本章では,創立50周年を迎えた2010年度以降現在(2020年3月末時点)に至る10年間の情報処理学会(以下,本会と記す)の運営や事業活動の成果を示す.
表2.3.1はこの10年間の定款改訂の履歴を示す.改定は,2014年度,2015年度の2回のみで,法人移行に関係する軽微な修正,運営強化のための理事の最大数の増員,および新会員種別(ジュニア会員)の追加に関するものである.それ以前に比べると,法人移行を経て学会の運営体制が安定化していることを示している.
社員総会は,2000年5月の総会から,民法上の社員をそれまでの正会員および名誉会員から,正会員のうちから選ばれた代表会員に変更し,その定足数を総代表会員の過半数として開催している.2012年6月の総会から,会場をこれまでの如水会館から学士会館に変更した(ただし,2014年総会は東京理科大学で開催).
また,2016年10月には,正会員会費改訂のための臨時総会を開催し,28年ぶりに会費を改訂した(正会員年会費をこれまでの9,600円から10,800円に増額).
表2.3.2に2010年以降の6名の会長を示す.会長は学界と産業界から交互に選ぶ習慣になっており,ほぼこれが守られている.産業界の会長については,産業界との連携を強化する目的で,2007年の役員選挙からは,多方面に影響力がある企業のトップであることが選任の条件に加えられた.
表2.3.3には2010年から2019年に至るまでの役員(理事および監事)の一覧を示す.理事の数は,運営強化のため2014年にその最大数を25名から30名に増員した.また,2011年には実務家・ITプロフェッショナル向けの活動強化等を担当する技術応用担当理事を,2014年には新世代(若手)向けのイベント,セミナー,会誌記事等の立案等を担当する新世代理事,および中長期的な視点に立った学会の安定運営等を担当する長期戦略理事(4年任期)を新設した.
支部の役割は,本部との間の物理的距離のハンディキャップを乗り越えて,地域の会員が学会活動に参加しやすくすることであり,本部からの財政的支援は受けるものの,支部総会のもとに自主的な運営体制を敷いて事業を実施している.表2.3.4に支部の運営を主導してきた歴代の支部長を示す.本部との連携を図るために,支部長全員が集まり会長を交えて支部の運営について話し合う支部長会議が年に2回開催されている.
財務は団体の存続にとって最重要事項であるため,本会の財務状況について述べておく.本会は内部統治と情報開示の要求に応えるため,2005年から独立監査人による外部監査を導入し,2006年4月から施行された新公益法人会計基準そして2008年4月から施行された新々公益法人会計基準をただちに取り入れるなど,厳正かつ透明性の高い経理体制の維持に努めている.
詳細に立ち入ることは本章の目的でないので,ここでは,本会の財務状況を端的に示す指標として,収支状況と期末資産残高だけに絞って要点を述べる.2010年以降10年間の収支の推移を示すと表2.3.5のようになる.ここに示されるとおり,収入額合計はほとんどの年で6億円以上を安定的に維持している.しかし2018年からは新会員システムの減価償却費・運用保守費用が計上されはじめたことに加え2019年からは,会誌の紙代値上げ,消費税の増税などによる経費が増加したため,今後はシンポジウムや出版物などの収入改善施策が必要な状況である.
次に期末資産総額を表2.3.6に示す.実施事業会計が漸減しているが,法人会計がそれをカバーしており,全体の資産残高はおおむね安定しているのが分かる.
IoT(Internet of Things),人工知能(AI),ビッグデータ解析など情報処理技術を駆使した「超スマート社会(Society 5.0)」の実現を目指す第5期科学技術基本計画が2016年に開始されるなど,本会の活動が社会全体にとってきわめて重要になってきている.本会がいかにその役割を果たしてゆくかという課題は絶え間なく検討されてきた.表2.3.7はそうした活動の流れを示すものである.
2007年4月には,情報処理学会の会員減少に対処し,情報処理学会の活性化をはかるため,産業界,教育界からメンバを募り,第三者的な見地から情報処理学会の在り方を考える「アドバイザリーボード」を設立した(表2.3.8).
