研究部助手.
2007年東京農工大学共生科学技術研究院助教.
 

 
パターン認識・メディア理解アルゴリズムコンテスト

9月5日(水)13:00-15:50[第1イベント会場(4号館1F 411教室)]
 
 [企画概要]
本イベント企画では,「ジグソーパズルを完成させよう! −マッチングによる画像復元−」と題した第11回パターン認識・メディア理解アルゴリズムコンテストの入賞者の発表,表彰式,および受賞者自身によるアルゴリズム発表をおこなう.本コンテストは,パターン認識・メディア理解(PRMU)研究専門委員会が,当該研究分野における若手研究者の育成と研究会活動の活性化を目的として1997年度より,秋の大会併催事業としてを実施している.本事業は,若手研究者およびこれから研究者を目指す学生(主に,高専,学部・大学院生)を主たる対象に,具体的な課題を解決することの楽しさを通して研究の面白さを体験してもらうことを目指している.募集にあたってはWeb(http://www.eml.hiroshima-u.ac.jp/alcon2007/)でサンプルプログラム・画像データを公開してアルゴリズムを実装したプログラムの提出を求め,このプログラムの処理結果や計算時間等を参考に,審査委員会でアルゴリズムの新規性や性能を審査し,優秀なプログラムを選定している.応募対象者が若手研究者や学生であることから,アルゴリズムの完璧さや複雑さよりも,若手研究者や学生ならではの素朴なアイデアを積極的に評価する方針を採っている.
 
 司   会:天野 敏之(奈良先端大)
2000年大阪大学大学院博士後期課程修了.2000年名古屋工業大学電気情報工学科助手.
2007年奈良先端科学技術大学院大学情報科学科助教.
2006年9月より電子情報通信学会パターン認識・メディア理解専門委員.
距離画像計測応用,固有空間法を用いた画像処理等に従事.
2000年電子情報通信学会学術奨励賞,2006年PRMU主催MIRU2006インタラクティブセッション優秀賞受賞.
 
[13:00-13:05]開会挨拶
 
 馬場口 登(阪大)
1979年大阪大学工学部通信工学科卒業.1981年同大学院前期課程修了.
1996年-1997年カリフォルニア大学サンディエゴ校文部省在外研究員.
現在,大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻教授.
2007年より電子情報通信学会パターン認識・メディア理解専門委員会委員長.
映像メディア処理に関する研究に従事.PCM2006Best Paper Award, 2006年ISS活動功労賞受賞.
 
[13:05-13:15]課題概要説明,審査結果発表
 
 玉木 徹(広島大)
2001年名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻博士課程後期課程了.
同年,新潟大学工学部情報工学科助手.
2003年同大学院自然科学研究科助手.
2005年広島大学大学院工学研究科情報工学専攻助教授.2007年同准教授.
画像認識,コンピュータビジョンの研究・教育に従事.博士(工学).
 
[13:15-13:20]入賞者表彰
 
[13:20-14:50]入賞者によるアルゴリズム紹介
 
[15:00-15:50]講演「画像関連問題に対するアルゴリズム工学的アプローチ」
 
 [講演概要]
本講演では,画像に関連する幾つかの問題に対するアルゴリズム工学的なアプローチを紹介する.画像の2値化は最も基本的な問題であるが,これを線形時間の距離変換アルゴリズムと組み合わせると,指紋画像の2値化に効果的であることを示す.また,同じ最適化基準を画像の領域分割に適用できることを示す.さらに,印刷のために多値画像を2値化するディジタルハーフトーニングは様々な様々な最適化問題に関連しているが,それらの計算複雑度について紹介すると共に,制約条件をうまく緩和すると多項式時間で解ける問題があることも示す.
 
 浅野 哲夫(北陸先端大)
1949年9月生まれ.大阪大学基礎工学部電気工学科を卒業後同大学院の博士課程を修了.
大阪電気通信大学を経て,現在は北陸先端科学技術大学院大学の教授.VLSIのレイアウト設計に関する研究を経て,最近の20年以上は計算幾何学の研究に従事.計算幾何学に関する3国際誌などのエディタを務める.
2001年にACM学会より,2005年には情報処理学会よりフェローの称号を贈られる.
 

 
良い論文を書くためには,伝わる日本語文章を書くためには

9月7日(金)10:00-12:00[第1イベント会場(4号館1F 411教室)]
 
 [企画概要]
日本語でいかに明快な文章を書くかを基本テーマに,学生から研究指導者に渡る幅広い層を対象に,2件の講演からなる講演会を実施する.前半では,学術論文の書き方について,学生を対象に良い論文を書くための基本指針,指導者を対象にいかにそれを学生に実践させるか,という2つの観点から講演をいただく.後半では,論文からさらに一般の文章に対象を広げて,事実や主張が伝わりやすい一般的な文章の書き方について講演をいただく.それぞれの講演の中で,講演者とフロアの間での質疑の時間を設ける.
 
 司   会:横矢 直和(奈良先端大)
1974年大阪大学基礎工学部情報工学科卒.1979年同大学大学院基礎工学研究科物理系博士後期課程了.工博.同年通産省電子技術総合研究所入所.1986〜1987年マッギル大学客員教授.1993年奈良先端科学技術大学院大学情報科学センター教授,1994年より同大学情報科学研究科教授.電子情報通信学会ISS副会長・PRMU研究専門委員長,情報処理学会CVIM研究会主査・同論文誌編集委員長,日本VR学会理事・複合現実感研究委員会委員長,日本学術会議連携会員等歴任.情報処理学会論文賞受賞(2回).
 
[10:00-11:00]講演1「良い学術論文を書く・書かせる基本指針」
 
 [講演概要]
研究者にとって学術論文は研究成果を世に還元するための最も重要な手段・媒体であり,文書作成技術はそのための大切な技能である.特に科学技術論文では,通常生活で目にする文書に対しては,その書き方が内容・構成・文体・書法を始めとしてかなり異なる.大学院学生や若手研究者など,初めて書く機会を与えられた者にとっては敷居が高く,科学技術論文特有の不文律のようなものまで存在する.さらに科学技術論文には,読者の目に触れる前に査読というスクリーニング過程があり,問題を更に複雑化している.本講演では,特に大学院学生等の初めて学術論文を「書く立場」の方,および,そのような方を指導する教官・上司など,学術論文を「書かせる立場」の方を対象とする.査読論文として必要な「新規性・有効性・信頼性」を如何に表現するか,という基本問題を含み,良い科学技術論文の書き方,読み手に伝わる文章の書き方,の基本指針について紹介する.
 
 岡田 稔(早大)
1984年名古屋工業大学工学部電気工学科卒業,1989年名古屋大学大学院工学研究科博士課程情報工学専攻了,工博.日本学術振興会特別研究員,名古屋大学助手・助教授,ミシガン大学客員准教授,中部大学教授を経て,現在,早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授.画像の認識理解,コンピュータグラフィックスの基礎理論と応用に関する研究に従事.IEEE, ACM, Eurographics, 電子情報通信学会,情報処理学会等会員.
市村賞,情報処理学会研究賞,情報処理学会優秀教育賞.FIT2006論文賞等各受賞.
 
[11:00-12:00]講演2「他人に伝わる日本語文章を書くには」
 
 [講演概要]
講演1では,「良い学術論文を書く・書かせる」ことに焦点が絞られていたが,講演2ではそれを広げて「他人に伝わりやすい文章を書く」技術全般を扱う.ただし,伝える情報は,事実と意見だけで,感情や感動は対象としない.
研究者・技術者・教員・学生であっても,日常的に論文だけでなく,仕事のうえでさまざまな文章を書いているのが普通であろう.この講演では,それらの文章に共通する「書きかた」の技術を論じたい.そのとき,「うまい」文章(名文)をめざすのではなく,「伝わる」文章(明文)をめざす技術を重点的に取りあげる.
伝わる文章を書くには,まず人と人とのコミュニケーションの過程を振り返る必要がある.つまり,「伝わる」とはどういうことかを考える.ついで,伝わりやすい文章の基本として,「トップダウン記述」や「重点先行主義」で書くことを勧める.その後,文章および文書を作成する過程全体を眺めて,各段階でいくつかの技術を提案する.
 
 阿部 圭一(愛知工大)
1968年名古屋大学大学院博士課程了.工学博士.名古屋大学工学部,静岡大学工学部を経て,1995年静岡大学情報学部教授,1999年まで同学部長.2006年から愛知工業大学経営情報科学部教授.この間,構造的パターン認識および画像処理アルゴリズムの研究に従事.IAPR Fellow,電子情報通信学会フェロー.
現在,日本社会情報学会(JSIS)会長.著書「ソフトウェア入門 第2版」「プログラミング」「明文術 伝わる日本語の書きかた」ほか.
 

 
HPCから組込みシステムまで,カスタムコンピューティングの世界

9月7日(金)13:00-16:00[第1イベント会場(4号館1F 411教室)]
 
 [企画概要]
最近,リコンフィギャラブルLSIや超並列細粒度プロセッサなどの新しいデバイスを活用したカスタムコンピューティングが各分野で注目を集めている.例えば,組込みシステムは家電機器・情報通信機器・工業制御機器・医療機器などの在りとあらゆる分野の電子制御機器の総称であるが,高い付加価値を実現するための専用処理エンジンの開発などが活発に行われている.これら組込みシステム向けやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けの専用処理エンジンやアクセラレータは規模および性質いずれの面からも非常に多種多様であり,汎用コンピュータ向けプロセッサに比べて独自の世界を生み出している.
本チュートリアルでは,我が国が得意とするデジタル家電向けの組込みシステムや,宇宙や生化学の分野を対象とするハイパフォーマンスコンピューティングシステムなど,各所で開発されている代表的なカスタムコンピューティング事例について開発者をお招きして解説いただき,新たなデバイス技術を活用することによって新たなステージへ脱皮しようとしているカスタムコンピューティングの最前線を俯瞰する.
 
 司   会:末吉 敏則(熊本大)
1976年九大・工・情報卒.1978年同大学院修士課程了.同年九大・工・助手.同大学院助教授,九工大助教授を経て,1997年熊大・工・教授.2006年改組により同大学院自然科学研究科情報電気電子工学専攻教授.工博.
現在,電子情報通信学会コンピュータシステム研究専門委員会委員長,同リコンフィギャラブルシステム研究専門委員会委員(前委員長),特定非営利活動法人FPGAコンソーシアム理事長.九大客員教授.電子情報通信学会,情報処理学会,電気学会,IEEE各会員.
 
[13:00-13:35]講演1「理論宇宙物理学でのハイパフォーマンスコンピューティング事例」
 
 [講演概要]
球状星団や銀河,銀河団といった多数の恒星からなる天体の時間進化や構造形成を理解するためには,計算機を用いて数値的にシミュレーションすることが重要であると考えられています.このような天体の様々な現象をより詳しく理解するためには,高性能な計算機システムを用いて精密なシミュレーションを行います.そのためこの分野では非常に高性能な計算機システムを利用してシミュレーションを行うことが一般的になりつつあります.本講演では最近までハイパフォーマンスコンピューティング分野では計算デバイスとしてはほとんど使われなかったFPGA(Field Programmable Gate Array)やGPU(Graphics Processing Unit)が,天体の計算ではじめて実用化されつつある現状についてご紹介したいと思います.
 
 濱田 剛(理研)
1974年北海道生まれ.東京大学在学中からFPGAを用いた多体シミュレーション専用計算機PROGRAPEの開発と効率的なプログラミングモデルの構築に従事.最近はGPU を用いた多体シミュレーションシステムの開発にも従事.FPGAとGPU(さらにはMany-core CPUも!)のアーキテクチャを意識せずに統一的にソフトウェアを記述可能なプログラミングモデルがいとも簡単に構築できることに気づき,それをコンパイラとして実現することに全精力を注いでいる.
2004年東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退.博士(教養).
 
[13:35-14:10]講演2「ReCSiP: FPGAを用いた生化学シミュレータ」
 
 [講演概要]
近年では,他の理工学分野と同様に生命科学においても,モデリングとシミュレーションが,システムの理解のための重要なツールとして用いられるようになっている.代表的なものに細胞内の化学反応のモデルが挙げられるが,これはひとつの系にさまざまな微分方程式と多くのパラメータを含んでおり,モデルのパラメータフィッティング等に困難を伴う.ReCSiP は FPGAを用いてこれを高速に実現するためのシステムである.
 
 長名 保範(慶大)
2001年慶應義塾大学理工学部情報工学科卒業,
2003年同大学院理工学研究科前期博士課程修了,
2006年同後期博士課程修了.博士(工学).
現在,同大学理工学部生命情報学科特別研究助教.
バイオインフォマティクス・計算機システム等の研究に従事.
 
[14:10-14:45]講演3「FPGAの部分再構成を利用したコンテンツ配信システム」
 
 [講演概要]
デバイス全体を停止することなく,特定部分のみを書き換える「部分再構成」の機能を備えたFPGAが市販されている.この機能を利用することで,用途や環境に合わせて回路が切り替わる柔軟なシステムの実現,回路面積や消費電力の削減,不具合や脆弱性の出荷後の修正などが可能になると期待されている.本講演では,FPGAの部分再構成機能の概要や利点について説明し,その応用例として,部分再構成を利用して安全にデジタルコンテンツを配信するシステムを紹介する.このコンテンツ配信システムでは,コンテンツとともに部分回路がダウンロードされ,端末側の回路と結合する.部分回路を書き換えることで,暗号アルゴリズムやエンコード方式の異なるコンテンツも,同じハードウェアで再生することができる.また,部分回路と端末回路が正しく結合されなければコンテンツが再生できない点に着目し,回路のかみ合わせを端末認証に利用している.
 
 堀 洋平(産総研)
1999年筑波大・第三・工シス卒.2004年同大学院博士課程了.博士(工学).
同年(独)産業技術総合研究所情報処理研究部門(現,情報技術研究部門)特別研究員.
多目的映像表示装置,コンテンツ保護システムなどの研究開発を行う.
現在,FPGAの部分再構成を利用したリコンフィギャラブルシステム,LSIの耐タンパー性評価に関する研究に従事.
 
[14:50-15:25]講演4「マトリックス型超並列プロセッサMX1とその応用事例」
 
 [講演概要]
デジタル家電機器の進展やブロードバンドネットワークの普及にともなう,画像・動画・音声などのマルチメディアデータの容量拡大や,人の顔や道路の白線などの画像を認識し,個体認証や運転制御に活かすような新たなサービスの登場は,マルチメディア信号処理能力の飛躍的な向上を求めている.このようなマルチメディア信号処理をターゲットに,SoCへの組み込みが可能なレベルの面積・低消費電力を実現し,かつ高い演算処理性能とプログラマビリティを兼ね備えたプロセッサ"MX-1"を開発した.MX-1は,マトリックス型の細粒度超並列SIMD構造の新アーキテクチャを採用しており,フィルタリング処理,フーリエ処理,マトリックス演算,ソーティング,イメージ処理等に適している.本講演では,プログラマブルデバイスでありながら小面積かつ高い演算処理エネルギー効率を実現するMX-1について応用例を交えながら紹介する.
 
 水本 勝也(ルネサステクノロジ)
1990年東海大学工学部電子工学科卒業,1992年同大大学院工学研究科博士前期課程修了.
1992年三菱電機(株)入社.EDAツールの研究・開発,シリアル通信インタフェースの開発に従事.
2003年(株)ルネサステクノロジに転籍.
現在,システムソリューション統括本部システムコア技術統括部CPU開発第二部にてMX-1の開発に従事.
 
