情報処理学会60年のあゆみ
第1編―学会60年のあゆみ
第2章 学会活動10年間のあゆみ

本章では,創立50周年を迎えた2010年度以降現在(2020年3月末時点)に至る10年間の情報処理学会(以下,本会と記す)の運営や事業活動の成果を示す.

2.2 会員

2.2.1 会員制度

創立50周年当時の本会の会員区分は,正会員,名誉会員,学生会員,準会員および賛助会員の5種類である.このうち,準会員は,2000年度より海外会員と統合開始し,2010年7月の一般社団法人への移行の際に正会員との統合により廃止した.会員数は2004年度57名をピークに減少し,廃止時点では38名だった.

これに対し,2015年になって新たにジュニア会員という会員区分が設けられた.このジュニア会員は,若年層に学会活動を広く周知し,学生会員育成活動を推進することを目的とし,小中高校生や大学学部3年生以下などを対象とした会員制度で,2012年に導入された学生無料トライアルから移行したものである.

この会員区分のうち,賛助会員は本会の事業目的に賛助する個人または団体であるが,現在はすべて団体である.そのため,ここではそれ以外の会員区分を合わせて個人会員と呼ぶことにする.

現在の年会費は表2.2.1に示すとおりである.1989年2月に定められて以来2016年までの27年間にわたり同額を維持してきた年会費であったが,今後の安定的・継続的な学会運営,学会サービス提供のため,2016年10月に現在の会費に改定した.

表2.2.1 入会金および年会費金額

2.2.2 名誉会員

名誉会員は情報技術の分野で特別な功績をあげた方々に授けられる最高位の会員種別であり,理事会の推薦に基づき総会で推挙される.表2.2.2にはこの10年間の各年度に推挙された名誉会員の氏名を示す.

表2.2.2 名誉会員と推挙年度

2.2.3 会員数の推移

2010年から現在までの個人会員数の推移を図2.2.1に示す.この会員数は各年度末時点でのものである.ここに見られるとおり,会員の中心である正会員の数は,減少傾向が続いているものの,会員全体としてみると2018年度は一時的に増加した.これはジュニア会員が千名を超える増加となったこととシステム移行による算定方法変更によるものである.しかしながら,2010年から比べると,1,500人以上の減となっている.この減少傾向の要因は,2011年の東日本大震災による混乱や欧州債務危機,歴史的円高による経済状況の悪化などがあげられる.しかし,2016年に提唱されたSociety 5.0では,情報化社会に次ぐ第5の新たな社会を実現する要素技術として,IoT,ビッグデータ,AIがあげられており,現実社会においてもさまざまな分野でこれらを用いたサービスやソリューションの検討が進められているにもかかわらず,増加傾向が見られないことから,必ずしも経済状況の悪化のせいとばかりはいえない.一方,賛助会員の団体数は,2017年以降は増加の傾向を示しており,こちらは減少傾向に歯止めがかかっているようにも見える.

図2.2.1 会員推移グラフ

学生会員については,将来の研究の担い手であり正会員になることが期待されることから,この入会促進に重点を置いた施策が長年続けられてきた.その結果,この10年で見ると2014年度に3千名を超える増加を示している.2013~2014年度の増加は学生無料トライアル(ジュニア会員制度の前身)による一時的なものではあるが,2015年度以降もジュニア会員と合計すると毎年3千名を超えていることが分かる.また,学生会員が卒業後正会員に移るかというとその比率は決して大きくない.昨今の学生の理科離れ工学離れを考えると,これからも楽観できない.

正会員については,産業界の会員数が10年前と比べて約2千名の大幅減少となり,大学や公的研究所など学界の会員数はほぼ横ばいである.学界の会員にとって本会は研究成果を発表し議論する場として存在価値が認められていると考えられるが,情報技術が国家的な重要戦略課題である以上,産業界の会員にとっても本会が意義ある存在と認められることは大切である.このため,最近では実務家を対象とした会員増強策に力が入れられている.なお,図2.2.2が示すとおり,平均年齢と最も人数の多い年齢が毎年上がっている.

図2.2.2 正会員の平均年齢の推移

2.2.4 会員増強策の主な流れ

会員増強の必要性が事業報告書に明確に示されたのは1995年である.それ以降,毎年のように新しい施策が打ち出されてきた.当初は全国大会での入会キャンペーン,会費未納者への会員継続の呼びかけ,入会募集パンフレットの配布など,PRが中心であった.1998年11月に理事会の下に会員増強委員会が設置され,会員の満足度調査や会員特典の充実など,足が地についた活動が始められ,企業会員と学生会員の両面からの会員増強策が講じられてきた.企業会員の増加を特に意図した主な施策としては,

(1)デジタルプラクティスの刊行(2010年~)

(2)2つの新設ITフォーラムを立ち上げ(2013年)

(3)高度IT人材の資格制度である「認定情報技術者制度」について,個人を対象とする認証審査の本格運用を実施(2014年)

などがあげられる.

学生会員の増加を特に意図した施策としては,

(1)学生無料トライアル会員制度の制定(2012年)

(2)政策提言委員会の傘に若手研究者の会を発足(2012年)

(3)ドワンゴ社,ニワンゴ社(ニコニコ動画)と公式提携し,本会の公式ニコニコチャンネルをスタート(2014年)

(4)学生無料トライアル会員制度からジュニア会員制度に移行(2015年)

などがあげられる.

2.2.5 支部と会員

本会の支部は北海道,東北,東海,北陸,関西,中国,四国,九州の8支部体制である.支部ごとの個人会員数は表2.2.3に示すとおりである.この10年に限ってみると,全体の個人会員数が減少傾向であるのに対し,支部は横ばい傾向である.内訳で見ると,ジュニア会員が北海道支部と関西支部で増加している.賛助会員は東海支部が増加しているが,関西支部は緩やかに減少している.四国支部は2012年度よりゼロとなり,そのほかは横ばいである.

表2.2.3 支部別個人会員数

個人会員の減少に歯止めがかかっているのは,地方の会員のニーズをとらえた活動の成果と考えられる.

[参考文献]

1)村山優子:IFIP―情報処理国際連合―近況報告,情報処理,Vol.56, No.3, pp.288–295(2015).
2)斎藤俊則:会議レポート IFIP WCCE2017から得られたもの―そしてWCEE2021 in Hiroshimaに向けて,情報処理,Vol.58, No.11, pp.1040–1041(2017).
3)旭 寛治:特別寄稿 CITP制度のIFIP IP3認定について,平成29年度CITPフォーラム/JUASアドバンスド研究会活動報告書,pp.1–4(2018).
4)村山優子:IFIP―情報処理国際連合―近況報告,情報処理,Vol.60, No.3, pp.255–263(2019).
5)岡部寿男,湊 真一:2019年 IPSJ/IEEE-CS Young Computer Researcher Award紹介,情報処理,Vol.60, No.10, pp.1002–1004(2019).
6)岡部寿男:2019年 IPSJ/ACM Award for Early Career Contributions to Global Research紹介,情報処理,Vol.60, No.10, pp.1005–1006(2019).
7)中村素典:国際会議SAINTの運営―SAINT2011の開催に向けて,情報処理,Vol.52, No.2, pp.225–230(2011).

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