紙媒体を併用したインタラクティブシステムの研究

 
鈴木 浩
神奈川工科大学情報メディア学科 助教

[背景]インタラクティブシステムの発展
[問題]
紙媒体の衰微に対するアプローチ
[貢献]座標値連携方式により将来に渡って紙媒体の価値を向上


 近年,実世界の人とモノ,そしてコンピュータとをシームレスに融合することをテーマとしたインタフェースやインタラクティブシステムに関する研究が盛んに実施さており,実世界において,コンピュータの恩恵を人が効果的に得られる技術や手法の重要性が高まっている.このような背景のもと,本研究では,実世界に即した情報環境の構築を目指し,情報技術とメディア表現の双方の観点から人とコンピュータとをシームレスにつなげることができるインタフェースとして「紙媒体」に着目した.
紙媒体には,手触りや質感といった物理的な特徴や,一覧性,可読性の高さなど,電子機器にはないインタフェースとしての利点が数多く備わっている.そこで,本研究では,技術の発展とともに活用範囲が衰微しつつある紙媒体の現状に対し,紙媒体を永遠のメディアとして位置づけ,紙媒体そのものを情報技術と併用することで新しい紙媒体の利活用手法を提案する.これにより,以下の3つの効果が期待できる.
  1. 直感的なインタフェースの実現
  2. 紙媒体が持つ過去の資産の活用
  3. 将来にわたって紙媒体の価値を向上
 本研究では,紙媒体とディジタル情報とをシームレスにつなげ,上記の効果を引き出す手法として,紙媒体の2次元座標値を利用する座標値連携方式を確立した.本手法を利用した具体例として,これまで紙媒体が利用される分野として主要な「情報提示」と「紙工作」に対してインタラクティブシステムを開発し,その有効性を示した.

 情報提示の分野では,案内一覧ポスターに利用するハイパーパネルシステムを開発した.ハイパーパネルシステムは,ユーザが携帯端末をポスター上に配置して情報閲覧をするType1と,複数のセンサデバイスをポスター上に配置することで,複数人での情報閲覧できるハイパーパネルType2との2種類を提案し,プロトタイプを実装した.双方のシステムは,ポスター上のオブジェクトの位置を超音波センサによって取得し,その2次元座標をハイパーテキストのアンカーのように利用することで,ポスターの特定記述とディジタル情報とをシームレスに連携することができる.このような特徴を持つ本システムは,評価実験により,直感的にポスターのレイアウトに関連づけられたディジタル情報が取得できるシステムとして機能し,携帯端末の操作に慣れていないユーザでも素早く目的とする情報を取得しやすいシステムであることが示された.

 紙工作の分野では,紙媒体上に手描きした絵をテンプレートマッチングにより座標のずれを生じさせずにディジタル化する技術を開発し,本技術を利用した具体例として紙工作とディジタル表現とを組み合わせた「シャドウロボシステム」を提案した.本システムでは,ユーザの身体操作で3DCGのロボットモデルを動かせる3次元ゲームと組み合わせることで,ユーザが自作した紙工作ロボットを動かしているような模擬体験を与えることができた.これらのことから,描く・貼る・加工するなどのアナログ工作による表現活動と3DCGやゲームといったディジタル表現とをシームレスに連携した新たなインタラクティブシステムを開発した.
 
 

 
 (2015年6月9日受付)
取得年月日:2015年3月
学位種別:博士(工学)
大学:神奈川工科大学



推薦文
:(デジタルコンテンツクリエーション研究会)


紙媒体を永遠のメディアとして位置づけ,情報メディアと紙媒体を併用するという着眼点に新規性があり,新たなコンテンツ技術としてのポテンシャルを高く評価した.直観的なインタフェースと双方の利点を併せ持つ点と,2つの分野への適用例による有用性の立証により,分野の発展に貢献する論文であるものと考えられる.


著者からの一言


本論文を執筆するにあたり,数々の方にご支援ご協力をいただきました.無事に学位を取得できたのも指導教員の先生を始め,私を支えてくださった方々のおかげです.まだまだ至らない点が多く,学ぶことばかりですが,博士課程で得たことを研究活動と教育を通じて,社会に還元していきたいと思います.