[15:25-16:00]講演5「カーチューナ向けリコンフィギュラブルアーキテクチャ」
 
 [講演概要]
日本では2003年に地上デジタルテレビ放送が開始され,カーナビの地上デジタルテレビ搭載率は年々高まっている.カーチューナLSIでは,近年,アナログFM/AM放送受信処理のデジタル化に加え,このような新しい放送に柔軟に対応できるようにするために,受信処理のソフトウェア化を進めている.しかしながら,カーチューナLSI に用いられている既存のDSPは,その処理性能の限界によりオーディオ処理などの比較的軽い処理にしか対応できない.そこで,三洋電機では,DSPに代わるカーチューナに適した小型で高性能なプロセッサとしてALUアレイアーキテクチャによるリコンフィギュラブルプロセッサの開発を行っている.本講演では,カーチューナの現状と今後の展望,ならびに三洋電機のカーチューナ向けリコンフィギュラブルプロセッサについて述べる.
 
 小曽根 真(三洋電機)
2000年神戸大学工学部電気電子工学科卒業.2002年同大大学院修士課程修了.同年三洋電機株式会社入社.
以来,同社研究開発本部デジタルシステム研究所にてリコンフィギュラブルプロセッサの研究開発に従事.
現在,同研究所主任研究員.
2006年度電子情報通信学会ソフトウェア無線研究会研究論文賞受賞.
電子情報通信学会会員.
 

 
情報爆発時代のデータベース
−センサネットワーク技術がもたらすデータベース技術の新展開と応用−

*本イベント協賛:文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「情報爆発IT基盤」

9月5日(水)10:00-12:00[第2イベント会場(21号館1F 2112教室)]
 
 [企画概要]
センサ機器の普及やセンサネットワーク技術の発展,ユビキタスコンピューティングの拡がりを受けて,ここ数年,データベースの研究分野では,センサネットワーク環境におけるデータベース技術の開発が盛んに進められている,本企画では,センサ機器・センサネットワーク技術の現状を踏まえて,今後のセンサデータベースの研究・開発における課題,および,新たな応用の可能性などについて2件の講演と講演内容を起点としたパネルを開催する.
 
 司   会:石川 佳治(名大)
筑波大学博士課程工学研究科単位取得退学.
筑波大学博士(工学).
奈良先端科学技術大学院大学助手,筑波大学講師・助教授を経て,現在名古屋大学情報連携基盤センター教授.
データベース,情報検索,ウェブ情報システムなどに興味を持つ.
 
[10:00-10:30]講演1「センサネットワークの技術動向」
 
 [講演概要]
センサネットワークは10年に満たない若い研究分野である.無線,ネットワーク,ヒューマン・インタフェースから半導体技術まで幅広い研究分野から注目される技術である.既に製品として顧客サイトで運用が始まっている例もあるが,「センサネットワーク」という新しい市場があるわけもく,マーケットとしては手探りも続いている.
本講演では,企業の立場からセンサネットワークに対する期待と最新の技術に関してまとめ,今後の展開などについて,事例なども含めて紹介する.
 
 鈴木 敬(日立)
1984年早稲田大学理工学部電子通信学科卒,1989年同理工学研究科博士課程修了.同年(株)日立製作所入社.中央研究所にてLSIの設計自動化の研究に従事.カリフォルニア大学バークレー校客員研究員(1994).
LSI設計再利用, HW/SW協調設計技術の研究,マイクロプロセッサの開発等に従事の後,2002年よりセンサネットの研究に従事.
現在,中央研究所センサネット戦略プロジェクト,プロジェクトリーダ.
 
[10:30-11:00]講演2「センサデータベースとは:基本概念と研究動向」
 
 [講演概要]
ここ数年,センサデータベースに関する研究が非常に盛んとなっている.本講演では,センサデータベースの基本概念,基礎となる技術,研究の動向などについて解説を行う.また,大規模センサ情報処理における技術的課題などについても述べる.
 
 川島 英之(筑波大)
慶應義塾大学大学院開放環境科学修了.博士(工学).
慶大助手を経て,現在は筑波大学大学院システム情報工学科講師.
専門はセンサネットワークとデータベースシステム.
2006年度IPA未踏ソフトウェア創造事業採択者.
 
[11:00-12:00]パネル討論「情報爆発時代のセンサデータベース:技術的課題と今後の展開」
 
 [討論概要]
このパネルでは,先の2つの講演内容を踏まえて,センサネットワークに関する研究開発に携わる企業の研究者とセンサデータベースの大学の研究者に,それぞれの立場からの討論をお願いする.特に,情報爆発時代の大規模センサデータ処理,センサデータベース技術開発の方向性について,多方面から議論を行う予定である.
 
 司   会:石川 佳治(名大)
筑波大学博士課程工学研究科単位取得退学.
筑波大学博士(工学).
奈良先端科学技術大学院大学助手,筑波大学講師・助教授を経て,現在名古屋大学情報連携基盤センター教授.
データベース,情報検索,ウェブ情報システムなどに興味を持つ.
 パネリスト:川島 英之(筑波大)
慶應義塾大学大学院開放環境科学修了.博士(工学).
慶大助手を経て,現在は筑波大学大学院システム情報工学科講師.
専門はセンサネットワークとデータベースシステム.
2006年度IPA未踏ソフトウェア創造事業採択者.
 パネリスト:鈴木 敬(日立)
1984年早稲田大学理工学部電子通信学科卒,1989年同理工学研究科博士課程修了.同年(株)日立製作所入社.中央研究所にてLSIの設計自動化の研究に従事.カリフォルニア大学バークレー校客員研究員(1994).
LSI設計再利用, HW/SW協調設計技術の研究,マイクロプロセッサの開発等に従事の後,2002年よりセンサネットの研究に従事.
現在,中央研究所センサネット戦略プロジェクト,プロジェクトリーダ.
 パネリスト:原 隆浩(阪大)
1995年大阪大学工学部情報システム工学科卒業.1997年同大学院工学研究科博士前期課程修了.同年,同大学院工学研究科情報システム工学専攻助手,2004年より同大学院情報科学研究科マルチメディア工学専攻准教授となり,現在に至る.工学博士.2000年電気通信普及財団テレコムシステム技術賞受賞.2003年情報処理学会研究開発奨励賞受賞.データベースシステム,モバイルコンピューティングに興味を持つ.
IEEE,ACM,電子情報通信学会,情報処理学会,日本データベース学会の各会員.
 パネリスト:福永 茂(沖電気)
1991年3月大阪大学大学院工学研究科電子工学専攻修了.1991年4月沖電気工業(株)入社,関西総合研究所(現ユビキタスシステムラボラトリ)配属.以来,2000年までは,動画像符号化,エラー耐性の技術開発に従事し,その間,MPEG会合でエラー耐性主観テスト議長や,VM文書メインエディタを歴任するなど,MPEG-4の標準化に貢献.2001年以降,センサネットワーク,アドホックネットワーク,セキュリティ,自律分散,位置推定などの技術開発に従事.2007年からセンサネットワークベンチャーユニットにて,ZigBee関連機器の開発に従事.IEEE802.15.4d タスクグループのVice Chair & Secretaryを努めるなど,ZigBee,IEEE802の標準化にも貢献.電子情報通信学会,IEEE各会員.
 

 
知財戦略を俯瞰する−技術経営から支援技術,知の構造化まで−
*本イベント共催:社団法人 日本知財学会

9月5日(水)13:00-17:30[第2イベント会場(21号館1F 2112教室)]
 
 [企画概要]
グローバルな経済活動の進展に伴い,知的財産の重要性が一層高まっている中で,我が国では,知財戦略が国家戦略の一つとして推進されてきている,研究者・技術者にとって,知財,特に特許を意識せずには仕事ができない,また,経営戦略の一環として,知財は極めて重要な位置を占めている,知財戦略には,国家としての推進戦略,企業あるいは大学における戦略,創造・保護・活用のサイクルに応じた施策,標準化戦略との関係,知財人材の育成,そして,これらの戦略・施策を円滑に遂行するための支援技術等,様々な視点がある,さらに,財となる「知」そのものに関する議論も,イノベーション創出に向けた重要な視点の一つである,本シンポジウムでは,これらの知財戦略に関連する視点の全てをカバーするテーマを設定し,知財の中でも特に,情報科学技術分野の特許を中心に,各テーマの最前線で活躍されている方々による講演を行う,これらの講演を通して,参加される方々がご自身で考えられ,議論されることにより,今後の研究開発や技術経営等の活動に役立てて頂ければ幸いである.
 
 司   会:山下 博之(JST)
1981年京都大学大学院修士課程(情報工学専攻)修了.同年,日本電信電話公社(現NTT)入社. 以後,研究所において,高機能通信プロトコル,分散協調処理,著作権管理,コンテンツ流通等に関する研究開発・標準化活動に従事.
2003年10月に(株)NTTデータに転籍.2004年1月より科学技術振興調整費プログラムオフィサーとして(独)科学技術振興機構に出向中.IEEE,情報処理学会,電子情報通信学会各会員.
 
[13:00-13:40]講演1「知的財産推進計画2007の概要」
 
 [講演概要]
2003年に知財の国家戦略である知的財産推進計画が初めて策定されて以来,我が国の知財戦略は5年目を迎えました.この間,経済成長におけるイノベーションの役割の増大,コンテンツの文化的・経済的価値の高まりなど,我が国を取り巻く環境は大きく変化してきています.
5月31日に知的財産戦略本部において「知的財産推進計画2007」が決定されました.知財戦略の推進によるこれまでの成果をご紹介するとともに,イノベーションの促進,知財の保護,中小企業・地域経済への支援,コンテンツ大国の実現などの観点から,最近の取組や今後の課題等について説明します.
 
 山本 雅史(内閣官房知的財産戦略推進事務局)
1981年3月東京大学法学部卒業.同年4月通商産業省入省.1991年4月在メキシコ日本国大使館一等書記官.
1995年5月特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室長.
1998年6月資源エネルギー庁石油部流通課液化石油ガス企画官.1999年8月内閣法制局第四部参事官.
2004年6月経済産業省中小企業庁事業環境部企画課長.2006年7月特許庁総務部総務課長.
2007年7月内閣官房知的財産戦略推進事務局参事官(現職)
 
[13:40-14:20]講演2「企業の知財戦略と標準化戦略」
 
 [講演概要]
本講においては,近時における社会のイノベーション促進の観点による知的財産戦略の展望の変化(Proprietary戦略からOpen戦略へ)を概観したのち,かかるイノベーション促進の観点からIBMにおいて実施されている知的財産戦略(オープン・スタンダードへのサポートならびに特許品質の維持活動など)について解説する.また近年において知的財産戦略における重要な課題となっている標準化に関連する活動に係わる知的財産の管理について概観ののち,標準化関連活動における懸案(RAND条件によりライセンスの表明と事後のライセンス拒絶など)に関するわが国における 近時の動向(経済産業省ならびに公正取引委員会による対応など)について解説する.
 
 名取 勝也(日本IBM)
1982年慶應義塾大学経済学部卒業.1983年司法試験合格.1986年弁護士登録(第二東京弁護士会)桝田江尻(現あさひ狛)法律事務所入所.1990年ワシントン大学ロー・スクール(シアトル)卒業,法学修士号(LL.M.)取得.1990年〜1991年Davis Wright Tremaine法律事務所(シアトル)勤務.1992年〜1993年Wilmer, Cutler & Pickering法律事務所(ワシントンDC)勤務(part-time).1993年ジョージタウン大学ビジネス・スクール卒業.経営学修士号(M.B.A.)取得.1993年〜1994年 エッソ石油株式会社法務部弁護士.1995年〜1997年アップルコンピュータ株式会社法務・渉外本部長.1997年〜2002年サン・マイクロシステムズ株式会社取締役法務本部長.2002年〜2003年株式会社ファーストリテイリング執行役員法務部長,店舗開発部長,社会環境室長.2004年1月日本IBM理事法務・知的財産担当に就任.2004年3月執行役員法務・知的財産担当.2005年4月取締役執行役員法務・知的財産担当.
 
[14:20-15:00]講演3「IT分野における大学知財戦略」
 
 [講演概要]
大学では多岐に亘る先端的研究が行われているが,果たしてIT分野における大学の知的財産,たとえば大学で創作されたIT関連発明とその特許権,コンピュータープログラム等のソフトウェアなどはどのような価値があり,どのように活用すべきか.
この問題を論じるために,大学等技術移転促進法や知的財産基本法を始めとする近年の産学官連携と知的財産施策,および大学の現状の主要ポイントを簡単に紹介し,次に日米大学における最近の主要発明,特許とライセンス実績,大学発ベンチャー,主要企業の研究開発費と特許出願数,ライセンス収入,最近の大きな知的財産紛争事件等について,統計と具体的事例を示す.
その上で今後IT分野における産学官連携,技術移転,知的財産活用の方向について,電気通信大学知的財産本部の活動の紹介も含めて意見を述べたい.
 
 堀 建二(電通大)
1961年東京大学工学部電気工学科卒業,1965年スタンフォード大学工学部電気工学科修士課程修了.
1961年ソニー株式会社入社,総合研究所副所長兼映像技術研究所長,知的財産権本部長,ソニー米国研究所長,1991年取締役,1997年執行役員常務.
2003年電気通信大学知的財産本部副本部長.日本弁理士会外部意見聴取会委員,同知的財産政策諮問会議委員.
ソニー教育財団子ども科学教育プログラム審査委員.
 
[15:10-15:50]講演4「特許の権利化を戦略的に行うために」
 
 [講演概要]
日本は世界有数の特許大国であるにも関わらず,現状においては,登録されている特許のうち半数近くの特許が未活用という状況を招いている.この原因の一つとして,多くの企業において,特許戦略あるいは特許活用という観点を考慮して,特許の権利化を行っていないのではないか,という点が考えられる.本講演では,このような特許の権利化を戦略的に行うための具体的な方策として,特許戦略実現のための発明評価の重要性について述べる.さらに特許戦略とリンクさせて発明評価どのように行うべきかという点について,ポイントとなる点を指摘し,その具体的な評価手法等について説明する.
 
 加藤 浩一郎(金沢工大)
上智大学大学院修了.日本アイ・ビー・エム(株)システム部門においてシステムエンジニア,知的財産部門において主任弁理士,課長,社外活動として日本知的財産協会ソフトウェア委員会委員等を経て,2004年より金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻(東京・虎ノ門キャンパス)教授.
著書:「ソフトウェア知的財産−法律から実務まで−」(発明協会),「知的財産戦略&管理ハンドブック」(発明協会)他.
 
[15:50-16:20]講演5「特許工学とその支援技術」
 
 [講演概要]
発明の着想から特許の権利化,消滅までに至る特許ライフサイクルを工学的に支援する「特許工学」について説明する.特許工学は,特許ライフサイクルの各フェーズを分析して得られた「方法論」,方法論の支援を行う「ツール」,および方法論とツールの普及のための「教育」の三点を研究領域とする.
また,ソフトウェア工学やデータベースや自然言語処理技術などの情報技術を,特許ライフサイクルに適用し,特許活動を支援する特許工学支援ツールの事例について述べる.特許工学支援ツールとして,特許明細書を半自動生成する「特許明細書半自動生成ツール」,一般的に読みにくいとされる特許明細書を読みやすくする「特許読解支援ツール」,特許明細書の品質を推定する「特許明細書品質評価ツール」,特許価値を自動算定する「特許価値評価ツール」などについて詳細に説明する.さらに,複数のツールを連携した統合特許工学支援ツールについても言及する.
 
