(邦訳:コンピュータグラフィックスにおける媒体中の剛体運動シミュレーション)
謝 浩然 日本学術振興会 特別研究員(PD)/東京大学大学院情報理工学系研究科 |
[背景]ゲーム開発や映像制作におけるリアリティの高い自然現象の表現
[問題]低い計算コストで乱流に関わる物理シミュレーションが極めて困難
[貢献]媒体中の自然的な剛体運動を実時間でシミュレーションする手法
我々は身の回りの日常的な自然現象を見慣れているために,CG映画やゲームに少しでも不自然なシーンが見受けられる場合,違和感を容易に覚える.そのため,CG分野では,剛体,流体及び相互作用などの物理ベースシミュレーションの研究が著しく発展している.しかしながら,乱流と物体の相互作用を効率よく表現することはあまり扱われてこなかった.舞い散る枯葉や紙片,水中での物体の挙動などの媒体中の物体のダイナミクスを表現するCG映像はキーフレーム法で制作することが多いので,膨大な量の退屈な作業が強いられる.粒子法やノイズ法で自動的に生成した事例はあるが,我々が目にする自然現象との乖離が見られる.実際には,これらの一見平凡な現象は,物理学では予測できない難解なものである.
なぜ媒体中の物体のダイナミクス表現がきわめて困難なのだろうか.紙片が落下するとき,その姿勢がまわりの流れより変わり,流れも紙片の姿勢により変化する.これは強い非線形現象であり,カオスでわずかな初期変化で物体の挙動が大きく異なる.科学の黎明期である300年前から,アイザック・ニュートンはこれらの現象に気付いており,今でも,その原因となる乱流現象は古典力学に残された最後の難問と言われている.
本研究では,CGにおける媒体中の剛体運動シミュレーションを目指した.物理学のシミュレーション手法とは異なり,CG分野では,現象の原因探究より,現象を自然に表現することに重点を置く.さらに,対話的なモーションデザインのために,低い計算コストでのシミュレーション手法が求められる.この複雑な現象をCGで再現するため,本研究は,まず膨大な物理実験から媒体中の剛体のモーションパターンを分析し,パターン間の遷移確率を測定してモーショングラフよりグラフベース手法(フレームワーク図)を提案した.モーション合成では,空気力学モデルで抽出した軌跡データベースからモーショングラフに沿ってモーションを生成した.グラフベース手法は,簡易な空気力学モデルを利用したので生成した軌跡の連続性はあまり保障できない.それを解決するため,本研究は物理学からの統計モデル手法を提案した.統計モデル手法は従来手法と異なり,剛体のまわりの流れからの影響を慣性効果と粘性効果に分けて考慮した.慣性効果に対しては剛体の移動より慣性テンソルを計算し,粘性効果に対しては乱流の統計モデルを用いて近似できた.
本研究では,グラフベース手法のモーションパターン分析と統計モデル手法の効果分析を統合して,粘性効果を粘性力のパラメータより定量的に分析したパターン駆動法を提案した.具体的には,パラメータの影響を学習させてモーションパターンをクラスタリングし,モーションの状態遷移を用いてまわりの流れの影響を表現した.しかしながら,パターン駆動法は実験データに依存する欠点があるので,数値モデルの簡略化手法を提案した.簡略化手法は力学系の数値モデルから低次元モデルの簡約基底を取得し,数値モデルのパラメータ空間により物理シミュレーションの制御とデザインへの応用が期待できる.本研究の提案手法はすべてデータ駆動型であり,従来手法では不可能であった媒体中の剛体のダイナミクス表現を低計算コストかつ自然的にシミュレーションすることができた.
[問題]低い計算コストで乱流に関わる物理シミュレーションが極めて困難
[貢献]媒体中の自然的な剛体運動を実時間でシミュレーションする手法
我々は身の回りの日常的な自然現象を見慣れているために,CG映画やゲームに少しでも不自然なシーンが見受けられる場合,違和感を容易に覚える.そのため,CG分野では,剛体,流体及び相互作用などの物理ベースシミュレーションの研究が著しく発展している.しかしながら,乱流と物体の相互作用を効率よく表現することはあまり扱われてこなかった.舞い散る枯葉や紙片,水中での物体の挙動などの媒体中の物体のダイナミクスを表現するCG映像はキーフレーム法で制作することが多いので,膨大な量の退屈な作業が強いられる.粒子法やノイズ法で自動的に生成した事例はあるが,我々が目にする自然現象との乖離が見られる.実際には,これらの一見平凡な現象は,物理学では予測できない難解なものである.
なぜ媒体中の物体のダイナミクス表現がきわめて困難なのだろうか.紙片が落下するとき,その姿勢がまわりの流れより変わり,流れも紙片の姿勢により変化する.これは強い非線形現象であり,カオスでわずかな初期変化で物体の挙動が大きく異なる.科学の黎明期である300年前から,アイザック・ニュートンはこれらの現象に気付いており,今でも,その原因となる乱流現象は古典力学に残された最後の難問と言われている.
本研究では,CGにおける媒体中の剛体運動シミュレーションを目指した.物理学のシミュレーション手法とは異なり,CG分野では,現象の原因探究より,現象を自然に表現することに重点を置く.さらに,対話的なモーションデザインのために,低い計算コストでのシミュレーション手法が求められる.この複雑な現象をCGで再現するため,本研究は,まず膨大な物理実験から媒体中の剛体のモーションパターンを分析し,パターン間の遷移確率を測定してモーショングラフよりグラフベース手法(フレームワーク図)を提案した.モーション合成では,空気力学モデルで抽出した軌跡データベースからモーショングラフに沿ってモーションを生成した.グラフベース手法は,簡易な空気力学モデルを利用したので生成した軌跡の連続性はあまり保障できない.それを解決するため,本研究は物理学からの統計モデル手法を提案した.統計モデル手法は従来手法と異なり,剛体のまわりの流れからの影響を慣性効果と粘性効果に分けて考慮した.慣性効果に対しては剛体の移動より慣性テンソルを計算し,粘性効果に対しては乱流の統計モデルを用いて近似できた.
本研究では,グラフベース手法のモーションパターン分析と統計モデル手法の効果分析を統合して,粘性効果を粘性力のパラメータより定量的に分析したパターン駆動法を提案した.具体的には,パラメータの影響を学習させてモーションパターンをクラスタリングし,モーションの状態遷移を用いてまわりの流れの影響を表現した.しかしながら,パターン駆動法は実験データに依存する欠点があるので,数値モデルの簡略化手法を提案した.簡略化手法は力学系の数値モデルから低次元モデルの簡約基底を取得し,数値モデルのパラメータ空間により物理シミュレーションの制御とデザインへの応用が期待できる.本研究の提案手法はすべてデータ駆動型であり,従来手法では不可能であった媒体中の剛体のダイナミクス表現を低計算コストかつ自然的にシミュレーションすることができた.
(2015年6月7日受付)