女性活躍推進への取り組みでは,2014年度に女性役員を増やす施策として,女性理事枠の導入を決め,その結果女性理事の倍増を実現した.
ダイバーシティ社会の活性化に向けた施策としては,育児中・介護中といったさまざまなライフイベントの只中にいる会員の多様な発想を学会運営に取り込み,会員サービス,イベント,セミナー,会誌等学会の諸活動について新しい着想での企画・立案を行うとともに,さまざまな立場の技術者・研究者の入会促進,会員のネットワーク形成,および情報処理分野全体の発展を促すことを目的としてInfo-WorkPlace委員会を設立した.
2017年6月には著作権の学会譲渡を原則としつつ,それによって著者が不便を被らないよう配慮した内容に著作権規程を改訂した.
また,2018年11月には人を直接対象とした生体計測および行動科学的研究にかかる研究について倫理規程の見直しを実施した.
広報については,2019年度より学会Webサイトの見直しに着手した.
また上記以外の活動としては,2010年7月1日に本会は社団法人から一般社団法人への移行にともない,その前後を境に,これまで以上に実務家向けのサービスの充実に向けた活動を積極的に展開している.実務家向けの経験・知識を掲載する情報処理学会デジタルプラクティス誌を2010年2月に創刊し,2011年には,実務家・ITプロフェッショナル向け活動の強化を目的に技術応用担当理事を新設した.さらに,高度IT人材資格として認定情報技術者(CITP: Certified IT Professional)制度を創設し,2014年度に個人認証の本格運用を,2015年度に企業認定の本格運用をそれぞれ開始した.その後,CITP制度は,2017年度に情報処理国際連合(IFIP: International Federation for Information Processing)が設立した国際的な相互資格認証を推進する組織であるIP3(International Professional Practice Partnership)からプロフェッショナル資格制度(IP3)としての認定を受け,IP3認定国間でグローバルに通用する資格となった.
一方,2014年に新世代理事を新設し,今後の情報処理を担う若手向けの活動を強化している.2015年には,小学生から大学3年生までを対象としたジュニア会員を会員種別に追加し,2019年3月末時点で1,642名と順調に増加している.また,同じく2014年に中長期的な視点に立った学会の安定運営等を担当する長期戦略理事を新設した.長期戦略理事は他の理事より長い4年任期で,中長期的な視点に立った学会の安定運営,中長期的なビジョンとビジネスモデルの検討,グローバル化の推進などを行っている.
グローバル推進の一環として,2015年度にCCF(China Computer Federation)とMOUを締結した.また,IEEE-CS(Computer Society),ACMと,若手を対象としたJoint Awardをそれぞれ2018年から開始するなど,海外学協会とのさらなる連携も推進している.
情報技術の担い手を標榜する本会は,他学会に率先して電子化による学会運営の効率化と会員サービスの向上に取り組んできた.表2.3.9は本会の主な電子化の流れを示すものである.主なものでは,会員サービスの向上を狙った会員システムを構築し,2010年に会員向けのマイページサイトを立ち上げた.その後のIT環境の変化をふまえ,2018年にはセキュリティ対策を強化する大幅なリニューアルを実施した.このリニューアルでは,会員管理の業務プロセスの分析を行い,会員区分の見直しも含めて効率化を図り,あわせてSaaS型の会員システムベースにすることで開発費を抑制しながら,オンライン手続きの種類を増やすなど会員サービスの向上を図った.また2010年に電子図書館の総合デジタルライブラリサービスを立ち上げて,大学および企業向けのサイトライセンスサービスを提供した.さらに論文誌ジャーナルの運営効率化に向け,論文査読管理システム(PRMS)の改修作業を行い,その後ScholarOne Manuscriptsへ移行した.2019年からは学会システムWGを情報システム委員会と改め,支部サーバの統合,GDPR対応,研究会や情報規格調査会とのサーバ統合などに取り組んでいる.
技術の評価を行うことは学会の重要な役割であり,表彰はその一環に位置づけられる.2010年以降の本会の表彰制度の推移と各年度の受賞数を表2.3.10に示す.受賞数についてはグループに与えられる賞の場合はカッコ内に受賞者の総人数を示してある.事業所管の委員会で選考する賞は各事業の節に含めてあるため,ここではそれ以外のものについて述べる.
