会誌「情報処理」Vol.66 No.8(Aug. 2025)「デジタルプラクティスコーナー」

社会を変える量子コンピュータ活用─座談会(後編)

参加者:中野大樹(日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所),山岡雅直((株)日立製作所),山本直樹(慶應義塾大学),川畑史郎(法政大学,新エネルギー・産業技術総合開発機構),嶋田義皓(ソフトバンク(株)),土肥義康(富士通(株))
司会:斎藤彰宏((一社)情報処理学会 デジタルプラクティス専門委員会 主査/日本アイ・ビー・エム(株))
執筆者:上條浩一(東京国際工科専門職大学)

 量子コンピュータは,これまでは従来のコンピュータでは解くことが困難な計算が可能な未来技術として,一部の研究者の中で学術的なトピックとして議論されてきました.しかし,現在は現実社会やビジネスに向けての議論が進んでおり,実用化に近づいています.今回は,量子コンピュータの研究をされている6名の有識者の皆さまにご参加いただき,量子コンピュータの現状や未来に関して熱く語っていただきました.本稿はその後半です.
 (前半は,会誌「情報処理」Vol.66 No.5(May 2025)「デジタルプラクティスコーナー」に掲載されております)

中野大樹
中野大樹(日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所)
1996年東京大学大学院理学系物理専攻にて修士取得後,IBM東京基礎研究所に入所し,液晶ディスプレイ技術,AMOLEDテスター技術,ミリ波無線通信技術,リザバーコンピューティング,マテリアルインフォマティクスなどの多岐にわたる研究開発に従事後,マネージャーに就任し,現在,量子コンピュータ・ハードウェア担当としてアジア・パシフィックにおける量子コンピュータの展開・保守そして,サプライチェーンに関するプロジェクトを担当している.
山岡雅直
山岡雅直((株)日立製作所)
(株)日立製作所 研究開発グループ エッジコンピューティング研究部長 兼 量子応用推進室室長.1998年 京都大・工学研究科修士課程修了.同年(株)日立製作所入社.2007年に京都大学大学院情報学研究科にて博士(情報学)取得.2012年よりCMOSアニーリングマシンの研究開発に従事し,新概念コンピューティングの研究開発チームをけん引.2016年より北海道大学電子科学研究所客員教授,2018年よりIPA/未踏ターゲット テクニカルアドバイザを務め,CMOSアニーリングなどの量子関連技術の技術者育成にも力を入れている.
山本直樹
山本直樹(慶應義塾大学)
1999年東京大学工学部計数工学科卒業,2004年同大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了.カリフォルニア工科大学研究員,オーストラリア国立大学研究員を経て,現在,慶應義塾大学理工学部教授.慶應 量子コンピューティングセンター・センター長.量子計算,量子情報の研究に従事.博士(情報理工学).
川畑史郎
川畑史郎(法政大学)
1998年大阪市立大学院応用物理学専攻博士課程修了,1998年電総研入所.2001年産総研研究員.以降,量子情報処理の研究開発に従事.量子情報理論,超伝導量子回路,量子アニーリング,量子アルゴリズム,超伝導エレクトロニクス,物性物理などの研究開発を推進.2023年産総研G-QuAT副センター長,2024年より法政大学教授.2020年より内閣府ムーンショット目標6アドバイザ,2025年より文科省Q-LEAPプログラムディレクタ,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)イノベーション戦略センター(TSC)フェローを務める.量子フォーラム量子コンピュータ技術推進委員会副委員長.工学博士.
嶋田義皓
嶋田義皓(ソフトバンク(株))
博士(工学,公共政策分析).東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了.2008年日本科学未来館科学コミュニケーター,2012年科学技術振興機構(JST)戦略研究推進部主査,2017年JST研究開発戦略センター(CRDS)フェローなどを経て,2024年より現職.専門分野は,物性物理,ICT,科学コミュニケーション.著書に『量子コンピューティング 基本アルゴリズムから量子機械学習まで』(オーム社).
土肥義康
土肥義康(富士通(株))
富士通(株)入社以来,高速インターフェースの半導体設計に従事.その後,2017年から量子技術の研究開発を推進し,現在は超伝導量子コンピュータのハードウェアの実機開発やクラウド環境開発を主導する.


テーマ3:「量子コンピュータの普及に向けてのエコシステム」

斎藤:次のテーマに移らせていただきます.第三テーマ,「量子コンピュータの普及に向けてのエコシステム」についてご議論いただければと思います.中野さん,お願いします.

中野:はい,エコシステムと言いましても,範囲が広く,どのように定義するかによってかなり話は変わってきます.量子コンピュータは,そのタイプによって使用される部品が異なります.特に,特定の部品が限られたサプライヤーからのみ供給されているケースがあり,生産量が少ないためコストも高額になりがちです.そのため,現在の量子コンピュータの開発は,必要な部品を個別に調達し組み立てる形態を取らざるを得ず,従来の古典的コンピュータ,たとえばラップトップPCのような広範な製造・流通システムはまだ確立されていません.こうした状況を踏まえ,まずは量子コンピュータのサプライチェーンに関するご意見をお聞かせいただければと思います.
 さらに,エコシステムという観点から産業全体を考えた場合,ユーザの増加による市場の形成,サプライチェーンの確立,システムインテグレータの役割,サービス提供者の存在など,多様な要素が相互に関与しながら産業が発展することが求められます.しかし,その基盤となるサプライチェーンが十分に機能しなければ,持続的な成長は困難です.ここでは,特にその上流に位置するサプライチェーンの現状と課題について,皆様のご意見を伺いたいと考えております.

