Reducing Energy Consumption of Data Centers by Improving Virtual Machine Live Migration

(邦訳:仮想マシンライブマイグレーションの高効率化によるデータセンタ消費電力の削減)
 
穐山 空道
日本電信電話(株) ソフトウェアイノベーションセンタ 研究員

[背景]クラウドコンピューティングの日常的利用
[問題]データセンタの消費電力増大
[貢献]仮想マシンライブマイグレーションの高効率化とシミュレーション


 企業や個人の計算タスクをデータセンタに移譲することによりコストを削減する手法として,クラウドコンピューティングが日常的に利用されている.データセンタでは数千台・数万台のコンピュータを集約し管理運用することで1台あたりの労働コスト,物理的コストが低く抑えられている.

 データセンタは巨大であるため全体の消費電力も莫大である.一方,データセンタでは多くのコンピュータが集中管理されているため,個人や企業のシステム部門単位では不可能な消費電力削減手法が実施できる.たとえば部屋を熱交換性能が高まるよう設計する,データセンタ自体を寒冷地に作り空調の消費電力を削減する等が可能である.

 データセンタ消費電力削減手法のひとつとして,本研究では仮想マシンライブマイグレーションを用いた実行時仮想マシン集約を対象とする.実行時仮想マシン集約とは,ユーザに割り当てた仮想マシンを物理マシン上で移動させることによって,負荷の低い仮想マシンを集約して余った物理マシンの消費電力を削減する手法である.またライブマイグレーションとは,仮想マシンを実行したままに物理マシン間で移動させる技術であり,実行時仮想マシン集約に必須の技術である.

 しかし,既存の仮想マシン集約では以下の問題点があった.
  • ライブマイグレーションに長い時間がかかり,効率の良い実行時仮想マシン集約が行えない.
  • 実行時仮想マシン集約で実際に削減できる消費電力の定量的評価ができておらず,データセンタ運用者が実行時仮想マシン集約を導入するべきか判断できない.具体的には,ライブマイグレーション自体による負荷増加(すなわち消費電力増加)を考慮したシミュレーションや実証実験が行われていない.
 これらの問題に対し本研究では以下の2点の貢献をした.
  1. 技術的改善によってライブマイグレーションを高速化した.既存のライブマイグレーション高速化研究では仮想マシンのメモリを利用目的のわからないデータとして送信するが,提案手法ではデータの更新に着目する・データの内容に着目するといった工夫を行い従来では実現できなかった高速化を達成した.
  2. 実行時仮想マシン集約が実環境で削減する消費電力を定量評価するため,本研究の提案手法をモデル化し,ライブマイグレーションにかかる消費電力も含めたシミュレーションを行った.評価の結果,通常のライブマイグレーションでは消費電力削減効率が低いが,本研究の提案手法では数パーセントの消費電力削減が可能だと明らかになった.

 
 (2015年6月10日受付)
取得年月日:2015年3月
学位種別:博士(情報理工学)
大学:東京大学



推薦文
:(システムソフトウェアとオペレーティングシステム研究会)


メモリ再利用やページキャッシュの並列転送に着目したライブマイグレーションの効率化提案に加えて,積極的な仮想マシン再配置と統合することによるデータセンタ省電力化の評価を行っています.仮想化技術の発展と応用に大きく貢献し,今後の研究の発展が期待できることから推薦いたします.


著者からの一言


博士課程では好きな研究に好きなだけ取り組め,また海外経験も多く積ませていただき,お世話になった方々には大変感謝しています.今後は企業の研究者として,「日本初で世界に使われる基盤ソフトウェア」を目指して取り組んでいきます.