Study on Online Travel Review Analysis for Tourism Investigation

(邦訳:旅行・観光調査のためのオンライン旅行レビューの分析に関する研究)
 
宋 爽 (正会員)
Nanjing College of Information Technology 人工知能学部 専任教員
 
キーワード
観光情報 データ分析 旅行・観光調査手法

[背景]旅行・観光調査のためのオンラインデータ分析の活用

[問題]単語数等のデータ分析の結果と旅行者ニーズ等の調査で明らかにしたいこととの関連性が不明
[貢献]旅行レビューの分析手法,旅行者満足度・入込客数との比較手法の提案


 観光施策には,産業の現状と旅行者のニーズの把握が不可欠である.そのため,世界各国において,インタビューやアンケートによる観光入込客数調査や,旅行者満足度調査,消費動向調査等が行われている.しかし,これらの調査は,調査期間が長い,調査費用が高い,そして,旅行者への負担が大きいといったデメリットがある.特に,インバウンド旅行においては,これらのデメリットが大規模な調査のボトルネックとなっている.

 本研究は,オンラインデータ分析を活用することで,より迅速かつ低コストに旅行・観光調査を行う手法の確立を目指している.オンラインデータとして,世界最大級の旅行サイトTripAdvisorに投稿される旅行レビュー(以下,旅行レビュー)を分析している.また,旅行・観光調査として,旅行者満足度調査および,観光入込客数調査を取り上げている.旅行レビューは,投稿者のインターネットの利用率や言語表現の違い,投稿の動機等の影響を受けている.そこで,旅行・観光調査に用いる旅行レビューの特徴を調べるとともに,旅行レビューの分析と従来の調査結果を比較し,それらの傾向の相違を明らかにした.さらに,複数の国や地域から投稿される,複数の言語の旅行レビューの相違を明らかにした.

 先ず,旅行レビューが,旅行・観光調査のための情報源として利用できるのかを調査する手法を提案した.手作業による分析とテキストマイニングにより,旅行レビューのテキストに含まれる旅行・観光調査に関連する情報の種類と割合を示した.そして,これらの分析結果をインバウンド旅行の観光施策に活用するために,6カ国(アメリカ,オーストラリア,イギリス,中国,日本,シンガポール),3種類の言語(日本語,英語,中国語)の旅行レビューの比較により,国別,言語別の投稿者の相違を示した.

 次に,旅行レビューの分析を用いた旅行者満足度調査の妥当性を示す手法を提案した.旅行・観光調査における被験者の心理と旅行レビューの投稿の動機を考慮し,旅行レビューのテキストから,旅行・観光調査の回答になり得る投稿者の態度を抽出した.また,北海道経済部観光局が実施した旅行者満足度調査を例に,クラス間およびクラス内相関係数により,投稿者の態度と北海道の調査における被験者の満足度との関連性を示した.この手法により,旅行・観光調査における質問項目に対する選択式の回答と,旅行レビューのテキストデータとの比較を実現した.また,複数の国や地域の比較を行う際の注意点を明らかにした.

 最後に,北海道の観光入込客数調査の報告書を例に,入込客数の推計方法を参考にしたTripAdvisorの投稿者数の集計を行い,入込客数と投稿者数の相関を示す手法を提案した.また,居住地別の入込客数と投稿者数の相関について考察した.さらに,月別および観光地別の投稿率(入込客数に対するTripAdvisorの投稿者数の割合)の分析に基づく居住地別の旅行者の特性調査の可能性について検討した.


 
 
(2020年5月19日受付)
 
取得年月日:2020年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:北海道大学



推薦文
:(知能システム研究会)


観光施策には,産業の現状と旅行者のニーズの把握が不可欠である.本論文は,オンラインデータ分析を用いた迅速かつ低コストな調査手法の確立に向けて,オンライン旅行レビューの分析手法と,旅行者満足度調査や観光入込客数調査との関係性を比較する手法を提案し,多言語多国間の実データによってその有効性を検証した.


研究生活


私は博士課程へ進学してから観光情報学の研究を始めました.蓄積されたデータからいかに旅行者のニーズを探すというテーマから着手し,データが示す世界と実世界のつながり方に興味を持ち始めました.留学生として,他国での一人暮らしは結構大変で,そして研究を進めれば進めるほど,分からないことが増えていき,圧倒されて焦ってしまうこともありました.先生方や友人たち,そして両親の励ましのおかげで,諦めずに一歩ずつ研究を進めることができました.この場を借りて,大変お世話になりました指導教員の川村秀憲教授,北海道情報大学の斎藤一教授,ご指摘をくださった先生の方々,および北海道大学調和系工学研究室の皆様へ,心より感謝いたします.