川畑:量子コンピュータのサプライチェーンについては,以前より強い関心を持っており,日本が国際競争力を確保する上での重要な戦略の1つとして,その「チョークポイント」を押さえることが鍵になると考えています.
 量子コンピュータにはさまざまな方式が存在しますが,いずれの方式においても,中小企業が製造する部素材が重要な割合を占めています.こうした部素材は,最終的に大企業が製品化する量子コンピュータに組み込まれますが,現状では業界全体で共通のサプライチェーンが確立されておらず,各研究機関や企業が独自に構築している状況が続いています.そのため,今後は日本国内に限らず,グローバルな視点でサプライチェーンの現状を分析し,体系的にマッピングと仕様策定を行うことが不可欠だと考えています.
 さらに,量子コンピュータの大規模集積化に伴い,サプライチェーンの課題は一層顕在化すると予想されます.現在の量子ビット数はせいぜい1,000程度ですが,将来的に10,000,100,000と増加していく中で,現行の部素材やサプライヤーのみでは需要に対応しきれなくなる可能性があります.そのため,今後の課題として,サプライヤーの多様化と拡充が求められるでしょう.
 この文脈において,日本の中小企業が持つ高度な技術,いわゆる「匠の技」をいかに取り込み,日本のサプライヤーを増やしていくかが重要な論点になります.これらの点を踏まえ,量子コンピュータの持続的発展を支えるサプライチェーンの在り方について,幅広い議論を深めていく必要があると考えます.

土肥:現状では,必要な部品を集めるのが非常に大変です.最近,さまざまな企業から問合せを受けることが増えていますが,結局のところ,企業側も「何を作ればよいのか」が分からないというのが実情です.たとえば,「現在どのように使用されているのか」「温度条件はどうなっているのか」「配線での信号損失はどの程度なのか」といった基本的な情報が共有されておらず,それが新規参入の大きな障壁になっていると感じています.
 加えて,もう1つの大きな課題として「テスト環境の不足」があります.超伝導量子コンピュータは,希釈冷凍機の中の50K〜数十mKの中に実装されます.このような温度帯で使用されるように通常の製品は設計されておりませんし,製品開発のために高額な希釈冷凍機を用意することは部材開発企業に大きな負担になります.これは産業界全体にとっての参入障壁を高める要因になっているでしょう.たとえば,川畑先生が以前所属されていたG-QuATでは,こうした試験環境を提供しており,日本国内におけるサプライチェーンの強化に大きく貢献していると考えています.確かに,利用料が高いといった課題も耳にしますが,そもそもこうした環境が存在しなければ実験すらできません.試験環境を提供していただけること自体が非常に価値のあることだと思います.
 現在の課題の1つとして,開発者側と供給者側の間に大きなギャップがあることが挙げられます.開発者は「必要な部品や仕様」を明確に示すことができず,供給者は「どのようなものを作ればよいのか」が分からない.このギャップを埋めることが,サプライチェーンの強化に向けた最初のステップになると考えています.
 実際,同じ説明を異なる企業や関係者に何度も繰り返している状況があり,これは非常に非効率です.したがって,「どのような部品が必要で,どのような条件を満たすべきか」といった指針を明確に示すガイドラインのようなものを整備することが重要ではないでしょうか.こうした指針があれば,関係者が共通の認識を持ち,サプライチェーンの構築をより円滑に進めることができると考えています.

中野:ありがとうございます.川畑先生からのお話にもありましたが,現在の状況は,依然として各企業が独自に取り組んでいる印象が強く,標準化が進んでいないことが課題ではないかと感じています.たとえば,一般的な電気製品であれば,ネジ1つをとっても標準規格があり,それに従えば容易にアセンブリが可能です.しかし,量子コンピュータにはそうした標準品や規格品が存在せず,それが開発や製造の負担になっている部分もあります.こうした標準化の推進は,日本がリードできる分野の1つになり得るのではないかと考えています.

川畑:非常に重要な指摘だと思います.どの程度のスペックの部素材を製造すればよいのか分からないという点は,まさに大きな課題です.私自身,以前さまざまな企業と交渉を行った際,土肥さんと同様に,一社ごとにゼロから説明するという状況を何度も経験しました.このような状況を改善するためには,部素材技術ロードマップの策定が国際標準化のためにも不可欠だと考えています.
 たとえば,半導体分野ではIRDSという技術ロードマップが整備されており,技術の要素や進展が細分化され,各技術要素ごとに「2030年までにこのレベルのゲート酸化膜を開発」「装置の分解能はこの水準が必要」といった目標が数値化され,公開されています.量子コンピュータにおいても,特に部素材に関する技術ロードマップを策定し,それを公開することで,多くの企業が「このスペックの部素材なら自社で対応できる」と判断しやすくなるのではないでしょうか.こうした取り組みは,国として推進すべき重要な課題であると考えています.
 また,中小企業向けの低温環境下における部素材評価環境は大変重要です.実際,2021年に東京大学に日本初の量子部素材テストベッドである東京大学 - IBM Quantumハードウェアテストセンターが設立され,多くの中小企業と連携してさまざまな成果が出ています.また,私が所属していた産総研G-QuATにおいても同様な環境構築が進められていますので,そうしたインフラの利活用を想定しつつ,ロードマップの策定を進めることが重要だと思います.

