Sneak Path Free Reconfiguration and Fault Diagnosis for Via-Switch Crossbar Based FPGA

(邦訳:ビアスイッチクロスバーを用いたFPGAにおけるスニークパス問題回避と故障診断)
 
土井 龍太郎  (正会員)

NEC中央研究所 研究員
 
キーワード
不揮発ビアスイッチFPGA クロスバープログラミング 故障テスト

[背景]高エネルギー効率なビアスイッチFPGAの実用化への期待

[問題]再構成時のスニークパス問題,未確立の故障テスト手法
[貢献]スイッチ書き換え順の最適化によるスニークパス問題根本解消,故障素子を特定する故障診断手法


 集積回路チップを構成するトランジスタは半世紀以上にわたって微細化を続けており,今では髪の毛の1万分の1程度の非常に小さい世界でトランジスタは作られています.微細化は回路の処理速度の向上や消費電力の削減などのメリットがある反面,チップの開発費が高額になってしまうデメリットもあります.たとえば,最先端のトランジスタを使ってゼロからチップを作る場合,何百億円という費用がかかります.そこで,ゼロからチップを作るのではなく,FPGA(field programmable gate array)と呼ばれる製造後に回路機能を自由にプログラムできる再構成可能チップを利用して,行いたい処理を実装するというアプローチがしばしば採用されます.

 しかし,既存のFPGAには面積の大きいSRAM(static random access memory)スイッチが大量に搭載されるため,エネルギー効率が低いという欠点が存在します.その欠点を解消するため,SRAMスイッチをビアスイッチと呼ばれる小面積な新ナノデバイスで置き換えた高エネルギー効率な次世代FPGAの研究が行われています.私の研究では,そのビアスイッチFPGAの実用化における以下の2つの課題に取り組みました.

(1)スイッチ書き換え順の最適化によるスニークパス問題根本解消

 ビアスイッチFPGA内部では,格子状に存在する縦横の配線の各交点にビアスイッチを配置したクロスバーと呼ばれる回路を活用します.これらのビアスイッチのオン・オフ状態を書き換えて,配線同士の接続・非接続を切り替えることで回路機能がプログラムできます.しかし,ビアスイッチのオン・オフ状態のパターンによっては,スイッチの書き換え時に別のスイッチが意図せず書き換わってしまうスニークパス問題が発生してしまいます.スニークパス問題が起きてしまうとFPGAを正しくプログラムできなくなるため,大きな問題でした.

 私の研究ではスイッチを書き換える順番を調整することでスニークパス問題を回避できる新事実を発見し,配線の接続状況をグラフの一種である木構造を用いて表現することで,最適なスイッチ書き換え順を効率良く導き出す手法を考案しました.そして,この手法を用いると実用上すべてのオン・オフ状態パターンにおいてスニークパス問題が発生しないことを証明しました.

(2)故障素子を特定する故障診断手法

 ビアスイッチFPGAを製造した後には,不良品をユーザに出荷することを防ぐために,故障の有無を検査する必要があります.しかし,ビアスイッチFPGAをどのように検査すればよいかは明らかではありませんでした.

 私の研究では,比較器と呼ばれる回路を使うことでクロスバー上のビアスイッチの故障状態が読み出せることをシミュレーションで確認しました.そして,3種類の読み出しモードを組み合わせることで詳細に故障テストできる手法を提案しました.提案手法によって,ビアスイッチが故障しているかどうかは100%判定でき,さらにビアスイッチを構成する4つの素子のうち,どの素子がどのように故障しているかについても高精度に突き止めることが可能になりました.詳細な故障テストは良品・不良品の検査以外にも,歩留まり解析などにも有用です.

 

(2020年5月31日受付)
 
取得年月日:2020年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:大阪大学



推薦文
:(システムとLSIの設計技術研究会)


新ナノデバイスであるビアスイッチを用いたFPGA(Field-Programmable Gate Array)は,高エネルギー効率な次世代プログラマブル半導体素子として期待されている.

本論文は,ビアスイッチFPGAの実用化に不可欠である,最適な配線構造の解明,故障テスト法,および,プログラミング法の確立を達成した.これらの成果により,ユーザはビアスイッチFPGAを高性能・高信頼・高効率に活用できる.ビアスイッチFPGAの運用技術に大きな指針を与える本論文は価値が高く,推薦に値する.


研究生活


私の研究は,複数の大学・企業の研究者の叡智を結集して次世代のコンピューティングプラットフォームを創出するという野心的な共同研究プロジェクトの一環として実施しました.日々の研究,共同研究者との議論,学会での発表,などなど書ききれないほどのさまざまな経験を通して非常に良い刺激を受け,研究者としても人としても成長を実感できた研究室生活でした.

博士課程は自分の好きなことに没頭できる貴重な時間だと思います.自分の興味のあることを深く探求したいと少しでも思うのであれば,ぜひ博士進学を選択肢の1つに考えてみてください.必ず人生の糧になると思います.

最後にこの場をお借りし,これまでお世話になった皆様に心よりお礼申し上げます.今日の私があるのは皆様のおかげです.