 谷川 英和(IRD国際特許事務所)
IRD国際特許事務所所長・弁理士博士(情報学).
1986年松下電器産業株式会社入社,情報通信技術の研究開発に従事.1996年同社知的財産権部門転属.
1999年弁理士試験合格.2002年IRD国際特許事務所設立.
2003年4月〜2007年3月京都大学情報学研究科COE研究員.
2003年に「特許工学」を提唱.2007年3月京都大学から博士号(情報学)を授与.
2007年4月〜京都大学非常勤講師.
 
[16:20-16:50]講演6「特許活用を支援する特許文書解析技術」
 
 [講演概要]
特許権の取得やビジネスでの利用といった特許活用において,様々な場面で特許調査が必要になる.特許調査は,特許文書の検索や分類,発明内容の傾向分析など,高いスキルと長大な時間を要する作業である.そのため,特許活用を効率化するために,特許調査を容易にする機能の実現が重要になる.
本講演では,特許文書の複雑なテキストを高精度に解析する特許文書解析技術と,それを適用した特許調査支援機能を紹介する.
 
 小西 一也(NTTデータ)
1995年茨城大学工学部情報工学科卒業.
1997年同大学院理工学研究科情報工学専攻修士課程修了.
同年,NTTデータ通信株式会社入社.2000年日本電信電話株式会社NTTサイバースペース研究所.
2003年より株式会社NTTデータ技術開発本部所属.
特許文書解析技術の開発に従事.
 
[16:50-17:30]講演7「知の構造化と知財戦略」
 
 [講演概要]
情報化時代は情報爆発の時代でもある.学術研究分野では研究の深化で縦割り構造の中に膨大な情報が発信され蓄積されている.知の爆発は知識の総量の増加という正の側面と同時に,研究者が細分化する専門分野の中で自己の研究のごく周辺部の知識すら十分に把握できず,周辺分野あるいは異分野の知の進展を取り込んだイノベーションの機会を潜在的に失っているという負の側面を持つ.また,学術研究成果は環境や医療といった課題解決の知恵として社会に還元されなければならないが,縦割り構造の中で爆発する知識はその期待に応えにくい.「知の構造化」の研究は学術知識を俯瞰的に認識する必要性から推進されておりその手法は,課題解決の現場への寄与のみならず知財の活用という知財戦略にも有効である.本講演では現在東京大学で推進されている,「知の構造化」プロジェクトから学術知識俯瞰マップの研究手法と例を紹介し,その応用について論ずる.
 
 松島 克守(東大)
航空機エンジンの生産技術者を経て,東京大学で生産システムの知能化の研究に従事.
西ドイツ・フンボルト財団の奨学研究員としてベルリン工大で研究に従事.
その後,日本IBMでマーケティングの責任者を経験し,プライスウォーターハウス経営コンサルタント部門(現IBMビジネスコンサルティング)の日本法人の常務取締役.99年8月より東京大学工学系研究科教授.
研究活動として,知の構造化,地域クラスター形成論,企業価値の実証研究を行っている.
 

 
教育・情報システム論文執筆ワークショップ

9月6日(木)10:00-12:00,15:30-17:30[第2イベント会場(21号館1F 2112教室)]
 
 [企画概要]
教育システムや情報システムの分野では,開発したシステムや事例研究を論文としてまとめるとき,論文の構成や評価の書き方について悩むことが多い.また,研究発表会で好評であった論文を,ジャーナル論文として投稿したが不採録となったというケースが少なくない.本チュートリアルでは,教育・情報システムに関する実務面での実績のある人,これから教育・情報シテム関連の研究をしようとする人を対象に,論文の書き方について考える.チュートリアルでは,論文の基本事項を確認し,ジャーナル論文と研究発表会の予稿集論文との違いについて説明し,事例研究を論文にする方法や評価・考察の仕方,実務データを抽象化する工夫などについて,講師とともに考えていく.

※ワークショップ全体資料
 
 司   会:冨澤 眞樹(前橋工科大)
1987年東京農工大学工学部数理情報工学科卒業.
1994年同大大学院工学研究科電子情報工学専攻博士後期課程修了.博士(工学).
1994年同大助手.1997年前橋工科大学工学部情報工学科講師.
2006年同大工学部生命情報学科講師(学科改編名称変更).情報処理学会会員.
2006年度から情報処理学会情報システムと社会環境研究会幹事.
 
[10:00-10:25]講演1「論文執筆に関する基本事項」 *資料1,9
 
 [講演概要]
「情報処理学会論文誌」原稿執筆案内をもとに,論文作成についての基本的な内容について説明する.これらは,発行の目的,掲載記事の種類,投稿手続き,投稿原稿の取扱い,論文投稿形式などである.特に投稿原稿の取扱いにおける,新規性や有効性などの不備のために不採録となる場合についての説明を行う.さらに,情報システム論文は,社会や企業の業務についての膨大な「文脈」を抜きにしてはシステムや研究の価値説明できないという,特徴を持っている.そのため,この分野の新規性,有効性,信頼性についての評価は難しい.
このような情報システム論文の特徴と評価基準について解説する.
 
 辻 秀一(東海大)
1969年大阪大学基礎工学部電気工学科卒業.1974年同大学大学院基礎工学研究科博士課程修了,工学博士.
1974年〜2000年,三菱電機(株)に勤務.
この間,研究所および開発部門にて,ヒューマンインタフェースや人工知能システムなどの研究開発に従事.
1997年〜2000年,電子商取引実証推進協議会へ出向.2000年4月より東海大学に勤務.
現在,情報理工学部情報メディア学科教授.
 
[10:25-11:00]講演2「IS特集号の総括」 *資料2〜6
 
 金田 重郎(同志社大)
1974年3月京都大学工学部電気第二学科卒業.1976年3月京都大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了.1976年4月日本電信電話公社・武蔵野電気通信研究所・入所.1974年11月工学博士(京都大学).1997年4月同志社大学大学院総合政策科学研究科教授・同工学部教授.現在に至る. 電電公社仕様の大型汎用電子計算機(DIPS-11)主記憶装置の実用化,並びに,主記憶用誤り検出訂正符号の研究に従事した後,音声認識技術の通信サービス適用法の研究を行う.更に,NTT情報通信処理研究所(現情報通信研究所)にてエキスパートシステムの研究・実用化を行った後,知識獲得容易化のために,機械学習の研究を開始した.現在では,決定木学習を中心とする機械学習手法の実問題への適用に興味を持っている.また,エキスパートシステム開発の経験から,現状の手続き/ルールによるシステム構築法に強い疑問を抱き,制約指向プログラミングによるオフィスシステムの実現に興味を持っている.
 
[11:00-11:30]講演3「教育特集号の総括」 *資料7
 
 [講演概要]
教育の評価は人間の一生に匹敵する長い時間を要します.人間の学習能力には個人差が大きく影響します.教育の実施には外からのノイズが避けられません.しかし,それらを克服して普遍的結論を導くために,教育の理論があります.
従来,「情報」教育は論文が書きにくい分野であると言われてきました.これには,査読基準が分かりにくいということが大きいと思います.論文誌の採録の要件として,しばしば,新規性・有効性・信頼性が挙げられますが,より本質的には,読者に有益でなければなりません.
講演では,情報処理学会論文誌の本年8月号で組んだ教育特集を振り返りながら,「情報」教育の論文が読者に有益であるためには,新規性・有効性・信頼性をどのように主張することが望まれるかを述べたいと思います.さらに,論文は研究が終ってから書くのではなく,研究を始めるときに執筆計画も並行して進めることを勧めたいと思います.
 
 中森 眞理雄(農工大)
1977年東大大学院(工・計数)修了.工学博士.同年東京農工大学工学部数理情報工学科講師.
現在同大学工学府情報工学専攻教授.研究テーマはアルゴリズム論・数理計画法とそれらの応用.
情報処理学会のモデルカリキュラムJ90の策定で中心的役割を果たした.
同学会MPS研主査(1995-1999),CE研主査(2006-).
日本オペレーションズ・リサーチ学会理事(1997-1999,2005-2007)・フェロー.
 
[11:30-12:00]講演4「論文作成の課題,そして質疑応答」 *資料8
 
 [講演概要]
情報システムや教育システムの研究は社会や組織の活動と深く関わるために,人を巻き込むテーマが多い.このため,この分野の研究は技術の枠を越えて社会的な関心を強く反映したものとなる.人や環境に依存する度合いが大きいだけに,他者の追試や客観的な評価・考察が困難になり,主観的な主張に過ぎないと評価されることも少なくない.実務データをどのように抽象化するのかは課題となる.基礎理論より技術応用的な研究が多いことも事例報告論文の増加に繋がっている.事例研究であっても,実践記録だけでなく読者とって有用でしかも信頼性を検証できる内容を確保することが必要となる.このような実践フィールドを対象とした研究を論文化する場合の新規性,有用性,信頼性を高めることがこの分野の大きな課題である.そこで,これまでの特集号の編集を通して得られた知見をもとに,論文作成における問題点を整理して,如何に解決するかを考えることにしたい.
 
 神沼 靖子(無所属)
1961年東京理科大理学部数学科卒.
日本鋼管,横浜国大,埼玉大,帝京技科大を経て,2003年前橋工科大を定年退職.博士(学術).
情報処理学会ジャーナルの情報システムや教育に関する特集号の編集に関わる.
主な著書:「問題形成と問題解決(共著.共立.2005)」,「情報システム演習II(共立,2006)」,「情報システム基礎(共著,オーム社,2006)」など.情報処理学会フェロー.情報システム学会,AIS,ACMほか会員.
 
[15:30-16:30]論文作成の課題,そして査読とは
 *当日配布資料をもとに実習
 
[16:30-17:30]質疑応答
 

 
大学の理系学部等における障害のある学生の支援

9月7日(金)10:00-12:00[第2イベント会場(21号館1F 2112教室)]
 
 [企画概要]
統合教育の進展に伴い,障害のある学生が一般の大学に進学する機会も増えている.しかしながら,障害のある学生の受け入れのために,大学として支援体制を整えているところはまだ少ない.また,理系の学部においては,実験があったり,数学・情報処理・化学のように専門的用語・記号を使う教科書が多かったりと,受け入れには文系学部とは異なる課題がある.このシンポジウムでは,障害のある学生を指導した経験のある理系の先生方から,受け入れの経緯や支援策などを語って頂くとともに,日本学生支援機構からは障害学生修学支援ネットワーク事業を紹介して頂く.これらの経験談・情報を通じて,理系学部の教員の方々に,障害のある学生の受け入れに関する知識を深めて頂く.
 
 司   会:渡辺 哲也(国立特別支援教育総研)
1993年北海道大学大学院工学研究科修了.同年水産庁水産工学研究所研究員,1994年障害者職業総合センター研究員,2001年国立特殊教育総合研究所研究員,2005年主任研究官,2007年国立特別支援教育総合研究所主任研究員.この間2004年3月〜8月米国ウィスコンシン大学工学部客員研究員.
音声・触覚情報を用いた視覚障害補償技術の研究開発,障害のある学生の教育的支援などに従事.
電子情報通信学会,日本音響学会等各会員.博士(工学).
 
[10:00-10:05]企画の趣旨説明
 
 渡辺 哲也(国立特別支援教育総研)
1993年北海道大学大学院工学研究科修了.同年水産庁水産工学研究所研究員,1994年障害者職業総合センター研究員,2001年国立特殊教育総合研究所研究員,2005年主任研究官,2007年国立特別支援教育総合研究所主任研究員.この間2004年3月〜8月米国ウィスコンシン大学工学部客員研究員.
音声・触覚情報を用いた視覚障害補償技術の研究開発,障害のある学生の教育的支援などに従事.
電子情報通信学会,日本音響学会等各会員.博士(工学).
 
[10:05-10:25]講演1「視覚障害のある学生の受け入れについて」
 
 [講演概要]
講演者自身が九州大学数学科及び大学院数理学研究科で視覚障害学生を受け入れたときの経験と国際基督教大学で物理学科に視覚障害学生を受け入れたときとそれ以後の取り組みについて同大学の吉野輝雄教授から伺ったお話などを踏まえて,理系分野で視覚障害学生を大学で受け入れるときの課題について,人的な側面と技術的な側面,予算的な問題などを含めて話をする予定である.
 
 鈴木 昌和(九大)
京都大学理学部数学科,フランス政府給費留学生フランスCNRS研究員,九州大学工学部講師,同助教授,同大学数理学研究科教授,現在は数理学研究院教授.
10年余り前に視覚障害学生を受け入れたことがきっかけで,科学的情報をコンピュータ処理する技術の研究を開始,共同研究グループInftyProjectを組織,2005年に理系分野の視覚障害者を支援するNPO法人「サイエンス・アクセイシビリティ・ネット」を設立,同代表理事.
 
[10:25-10:45]講演2「聴覚障害のある学生の受け入れについて」
 
 [講演概要]
過去に聴覚障害のある学生を2名ほど受け入れた経験から,その支援について述べる.1名は大学入学から修士課程まで6年間,もう1名は社会人入学で博士課程4年間(1年休学)の在籍であった.大学のサポート体制としては,講義における情報保障としてノートテイクや手話ボランティアの仲介等があった.教員にも協力を呼びかけ,黒板を向いて話さない,口はハッキリと動かして話すなどを徹底していただく他,場合によっては補聴器用のFMワイヤレスマイクの使用をお願いすることもあった.専門の講義では数式が多く登場することもあり,特に大学院になるとボランティアは理系学生が中心となった.
また研究室の中では,メンバーによるサポート(PC要約筆記を含む)が自然な形で行われ,チームワークにより国際会議を含む学会発表なども問題なく対応できた.研究室のメンバーの「伝えたい」「分かりたい」という気持ちから,バリアフリーな環境が自然に築かれた.
 
 荒井 隆行(上智大)
1989年上智大学理工学部卒業,1994年同大大学院理工学研究科電気・電子工学専攻(博士後期課程)修了.同年上智大学助手.1992〜1993年および1995〜1996年米国Oregon Graduate Institute of Science and Technology客員研究員.1997〜1998年米国California大学Berkeley校付属研究機関International Computer Science Institute客員研究員.2004〜2005年米国Massachusetts Institute of Technology客員研究員.1998年上智大学専任講師,現在同大学教授.博士(工学).音声コミュニケーションに関する研究に従事.IEEE,電子情報通信学会,アメリカ音響学会,日本音響学会等各会員.
 
[10:45-11:05]講演3「肢体不自由のある学生の受け入れについて」
 
 [講演概要]
肢体不自由のある学生2名を学部卒業研究(O. M君)と,大学院博士前期課程(N. M君)で指導した経験から,肢体不自由のある学生の大学での受け入れの課題などについて述べる.受け入れた学生2名は,ともに進行性筋ジストロフィーの傷病を持っており,車いすを利用していた.また,自立的移動は不可能であらゆる場面で支援者を必要としていた.2人には身体機能上の違いがあったが,研究室内ではさほど大きな差異はなかったと考えている.また,研究室で過ごした他の学生も,対応を特別なものとは考えていなかったと思っている.
ここでは,当事者間の個人的な関係,周囲の小さな組織との関係,および大学という大きな組織との関係に分類して課題を整理し,説明する.これらの課題には,単純な物理的な環境課題だけではなく,一緒に生活するという行為に対する人的な関係におけるバリアなども含まれる.
 