中野:私もG-QuATの使用料について関心を持っていますが,利用者が増えることでコストが下がる可能性もあるのではと考えています.

土肥:部品の一覧を作成し,ロードマップを策定していくと,量子コンピュータのアーキテクチャそのものが明確になっていく可能性があります.最終的には,「必要なチップを購入すればシステムを構築できる」という状況になり得るでしょう.ただ,現状では「どのような部品を使用し,どのようなシステムを構築しているのか」に関する情報が非常に少なく,論文としてもあまり公開されていません.企業によっては詳細な情報を提供するケースもありますが,研究機関を含め,慎重に扱われることが多いように感じています.したがって,実際にロードマップを策定するとなると,ハードルはかなり高いのではないかと思います.

中野:量子コンピュータと一口に言っても,光,超伝導,イオントラップなど多様な方式が存在し,方式によってロードマップの内容も変わってくるでしょう.半導体分野ではスケーリング則が明確に存在し,それに沿って技術が発展してきましたが,量子コンピュータにはそのような統一的なスケーリング則がないため,ロードマップの策定はより複雑になり得るのではないかと考えています.この点について,何かご意見があればお聞かせいただけますか.

嶋田:IRDSは,各社の強みを活かせる仕組みであり,確かに必要だと感じますが,現在のフェーズではまだ現実的ではないようにも思います.また,ロードマップを牽引する半導体業界におけるインテルのような存在が,量子コンピュータ分野にはまだないというのも大きな違いです.それに加え,先ほど中野さんがおっしゃったようなデナードスケーリングも存在しません.
 現在,量子コンピュータの進化を牽引しているのは,いわば「根性論」に近く,微細化のメリットもなく,コストが下がるわけでもなく,性能向上も単純には進みません.しかし,操作エラー率を維持しながら量子ビット数を増やしたいという目標があります.この課題をどう克服するかが大きなポイントです.
 必要な部材を特定すること自体は可能ですが,それを市場として成立させなければ,部品メーカーは生産に踏み切れません.国がこうしたリスクを引き受け,「必ず購入するから製造せよ」といった形で支援を行わなければ,サプライチェーンが十分に機能しないのではないかとさえ考えています.そういう意味では,産総研などの公的機関の役割は,資金面だけでなく,技術支援やインフラ提供の面でも非常に重要だと思います

中野:おっしゃるとおりだと思います.産業として発展させるには,当然ながら利益を生む仕組みが必要になります.ハードウェアを開発するにしても,最終的にそれがビジネスとして成立しなければ,企業にとっては持続可能ではありません.アプリケーション開発の重要性もありますが,それと並行して,ハードウェアの供給が経済的に成り立つ仕組みを確立することが求められます.

山本:エコシステムを考えた場合,ソフトウェア企業の役割も重要です.IT業界全体を見ても,アプリケーション開発を担う企業がエコシステムを支えている側面があります.量子コンピュータに関しても,最終的にはクラウド上で運用されることになると考えています.
 たとえば,クラウド上に複数の量子コンピュータが存在し,それらを活用できるアプリケーションが整備されることで,エコシステムが発展するのではないでしょうか.海外では,量子回路設計やアルゴリズム開発を支援するソフトウェア企業がすでに多数存在しており,これらの企業が提供する高度なアルゴリズムは,個々の研究者や企業が独自に開発するのが難しいレベルに達しています.そうしたツールの普及が,量子コンピュータのエコシステム形成に大きくかかわってくると考えています.

中野:おっしゃるとおりです.サプライチェーンの話に続きますが,プログラミング環境の整備も不可欠ですし,その先には人材育成の課題もあります.半導体分野でも,CADツールがなければ設計自体が進められません.同様に,量子コンピュータにおいても,開発を支援するツールや環境がなければ,技術の普及は進みにくいでしょう.

土肥:最終的には,ユーザーにとって計算エンジンの種類は重要ではなく,「高速かつ高精度な計算結果が得られるか」がすべてです.HPCであろうが,デジタルアニーラであろうが,量子コンピュータであろうが,最適な計算リソースを提供できれば,それが最善の選択肢になります.
 そのため,量子コンピュータを意識させない抽象化レイヤーが必要だと考えています.過去の計算資産を活かしつつ,異なる計算手法にシームレスに対応できる「翻訳機」のような仕組みがないと,普及は進まないでしょう.実際に現場の問題に取り組むユーザーにとって使いやすい環境を整備することが,エコシステムの確立に向けた鍵になると考えています.

