A Fully-distributed Paradigm for Self-sustaining Stream Processing on Autonomous Networks of Smart Things

(邦訳:自律的なスマートデバイス間ネットワークにおける完全分散型ストリーム処理の実現に関する研究)
 
Sunyanan Choochotkaew
日本アイ・ビー・エム(株) 研究者
 
キーワード
エッジコンピューティング 分散型ストリーム処理 自律的システム

[背景]IoTデバイスの増加に対するクラウドコンピューティング環境の課題

[問題]エッジコンピューティング環境でのIoTデバイス連携はまだ途上段階
[貢献]IoTデバイスを弾力的に完全分散で連携させ,センサデータストリーム処理を行う機構の開発


[背景]
 センサなどモノのインターネット(Internet of Thing)とよばれるIoTデバイスの普及が始まっています.家庭やビル,オフィスなどの空間においても大量のセンサが設置され,私たちの快適な生活空間をサポートするために温湿度や人の位置や行動,感情といったさまざまなデータがセンシングされ,エネルギー管理,空調,照明,家電制御,セキュリティ,エンターテインメントなど,さまざまな応用分野におけるスマート化が期待されています.このように増え続けるIoTデバイスからのデータを効率良く処理することは将来のIoT社会には必須ですが,近年のクラウドアーキテクチャは,データ通信量の増加に対するインフラ整備費用,データ伝送のための電力消費といったさまざまな制約があります.また,プライバシーデータを目に見えないクラウドサーバで扱うことへの不安解消も課題であり,爆発的に増え続けるデバイス数に対するデータ処理方式としては,必ずしも唯一なものとは言えません.

[問題]
 これに対し,ポストクラウドともいうべきエッジコンピューティング環境の研究が進んでいます.エッジコンピューティングアーキテクチャの多くは,従来のクライアントサーバモデルからエッジサーバとエッジデバイスへの移行によって低遅延並びに帯域の節約を狙ったものです.したがって,本質的にはクラウド型アーキテクチャと同じ課題が生じるものと思われます.つまり,大量のIoTデバイスが絶え間なく生成するセンサデータストリームを適切に処理し,ユーザが望む形でデータを提供したり,空調や照明といったアクチュエータを制御したりといった知的な制御機能を実現しようとする場合には, IoTデバイス間のデータのやりとりを最適化したり,ハードウェア制約があるIoTデバイスの負荷を考慮して適切にストリーム処理負荷を分散させる必要があります.しかし,そういったメカニズムを実現する方式は十分に検討されていません.

[貢献]
 これに対し,本博士論文の研究では,IoTデバイスそれぞれが有する,計算機能やメモリなどを活用し,それらを連携させて可能な限りデータやフローの地産地消を実現する方法論を開発しました.具体的には,分散ストリーム処理において,メンテナンスコストを低減し,かつストリーム間の依存関係を意識させることなくストリーム処理を分散実行するためのプラットフォームEdgeCEPを開発しています.EdgeCEPは,ストリーム処理においてオーバヘッドとなる定期的なノード間の情報交換をできるだけ削減しながら,各ノードが協調して独立かつプロアクティブにタスク分散の最適化を実現することができます.シミュレーションや実環境での評価実験において,集中型アプローチやその他の単純なポリシーと比較してオーバヘッドの大幅な減少を示しており,集中型クラウドやローカルエッジサーバなどの固定の資源を用いた専用システムを開発するのではなく,異種・専用でないデバイスを用いて自律的にサービス価値の高いストリーム処理システムを開発する技術や方法論を提唱できたと考えています.


 
 
(2020年6月8日受付)
 
取得年月日:2020年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:大阪大学



推薦文
:(モバイルコンピューティングとパーベイシブシステム研究会)


膨大な数のセンサから継続的に得られるセンサデータストリームを効率的に処理する技術を提案する.膨大なストリームデータを実時間処理して社会活用するためには,スマートな分散処理基盤が必須になる.本博士論文は複数の観点から高度な分散処理技術を提案し,一流学術誌に掲載された内容をとりまとめている.


研究生活


博士課程での研究テーマについては,最初にIoTの技術でどういうふうに皆が満足できる課題からはじめて「Quality of Value」に関する論文を出して国際会議に参加しました.そのとき,Edge Computingの話が何件もあって,気になりました.さらに自分も学部の時代から分散システムに興味が持っています.なぜならば,分散では誰かに頼らず皆の協力だけでシステム運営ができることが魅力的と思います.それらのきっかけで,先生と話し合って,「Edge Computing」と「分散処理」の研究に向かっていました.それ以来は一番楽しみなのはさまざまな学会(特に海外)で自分がしている研究には限らず他の研究者と話し合うことです.博士課程は間違いなく,プレッシャーが高いです.何年か過ごし,1つの研究テーマを集中して調べ続けることなので,自分が興味があるものではなかったらもっと大変だと思います.