 鎌田 一雄(宇都宮大)
1971年山梨大学大学院工学研究科修士課程修了.
東京工業大学助手を経て宇都宮大学工学部情報工学科に勤務.現在同学科教授.
ヒューマンコミュニケーション,障害がある人たちのコミュニケーション支援などの領域に関連する研究に従事.工学博士.
 
[11:05-11:25]講演4「発達障害のある学生の受け入れについて」
 
 [講演概要]
本講演は,担任として発達障害のある学生A君と係わった私の体験談と現在行われているA君に対する支援とその効果について報告する.
A君は少し変わっているが理工系の学校ではよくいるタイプの学生である.ただ,実験レポートなどの文を書くことが非常に苦手であった.そのため,レポートの提出が滞ってしまうこと,またそのことを周りから注意されることで自尊心が傷つけられ,ストレスが増幅し,その結果,パニックを起こすようになった.原因の一つがレポートにあったので,彼に適切な学生に学習支援をお願いし,レポートが書きやすい環境を整えるなどの対応をとった.結果として一度留年はしたが,現在では以前のようなパニックを起こすことはなくなった.
発達障害のある学生を理解できれば対応策は案外簡単なのかも知れない.しかし,本人の意思を尊重しつつ,保護者や教員,クラスメイトを含めた周りの共通理解を得ることが難関の一つであるように思う.
 
 堂平 良一(佐世保高専)
1996年3月筑波大学大学院数学研究科単位取得満期退学.1996年4月佐世保工業高等専門学校講師(一般科目数学).1997年〜1998年学生主事補.1999年4月佐世保工業高等専門学校助教授(一般科目数学).1999年機械工学科2年担任.2000年物質工学科1年担任.2001年電子制御工学科3年担任.2002年〜2003年寮務主事補.
2004年電気工学科2年担任.2005年電子制御工学科2年担任.2006年機械工学科1年担任.2007年4月佐世保工業高等専門学校准教授(一般科目数学).2007年電子制御工学科1年担任.
 
[11:25-11:40]講演5「高等教育機関における障害学生の実態と障害学生修学支援ネットワーク事業等について」
 
 [講演概要]
2006年5月1日現在で日本学生支援機構が調査した「大学・短期大学・高等専門学校における障害学生の修学支援に関する実態調査」の結果によれば,1人以上の障害のある学生が在籍している学校は約6割あり,そのうち障害のある学生が学校に対し支援を申し出て,なおかつ学校が支援を行っているという学校は約4割あることが明らかとなった.こうした背景については,今後調査が必要であるものの,高等教育機関における障害学生の受け入れ体制は,先進的な取り組みを進めている大学がある一方で,全体としては十分な体制が整備されているとは言い難い状況にある.
そのため,日本学生支援機構としては,各大学等のネットワークを構築し,障害のある学生の修学支援体制を整備するため,研修,相談事業,研究促進の3本柱として「障害学生修学支援ネットワーク事業」を実施しているところである.とりわけ,全国を11地域ブロックに分けて,先進的な取り組みを行っている大学を「拠点校」として,全国の大学等で,障害のある学生の修学支援を担当している職員等からの相談に応じる「相談事業」を昨年10月から開始したところである.
こうした取り組み等を通じ,各大学等における障害学生の受け入れの促進に取り組んでまいりたい.
 
 谷川 敦(日本学生支援機構)
1967年6月生(北海道出身).1986年4月北見工業大学.1996年8月文部科学省大臣官房福利課.
1997年7月同政策課.1998年7月同教育助成局地方課.1998年10月同調査係主任.1999年10月同専門職員.2000年4月同調査係長.2001年1月同初等中等教育局初等中等教育企画課調査係長.
2007年4月独立行政法人日本学生支援機構学生生活部特別支援課長.
現在に至る.
 
[11:40-12:00]全体質疑応答
 

 
eポートフォリオによる新たな教育・学習環境の構築と実践

9月7日(金)13:00-16:00[第2イベント会場(21号館1F 2112教室)]
 
 [企画概要]
北米の大学では,1998年頃から始まったコース管理システム(Course Management System,CMS)の普及が一段落ついた2004年頃からeポートフォリオの導入が活発化しつつある.CMSが,「講義」を軸にした一連の教育学習支援を行うためのシステムであるのに対して,eポートフォリオは,課題レポートなどの学習成果物や試験の答案など,学習過程において学生が生成した「学習記録」を保存し,学習指導や就職活動等において利用するためのシステムとして北米では導入がはじまっている.
本企画では,古くから研究が行われているポートフォリオについての講演ならびに,最新のeポートフォリオおよびそのプラットフォームに関する講演を通じ,eポートフォリオの今後の展開について議論を深めることを目的とする.
 
 司   会:梶田 将司(名大)
1990年名古屋大学工学部情報工学科卒業.1995年同大学院工学研究科情報工学専攻博士課程満了,博士(工学).2002年名古屋大学情報連携基盤センター助教授,2003年株式会社エミットジャパン代表取締役兼業,2006年情報連携統括本部情報戦略室兼務,現在に至る.大学における教育・研究活動でのIT活用に関する研究開発に従事.1998年日本音響学会第15回粟屋潔学術奨励賞,2001年電子情報通信学会第56回論文賞.
情報処理学会,電子情報通信学会,日本音響学会,日本教育工学会,IEEE,ACM各会員.
 
[13:00-13:10]イントロダクション
 
[13:10-13:50]講演1「児童・生徒のポートフォリオ学習からティーチング・ポートフォリオまで−システム開発・実践事例・普及−」
 
 [講演概要]
学校教育用スタディシリーズは,CAIシステムとしてのインタラクティブ・スタディ(開発担当:東原義訓)とグループウェアとしてのスタディノート(開発担当:余田義彦)から構成される.スタディノートは,国語,体育,英語などの教科で,児童・生徒のためのマルチメディア・ポートフォリオ・システムとして活用され,インタラクティブ・スタディは,大学生・現職教員のポートフォリオ・システムとして拡張されてきた.これを基礎に,本格的なティーチング・ポートフォリオ・システムのために,米国の教師教育で利用されているTaskStreamやLiveTextなども参考にしながら,プロトタイプを開発して,教育実習や現職教員研修で実践を重ねてきた.本システムは,教員としての資質能力スタンダードベースで,マルチメディアを活用した資質能力エビデンスの蓄積・参照機能,相互評価機能に特徴を有する.ティーチング・ポートフォリオ・システムの概要,実践事例,成果,今後の開発計画等について述べる.
 
 東原 義訓(信州大)
1978年筑波大学第一学群自然学類物理学専攻卒業.1980年同大学大学院修士課程教育研究科教科教育専攻修了(教育学修士).1981年筑波大学電子・情報工学系助手 (学術情報処理センター).
1995年信州大学教育学部附属教育実践研究指導センター助教授.2001年同附属教育実践総合センター教授.2007年同センター長.日本科学教育学会理事.日本教育工学会理事.
1978年より学校教育用システム「スタディシリーズ」の開発に従事.
 
 谷塚 光典(信州大)
1970年埼玉県生まれ.
1993年埼玉大学教育学部卒業.1998年筑波大学大学院博士課程教育学研究科単位取得退学.
筑波大学準研究員,同助手,信州大学教育学部附属教育実践総合センター講師,同助教授を経て,現在,同准教授.この間2003年7月より2004年4月までイリノイ大学シカゴ校客員研究員(文部科学省在外研究員).教員養成におけるティーチング・ポートフォリオの活用に関する研究に従事.
 
[13:50-14:30]講演2「eポートフォリオを活用したマルチキャリアパス支援」
 
 [講演概要]
ポートフォリオは,学習過程及び成果と評価が一体化した手法であり,評価項目の決定や,カリキュラムの変更など,組織だった議論を必要とするため,導入までには数年単位の時間が費やされる.このため,従来のポートフォリオ評価をそのまま導入するのは容易ではなく,海外においては高い評価が得られているにもかかわらず,日本での普及が遅れているのが現状である.
そこで我々は,組織だった議論なしに,システマティックに導入できるロールモデル型eポートフォリオ(Role Model based e-Portfolio:RMP)システムを提案し,構築を行った.本システムは,日本女子大学が長年にわたり蓄積してきた人的資源である卒業生をロールモデルとし,在学生の目標設定に活用することで学習目的・学習パスを明確にできる.また,ロールモデルデータは,業種・職種別または会社別に分類されており,その職業で活躍するために今後どのような能力を身につけるべきかという指標を得たり,職業適性診断に活用したりすることができる.
本講演では,RMPシステムの概要について紹介し,マルチキャリアパス支援への適用について述べる.
 
 小川 賀代(日本女子大)
1993年日本女子大学家政学部家政理学科I部物理系卒業.1995年早稲田大学大学院理工学研究科物理学及び応用物理学専攻修士課程修了.1999年同大学院理工学研究科物理学及び応用物理学専攻博士課程満了,早稲田大学理工学部助手.2001年日本女子大学理学部助手.2005年日本女子大学理学部専任講師.博士(工学).光無線通信システムの開発,eポートフォリオシステムの開発に関する研究に従事.2000年Poster prize of Optics within life science,2006年教育システム情報学会第31回全国大会研究奨励賞.電子情報通信学会,応用物理学会,日本光学会,日本教育工学会,教育システム情報学会,SPIE各会員.
 
[14:40-15:20]講演3「Sakai and Open Source Portfolio」
 
 [講演概要]
1980年代に始まった情報革命により,今では,情報技術の活用なしにはすべての学問が成り立たない状況となっている.その結果,ネットワークサービスの上位に位置する学術活動を支えるアプリケーションを開発・運用するための次世代学術情報基盤の構築が急務になっている.
北米の大学では,Andrew W. Mellon財団やNSFによる支援の下,大学ポータル構築のための開発フレームワークとして大きな成功を収めたJA-SIGのuPortalを発端に,オープンソースソフトウェアにより学術活動を支えるアプリケーションサービスやその構築のためのミドルウェアの開発の流れが加速している.現在では,100を越える主要な大学が参加するSakai Foundationが設立され,「コミュニティソース」という言葉で具現化されたアプリケーション開発フレームワークとその開発者・運用者・利用者のコミュニティが形成されはじめている.
本発表では,コミュニティソースのSakaiおよびそのサブプロジェクトであるOpen Source Portfolio(OSP)の現状をまとめるとともに,我が国におけるコミュニティソースによる次世代学術情報基盤整備の展望について述べる.
 
 梶田 将司(名大)
1990年名古屋大学工学部情報工学科卒業.1995年同大学院工学研究科情報工学専攻博士課程満了,博士(工学).2002年名古屋大学情報連携基盤センター助教授,2003年株式会社エミットジャパン代表取締役兼業,2006年情報連携統括本部情報戦略室兼務,現在に至る.大学における教育・研究活動でのIT活用に関する研究開発に従事.1998年日本音響学会第15回粟屋潔学術奨励賞,2001年電子情報通信学会第56回論文賞.
情報処理学会,電子情報通信学会,日本音響学会,日本教育工学会,IEEE,ACM各会員.
 
[15:20-16:00]総合討論
 

 
FIT2007 論文賞セッション

9月5日(火)10:00-17:00[第3イベント会場(21号館1F 2113教室)]

 
午前の部[10:00-12:00]
※著者の○,◎はそれぞれ講演者を示し,◎は「FITヤングリサーチャー賞」受賞候補の資格対象であることを示します.(2007年12月31日時点で32歳以下)
 
[10:00-10:30]講演1: Analysis of an Edge Coloring Algorithm Using Chernoff Bounds
  ○謝 旭珍・柳浦睦憲・小野孝夫・平田富夫(名大)
 
[10:30-11:00]講演2:自動メモ化プロセッサの消費エネルギー評価
  ◎島崎裕介(名工大)・池内康樹(ACCESS)・津邑公暁(名工大)・中島 浩(京大)・松尾啓志(名工大)・中島康彦(奈良先端大)
 
[11:00-11:30]講演3: Relative Innovatorの発見によるパーソナライズ手法の提案
  ○川前徳章・山田武士・上田修功(NTT)
 
[11:30-12:00]講演4:大規模自律エージェントシステムにおける契約ネットプロトコルの効率特性
  ○菅原俊治(早大)・福田健介(国立情報学研)・廣津登志夫(豊橋技科大)・栗原 聡(阪大)
 
午後の部[13:00-16:00]
※著者の○,◎はそれぞれ講演者を示し,◎は「FITヤングリサーチャー賞」受賞候補の資格対象であることを示します.(2007年12月31日時点で32歳以下)
 
[13:00-13:30]講演5:ノイズのある環境下でオンライン学習が可能な自己増殖型ニューラルネットワークを用いた連想記憶モデル
  ◎須藤明人・佐藤彰洋・長谷川修(東工大)
 
[13:30-14:00]講演6:低品質文字列を認識するための文字間空隙特徴の利用
  ◎石田皓之・高橋友和・井手一郎・村瀬 洋(名大)
 
[14:00-14:30]講演7: “No news is good news”規準を利用した行動教示の学習
  ◎田中一晶・左  祥・嵯峨野泰明・岡 夏樹(京都工繊大)
 
[14:30-15:00]講演8:OS資源ビューの仮想化を用いた分散システムテストベッド
  ◎西川賀樹(東大)・大山恵弘(電通大)・米澤明憲(東大)
 
[15:00-15:30]講演9:P2Pネットワークのための分散ハッシュ型認証手法
  ◎武田敦志(東北文化学園大)・北形 元(東北大)・松島 悠(新日鉄ソリューションズ)・木下哲男・白鳥則郎(東北大)
 
[15:30-16:00]講演10:視覚障害者向け案内システムの実証的評価
  ○深澤紀子・水上直樹・松原 広・土屋隆司(鉄道総研)
 
選考会議[16:00-17:00]
 

 
ロボットや機械とのコミュニケーション−人間らしさ,機械らしさとは?−

9月6日(木)10:00-12:00[第3イベント会場(21号館1F 2113教室)]
 
 [企画概要]
太古より人間同士のコミュニケーション方法として用いてきた音声対話やジェスチャーを,人間と機械やロボットのコミュニケーション方法として活用しようとすることは自然な流れであり,数多くの研究が行われている.例えば,機械と音声対話でコミュニケーションをとりながらタスクを行うタスク指向型音声対話システムや,機械と音声対話でコミュニケーションを行うこと自体が目的である雑談型音声対話システム,人間とそっくりな容姿と身体性を持ったコミュニケーションロボットと呼ばれるものも研究されている.一方,人間と機械は別の存在であるため,人間と機械のコミュニケーションにおいて人間同士のコミュニケーション方法が全てそのまま当てはまるとは限らず,人間と機械における満足度の高い独自のコミュニケーション方法が存在する可能性もある.では,人間が機械やロボットと心地よいコミュニケーションを行うことができ,何度も使いたくなる満足度の高いインターフェースを作るために必要な人間らしさ,機械らしさとはどのようなものなのだろうかを議論する.
 