中野:まさにキラーアプリの話にもつながりますね.量子コンピュータが最も得意とする計算領域を明確にし,それに最適化された環境をクラウド上で提供できれば,ユーザーはバックエンドの計算手法を意識することなく利用できます.異なる計算エンジンを組み合わせ,それぞれの強みを活かして計算を分散処理するような仕組みが理想的だと考えます.
 サプライチェーンの話を中心に進めてきましたが,すべての要素が密接につながっているため,どれか1つを解決すればよいという話ではありません.部材調達からユーザーフレンドリーなツールの開発まで,幅広い分野に日本企業が関与する機会があると感じています.そのためには,まずは国が主導し,産業参入の障壁を下げることが重要ではないかと,皆さんの意見を伺いながら改めて思いました.
 では,次のテーマに移らせていただきます.

テーマ4:「量子コンピュータ活用に向けたリスク低減について」

斎藤:次の第四のテーマ「量子コンピュータ活用に向けたリスク低減について」,ご議論いただければと思います.山岡さん,お願いできますでしょうか.

山岡:はい,第三のテーマでの議論にも出てきましたが,量子コンピュータの普及に向けては,技術的・市場的なリスクをどのように低減するかが大きな課題になります.先ほど,政府が主導する必要性についても言及がありましたが,この点についてもう少し詳しくご議論いただければと思います.

嶋田:リスクにはさまざまな定義がありますが,大きく2つに分類できると考えています.
 1つ目は,技術の発展に対する不確実性です.特に量子コンピュータの場合,どの程度スケールアップできるのか,その平均的な成長率や変動幅が明確になっていません.ただし,このような技術的なリスクについては,政府の研究開発投資などにより,ある程度の対策が講じられています.技術の成熟度を高め,スケールアップの将来予測のブレ幅を抑える取り組みは進められていると認識しています.
 2つ目は,市場の成長に関する不確実性です.現在,人材や企業の参入が進みにくい要因の1つに,市場の成長が見通せないことが挙げられます.市場が拡大するかどうかの予測が難しく,初期投資の回収が困難であると判断されてしまいがちです.また,サービスとして提供した場合に利用者がどれだけ確保できるのか,投資対効果(ROI)がどの程度見込めるのかといった点も明確でなく,スケールするビジネスモデルを考えることも簡単ではありません.さらに,部品調達に関しても,サプライチェーン全体でコストと利益を分配する構造が確立されていなければ,価格競争力を持つ製品を作ることが難しくなります.こうした技術的な課題だけではないタイプのリスクをどう低減するかについて,過去の新技術の普及事例などから学ぶべき点があれば,ぜひご共有いただきたいと思います.

山岡:一般的な新技術の発展では,小規模な導入から徐々に拡大する「スモールスタート」戦略が取られることが多いですが,量子コンピュータの場合,それが容易ではないという印象があります.すでに実際に取り組まれている企業の視点から,この点についてご意見をいただけるとありがたいです.

土肥:量子コンピュータのコストは非常に高額です.たとえば,1キュービットあたり1億円と試算すると,10万キュービットのシステムを構築するには10兆円もの資金が必要になります.では,そのコストを誰が負担するのか,そして,どのように投資を回収するのかという点が,現時点では明確になっていません.
 仮に,計算結果ごとにクラウド経由で料金を課すモデルを考えた場合,それだけでは収益が成立しない可能性が高いです.より持続可能なビジネスモデルとして,計算結果に応じたレベニューシェア(利益分配)を導入するなどの工夫が必要になるかもしれません.また,量子コンピュータの製造コストを大幅に削減できるような技術的ブレークスルーが求められます.HPC(高性能計算)領域でも,何兆円規模のシステムは例外的であり,同様の市場構造を量子分野に適用するのは難しいでしょう.そのため,単に技術を発展させるだけではなく,業界全体が経済的に成り立つ仕組みを整備しなければなりません.

山岡:まさにそこです.確かに,コスト構造の問題をどう解決するかが鍵になりますね.国の役割についても議論が必要になってくるかと思います.この点についてご意見をいただけますか.

川畑:なかなか難しいです.HPCと比較した場合,スーパーコンピュータの分野では,すでに確立されたエコシステムが存在します.たとえば,日本では「富岳」,アメリカでは「フロンティア」などの最先端スパコンがあり,それらを支えるサプライヤーも多数存在しています.こうしたエコシステムが形成されることで,ユーザーも増え,市場が回る構造になっています.
 一方で,量子コンピュータの市場はまだ黎明期であり,こうしたエコシステムを形成するには時間がかかるでしょう.そのため,政府や公的機関が一定のリスクを負担し,初期市場を形成する役割を果たすことが重要です.たとえば,政府が中心となって試作機を調達する,試験環境を整備する,技術ロードマップを策定するなど,長期的な視点での施策が求められます.
 また,HPCのエコシステム構築の過程を参考にすることで,量子コンピュータ分野に援用できるアイデアが得られるのではないかと考えています.たとえば,スーパーコンピュータの初期段階ではどのように市場を開拓し,どのような支援策が講じられたのかを分析することは,量子コンピュータの市場形成にも非常に参考になると思うのですが,いかがでしょうか.

