イベント企画
人間を中心としたパターン認識・メディア理解の技術
9月20日(木) 15:30-17:30
第2イベント会場(C棟C31講義室)
【セッション概要】 近年、人間を中心とした情報処理システムの利活用に注目が集まっている。人間がこれまでに経験したデータや今まさに経験しているデータを蓄積し分析することで、人間を理解するための新たな原理や機構を解明する試みがなされている。さらに、蓄積された多種多様なデータを体系化することで人間社会を安心安全でかつ豊かにする技術の開発が進んでいる。本企画では、人間を中心とした情報処理システムを研究されている方々を招いて、パターン認識・メディア理解(PRMU)の技術がどのように活用されているか事例、課題、今後の可能性について紹介して頂く。
司会:西山 正志(鳥取大学 大学院工学研究科 准教授)
【略歴】 2000年岡山大学工学部情報工学科卒業。2002年同大大学院博士前期課程了。同年株式会社東芝入社。同社研究開発センターを経て、現在鳥取大学大学院工学研究科准教授。2011年東京大学大学院学際情報学府にて博士(学際情報学)を取得。カメラを用いた人物認識を始めとするパターン認識およびインタラクションの研究に従事。山下記念研究賞など受賞。電子情報通信学会、情報処理学会各会員。
15:30-16:00 講演(1) Quantified Reading and Learning Based on Deep Sensing Technologies
黄瀬 浩一(大阪府立大学 大学院工学研究科 教授)
【概要】 「学び」やその基礎となる「読み」は、我々の知を形成する上で不可欠な活動である。本講演では、そのような「読み」や「学び」をサポートするために、我々が開発しつつある技術の一端を紹介する。技術のポイントは、学習者の学びや読みを計量することと、その結果に基づいて学びや読みを改善するための情報を与えることにある。前者については、学習者の目の動き、顔の表面温度、心拍や皮膚電気抵抗などの生体信号、学習者の姿勢や動きなど、多様なデータを計測する各種センサを用いて、学習者の心的状態を推定する技術について述べる。これはe-learningのログなど従来の「浅い」センシングを用いて学習者を知る方法と対比して、「深い」センシングと我々が呼ぶものである。一方、後者については、例えば、読みを解析して未知の単語を知らせる技術や、解答に対する確信の有無を推定して「分かったつもりになっていても分かっていない状態」を発見して知らせる技術を紹介する。
【略歴】 1986年阪大・工・通信卒。1988年同大大学院博士前期了。1990年阪府大・工・電気助手。現在、同大大学院工学研究科教授。博士(工学)。2000年〜2001年ドイツ人工知能研究センター客員教授。文書画像解析、画像認識などの研究に従事。2016年までIAPR TC11(Reading Systems) Chair, 現在、International Journal of Document Analysis and Recognition, Editor-in-Chief.
16:00-16:30 講演(2) 「優しい介護」インタラクションの計算的・脳科学的解明 ~パターン認識は介護に何ができるのか?~
中澤 篤志(京都大学 大学院情報学研究科 准教授)
【概要】 本講演では「優しい介護ケア」手法として知られるユマニチュード(Humanitude)を、センシング技術・計算科学・認知神経科学的手法を用いて解明しようとする我々の試みについて紹介する。ユマニチュードはフランスで開発されたケア手法で、見つめる・話しかける・触れる・立たせるの4要素からなる。これらを有効に組み合わせることにより、認知症の行動および心理的症状などの認知症の陰性症状を軽減し、向精神薬の使用および介護者の負荷を減らすことが可能である。計算科学的試みとしては、この介護技術をセンサや画像認識などを用いて自動的に解析・認識することで、介護現場や家庭介護環境でのスキル向上を自己学習できるシステムの開発を目指している。これには、現在のパターン認識では扱えない、高度な人のコミュニケーション認識手法が必要である。これが実現されれば、本プロジェクトでの目的にとどまらず、医療のAI化(コミュニケーションの処方)への展開など広い社会的効果が見込まれる。本プロジェクトは情報科学・ロボティクス・医学・脳科学の研究者からなる学際研究であり、その概要についても講演にて紹介する。
【略歴】 2001年大阪大学基礎工学研究科博士取得退学。その後、2001年東京大学生産技術研究所(JST研究員)、2003年~2013年大阪大学サイバーメディアセンター講師。その間、2007年ジョージア工科大学客員研究員、2010年JSTさきがけ「情報環境と人」研究員。2013年から京都大学大学院情報学研究科准教授(現職)。視線検出・角膜イメージング・一人称視点映像解析の研究に従事。2017年10月よりJST CREST人間と情報環境の共生インタラクション基盤技術の創出と展開領域(間瀬健二総括)「優しい介護」インタラクションの計算的・脳科学的解明 研究代表。
16:30-17:00 講演(3) ラグビー映像解析によるプレー分析の効率化とその応用
大内 一成(株式会社東芝 研究開発センター 研究主幹)
【概要】 ICT(Information and Communication Technology)の発展により、スポーツ界ではICTを活用したトレーニングや戦術分析の導入が進んでいる。2019年ワールドカップの日本開催や、2020年東京オリンピックでも競技種目となるため注目度が上がっているラグビーを対象に、画像認識技術を活用したラグビー映像解析システムの開発を進めている。ラグビーは、選手の数が1チーム15人と多く、接触プレーや密集プレーが頻繁に発生するため、映像による分析には技術的な課題が多く、これまで積極的に取り組まれてこなかった。選手にセンサを装着すること無く、カメラでプレーの様子を撮影するだけで選手やボールの動き、プレーの自動分類を行うことができれば、練習や試合の現場で手軽かつ詳細な戦術分析が可能になる。さらに、技術的に課題の多いラグビーを対象に画像認識の基盤技術を強化することにより、その技術を他のスポーツ、さらにはスポーツ以外の産業分野へ幅広く応用することが期待される。ラグビーを対象とした映像解析の取り組みと、他のスポーツおよびスポーツ以外への応用事例について講演する。
【略歴】 1998年早稲田大学大学院理工学研究科物理学及び応用物理学専攻修了。同年(株)東芝入社。現在、研究開発センターメディアAIラボラトリー研究主幹。ウェアラブル/ユビキタスコンピューティングにおける状況認識技術とそれを活用したヒューマンインタフェース、およびメディアAI技術の研究開発に従事。情報処理学会理事、シニア会員、代表会員、ユビキタスコンピューティングシステム研究会運営委員(前主査)。長尾真記念特別賞、山下記念研究賞など受賞。人間情報学会理事。博士(工学)。
17:00-17:30 講演(4) 自動運転時代の車体験はどう変わろうとしているか
上田 哲郎(日産自動車株式会社 総合研究所モビリティ・サービス研究所 エキスパートリーダー)
【概要】 今自動車産業は百年に一度の大変革期を迎えていると言われています。これまで慣れ親しんだ車との関係が大きく変わることを意味しています。車に乗っているときはもちろんのこと、移動するという意味合いそのものが再定義されようとしています。もちろんそれはテクノロジーの積み上げによって成し遂げられます。テクノロジーの中でも特にインフォメーションテクノロジーが鍵であることは間違いありません。ITにとって最後のフロンティアであるともいえる車からみたとき、車はどのように最新のテクノロジーを取り込み、新しい移動体験を作ろうとしているのかをお話ししたいと思います。
【略歴】 1990年九州大学総合理工学研究科情報システム学専攻修了、同年日産自動車(株)入社、1999年筑波大学経営政策科学研究科企業科学専攻修了。博士(システムズ・マネジメント)。現職:日産自動車(株)総合研究所 エキスパートリーダ。