 司   会:伊藤 敏彦(北大)
1971年生.1999年豊橋技術科学大学大学院工学研究科博士後期課程電子・情報工学専攻修了.
同年静岡大学情報学部情報科学科助手.
2004年北海道大学情報科学研究科メディアネットワーク専攻助教授.
2007年北海道大学情報科学研究科メディアネットワーク専攻准教授.
博士(工学).車載情報機器,音声言語情報処理研究に従事.
 
[10:00-10:30]講演1「ヒトとモノの中間的な存在がもつ力:子どもの視点からヒトらしさ・機械らしさを考える」
 
 [講演概要]
シンプルなコミュニケーションロボットを使って,子どもたち(自閉症児・定型発達児)からロボットへの自発的なコミュニケーション行為を長期観察してきた.子どもたちは,ロボットの行為を積極的に意味づけ,自分たちの行為ループのなかに取り込んでいく.このようなフィールド観察から,子どもたちからの社会的行為(コミュニケーション行為)を引き出す「身体」の条件を考察したい.著者は,必ずしもヒトらしい形態がコミュニケーションに必須ではないと考え,むしろ子どもからの社会的な意味づけ・取り込みを誘うような形態と機能をもたせることが重要であると考える.とくに何らかの対象に注意(視線)を向けることや,その対象についての情動を表出することを,子どもから見て直観的に理解できることがカギになるだろう.
 
 小嶋 秀樹(NICT)
1994年電気通信大学大学院電気通信学研究科情報工学専攻博士後期課程修了.博士(工学).
同年郵政省通信総合研究所(現情報通信研究機構)入所,関西先端研究センター(神戸市)研究官.
1998〜1999年MIT人工知能研究所客員研究員.
現在,独立行政法人情報通信研究機構知識創成コミュニケーション研究センター(京都府相楽郡)主任研究員.
認知科学・ロボティクス・計算言語学・発達心理学・自閉症療育などに興味をもつ.
 
[10:30-11:00]講演2「人間らしいコミュニケーションを目指す−マルチ・チャネルを活かしたコミュニケーション力−」
 
 [講演概要]
心豊かに理解し合える対人関係を築くには,臨機応変にその状況に応じてコミュニケーション力を使える必要がある.環境に応じて,適切なメッセージを発信し,他者からのメッセージを読み取るのか,また,他者との関係を目的に合わせていかに円滑に持続/展開するのかが基本的なスキルとして必要である.このスキルによって感性豊かな人間らしいコミュニケーションが可能となる.さらに,特定の対人的な機能を達成するためのスキル(関係開始・維持,リーダーシップの発揮など)があり,さらに,継続的な働きかけを要する,集団運営,異文化適応などの目的が特化されたスキルがある.さらに,円滑な対人関係を展開するためには,状況に応じてスキルを使い分け,変化への対応をできてこそ,人間らしいコミュニケーションなのである.コミュニケーションには機能の異なる多数のチャネルがあるので,その特性を把握し,複数のチャネルを臨機応変に組み合わせることが重要である.
 
 大坊 郁夫(阪大)
北海道大学文学部卒業,文学研究科修了.
札幌医科大学(助手),山形大学(講師,助教授),北星学園大学文学部,社会福祉学部教授,
2000年4月から大阪大学大学院人間科学研究科(対人社会心理学)教授,
日本社会心理学会会長,2005-2007年電子情報通信学会HCS委員長,「しぐさのコミュニケーション」(単著,サイエンス社),「社会的スキル向上を目指す対人コミュニケーション」(編著,ナカニシヤ出版)など.
 
[11:00-11:30]講演3「HAI:ヒューマンエージェントインタラクション−人とやさしく協調できる機械を目指して−」
 
 [講演概要]
今世紀に入り,擬人化エージェントを利用したユーザインタフェースがさまざまな分野で利用され,ペットロボットが一般家庭に普及するなど,エージェントやロボットが一般ユーザにとって非常に身近な存在になってきている.このような,これまでエージェントに接することのなかった多くの一般エンドユーザが,エージェントとインタラクションをもつようになる状況では,人間と知的な機械であるエージェントやロボットが,「どのように上手くつき合っていくのか」,またそのためには,「人間とエージェントとの間に,どのようなインタラクションを設計すればよいのか」という新しい工学的課題が生じる.この課題に挑戦する研究領域であるヒューマンエージェントインタラクションHAI(Human-AgentInteraction)について,基本概念,現時点での成果,これからの見通しについて紹介する.
 
 山田 誠二(国立情報学研)
1984年大阪大学基礎工学部卒業,1989年同大学博士課程修了.工学博士.
同年大阪大学基礎工学部助手.1991年同大学産業科学研究所講師.
1996年東京工業大学大学院総合理工学研究科助教授.
2002年国立情報学研究所教授,現在にいたる.
人工知能特に,ヒューマンエージェントインタラクション,知的Webに興味を持つ.
 
[11:30-12:00]パネル討論「機械やロボットとのコミュニケーション−何度も使いたくなるインターフェイスを目指して−」
 
 [討論概要]
人間同士のコミュニケーションの枠組みを人間と機械という異質のコミュニケーションに用いる枠組みとして,タスク指向型音声対話システムや,雑談型音声対話システム,コミュニケーションロボットと呼ばれるものが研究されている.
一方,人間と機械は別の存在であるため,人間同士のコミュニケーション方法が全てそのまま当てはまるとは限らず,人間と機械における満足度の高い独自のコミュニケーション方法が存在する可能性もある.
では,異質な存在である機械やロボットが,人間と心地よいコミュニケーションを行い,何度も使いたくなる満足度の高いインターフェースとなるために,必要な人間らしさ,機械らしさとはどのようなものなのだろうかを議論する.
 
 司   会:伊藤 敏彦(北大)
1971年生.1999年豊橋技術科学大学大学院工学研究科博士後期課程電子・情報工学専攻修了.
同年静岡大学情報学部情報科学科助手.
2004年北海道大学情報科学研究科メディアネットワーク専攻助教授.
2007年北海道大学情報科学研究科メディアネットワーク専攻准教授.
博士(工学).車載情報機器,音声言語情報処理研究に従事.
 パネリスト:小嶋 秀樹(NICT)
1994年電気通信大学大学院電気通信学研究科情報工学専攻博士後期課程修了.博士(工学).
同年郵政省通信総合研究所(現情報通信研究機構)入所,関西先端研究センター(神戸市)研究官.
1998〜1999年MIT人工知能研究所客員研究員.
現在,独立行政法人情報通信研究機構知識創成コミュニケーション研究センター(京都府相楽郡)主任研究員.
認知科学・ロボティクス・計算言語学・発達心理学・自閉症療育などに興味をもつ.
 パネリスト:大坊 郁夫(阪大)
北海道大学文学部卒業,文学研究科修了.
札幌医科大学(助手),山形大学(講師,助教授),北星学園大学文学部,社会福祉学部教授,
2000年4月から大阪大学大学院人間科学研究科(対人社会心理学)教授,
日本社会心理学会会長,2005-2007年電子情報通信学会HCS委員長,「しぐさのコミュニケーション」(単著,サイエンス社),「社会的スキル向上を目指す対人コミュニケーション」(編著,ナカニシヤ出版)など.
 パネリスト:山田 誠二(国立情報学研)
1984年大阪大学基礎工学部卒業,1989年同大学博士課程修了.工学博士.
同年大阪大学基礎工学部助手.1991年同大学産業科学研究所講師.
1996年東京工業大学大学院総合理工学研究科助教授.
2002年国立情報学研究所教授,現在にいたる.
人工知能特に,ヒューマンエージェントインタラクション,知的Webに興味を持つ.
 

 
電子市場構築技術とその応用

9月7日(金)10:00-15:50[第3イベント会場(21号館1F 2113教室)]
 
 [企画概要]
インターネット上のWWW及びWeb2.0技術の発展により,電子商取引の多様性はますます増しており,新しいタイプの電子市場が日々誕生している状況である.GoogleのキーワードオークションやAmazonのアフィリエイト等は,ロングテールのコンセプトを活用した新しいタイプの電子市場の元祖と言える.本チュートリアルでは,このような新しいタイプの電子市場の構築に不可欠な理論的・技術的要素および関連技術を,最新研究成果を交えながら解説する.具体的には,電子市場/オークション/メカニズムデザインの理論的基礎と応用,シミュレーションと人工市場,電子商取引システム,および最新ウェブサービス事情に関して解説する.

※本セッション全体資料
 
 司   会:伊藤 孝行(名工大)
1995年名工大知能情報システム学科卒業.2000年同大大学院博士後期課程修了.博士(工学).
日本学術振興会特別研究員を経て,2001年北陸先端大助教授.2003年名工大助教授.2006年同大産業戦略工学専攻准教授.マルチエージェントシステムの研究に従事.この間,米国南カリフォルニア大学,Harvard大学,MIT各客員研究員.日本ソフトウェア科学会論文賞,AAMAS2006最優秀論文賞,文部科学大臣表彰若手科学者賞,情報処理学会長尾真記念特別賞など受賞.情報処理学会,AAAI,ACM等各会員.
 
[10:00-10:10]講演1「電子市場構築技術とその応用」
 
 [講演概要]
本チュートリアルでは,新しいタイプの電子市場の構築に不可欠な理論的・技術的要素および関連技術を,最新研究成果を交えながら解説する.特に,昨年度から科学技術研究費による企画調査によるメカニズムデザインとその応用に関して研究会やシンポジウムを継続的に開催しているグループメンバーを中心に,電子市場/オークション/メカニズムデザインの理論的基礎と応用,シミュレーションと人工市場,電子商取引システム,および最新ウェブサービス事情に関して解説する.
 
 横尾 真(九大)
1986年東京大学大学院修士課程修了.同年NTTに入社.2004年より九州大学大学院システム情報科学研究院教授.マルチエージェントシステム,制約充足問題に関する研究に従事.博士(工学).
1992年,2002年人工知能学会論文賞,1995年情報処理学会坂井記念特別賞,2004年ACM SIGART Autonomous Agent Research Award,2005年ソフトウェア科学会論文賞,2006年学士院学術奨励賞受賞.情報処理学会,人工知能学会,AAAI等各会員.
 
[10:10-11:00]講演2「電子市場構築技術の理論:オークション理論」
 
 [講演概要]
近年インターネットオークションの市場規模が拡大する一方で,詐欺行為などが問題となっており,効率性と安全性の両立できる電子市場の構築が求められている.この課題に対して,人工知能やエージェント技術の分野でも盛んに研究が行われており,計算機科学と経済学の境界領域において多くの知見の蓄積が進められている.本チュートリアルでは,その中でも新たなオークション方式として注目を集めている組み合わせオークションを取り上げる.これは米国における周波数帯域オークションの成功に端を発するもので,今後適用領域が拡大していくことが期待されている.この組み合わせオークションを実現する上では,いくつかの課題がある.まず,オークションの勝者決定問題で生じる計算量の問題を取り上げ,つぎにインターネット環境で生じる新たな詐欺行為である架空名義入札の問題を取り上げ,それらの解法について詳説する.
 
 横尾 真(九大)
1986年東京大学大学院修士課程修了.同年NTTに入社.2004年より九州大学大学院システム情報科学研究院教授.マルチエージェントシステム,制約充足問題に関する研究に従事.博士(工学).
1992年,2002年人工知能学会論文賞,1995年情報処理学会坂井記念特別賞,2004年ACM SIGART Autonomous Agent Research Award,2005年ソフトウェア科学会論文賞,2006年学士院学術奨励賞受賞.情報処理学会,人工知能学会,AAAI等各会員.
 
 松原 繁夫(京大)
1992年京都大学大学院修士課程修了.同年NTTに入社.
2007年より京都大学大学院情報学研究科准教授.
マルチエージェントシステム,情報経済に関する研究に従事.博士(情報学).
2003年人工知能学会論文賞,2004年情報処理学会研究開発奨励賞,2005年ソフトウェア科学会論文賞受賞.
人工知能学会,日本ソフトウェア科学会,情報処理学会各会員.
 
[11:10-12:00]講演3「電子市場構築技術の応用システム」
 
 [講演概要]
近年インターネット上のオークションに基づく電子市場が数多く実現されており,乱立している状況である.これらの電子市場は非常に簡単なアイデアに基づいて構築されている電子市場から,最新のメカニズムデザインの成果を応用した電子市場がある.本チュートリアルでは具体的な電子市場として実現されているいくつかの事例を概観する.まず,広告の電子市場で最も注目を集めている,GoogleやYahoo!によって用いられている検索連動型広告のオークションメカニズムの歴史と内容を詳細に解説する.次に,ネット上で実際に稼働している最新の電子市場として,広告メディアの電子市場や電子ジョブマーケットについて,その仕組みを説明する.さらに,最新の研究成果に基づいて将来の電子市場を展望する.
 
 伊藤 孝行(名工大)
1995年名工大知能情報システム学科卒業.2000年同大大学院博士後期課程修了.博士(工学).
日本学術振興会特別研究員を経て,2001年北陸先端大助教授.2003年名工大助教授.2006年同大産業戦略工学専攻准教授.マルチエージェントシステムの研究に従事.この間,米国南カリフォルニア大学,Harvard大学,MIT各客員研究員.日本ソフトウェア科学会論文賞,AAMAS2006最優秀論文賞,文部科学大臣表彰若手科学者賞,情報処理学会長尾真記念特別賞など受賞.情報処理学会,AAAI,ACM等各会員.
 
 [講演概要]
本チュートリアルでは,電子市場構築技術の実際の応用システムとして,株式会社まいべすとによって,最近構築された電子ジョブマーケットをビジネスサイドの観点から紹介する.電子ジョブマーケットは,仕事と個々の請け負い人をつなぐことで,育児中の女性のためや,退職後にまだ働きたい世代のために,自宅やその周辺に居ながら,仕事をこなすことができる環境を提供する.これによって,育児中の女性や退職後に働きたい世代が社会参加できているという生き甲斐を持てる人生をサポートする. 本講演では,さらに将来これらの市場をさらにスケールアップすることに関する展望を紹介する.
 
 武藤 良英(まいべすと/イーコミュニケーションズ)
株式会社まいべすと代表取締役社長.株式会社イーコミュニケーションズ代表取締役社長.
1976年10月29日生まれ.
2002年6月株式会社イーコミュニケーションズ設立.
2006年3月東海地区の有望ビジネス10社に選出(中小企業振興社より)
2007年1月経済産業省・中小企業庁より,全国のベンチャー企業の中から,バリューベンチャー12社に選出.
 
[13:00-13:50]講演4「電子市場の計算機シミュレーション」
 
 [講演概要]
電子市場では,様々な思惑を持った人々が今までの市場とは異なる形で相互に影響を与えあっている.そのように複雑な系でのメカニズムデザインには,計算機シミュレーションによる挙動の評価が必要となってくる.本講演では,人間の代わりを務める計算機プログラム(エージェント)が複数参加する計算機上の架空の市場,つまり人工市場シミュレーションに関する基盤手法の紹介および最新の研究成果の解説を行う.個別の項目については次のような内容を予定している.
 ・人工市場シミュレーションによる市場現象の解明,市場理論の検証
 ・人工市場サービスプラットフォームの紹介
 ・百万体エージェントが参加するオークションシミュレーション
 ・大規模マルチエージェントシミュレーション基盤技術の紹介
 
 ・電子市場とシミュレーション−人工市場シミュレーションからサービスへ−
和泉 潔(産総研)

1993年東京大学教養学部基礎科学科第二卒業.1998年同大学院博士課程修了.博士(学術).
同年より,電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)勤務.
マルチエージェントシミュレーション,特に社会シミュレーションに興味がある.
情報処理学会,人工知能学会各会員.
 