山岡:そうですね.確かに,スーパーコンピュータの分野では国の資金が大きな役割を果たしており,その観点から量子コンピュータの発展を考えるのも1つの方法ですね.

土肥:現在,日本国内で量子コンピュータを実際に購入しているのは,産業技術総合研究所(産総研)や理化学研究所(理研)などの公的研究機関に限られているのではないでしょうか.そういう意味では,ようやく市場形成の歯車が回り始めた段階だと考えています.
 一方で,一般企業が自社で量子コンピュータを購入するケースは,現状ではほとんどないと思います.最大の理由は,投資対効果(ROI)がまだ確立されていないことです.現時点では,量子コンピュータの導入はビジネスとして成立するというよりも,「将来の技術を学ぶための研究・試験」という側面が強いでしょう.そのため,企業が自発的に投資するよりも,国が主導してインフラ整備を進めることが重要です.たとえば,産総研などが「100万キュービットのシステムを開発する」と宣言し,そのために企業や研究者を集めるといった試みが必要なのではないかと思います.

山本:私自身,リスクのある研究に携わる立場として,この点は慎重に考える必要があると感じています.技術の発展には長期的な視点が不可欠です.AIの分野でも,1970〜80年代にはビジネスとしての活用はほとんど考えられていませんでした.しかし,基礎研究が継続され,2000年代にはAlphaGoのようなブレークスルーが生まれました.そして現在では,AI技術が爆発的にビジネスへと応用されています.
 AIの発展を支えた要因の1つは,国や研究機関による長期的な支援です.たとえば,画像識別技術のコンテストや,未踏ターゲット事業などの継続的な取り組みが,技術の成熟と市場への適応を促しました.同じように,量子コンピュータ分野においても,基盤技術の研究開発を長期的に支える仕組みが必要だと考えています.

山岡:目標設定の重要性については,まさに「ムーンショット」という言葉が象徴的です.量子コンピュータの開発を進める上で,大きな目標を掲げ,それに向けて技術や市場を整備していくことが求められます.
 また,先ほどのサプライチェーンの議論にも関連しますが,コスト低減のアプローチも重要です.たとえば,スマートフォンのプロセッサを製造するQualcommは,自社チップの普及を促すためにリファレンスデザイン(設計の指針)を提供し,「このチップを使えば,誰でもスマホを作れる」という仕組みを作りました.同様の手法が量子コンピュータにも適用できるのではないでしょうか.

土肥:実際,量子コンピュータ用のチップ販売をビジネスモデルにしたスタートアップも登場しています.たとえば,ジョン・マルチネス氏が設立したQolabでは,高品質な49キュービットのチップを販売する計画があると報じられています.こうした動きが広がれば,「チップを購入し,既存のハードウェアに組み込めば量子コンピュータが完成する」という世界も見えてくるかもしれません.

山岡:そうなると,量子コンピュータの価格が下がる可能性も出てくるのでしょうか.ただ,チップ自体は依然として高価であり,その製造コストが大きな課題になりそうです.

土肥:確かに,現在の量子チップの製造は高コストですが,半導体技術と同様に,大量生産が可能になれば価格は下がる可能性があります.ただし,量子チップはきわめてコアな部品であり,その製造プロセスは各企業の知的財産として厳重に管理されています.そのため,チップ単体の販売だけでは市場の拡大にはつながらず,Qualcommのようにリファレンスデザインを提供するビジネスモデルが確立されることが重要ではないかと考えています.

川畑:今の議論は非常に興味深いです.超伝導量子コンピュータのチップを販売している企業があります.たとえば,中国のSpinQという企業は,元々NMR型の量子コンピュータを開発しており,デスクトップ型の小型量子コンピュータを販売していました.また,同社はトランズモンベースの超伝導量子コンピュータのチップや超伝導回路設計自動化ツールを販売しているという点も興味深いです.
 しかし,山岡さんがおっしゃるように,「チップの販売が普及につながるか」という点については,いくつか課題があると考えています.チップを購入したとしても,購入者は希釈冷凍機や制御エレクトロニクス装置を用意しなければならず,さらに冷凍機内外の配線やパッケージングを自身で設計・調達する必要があります.超伝導方式では,単にチップを購入しただけではシステム構築が困難であり,現時点では広範な普及にはつながりにくいのではないかと懸念しています.
 一方で,大規模な装置が不要なプラットフォームも存在します.たとえば,冷却原子を用いた量子コンピュータであれば,希釈冷凍機や複雑な配線が不要であるため,システムの小型化が進めやすいと考えられます.もちろん,高強度かつ安定なレーザーが不可欠ですが,モジュール化された光学部品を提供することで,ユーザーはより簡便にアッセンブリーし,システム構築できる可能性があります.こうしたプラットフォームの活用が,量子コンピュータの普及を加速させる1つの方向性かもしれません.
 なお,SpinQがデスクトップ型製品を販売している背景には,大きく2つの目的があるようです.1つは,富裕層が子ども向けの「教育用玩具」として購入すること,もう1つは,高校や大学向けの教育用途として活用することです.富裕層市場の規模は未知数ですが,教育用途に関しては世界的な需要が見込まれます.たとえば,GHZ状態の生成や量子テレポーテーションなどの実験を少数量子ビットで実施できれば,多くの学生が量子技術に触れる機会を得られ,人材育成につながる可能性があります.

