本章では,創立50周年を迎えた2010年度以降現在(2020年3月末時点)に至る10年間の情報処理学会(以下,本会と記す)の運営や事業活動の成果を示す.
創立から30年の間に3万人を超える会員を擁する我が国有数の学会に成長した本会は,2011年に未曾有の被害をもたらした東日本大震災を経験しながらも,この10年,IoT,ビッグデータ,人工知能(AI)が社会の注目を集めることで,これらが情報社会の発展につながり,活発な活動を行ってきた.たとえば,DICOMOやMIRUシンポジウムなどでは多数の会員が最先端の分野で活発な議論を行い,また毎年トランザクション10誌を40回以上発行するなどしている.こうした例に示されるとおり,情報処理に関する学術,技術の進歩発展に寄与するという点では,本会は十分にその役割を果たしてきたといえる.
ただ,1990年代の中頃より始まった産業界の会員数の減少傾向はこの10年においても続いており,学会の存在基盤に影響を与えかねない程度になっている.この危機感をバネとして,本会の在り方が活発に議論され,現在では,学術と実務の2つを焦点とする楕円形運営,あるいはこれに標準化を加えた3本柱運営という運営の基本方針が確立されるに至っている.
また,創立60周年に至る10年は一般社団法人情報処理学会(2010年7月移行)として新たな発展を目指して活動してきた10年と位置づけられる.
以上がこの10年間のごく大づかみな流れになるが,以下では,まず学会運営の流れを学会にとって一番大切な会員の動向から始め,次いで総務・財務の面から述べる.続いて,事業活動の流れを,調査研究活動,機関誌発行,出版活動,全国大会とFIT,シンポジウム講習会活動,国際活動,教育関係活動,歴史活動,一般社会への貢献,記念事業,表彰に分けて述べる.最後に事務局について簡単に触れる.
情報源は総会において公表された事業報告を中心としている.学会を動かすのは人であり,したがって,ここでは60年という輝かしい節目を迎えた本会を支えてきた人たちの記録を残すということにも重点を置く.また,年度ごとの出来事は本会のWebサイト上の事業報告で見ることができるため,ここでは個々の活動内容を時間的な流れのうえで横断的にとらえるようにする.ただ,10年間の活動は多岐にわたり,誌面が限られていることもあり,記述が偏らざるを得ないことをお許し願いたい.
本会の活動は4月から3月末という会計年度によって区切られているため,暦年であることが明白であるか,特に暦年であると断る場合以外は,西暦年号は会計年度を表すものとする.
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