 ・異なる戦略を持つエージェントによるオークションシミュレーション
水田 秀行(日本IBM)

1997年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了.
同年日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所入所.
エージェントベース・アプローチによる市場シミュレーション,複雑系社会学,組織解析等のサービス・サイエンスに関連した研究に従事.情報処理学会会員.ACM会員.博士(理学).
 
 ・大規模マルチエージェントシミュレーション環境のためのクラスタ機構
山本 学(日本IBM)

1991年東京工業大学大学院修士課程修了.
同年日本IBM(株)入社,東京基礎研究所配属.
エージェント基盤技術および業務システム基盤技術の研究に従事.
情報処理学会会員.電子情報通信学会会員.
 
[14:00-14:50]講演5「予測市場とその可能性」
 
 [講演概要]
証券市場では,多くの投資家がその証券の将来の価格動向を予測し,それに基づいて取引をする.したがって,そこで成立する価格は,投資家の意見が集約された結果現れる総体としての将来予測と考えることができる.このメカニズムを用いて,将来予測を行うための仮想市場を設定,運営する「予測市場」という考え方に注目が集まっている.ここでは,予測市場という考え方やさまざまな利用方法に関する諸外国の動向,日本における試みなどを紹介し,予測市場の将来について展望する.
 
 山口 浩(駒澤大)
駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部准教授.
日本興亜損害保険(株),財団法人国際金融情報センターを経て現職.
専門はリアルオプション,予測市場,仮想経済等.
主要著書に「リアルオプションと企業経営」(単著,2002年,エコノミスト社),「情報社会論」(共著,2007年,北大路書房)などがある.
 
[15:00-15:50]講演6「Webサービスに基づく電子市場構築技術」
 
 [講演概要]
本講演では,電子市場の構築にとって有益な基礎的技術と最新の研究動向を,Webサービス関連技術を中心に紹介する.
講演内容では,SOAP/HTTPに代表されるWebサービス技術そのものの詳細な解説は避け,むしろ,Webサービス技術とそれによる電子市場の構築によって,どのようなソフトウェアや技術が生まれ,そこでどのような知見が得られ,今後どのような方向性の技術が生まれていくかという点を中心に,過去から現在最先端で研究されている内容に至るまでの様々な技術・研究内容について,Webサービスというキーワードを切り口に,そのエッセンスをわかりやすく紹介する.具体的には,Webとインターネットがまだ初期のころに,講演者らがWeb上のオークションシステム上で自動入札を行うエージェントシステムの開発を通じて得られた知見から,ごく最近のセマンティックWeb技術の動向,および,Webサービスがあるが故に必要となる関連技術に至るまでを扱う.
 
 福田 直樹(静岡大)
1997年名古屋工業大学工学部知能情報システム学科卒業.1999年同大学大学院工学研究科電気情報工学専攻博士前期課程修了.2002年同大学院博士後期課程修了.同年4月より静岡大学情報学部情報科学科助手.
2007年より同学科助教.博士(工学).
エージェント,オントロジー,Webサービスほか,ソフトウェア開発支援への知能化技術の適用とその応用に関する研究に従事.IEEE-CS,ACM,情報処理学会,電子情報通信学会,ソフトウェア科学会,人工知能学会,情報システム学会各会員.
 

 
人の居場所を探る −情報過多のネット時代における個倍化現象−

9月5日(水)10:00-12:00[第4イベント会場(21号館2F 2123教室)]
 
 [企画概要]
我々人間の身体は物理的には一つしか存在し得ないが,多様化する情報化社会の中でその存在や居場所は必ずしも一つではなくなってきている.ネット上の仮想空間で仮想の分身(アバタ)を持って生活したり,日常を忘れてくつろげる第三の場所を求めるサードプレイス志向が流行したりと,現代の人の居場所は多様化している.ネット上にさまざまなサイバーワールドが形成され,さまざまな場所でネット世界との接点が生まれ,そして,そのネット世界とリアルな世界が複雑に絡み合っている.本イベント企画では,昨今の混沌とした情報過多社会において,いかにして自分の存在や居場所が多重化する「個倍化(=個人が同時に複数の立場になれること)」の現象が起こったのかを探る.そして,この個倍化現象に影響を与えた仮想世界のデザイン,技術について議論する.本企画では,お二人の招待講演者をお招きし,ネット上の代表的三次元仮想空間サービスの一つである「Second Life」と,ネットとリアルを融合した新たな居場所を提供する「BarTube」についてご紹介いただき,実例からみた成功要因と現状課題の把握を行うとともに,将来の個倍化生活を展望する.
 
 司   会:羽鳥 好律(東工大)
1971年,東京大学大学工学部電気工学科卒業.
同年,国際電信電話株式会社入社.以来,主として映像通信方式の研究開発に従事.
1986年工学博士,2003年より東京工業大学,現在,総合理工学研究科物理情報システム専攻教授.
サイバーワールド,ネットワークヒューマンインタフェース,映像通信サービスの研究に興味を持っている.電子情報通信学会フェロー,情報処理学会正会員.
 
[10:00-10:10]開会挨拶
 
 全 炳東(千葉大)
千葉大学・総合メディア基盤センター教授.
1989年,慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程修了.
東京大学,東京商船大学(現東京海洋大学)を経て現職.
画像処理,コンピュータビジョンなどの研究に従事.
電子情報通信学会「マルチメディア仮想環境基礎研究専門委員会」委員長.
 
[10:10-11:00]講演1「遂に開かれた3次元世界への扉,"Second Life×メタバースビジネス"とは?−バーチャルリアリティのコンテンツマーケティング−」
 
 [講演概要]
 1.セカンドライフとは
 2.企業参入事例
 3.メタバースの未来
 4.バーチャルリアリティとコンテンツマーケティング
ようやく扉を開いた,3次元世界.その扉はアメリカからだった.しかしその3次元化の波は世界中を覆いつつある.幾多の技術者達の試練を経て生まれた,インターネット上にオープンに開かれた世界,"メタバース"は今も24時間増殖し続けている.
細胞分裂のように休みなく創られていく"メタバース"世界はこれまでのプロモーションに,経営に,開発にどのようなインパクトとイノベーションを与えようとしているのか.
まず簡単に「セカンドライフ」とは何かをご紹介します.その後,企業の参入事例をご紹介し,この流れがどうなっていくのか,そして最後にメタバースの未来と,それに融合するバーチャルリアリティの未来をお伝えします.
 
 大槻 透世二(サイバーアドベンチャー)
サイバーアドベンチャー会社 代表取締役社長.リンデン・ラボ社推薦セカンドライフセミナー講師.
http://www.cyber-adventure.com
デジタルハリウッド大学大学院セカンドライフ研究室研究員/プロデューサー.
次世代インターフェイス研究室研究員.
東北大学心理学専攻卒業.1年間のLA留学を経て,(株)ソリッドレイ研究所にてバーチャルリアリティのシステムインテグレーション,立体映像システム構築,HMDシステム構築などを経験.IT系コンサルティング会社を経て,デジタルハリウッド大学大学院コンテンツマネジメント修士課程修了(MCA)「テーマ:バーチャルリアリティのコンテンツマーケティング」.その後,サンフランシスコのLinden Lab本社にてSecond Lifeカリキュラムの直接トレーニングを受ける.2007年より,企業のコアコンピタンスを活かしたセカンドライフ参入を総合的に支援するサイバーアドベンチャー株式会社を設立,活動開始.
 
[11:00-11:50]講演2「共有する集合知,インターネット紀元後社会の行方−プレゼンスの共有が生むインターネット・テレパシー機能−」
 
 [講演概要]
Web2.0からはじまった,インターネット紀元後社会.
見る読むウェブから,参加活用するウェブへ,さらに,"プレゼンス"を共有することにより,リアル世界へ多大な影響を与えはじめた.
いかにリアルな世界と結びつき,既存の仕組みと融合していくのか?
YouTubeにはじまった動画共有,SNSとミニブログの融合Twitter,RMTを土壌に新たな経済価値を創造するSecond Life,すべてはAPIを共有することによる,無限連鎖サービス群によるコミュニティ市場が形成される.
メディア化する消費者,プロ化するアマチュア.テクノロジーは人類にとって本当に福音の鐘を鳴らしているのだろうか?
リアル社会をサイバー社会で可視化することは,リアルとネットの歩み寄る社会の始まりでもある.86世代(小学校から常時接続の1986年生まれ)の登場でどのように社会が変革するのか?近未来のネットとリアル社会を大胆に予測する.
 
 神田 敏晶(KandaNewsNetwork, Inc.)
神戸市生まれ.
ワインの企画・調査・販売などのマーケティング業を経て,コンピュータ雑誌の企画編集とDTP研究に携わる.CD-ROMメディア制作を経て,1995年よりビデオストリーミングによる個人放送局「KandaNewsNetwork」を運営開始.
ビデオカメラ一台で,世界のIT企業や展示会取材に東奔西走中.
 
[11:50-12:00]閉会挨拶
 
 田中 英彦(情報セキュリティ大)
1970年東京大学大学院博士課程修了,工学博士.
東京大学情報理工学系研究科教授・研究科長を経て,2004年,情報セキュリティ大学院大学教授.
計算機アーキテクチャ,分散処理,デペンダブル情報システム等に興味を持つ.
著書に「非ノイマンコンピュータ」「計算機アーキテクチャ」「Parallel Inference Engine」などがある.
日本学術会議会員,電子情報通信学会,情報処理学会,IEEE,各フェロー.
 

 
近未来技術と情報科学−次世代ロボット技術を展望する−

9月5日(水)13:00-17:30[第4イベント会場(21号館2F 2123教室)]
 
 [企画概要]
近い将来,超高齢社会に突入する日本.我々は,ロボットにどのようなことを望むのだろうか?人手をまかなってほしい,話を聞いてほしい,身の異変に気づいてほしい,など多岐にわたるであろう.近年のロボティクスでは,人と共存するロボットの開発が進んでいるが,これらの要望に十分に答えているとは言いがたい.一方で,情報科学技術は,ロボティクスに大いに関与しており,今,情報科学の視点からどのようにロボティクスをサポートしていくかが問われている.本シンポジウムでは,近未来ロボットと情報科学の関わり方と,その進むべき道を探る.
 
 司   会:伊藤 英則(名工大)
1974年名古屋大学大学院工学研究科博士課程電気電子専攻満了.工学博士号取得.
1974年日本電信電話公社横須賀研究所勤務.1985年(財)新世代コンピュータ技術開発機構出向.
1989年名古屋工業大学大学院教授.
情報工学専攻.数理言語理論,計算機ネットワーク通信,OS,人工知能などの研究開発に従事.
電子情報通信学会,情報処理学会,日本ロボット学会,形の科学会,日本感性工学会各会員.
 
[13:00-13:20]講演1「身体性技術(Technologies of Embodiment)」
 
 [講演概要]
ここにいう身体性技術とは,最も抽象的には,精神世界と物質世界の間に生じるアンビバレンスのなかに新しいリアリティを創り出すハイブリッドな技術のことである.具体的には,物理世界のタスクを支援するバーチャル技術,本来身と心のアンビバレントな存在である人間と整合するロボットや機能代行システムの技術,体内へのコンピュータ埋め込み技術,工学的知識に裏付けされたスポーツ,健康技術などがふくまれる.これらの技術は時空間の身体的意味解釈を基本とする.時空間を捨象する多くの情報伝達・処理モデルがこの要請に応じ得ないとすれば新しいモデルが望まれる.本現地企画は概ねこの線に沿っている.
 
 福村 晃夫(名大/中京大)
1925年広島県生.1949年名古屋大学工学部電気学科卒.
同大学助教授,教授を経て1988年名誉教授.同年中京大学教授,2000年名誉教授.
その間1986年人工知能学会初代会長.情報処理学会,人工知能学会名誉会員,電子情報通信学会フェロー.現在中京大学顧問,人工知能研究振興財団顧問,栢森情報科学振興財団審査委員などを通して学術振興に微力を尽くす.
 
[13:20-14:10]講演2「ロボットソフトウェアアーキテクチャを考える」
 
 [講演概要]
ソフトの開発は,ハード環境・効率等の様々の要因を考慮しつつ,タスク分析し,適切なアーキテクチャを選択し,その枠の中でソフトを設計し,実装する.現在,ロボットソフトも同様な手順によって開発されている.オブジェクト指向は,主要な枠の1つである.視覚情報処理,プランニング,運動制御等の各々の専門家が別々に開発したソフトを統合するのによい方針であると考えられている.この方針にもとづいて,開発されたソフトは,問題なく動く.
しかし,ロボットソフトに本当に期待されている機能は,今のところ,この枠では実装できていない.ロボットは動き回る.ロボットソフト開発者は,様々の状況下で問題なく動くソフトはできないか,と常に考えている.その時々で状況は変わってしまうのである.さらに,コンテキストの問題もある.時間的前後関係なしでその場の状況のみでも,ロボットの最良の動作を選択することができない.ここでは,このような問題点に関して富士通が行っている取り組みについてお話をする.
 
 永嶋 史朗(富士通研)
1959年8月23日,両国生まれ.1989年慶応義塾大学大学院後期博士課程修了.
流体運動の安定性,熱流体運動の研究に従事.工学博士.同年(株)富士通研究所入社.
ロボット運動シミュレーション,ロボット運動生成・制御,ロボットソフトウェアシステムアーキテクチャの研究開発に従事.日本ロボット学会会員,日本機械学会会員.
2000年第14回日本ロボット学会論文賞受賞. 2004年第9回日本ロボット学会実用化技術賞受賞.
 
[14:20-15:10]講演3「ヒトに優しい介護支援ロボットの設計と評価」
 
 [講演概要]
本講演では,高い臨場感を有する没入型動力学シミュレーション技術を用いた介護支援作業などに見られるヒトとの力学的な相互作用を有するロボットの安全安心な設計・評価技術について紹介する.またこの技術を用いて開発されたロボットRI-MANの構成と機能について解説をし,今後におけるロボットによる介護支援作業の研究課題を考察する.これを踏まえて,次世代ロボットにとって情報とは何か?知能とは何か?などの本質的な問題について議論をし,21世紀における情報科学・システム工学研究開発の新展開を展望する.また,生命科学研究との連携が欠かせないことを強調する.
 
 羅 志偉(神戸大)
1992年名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻修了.博士(工学).同年豊橋技術科学大学助手.
1994年理化学研究所フロンティア研究員.1999年山形大学工学部助教授.2001年理化学研究所バイオ・ミメティックコントロール研究センター環境適応ロボットシステム研究チームチームリーダー.2006年神戸大学工学部教授.知能ロボット工学,システム制御理論,生物の運動制御機能解析などの研究開発に従事.IEEE,計測自動制御学会,日本ロボット学会,日本神経回路学会各会員.
 