山岡:ありがとうございます.教育用途としての展開は非常に興味深いです.人材育成と普及の両面で大きな意義があると感じました.国が大規模な投資を行う一方で,こうしたスモールスケールのアプローチも重要なのだと改めて認識しました.

嶋田:私はむしろハイエンド市場に可能性を感じます.リスクを低減する方法の1つとして,小規模市場を狙う戦略も有効ですが,期待収益の大きい市場を先に攻めることも有効かもしれません.
 たとえば,現在のHPC(高性能計算)の主要顧客がどこにいるのかを分析し,そこに量子コンピュータを売り込む戦略が考えられます.たとえば金融業界では,HPCを活用してミリ秒単位の速度向上を競っており,コンピューティングリソースへの投資意欲が非常に高い領域です.また,創薬分野でも高性能計算は不可欠であり,ROIを意識したビジネス展開が期待できます.
 もちろん,「量子コンピュータが本当にこれらの分野で優位性を発揮できるか」という不確実性はあります.しかし,スモールスケールとハイエンド市場の両方に戦略的にアプローチすることで,普及の道が開けるのではないかと考えます.

山岡:ありがとうございます.おっしゃっていただいたとおり,確かに,金融業界ではHPCを活用し,1〜2秒速いだけで大きな利益を得られるケースがあるため,彼らは計算資源に対する投資を惜しまないでしょう.そのような分野において量子コンピュータの活用可能性を探ることは,非常に重要なアプローチだと感じました.
  第四テーマはこれくらいにさせていただければと思います.

テーマ5:「量子コンピュータが学術・人材教育に与えるインパクト」

斎藤:第五テーマの「量子コンピュータが学術・人材教育に与えるインパクト」,ディスカッションいただきたいと思います.中野さん,お願いできますでしょうか.

中野:はい,最後のテーマ,「量子コンピュータが学術・人材教育に与えるインパクト」,あるいは,そのために必要な取り組みや課題について,ご意見を伺えればと思います.

山本:分野が発展するためには,若く優秀な人材の参入が不可欠です.その点で,教育の現場においても大きな変化が起こりつつあります.かつての量子力学の授業は,抽象的で難解な理論中心の内容が多かったのですが,近年では量子コンピューティングの概念が導入され,教育方法が大きく変わってきました.
 私の所属する大学では,学部3年生向けに「量子コンピューティング」の授業を開講し,IBMさんの協力を得ながら,ハンズオン形式で量子コンピュータのプログラミングを実践的に学ぶ機会を提供しています.このようなカリキュラムの導入によって,「量子力学はこういう世界なのか」「コンピュータとこうつながっているのか」といった直感的な理解が促され,情報科学との関連性がより明確になってきました.その結果,量子コンピュータに強い関心を持つ優秀な学生が増えており,教育の重要性を改めて実感しています.
 特に近年,量子センサー技術の発展やIBM Quantum Platformのような実機環境の登場により,量子力学の概念をより具体的に体験できるようになっています.かつては抽象的な議論に終始していた観測問題なども,実験を通じて実感できる時代になり,量子情報科学の教育が格段に進めやすくなりました.

川畑:私も2024年4月から法政大学に着任し,情報系の学生向けに量子コンピュータの講義を担当しています.IBMのQiskit SDKを活用した量子コンピュータのプログラミング実習を授業に取り入れており,学生が量子コンピュータ実機を用いてプログラミングしています.その結果,学生の量子コンピュータに対する興味が高まり,実際にプログラミングを体験しながら学ぶことで,目の色を変えて熱心に取り組む姿が見られます.一方で,板書で数式を並べるだけでは,どうしても興味を引きにくいという課題もあります.こうした背景から,量子コンピュータ実機を活用した教育の意義を強く感じています.
 IBM Quantum Platformのようなクラウドベースの量子コンピューティング環境は非常に有益ですが,さらなる普及に向けていくつかの課題もあります.たとえば,無料枠の制限があり,学生が「もっと試したい」と思っても,すぐに無料枠が埋まってしまうケースが多く見られます.また,無料で利用できるバックエンドの忠実度(計算精度)が比較的低く,高精度な計算を試みるには有料プランの利用が必要になります.
 大規模な大学や研究機関では企業と連携するなどして量子クラウドサービスのサイトライセンスを確保することが可能ですが,量子コンピュータ研究者の数が限られている地方国立大学や私立大学では,そうしたリソースの確保が難しいのが現状です.そのため,全国津々浦々の教育機関が量子コンピュータに非常に安価にアクセスできるようなプラットフォームが整備されると,国内の量子技術と量子人材の裾野をさらに広げることができるのではないかと考えています.

土肥:私は教育者という立場にないので難しいですが,企業の視点から見ると,量子技術の発展において人材不足は非常に大きな課題だと感じています.
 量子コンピュータに対する関心は高まりつつありますが,企業が量子技術の研究開発を進めようとしても,適切な人材を確保するのが難しい状況です.ハードウェアだけでなく,ソフトウェア開発の分野でも同様の課題があり,企業側がエンジニアを募集しても,日本国内では必要なスキルを持つ人材が十分に供給されていません.ですので,裾野の広げるという取り組みは,大学の先生方に非常に感謝しています.