功績賞は1984年の創立25周年を機に創設され,情報処理に関する学術または関連事業に対し特別の功労がありその功績が顕著な会員に贈呈される本会で最も重みのある賞である.2010年以降の受賞者を表2.3.11に示す.このうち,*印で示す顕功賞は故人に贈呈される功績賞に準じた賞である.
フェロー制度は1999年に新設された.この制度は情報処理および情報通信等の分野で優れた貢献をした会員に対し,その貢献を称えるとともに,その貢献が広く周知され社会的認知度を高めることを目的として,情報処理学会フェローという称号を贈呈する制度である.名誉会員のような会員種別でないので,ここでは表彰の節に含める.詳細はWebページ(https://www.ipsj.or.jp/annai/aboutipsj/fellow/fellow.html)を参照されたい.
業績賞は産業界における顕著な業績を顕彰するため2001年に新設された賞である.対象となる業績は,情報技術に関する新しい発明,新しい機器や方式の開発・改良,あるいは事業化プロジェクトの推進における顕著な業績で,しかも産業分野への貢献が明確に表れたものである.喜安記念業績賞は,業績賞に代わる賞であり,2007年に名誉会員喜安善市のご遺族から寄贈いただいた資金により設けられ,2016年度からは再び業績賞として継続している.両賞のこれまでの受賞者を表2.3.12に示す.
情報学の主要な分野で,その研究・開発において国際的に顕著な貢献が認められ,今後もその進歩,発展が期待される若手研究者に贈呈されるもので,「坂井記念特別賞」,「研究開発奨励賞」,そして2015年度で終了した「長尾真記念特別賞」の主旨を引き継いでいる,受賞対象は,情報処理技術研究開発賞は,企業(国内の大学および公的機関以外)に所属する39歳までの正会員,マイクロソフト情報学研究賞は,国内の大学および公的研究機関に所属し,推薦締切日時点で本会正会員として3年以上を経過し博士号取得後10年以内の者となっている.前身の長尾真記念特別賞も含め,2009年度以降の受賞者を表2.3.13に示す.
情報学の分野において,国際的な研究による成果をあげ,今後の発展および国際的な活躍が期待される若手研究者に情報処理学会とACM(Association for Computing Machinery)から共同表彰を行うもので,2018年より設置された.受賞者を表2.3.14に示す.
情報学の分野において,研究発表や論文,プログラミングなどの顕著な成果をあげ,今後も発展,成果が期待される若手研究者に情報処理学会とIEEE-CS(Institute of Electrical and Electronics Engineers Computer Society)から共同表彰を行うもので,2018年より設置された.受賞者を表2.3.15に示す.
以上の賞は学術的業績に対して贈呈されるものであるが,ボランティアとして学会運営に対する貢献を認めて,これを表彰するのが2001年から始められた感謝状の贈呈と2003年から始められた学会活動貢献賞である.表2.3.16にこれまでの受賞者を示す.
これまでの表彰は主に本会の会員を対象とするものであるのに対し,この賞は,一般の高校生,高専学生および大学学部学生を主な対象として,情報処理関係のコンテスト等において優秀な成績を修めた個人またはグループを表彰するものである.現在対象としているコンテストは,スーパーコンピューティング・コンテスト,全国高等専門学校プログラミングコンテスト,ETロボコン,パソコン甲子園,日本情報オリンピックなどであるが,2018年度から全国大会の中高生ポスターセッションでの発表を対象にした中高生情報学研究コンテストも加わった.表2.3.17にこれまでの受賞者を示す.
法律的にも実務的にも学会活動の拠点となる本部の事務所は,2006年3月より以下にある.
千代田区神田駿河台1-5 化学会館
ただし,情報規格調査会は港区芝公園の機械振興会館に事務所を置いている.
理事会や各種委員会の決定を執行する機能として重要な事務局の人員は,1990年代から2000年代にかけては削減傾向であったが,この10年はほぼ同水準で安定している.表2.3.18に2010年以降の事務局職員の人数の推移を示している.
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