[15:20-16:10]講演4「NECにおけるパーソナルロボットの研究開発−パーソナルロボットPaPeRoやCG PaPeRoで目指す人にやさしいインタフェース−」
 
 [講演概要]
NECでは97年より,メカに特徴を持つのではなく,人とのインタラクション機能に注力した,情報処理系インタフェースおよびインタラクティブメディアとしてのパーソナルロボットの研究開発を行なっている.本講演では,試作ロボットであるパーソナルロボットPaPeRoに搭載された各種技術の概要や,家庭モニタ評価,万博出展,幼児施設,漫才ロボットなどの各種実証実験などを紹介し,その狙いや展望を述べる.
 
 藤田 善弘(NEC)
京都大学大学院修士卒,NECに入社後,動画像認識処理向け並列処理プロセッサIMAPを考案し,96年まで研究開発に従事.97年よりNECの保有する認識技術を活用するインタフェースとしてのパーソナルロボットの研究開発に着手し,99年に初代試作ロボットのR100,01年に試作2号機のPaPeRoを開発.
ロボットのコミュニケーション能力の向上や事業化を目指し研究開発・応用検討・実証実験などを行なっている.京都大学博士(情報学).
 
[16:30-17:30]パネル討論「近未来ロボティクスと情報科学」
 
 [討論概要]
ロボティクスは学際的な学問であり,情報科学技術はそれに大いに関与している.近年では,人と共存するロボットの開発が前進しており,人と心理的・生理的に関わる場面を想定することが必須となりつつある.本パネルセッションでは,前出の3名の講演者の方々に加え,中京大学でロボティクスを研究しておられる先生をパネラーとして迎え,ロボット情報技術が我々の生活へ与える効果・影響について多角的に意見を集約し,今後のロボティクスにおける情報技術の方向性を議論する.
 
 司   会:伊藤 英則(名工大)
1974年名古屋大学大学院工学研究科博士課程電気電子専攻満了.工学博士号取得.
1974年日本電信電話公社横須賀研究所勤務.1985年(財)新世代コンピュータ技術開発機構出向.
1989年名古屋工業大学大学院教授.
情報工学専攻.数理言語理論,計算機ネットワーク通信,OS,人工知能などの研究開発に従事.
電子情報通信学会,情報処理学会,日本ロボット学会,形の科学会,日本感性工学会各会員.
 パネリスト【知能ロボット】:永嶋 史朗(富士通研)
1959年8月23日,両国生まれ.1989年慶応義塾大学大学院後期博士課程修了.
流体運動の安定性,熱流体運動の研究に従事.工学博士.同年(株)富士通研究所入社.
ロボット運動シミュレーション,ロボット運動生成・制御,ロボットソフトウェアシステムアーキテクチャの研究開発に従事.日本ロボット学会会員,日本機械学会会員.
2000年第14回日本ロボット学会論文賞受賞. 2004年第9回日本ロボット学会実用化技術賞受賞.
 パネリスト【福祉ロボット】:羅 志偉(神戸大)
1992年名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻修了.博士(工学).同年豊橋技術科学大学助手.
1994年理化学研究所フロンティア研究員.1999年山形大学工学部助教授.2001年理化学研究所バイオ・ミメティックコントロール研究センター環境適応ロボットシステム研究チームチームリーダー.2006年神戸大学工学部教授.知能ロボット工学,システム制御理論,生物の運動制御機能解析などの研究開発に従事.IEEE,計測自動制御学会,日本ロボット学会,日本神経回路学会各会員.
 パネリスト【コミュニケーションロボット】:藤田 善弘(NEC)
京都大学大学院修士卒,NECに入社後,動画像認識処理向け並列処理プロセッサIMAPを考案し,96年まで研究開発に従事.97年よりNECの保有する認識技術を活用するインタフェースとしてのパーソナルロボットの研究開発に着手し,99年に初代試作ロボットのR100,01年に試作2号機のPaPeRoを開発.
ロボットのコミュニケーション能力の向上や事業化を目指し研究開発・応用検討・実証実験などを行なっている.京都大学博士(情報学).
 パネリスト【レスキューロボット】:清水 優(中京大)
1991年3月名古屋工業大学工学部機械工学科卒業.1991年4月中京大学情報科学部助手就任.
2000年4月同講師就任.2007年4月同准教授就任(現在に至る).
2000年まで,高速・連続三次元計測装置の研究に従事.
その後,小型移動ロボットの為の要素技術開発を経て,現在は小型レスキューロボットの開発を行っている.
電子情報通信学会,情報処理学会,日本ロボット学会,日本機械学会,画像電子学会各会員.
 パネリスト【ロボットビジョン】:青木 公也(中京大)
1995年3月慶應義塾大学機械工学科卒業.1997年3月同大学大学院理工学研究科修士課程(機械工学専攻)修了.
2000年3月同後期博士課程(機械工学専攻)修了,博士(工学).2000年4月豊橋技術科学大学情報工学系助手.2004年4月中京大学情報科学部情報科学科講師.2006年4月同大学情報理工学部情報システム工学科講師.
2007年4月同准教授,現在に至る.画像処理の産業応用,マシンビジョン,CV・CGの研究に従事.
電子情報通信学会,日本非破壊検査協会,精密工学会,日本機械学会各会員.
 パネリスト【感性ロボット】:加納 政芳(中京大)
1999年名古屋工業大学工学部知能情報システム学科卒業.2004年同大学大学院工学研究科博士後期課程修了.同年中京大学生命システム工学部講師.博士(工学).探索問題,知能・感性ロボティクスなどに興味を持ち,多数の企業が共同開発した感性会話ロボット「ifbot」の開発プロジェクトに参加.現在も感性ロボットの研究開発を進める.第65回情報処理学会全国大会奨励賞,第66回情報処理学会全国大会優秀賞,2006年度日本感性工学会技術賞受賞.情報処理学会,人工知能学会などの会員.
 パネリスト【エンターテインメント(似顔絵)ロボット】:藤原 孝幸(中京大)
2003年9月中京大学大学院情報科学研究科博士課程修了.情報科学博士.
2003年同大学情報科学部助手.2006年情報理工学部助手.
画像処理,特に人間の顔に対するマシンビジョンの研究.2次元,3次元の顔画像処理と顔認識,似顔絵生成システムへの利用の研究に従事.
電気学会,情報処理学会,芸術科学会,日本顔学会各会員.
 

 
近未来技術と情報科学−スポーツと情報技術−

9月6日(木)10:00-12:00[第4イベント会場(21号館2F 2123教室)]
 
 [企画概要]
スポーツには,人間の身体能力の限界を追求するという競技志向的な側面と,人間生活に健全さと潤いを与えるという教育・文化的な側面がある.その両面でさらなる進歩と新しい価値を求めるとき,その手段として情報技術にかかる期待は大きい.本シンポジウムでは,スポーツを対象にした映像技術や計測技術に関する発表を通して,理論・方法論とそれを実際の現場へ応用する際の様々な課題について議論し,スポーツ情報科学とも言うべき学際分野の意義と将来を展望する.講演では,会場校の中京大学で行われている研究を中心に,新方式のカメラを用いた個人スポーツの動作解析,多視点映像を用いたチームスポーツの付加価値映像生成,トレーニング支援を目的とした可視化システム,運動スキル獲得への認知科学的アプローチなどに関する最新の研究成果を紹介する.
 
 司   会:長谷川 純一(中京大)
1974年名古屋大学工学部電気学科卒業.1979年同大学院工学研究科博士課程(情報工学専攻)修了.
同年名古屋大学工学部助手,1986年同講師.1987年より中京大学へ移り,教養部助教授,情報科学部教授などを経て,2004年より生命システム工学部教授・学部長.工学博士.
画像処理,パタ−ン認識,可視化シミュレーション,および,それらの医療・スポーツへの応用に関する研究に従事.日本医用画像工学会論文賞,日本エム・イー学会論文賞,芸術科学会論文賞などを受賞.
 
[10:00-10:05]企画者挨拶
 
[10:05-10:30]講演1「蛍狩りカメラを用いたアスリートの運動解析システムの提案」
 
 [講演概要]
多数のLED群(闇夜を乱舞する蛍の群れ)の位置を一挙に計測できる単眼カメラ(Firefly Capturing Camera;FCC)を富士ゼロックス社と共同開発した.本発表では,オリンピック選手のパフォーマンスの予備計測,および,回転運動の解析を試みたので,FCCの原理とともに述べ,今後の課題を展望する.
 
 ○藤原 孝幸(中京大),室伏 広治(中京大/ミズノ),湯浅 影元,輿水 大和(中京大)
【○印は講演者】

2003年9月中京大学大学院情報科学研究科博士課程修了.情報科学博士.
2003年同大学情報科学部助手.2006年情報理工学部助手.
画像処理,特に人間の顔に対するマシンビジョンの研究.2次元,3次元の顔画像処理と顔認識,似顔絵生成システムへの利用の研究に従事.
電気学会,情報処理学会,芸術科学会,日本顔学会各会員.
 
[10:30-10:55]講演2「スポーツ放送のための多視点カメラシステムの応用」
 
 [講演概要]
発表者の一人である慶大の斎藤の研究室では,2000年ごろから,サッカー等のスポーツシーンを対象として撮影した多視点画像から,多視点カメラ間の射影幾何学的関係やシーンの平面性を利用して,キャリブレーションを事前に行わないで撮影された多視点画像から,自由視点画像を生成するための手法について研究を進めている.本報告では,その技術を実際のスポーツ中継放送等で利用するための事例について紹介する.さらに,オンラインでカメラをトラッキングすることにより新たな映像提示が可能となる複合現実表示技術を,多視点カメラシステムで撮影されたスポーツ映像の提示に応用することを目指したシステムについても紹介する.
 
 ○斎藤 英雄,林 邦彦,植松 裕子(慶大),川本 哲也(中京テレビ),窪川 直毅,藤原 徹(日本テレビ)
【○印は講演者】

1987年慶大理工電気卒.1992年同理工学研究科博士課程修了.博士(工学).
1992年慶大理工学部助手,専任講師,助教授を経て,2006年より同教授.
1997年〜1999年米国カーネギーメロン大学ロボティクス研究所訪問研究員,
2000年〜2003年JSTさきがけ研究21研究員兼務.画像処理・コンピュータビジョンに関する研究に従事.最近は,マルチカメラを用いた自由視点映像生成,ビジョンベースの複合現実感システムに関する研究等に従事.
 
[11:00-11:25]講演3「スポーツ競技における運動情報の可視化」
 
 [講演概要]
スポーツ競技者のトレーニング支援を目的とした映像生成システムについて取り上げる.具体的には,競技者の運動情報と姿勢情報を統合したリアルタイムの映像フィードバックシステム,および,通常は目で見ることのできない競技スペースやパスコースの可視化方法について述べ,それらを実際の競技へ適用した例をいくつか紹介する.また,具体的なトレーニングへの応用に向けた取り組みと,その課題について議論する.
 
 ○瀧 剛志,長谷川 純一,北川 薫(中京大)
【○印は講演者】

1999年中京大学大学院情報科学研究科情報認知科学専攻了.博士(情報科学).
同年,中京大学情報科学部助手,2004年から同大生命システム工学部講師,現在に至る.
画像認識,コンピュータグラフィックス,および,それらの集団行動・スポーツ応用に関する研究に従事.
電子情報通信学会,日本写真測量学会,日本体育学会,日本フットボール学会各会員.
 
[11:25-11:50]講演4「スポーツの技の習得のためのメタ認知的言語化:学習方法論(how)を探究する実践」
 
 [講演概要]
未熟練者が(身体知を獲得して)熟練者に成長するプロセスを促すための方法論(how)として,体感を言語化するメタ認知手法が有効であることを,実践例をもとに論じる.メタ認知が促すものは「身体行為−知覚−ことばの共進化」である.スポーツ科学で盛んに行われている,映像分析や身体計測によるexpert-novice difference研究(学習者が何を学ぶべきかを示唆する「what研究」)とは相補的関係にあり,今後,what-how両研究の併用の方法論の探究が急務となる.
 
 諏訪 正樹(中京大)
1984年東京大学工学部卒業.1989年同大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士).同年,(株)日立製作所基礎研究所入社,推論学習の研究に従事.1994~96年スタンフォード大学CSLI研究所にて客員研究員.1997年よりオーストラリアシドニー大学建築デザイン学科主任研究員.2000年より中京大学情報科学部助教授.2004年より同教授.2006年より同大学情報理工学部教授.情報処理学会研究奨励賞,人工知能学会論文賞,認知科学会大会発表賞受賞.創造性,熟達,暗黙知,感性に関する認知科学を研究.人工知能学会,日本認知科学会,日本デザイン学会,ACM,Cognitive Science Society,各会員.
 
[11:50-12:00]総括質疑
 

 
近未来技術と情報科学−中京大学ハイテク・リサーチ・センターの取り組み−

9月7日(金)10:00-12:00[第4イベント会場(21号館2F 2123教室)]
 
 [企画概要]
中京大学ハイテク・リサーチ・センターでは,1998年4月より10年間にわたって,「マルチメディア情報の共有による協調的知的活動支援に関する基盤研究」「3次元仮想化空間を利用した知的活動支援システムの実用化研究」「顔を中心にした人の多元完成情報の統合とヒューマンインターフェイス映像メディア創生の研究」の三つのテーマの元,情報科学をベースにした人に優しい近未来技術の開発研究に取り組んできた.今年,これらのテーマでの研究を締めくくるにあたってこれまでの成果を報告する.報告を元に,人の「知」に働きかけることによって情報の中に新しい価値を見出す近未来技術を志向した新たな研究テーマを作り上げてゆきたい.
 
 司   会:三宅 なほみ(中京大)
1982年University of California at San Diego, Dept. of Psychology, 博士課程修了.1984年青山学院女子短期大学一般教育課程助教授,1991年中京大学情報科学部認知科学科教授.現在同大情報理工学部情報知能学科教授.Ph.D.
協調的認知過程の理論的解明とそれに基づく協調的学習環境の開発・評価研究を行う.学習者を中心とした自己知識統合過程の促進,生涯を通して持続可能な知識形成過程の解明と支援に興味がある.
Cognitive Science Society, ISLS, 日本認知科学会, 日本教育心理学会, 日本心理学会会員.
 
[10:00-10:15]シンポジウム概要説明
 
 三宅 なほみ(中京大)
1982年University of California at San Diego, Dept. of Psychology, 博士課程修了.1984年青山学院女子短期大学一般教育課程助教授,1991年中京大学情報科学部認知科学科教授.現在同大情報理工学部情報知能学科教授.Ph.D.
協調的認知過程の理論的解明とそれに基づく協調的学習環境の開発・評価研究を行う.学習者を中心とした自己知識統合過程の促進,生涯を通して持続可能な知識形成過程の解明と支援に興味がある.
Cognitive Science Society, ISLS, 日本認知科学会, 日本教育心理学会, 日本心理学会会員.
 
[10:15-10:45]講演1「顔・顔部品の階層的トラッキング技術開発とアイコンタクト顔メディア創出の研究」
 
 [講演概要]
PCに設置したUSBカメラのような,日常的カメラ環において顔・顔部品をトラッキングする技術,瞳輪郭などの顔部品の認識技術を開発中である.この技術を基礎にして,テレビ会議などで避けられないアイコンタクト阻害要因を,アイコンタクト顔映像を生成することで解決する試みを述べる.
 