嶋田:「実機が動いています」と少し嘘をついてもいいはずです(笑) というのは冗談ですが,実際,State Vectorシミュレータのようなシミュレーション環境でも,十分に興味深い学習体験が得られると考えています.シミュレータは20量子ビット程度までなら高速ですし,無料のものがほとんどですから,無理に実機を活用しなくても教育効果は得られるのではないでしょうか.
 とはいえ,もし「量子コンピュータの実機がクラウド上で動いている」と学生に信じさせるブラインドテストを行い,その結果として教育効果に差が出るのであれば,それは画期的な研究になるかもしれません.実機で学ぶことが本当に学習のモチベーション向上につながるのか,教育研究として検証する価値はあるのではないでしょうか.

川畑:私は,実機での学習には大きな意義があると考えています.量子コンピュータは「夢のコンピュータ」とも言われ,学生にとって「自分が量子コンピュータ実機を操作できる」という体験そのものが大きなインパクトを持つのです.
 授業ではまずState Vector シミュレータを使って基本動作を学習しますが,この段階では学生の反応は比較的淡白です.しかし,量子コンピュータ実機にジョブを投げた際に「理想どおりには動かない」という生々しい体験をすると,明らかに興味の度合いが変わります.実機の特性を理解し,量子コンピュータの限界を肌で感じることで,より深い学びにつながっているように思います.
 もちろん,より高度な量子計算や量子回路の設計に進む段階では,State Vector シミュレータを活用するほうが適切でしょう.たとえば,ニールセン&チャンの教科書に記載された量子アルゴリズムと比較しながら学習を進めることで,より体系的な理解が得られます.そのため,量子コンピュータ実機での体験は初学者の興味を引きつける意味で重要であり,研究フェーズに移行するにつれて,実機だけでなくシミュレータの方が有用な場面も増えてくるのではないかと考えています.

山本:私たちの大学の授業では,最終的に実機は使用しませんでした.使用することは可能だったのですが,ジョブの処理待ち時間や,登録の手間といった技術的な制約があったためです.ところで最近,元々素粒子論を専攻することを考えていた学生が量子コンピューティングの分野に流入してきているという傾向があります.これは,教育の在り方次第で,優秀な人材をこの分野に引きつけることができる良い事例ではないかと思います.

中野:ありがとうございます.まとめますと,初学者が量子コンピュータに興味を持つきっかけとしては,実機の活用が非常に効果的である一方,研究を進める段階では,シミュレータの方が効率的であるという点が確認できました.
 また,人材育成を進める上では,教育手法の工夫だけでなく,いかに多くの人に量子技術に興味を持ってもらうかが重要な課題になります.技術の進展とともに,より多くの学生や研究者がこの分野に関心を持ち,学習を深められる環境が整備されることを期待しています.貴重なご意見をありがとうございました.

斎藤:ここで聴講者の方から「量子コンピュータの研究開発において世界の中での日本のステータスはどうでしょうか? 国が推進しているのは暗号関連なども含めて経済安全保障的観点で推進していく必要があるという観点もあるのでしょうか?」というご質問をいただいております.

川畑:まず,日本の量子コンピュータ研究の世界的な位置づけについてですが,プラットフォームによって状況は異なります.今この瞬間は,超伝導量子コンピュータに関しては,アメリカや中国が技術的に先行している印象があります.しかし,理研と富士通も国産超伝導量子コンピュータの開発に成功し,着実にその技術レベルを向上させています.
 また,日本が強みを持つプラットフォームも存在します.たとえば,光量子コンピュータの分野では,東京大学の古澤明先生や武田俊太郎先生が世界的に見ても世界の先端を走っており,最近古澤先生はOptQCというベンチャー企業を設立し,ビジネス化の動きも進んでいます.また,シリコン量子コンピュータの分野では,集積度という観点ではインテルやEqual1がリードしていますが,量子ビット制御技術や忠実度(精度)に関しては,理化学研究所の樽茶清悟先生のグループが国際的に先頭を走っています.さらに,冷却原子量子コンピュータの分野でも,分子科学研究所の大森賢治先生の研究成果が国際的に高く評価されています.
 このように,量子コンピュータのプラットフォームによっては,日本も世界的に高い競争力を持っている分野がありますが,超伝導方式をはじめとする主要な分野では,さらなる研究開発の加速が期待されている状況です.

