会誌「情報処理」Vol.65 No.11(Nov. 2024)「デジタルプラクティスコーナー」

「企業における情報技術活用のプラクティス─協業団体特集」編集にあたって

斎藤彰宏1,2

1情報処理学会デジタルプラクティス専門委員会 主査  2日本アイ・ビー・エム(株) 

我が国においてIT関連業務に従事している技術者は120万人を超えると言われています.利用者としてIT技術を活用されている方々を含めれば,さらに膨大な人数の方々がIT実践の場で活躍されており,それぞれの現場で生み出される知見や経験は莫大な量になるでしょう.しかし残念なことに大部分の知見や経験はごく限られた範囲や一時的な再利用にとどまっているのが実情かと思います.情報処理学会ではITを実践している実務家の方々が社会的有用性の高い成果を共有する仕組みとして2010年よりデジタルプラクティスを刊行しています.また2019年からは企業コミュニティや団体の活動における活動成果をデジタルプラクティスの中で発表いただいております.本特集では取り組みの強化を狙いとして「企業における情報技術活用のプラクティス」として,企業コミュニティや団体における優秀な活動成果に関する特集を企画させていただきました.

日立ITユーザ会より推薦いただいた井上貴大氏の論文「生成AIの業務活用に向けた取り組みと人材不足解消に向けたアプローチについて」では,中国電力(株)における生成AIの業務活用の取り組みについて,導入のステップ,要件の具体化や利用ガイドラインの策定,将来構想までを行ったプラクティスを紹介いただいています.

BIPROGY研究会より推薦いただいた小川たけと氏らの論文「中部電力グループのクラウドシフト~クラウドネイティブ開発に向けた人財育成~」では,中部電力グループにおけるプライベートクラウドからパブリッククラウドへの移行取り組みにおいて必要になったクラウドネイティブアーキテクチャを実現するための人材育成を紹介いただいています.

IBM Community Japanからは2編を推薦いただきました.伊集院絵里香氏らの「Watsonの文章解析を用いた保全指示表作成システム」では,化学プラントの保全において非常に重要な検査結果の理解と保全指示について,これまでのベテランの知識に頼った属人的な保全作業を,AIによる文章解析機能を使った保全指示表作成システムによって,刷新した事例について紹介いただいています.堀扶氏の「コード生成ツールの導入判断のための評価方法の提案」では,生成AIによるコーディング支援ツールの開発プロセスへの導入について,複数の開発者にこれらのコーディング支援ツールを使ったサンプル開発を行ってもらい,ツールの評価を行った実例をもとに,プロジェクトにおける生成AIによるコーディング支援ツール導入効果の評価方法を提案いただいています.

アシストソリューション研究会より推薦いただいた水谷洋太氏らの論文「アジャイル開発におけるエフィカシードリブン活用の提言」では,アジャイル開発経験の少ないメンバーが,代表的な手法であるスクラムを実践し,体験した内容とアジャイル開発習得のためのポイントについて紹介いただいています.

プログラミング能力検定協会より推薦いただいた飯坂正樹氏らの論文「高等学校における情報I必修化とプログラミングの評価」では全国の高等学校で必修化された「情報I」における「プログラミング」はその評価が内容・時間の面から非常に難しいという現状に対して,プログラミング能力を測るツールとしてプログラミング能力検定を用いてプログラミング指導を行った事例を報告いただいています.

日本アクチュアリー会より推薦いただいた外山真之氏の論文「保険会社が選択すべきITインフラの研究」では,安定稼働,大量データ処理,高度なセキュリティ,計算の正確性が求められる保険会社のシステムにおいて,メインフレーム,オープン系サーバ,クラウドの特性を分析し,各保険会社に適した IT インフラ構成を提言いただいています.

特集号企画としての座談会記事「CTO座談会」では,日本アイ・ビー・エム(株),(株)日立製作所,富士通(株),NEC Corporation,パナソニック ホールディングス(株)の各企業において最高技術責任者:CTO(Chief Technology Officer)として活躍されている皆様にお集まりいただき,企業の技術領域においての最高責任者としての役割を担うための取り組み,経営層として技術経営の方針策定や意思決定を行う上でのご苦労や,本会への期待を語っていただきました.本記事は第23回情報科学技術フォーラム(FIT2024)の中で実施したイベントの記事化になります.なお,本記事はイベント開催時期の都合で,2025年2月号での掲載になります.

実業務の中で得られた貴重なプラクティスを本誌に寄稿していただいた執筆者の皆様に心から敬意を表させていただきます.また本特集をご支援いただいた各団体の事務局,委員会,および学会事務局の皆様,特に特集号コーディネータとしてご尽力いただいたデジタルプラクティス編集委員会の長坂健治氏に厚く感謝いたします.

斎藤彰宏(正会員)
saitoha@tdp.ipsj.or.jp

日本アイ・ビー・エム(株)シニア・コンサルタント, 1995年日本アイ・ビー・エム情報システム入社.長野オリンピックプロジェクトなどを経て,ITアーキテクト・コンサルタントとして企業・官公庁のシステム設計に従事.2011年より現職.本会会誌編集委員(2018~2022年),会誌編集委員会デジタルプラクティス専門委員会主査(2022年~),技術応用運営委員会委員(2022~2024年).

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