 ○輿水 大和(中京大)
【○印は中心となる講演者】

1975年名大・院・博了(工博),名大・工・助手,名市工研,1986年中京大教養部教授,1990年情報科学部教授,1994年同・院・教授,2004年情報科学部長,2006年より情報理工学部長.画像処理,顔研究,OKQT,ハフ変換,それらの産業応用研究に従事.IEE(上級・協同研委員長),IEICE(教科書委員),SICE(PM部会顧問),JSPE(IAIP副委員長),JFACE(理事),QCAV,FCV,SSII,ViEWの国際・国内会議推進などで活動中.小田原賞(IAIP,2002・2005),優秀論文発表賞(IEE,2004),研究・技術奨励賞(SICE,2006)など受賞.
 
 舟橋 琢磨(中京大)
2002年 中京大学情報科学部情報科学科卒業.2005年 中京大学大学院情報科学研究科修士課程修了.
2005年 中京大学大学院情報科学研究科博士課程入学.現在に至る.
画像処理,特に,人間の顔に対するマシンビジョンの研究.2次元の顔画像処理と顔認識,似顔絵生成システムへの利用の研究に従事.2005年に開催された愛知万博のプロトタイプロボット展にて,似顔絵師ロボット製作における画像処理システム開発に従事.
 
 藤原 孝幸(中京大)
2003年9月中京大学大学院情報科学研究科博士課程修了.情報科学博士.
2003年同大学情報科学部助手.2006年情報理工学部助手.
画像処理,特に人間の顔に対するマシンビジョンの研究.2次元,3次元の顔画像処理と顔認識,似顔絵生成システムへの利用の研究に従事.
電気学会,情報処理学会,芸術科学会,日本顔学会各会員.
 
[10:45-11:15]講演2「3次元仮想化空間を用いた知的活動支援システムの開発」
 
 [講演概要]
筆者らを含む学内9名の研究者らによる「3次元仮想化空間を用いた知的活動支援システム」研究開発プロジェクトは,VR技術を人間の知的活動支援に応用することを目指し,仮想化,モデル化,可視化,対話操作などのVR基礎技術,ならびに,それらを用いた複数の応用システムの開発が試みられている.開発中のシステムには次のものがある,
 (1)腹部X線CT像を用いた診断支援システム,
 (2)滑走スポーツのための仮想体感システム,
 (3)チームスポーツの戦略的スペース可視化システム,
 (4)集団行動シミュレーションシステム,
 (5)仮想空間における弾性物体操作システム,
 (6)強化現実感による安全運転支援システム,
ここでは,このうちの最初の3つのシステムについて,最近の成果を含めて紹介する.
 
 ○長谷川 純一(中京大)
【○印は中心となる講演者】

1974年名古屋大学工学部電気学科卒業.1979年同大学院工学研究科博士課程(情報工学専攻)修了.
同年名古屋大学工学部助手,1986年同講師.1987年より中京大学へ移り,教養部助教授,情報科学部教授などを経て,2004年より生命システム工学部教授・学部長.工学博士.
画像処理,パタ−ン認識,可視化シミュレーション,および,それらの医療・スポーツへの応用に関する研究に従事.日本医用画像工学会論文賞,日本エム・イー学会論文賞,芸術科学会論文賞などを受賞.
 
 瀧 剛志(中京大)
1999年中京大学大学院情報科学研究科情報認知科学専攻了.博士(情報科学).
同年,中京大学情報科学部助手,2004年から同大生命システム工学部講師,現在に至る.
画像認識,コンピュータグラフィックス,および,それらの集団行動・スポーツ応用に関する研究に従事.
電子情報通信学会,日本写真測量学会,日本体育学会,日本フットボール学会各会員.
 
 渡辺 恵人(中京大)
2000年中京大学情報科学部情報科卒.
2004年同大学大学院情報科学研究科博士課程後期課程修了.
2005年より中京大学生命システム工学部助手,現在に至る.
主に,3次元医用画像処理に関する研究に従事.博士(情報科学).
電子情報通信学会,日本医用画像工学会,コンピュータ支援画像診断学会各会員.
 
[11:15-11:45]講演3「マルチメディア情報の共有による協調的知的創造活動支援に関する基盤研究」
 
 [講演概要]
本研究では,マルチメディア型ネットワークを利用した協調的な学習支援システムを長期にわたって使用することによって,教育や研究活動を活性化する試みを続けてきた.本研究の根幹をなす考え方は,基本的には一人が経験したことを他の人も利用しやすくすることによって多様なユーザの多様な二一ズに対応できる知的創造的活動支援環境を実現しようとすることである.このようなシステムの具体的な利用方法のいくつかを例に,人という問題解決システムの特徴をつかみ,人が利用しやすい情報機器の設計や評価につながる日常的な教育・研究活動の成果を報告する.
 
 ○三宅 なほみ(中京大)
【○印は中心となる講演者】

1982年University of California at San Diego, Dept. of Psychology, 博士課程修了.1984年青山学院女子短期大学一般教育課程助教授,1991年中京大学情報科学部認知科学科教授.現在同大情報理工学部情報知能学科教授.Ph.D.
協調的認知過程の理論的解明とそれに基づく協調的学習環境の開発・評価研究を行う.学習者を中心とした自己知識統合過程の促進,生涯を通して持続可能な知識形成過程の解明と支援に興味がある.
Cognitive Science Society,ISLS,日本認知科学会,日本教育心理学会,日本心理学会会員.
 
 白水 始(中京大)
2000年名大・文学研究科・心理学専攻博士課程中退.同年中京大学情報科学部認知科学科助手.
同大講師を経て,2007年同大情報理工学部情報知能学科准教授.博士(認知科学).
大学の授業現場での協調学習の実践および学習者の理解深化過程の研究を行う.
一例としてレクチャからの能動的な学習の支援研究を実践.
Cognitive Science Society, ISLS, 日本認知科学会,日本教育心理学会,日本心理学会会員.
 
[11:45-12:00]全体討論「今後の重要テーマを探る」
 

 
近未来技術と情報科学−クリエイティブな「ものづくり」を支えるスキルとテクノロジー−

9月7日(金)13:00-16:00[第4イベント会場(21号館2F 2123教室)]
 
 [企画概要]
日本の得意としてきたインテグラル型「ものづくり」が空白の15年といわれるリセッションの後に,漸く本来の姿を見せてきたように思われる昨今です.しかし,極端な少子高齢化,2007年問題,環境・エネルギー問題,加速する国際化…など『ものづくり』の未来には多くの課題も立ちはだかっています.これらの課題を解決し,『ものづくり』トップランナーの地位を維持していくためには豊かな創造力やユニークな発想力と共に,それらを実現するためのスキルやテクノロジーに支えられる必要があろうと思われます.『ものづくり』のキーテクノロジーのひとつである情報技術も従来以上に現場の実態やニーズを的確に捉える必要があるでしょう.そこで,代表的な日本の『ものづくり地域』である中部の産業界や学会で活躍されている方々から有益な示唆をいただき,今後の情報技術が一層『ものづくり』に貢献できる方向性を探る.
 
 司   会:棚橋 純一(中京大)
1963年名古屋大学工学部電子工学科卒業.同年富士通信機製造株式会社(現富士通)に入社.
研究所で情報処理,特にパターン情報処理,人工知能,ヒューマンインタフェースの研究開発に従事.
2000年中京大学情報科学部教授.2006年情報理工学部に転属となり現在に至る.
最近はものつくりに貢献できる人材育成を目指し,3次元CADの教育と応用に力を注いでいる.
 
[13:00-13:05]企画者挨拶
 
 興膳 生二郎(中京大)
1967年にトヨタ自動車(株)入社後,外形デザインへ配属され,クラウン,初代スターレット,初代ターセルなどを担当.
デザイン造形用3次元CADシステム(スタイルCAD)の研究プロジェクトに参画し1980年頃より本格開発がスタート.翌年から実用化が始まる.
1995年商品企画部への異動を経て2000年より現職に到る.
 
[13:05-13:55]講演1「自動車デザイン開発における『ものづくりの想い』実現に向けて」
 
 [講演概要]
自動車のデザイン開発は,感性,創造,論理,技術,技能,時間,コストなどの要素が複雑に絡み合い,また様々な判断を経て具現化される.魅力や感動を徹底的に追求したい創作者=デザイナーのアイデアを,モデラーが具体的な造形物として魅力や感動を具現化する.「ものづくりの想い」は,意匠そのもののアイデアとそれを魅力的に造形として具現化するための技との両立により実現し,製品となる.
デザイン開発の過程において,意匠の具現化は仮説と検証が繰り返される.そこにはデザイン表現に特化した具現化の技の世界がある.目的も多々あり,「ものづくりの想い」実現に向けて,具現化する技は決して一つではない.むしろその技は無限にあり,様々な素材・ツール・技術を開拓・駆使し,想いを具現化するアイデアと,高度な技能が重要である.それは正にクリエイティブな世界であり,ハイブリッドな領域である.
 
 沖 勝之(トヨタ自動車)
1981年京都市立芸術大学美術学部デザイン科卒.同年トヨタ自動車工業(株)入社.セリカ,クラウンの外形デザイン担当.1986年東京デザイン室勤務,1991年帰任,セリカ系外形・室内,WRCベース車デザインを担当.1993年京都デザイン専門学校非常勤講師兼務,その後ヴィッツ,カローラ担当,2000年トヨタ車体(株)出向,新コンセプトSLSをトヨタへ提案(のちのポルテ),2002年帰任,パッソ,タンドラ,モーターショー車などの担当を経て2005年からデザインモデル開発全般に従事.
 
[13:55-14:25]講演2「知能化する自動車」
 
 [講演概要]
自動車をより安全で快適にするため電子技術が不可欠となっているが,近年は情報・通信技術も加わり,車と外とのつながりを含めた「知能化」が進んでいる.これらの新技術の導入は車載制御機器に用いられるマイクロコンピュータとメモリの高性能,低コスト化で実現可能となったが,これらを用いて高度な制御を行うには大規模な組込みソフトウェア開発が必要となる.更に,車の安全性確保のため車載機器は従来から高い信頼性が要求されているが,高度な電子制御化が進むほど益々厳しくなってきている.このため開発リソーセスの確保が急務となっており,ソフトウェアプラットフォームの標準化など技術面での取組みと,人材の量と質を増強する仕組み作りが国策レベルで進められている.ここでは「自動車の知能化」の動向を紹介し,合せて「ものづくり」の観点から組込みソフトウェアの開発フローと品質確保への取組み例について現場目線で紹介する.
 
 浅見 謙(トヨタテクニカルディベロップメント)
1975年3月名古屋大学工学部電子学科修士課程卒業.
1975年4月トヨタ自動車(株)入社.電子技術部にて電子制御システムの製品設計,研究開発,企画を担当.
2002年4月(株)トヨタコミュニケーションシステムへ出向.電子技術分野の執行役員を担当.
2006年4月トヨタテクニカルディベロップメント(株)が発足.
現在,トヨタ自動車(株)より転籍.電子技術分野の執行役員を担当.
 
[14:30-15:00]講演3「3次元CADを活用した航空機開発の取組み」
 
 [講演概要]
航空機開発は,その規模の大きさから一般的に共同開発が行われている.また部品点数が膨大で且つ複雑等々の他産業の製品とは異なる特徴がある.航空機開発に3D CADを有効に活用するためには,これらの特徴を踏まえたデータ管理や他社とのデータ共有を実現しなければならない.近年,各種ツールの機能向上により従来の紙の図面をベースにした開発プロセスが大きくかわり,3D CADをはじめとした各種デジタルデータを主体にした開発プロセスが採用されるようになってきた.このプロセスではデジタルデータを一元管理することにより整合性を高め,設計の上流から製造・検査まで一気通貫で活用し,QCDの向上を図る仕組みを実現している.本講演では,これらの適用状況についての事例を紹介するとともに現在取り組んでいる新しいプロセス及びシステムについて説明し,3D CADを活用した航空機の「ものづくり」を明らかにする.
 
 渡辺 光浩(三菱重工)
1986年に三菱重工業(株)入社後,現名古屋航空宇宙システム製作所でCAD/CAMの作業を担当.
三菱重工業が参画したほとんどの新規航空機開発プロジェクトに参画.
現在では,システム部門の担当課長として名古屋航空宇宙システム製作所のシステム開発,ITインフラ構築等の責任者であると同時に,川崎重工業や富士重工業等の国内航空機メーカの情報システムリーダとして,ボーイング社との交渉も担当.
 
[15:00-15:30]講演4「現代ものづくりに活きる『機巧(からくり)』について」
 
 [講演概要]
江戸時代に庶民に浸透した「からくり人形」が,ロボットを敵視するのではなく,ロボットに親しみを抱く日本人独特のロボット観を育んだ.このロボット観が産業用ロボットに対しても「私が主人だ」という作業者の思いを誘い,機械による自動化における人間の役割についても大きな影響を与えている.
本講演では,まず,江戸からくりの発展経緯をお話するとともに,代表的な座敷からくりである「茶運び人形」を実演を交えて紹介する.次に,現在「山車からくり祭」として全国各地に受継がれているからくり人形の演技と日本の先端技術との関わり,機巧(からくり)によるものづくり現場の「カイゼン」の具体例を示し,江戸からくりがものづくりの創意工夫の原動力ともなっていることをお話したい.
最後に,ロボット化,IT化が進む中,ホームロボットの進むべき道,情報革新時代における人とコンピュータ技術とのあり方などを考える皆様と一緒に考えたい.
 
 末松 良一(豊田高専)
豊田工業高等専門学校長・名古屋大学名誉教授.工学博士.1943年10月24日生まれ.
1966年名古屋大学工学部機械学科卒業.1971年名古屋大学大学院博士課程(後期課程)単位取得退学.
1975年名古屋大学工学部機械学科助手,講師,助教授を経て,1988年教授.
2005年4月から豊田工業高等専門学校長(現職).専門は,機械制御,流体関連振動,メカトロニクス,画像処理工学.最近では,からくり人形,江戸のモノづくりなど調査研究にも従事.文部大臣表彰科学技術賞(理解推進部門).2006年4月海外文化交流事業.(海外からくり公演)2004年4ヶ国,2006年2ヶ国訪問.
 
[15:30-16:00]講演5「ものづくり支援のためのいくつかの試み」
 
 [講演概要]
自動車会社を離れ,情報系大学で工業デザインやCAD・CAMと自由曲面設計に関する教育と研究に携わるようになって8年目を迎えた.CAD/CAMの練習題として造形物(動感のあるシェイプ)のデザイン開発をゼミ生に与える時がある.学生はデザイン出来ることが楽しみでウキウキと始めるものの,実はこれが難物で,「主題であるはずの動きがない」「先輩のモノマネでオリジナリティがない」「CADの入力図が書けない」と文字通り三重苦に襲われる.
考えてみれば,レベルこそ違えプロの世界にも似たような事象は存在したわけで,長期テーマとしてこの課題に取り組んでみた.三重苦を言い換えれば,「アイデア発想力問題」「形体弁別力問題」そして「立体解析力問題」である.
それらについてのソリューションを紹介し,ご意見ご批判を仰ぎたい.
 
 興膳 生二郎(中京大)
1967年にトヨタ自動車(株)入社後,外形デザインへ配属され,クラウン,初代スターレット,初代ターセルなどを担当.
デザイン造形用3次元CADシステム(スタイルCAD)の研究プロジェクトに参画し1980年頃より本格開発がスタート.翌年から実用化が始まる.
1995年商品企画部への異動を経て2000年より現職に到る.