嶋田:安全保障の観点についてですが,これはきわめて重要な視点であり,各国が量子技術の戦略的価値を認識しつつあります.特に,「サプライチェーンをいかに同志国間でセキュアに確立するか」という議論は,NATO科学技術機構の報告書でも取り上げられています.日本としても,この流れを共有していると考えられます.
 量子技術の軍事応用については,欧米に比べると日本での取り組みはあまり表立っては進められていない印象がありますが,これは量子技術に限った話ではないでしょう.世界的に見ても,現状では量子センシング技術の軍事応用研究は進んでいるものの,量子コンピュータについては,まだ顕在化していない部分が多いようです.
 経済安全保障の観点では,輸出規制もかかわってきます.現在,ワッセナー・アレンジメントの枠組み内で,量子コンピュータの輸出規制をどのように扱うかという議論が行われていますが,規制を強化するのは時期尚早にも思えます.カナダのGlobal Risk Instituteが行ったアンケート調査からも,「2048bitのRSA暗号を24時間以内に破る量子コンピュータが今後5年以内に実現する」と考えている専門家は10%未満のごく少人数でした.ただし,実際に暗号システムを移行するには10〜20年という長期間が必要なため,アメリカのNISTを中心に2030年からRSA暗号の置き換えを進めるという方針で耐量子計算機暗号の標準化が進められています.日本も,この動きに合わせて準備を進めている段階です.

中野:9月初旬には,量子コンピュータが初めて輸出規制の対象に含まれました.アメリカが先行して規制を強化し,日本もその2日後に追随する形で発表を行いました.こうした動きを見ると,日本でも適切な対応が進められていると感じています.

嶋田:安全保障の観点から考えると,既存の法律を活用し,国が量子コンピュータ関連の研究開発を支援することも1つの手段になるでしょう.実際,経済安全保障に関する政府予算は非常に大きく,人工知能や半導体などの分野に加えて,量子技術も戦略的に重要な技術の1つである「特定重要技術」にカウントされています.
 そのため,研究コミュニティとしても,量子技術が経済安全保障上の重要分野であることを適切に認識し,政策提言などを通じて国の支援を得ることが,今後の発展において重要になるのではないかと考えています.

斎藤:ありがとうございます.
 最後に,皆さまから本日の感想をひと言ずついただければと思っております.

中野:本日は,2時間にもわたり貴重なご議論をありがとうございました.量子コンピュータの最前線で活躍されている皆さまにお集まりいただき,大変興味深く,率直なご意見を伺うことができました.今回の座談会では,技術の現状や課題,人材育成の重要性,経済安全保障との関係など,多岐にわたる論点が取り上げられましたが,まだ十分に議論しきれなかったトピックもあると感じています.
 たとえば,量子コンピュータの消費電力やエネルギー効率といった観点は,今後の発展において重要なテーマになるのではないかと思います.今後も,学会内外でこうした議論を続けていければと考えております.

山岡:本日は皆さまありがとうございました.皆さまの多様な視点からのお話を伺い,大変有意義な時間を過ごすことができました.特に,量子コンピュータの社会実装に向けたリスク低減の重要性について,多くの示唆を得ることができました.技術の進展だけでなく,経済的・産業的な側面からも,どのように量子コンピュータを実用化していくかを考えることが求められていると感じました.今後も,こうした議論を継続していければと思います.

山本:私は,個人的に,量子コンピュータ,数理,AIといった異分野の融合が進み,科学としての成熟が加速していると感じています.特に,量子情報科学の発展が,理論だけでなく実践的な研究や応用にもつながっている点が非常に面白いです.
 一方で,私自身はビジネス的な視点や経済的リスクについてはあまり詳しくないため,本日の議論を通じて多くの学びがありました.引き続き,皆さまと交流させていただけたらと思っております.よろしくお願いいたします.本日はありがとうございました.

川畑:今日は皆さんどうもありがとうございました.いろいろな専門性を持った方々と議論を行い,多くの気付きもあり,本当に勉強になりました.
 特に印象的だったのは,「1キュービット1億円」というコストの問題です.量子コンピュータが真に社会に普及するためには,コストのスケーラビリティの課題を克服することが不可欠です.私自身,現在はアカデミアに身を置いていますが,量子人材育成を進めると同時に,量子コンピュータ技術が社会に普及するための道筋を模索していきたいと改めて感じました.

嶋田:本日は,皆さまとお話しできて大変楽しい時間を過ごすことができました.特に印象的だったのは,大学の講義で量子コンピュータに初めて触れる学生が増えているという点です.
 私自身,現在は量子技術とは直接関係のない企業に所属していますが,それでも周囲の人と「ハミルトニアン」の話ができるようになったことに驚いています.これは,量子技術が特定の研究分野に留まらず,より広く一般的な知識として浸透しつつある証拠ではないでしょうか.
 量子コンピュータが,物理の専門分野にとどまらず,情報科学の学生にとっても「当たり前の技術」になりつつあることを実感しました.今後のさらなる発展が楽しみです.本日はありがとうございました.

土肥:本日は皆さまありがとうございました.さまざまな分野の方とお話できて,大変有意義な時間を過ごせました.企業の立場からすると,量子技術の発展が一時的な「ブーム」で終わらず,持続的な成長につながるかが重要なポイントになります.
 特に,大学で量子コンピュータを学んだ学生たちの受け皿をしっかりと用意することが,企業としての役割の1つだと考えています.研究と産業が連携しながら,量子技術の社会実装を進めていくことが求められるでしょう.今後とも,よろしくお願いいたします.

斎藤:本日は大変長時間にわたり議論いただき,ありがとうございました.これにて座談会を終わらせていただきます.

一同:ありがとうございました.

(座談会終了)

座談会開催日時:2024年11月1日

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