トランザクションデジタルプラクティス Vol.5 No.2(Apr. 2024)

「人とロボットが共存し協調して働く社会のプラクティス」編集にあたって

小野田 弘士1  江谷 典子2

1早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科  2全日本空輸株式会社 

1Graduate School of Environment and Energy Engineering, Waseda University  2All Nippon Airways Co., Ltd. 

1. 編集にあたって

先進国では人口の減少が進むために省力化や自動化などへの対応やパンデミックへの対応が求められる中で,ドローンを含むロボットへの期待はますます高まっています.ドローン物流,ドローン防災,配送ロボット,ロボットレストラン,ロボットカフェなどロボット技術で社会課題を解決するために新たな挑戦が始まっています.そこで,人とロボットが共存し協調して働く社会に着目し,ロボット技術だけではなく,情報技術や社会規範などのプラクティスからも知見を集めて,人とロボットの共生を進化させる課題を考えてみたいと思い企画しました.

2. 本特集の論文について

本特集では6編の招待論文,それらの執筆者による座談会/インタビューを加え,さらに,2編の投稿論文を掲載しています.

小野田 弘士氏の招待論文「まちづくりと一体となったマルチベネフィット型モビリティの社会実装に向けた試み~南栗橋駅前街区『BRIDGE LIFE Platform』構想を例として~」では,埼玉県久喜市の南栗橋駅前街区で進められているいわゆるグリーンフィールド型のまちづくりと次世代モビリティの導入検討を一体的に進めているプロジェクトを紹介し,マイクロコミュニティ内でのマルチベネフィット型モビリティの開発とPoC(Proof of Concept: 概念実証)およびまちづくりのインフラ整備と一体となって進めるアプローチについて解説いただきました.自動運転システムを社会実装し,導入し,運用するための有益な知見が含まれています.

増田 景一氏らの招待論文「公道走行可能な自動配送ロボットの実証と実用化に向けた課題」では,京セラコミュニケーションシステム(KCCS)と早稲田大学が取り組んでいる公道(車道)を走る自動配送ロボットを活用したモビリティサービスの開発を報告しています.石狩市や千葉市における産学官連携の実証実験から得られた知見は,実用化の試みとして重要であると思われます.

深田 雅之氏らの招待論文「中山間地におけるドローン配送の社会実装に向けた課題と展望」では,埼玉県秩父市が官民一体となって山間地域における少子高齢化によるヒトとモノの移動の困難さに着目し,物流・公共交通ネットワーク「秩父モデル」構築への取組を報告しています.規制緩和に関する議論も進んでいるドローン物流を中心に,中山間地における社会実装に向けた課題は非常に興味深い内容となっています.

三木 信彦氏らの招待論文「ローカル5Gを用いた無人搬送車の遠隔制御」では,高速・高信頼・低遅延の無線通信を必要な場所に設置可能なローカル5G経由で無人搬送車の遠隔制御する実証実験を紹介し,その構成について解説いただきました.また,固定地点に4K・360度カメラを設置した映像伝送実証実験やトライアスロン大会のバイク競技をVR観戦する実験は,非常に興味深い内容となっています.

久保 仁氏らの招待論文「人とロボットが共存・協働・協調できる空間の社会的価値の考察―川崎重工Future Lab HANEDAの挑戦―」では,川崎重工の羽田イノベーションシティ内にロボットの社会実証と研究開発の推進拠点を開設し,ロボットの社会実証共創スペースとレストラン形態の実証実験スペースを併設していることを紹介し,これらのスペースを融合させた空間から,新たなサービスや空間の活用のアイデアが生まれていることを報告しています.レストランの運営を続けながら,この空間の活動を実施する事例として,有益な知見が含まれています.

後藤 悠氏らの招待論文「ロボットフレンドリービルディングに向けた館内交通ルール に関する実証実験」では,人とロボットの協働を前提としたロボットフレンドリービルディングを目指し,自律走行ロボットが施設内を移動するときの安全上の課題を,館内交通ルールにより解決することを意図した実証実験を行ったことを報告しています.ルール設定には有益な知見が含まれており,ロボットフレンドリービルディングに向けた課題は非常に興味深い内容となっています.

小川 聡久氏らの投稿論文「非接触型ごみ収集システムにおける自律走行型 ロボットの開発と社会実装に向けた検討」では,近年,非接触型ごみ収集に関するニーズが高まってきている中,住宅団地での社会実装を目標に掲げ,ごみ収集の非接触化を実現する屋外走行可能な自律走行型のロボットの開発を行ったことを報告しています.本ロボットを活用し,南栗橋駅前街区の住宅団地で非接触型ごみ収集を行うことができるかを確認する実証実験がおこなれました.

武内 一晃氏らの投稿論文「分身ロボット「OriHime」を用いた外出困難者の遠隔接客に関する実証実験」では,人とロボットが共存し協調して働く社会の新たな可能性を示す一例として,株式会社オリィ研究所が運営する「分身ロボットカフェ」の取り組みと,その実践を通じて得られたプラクティスについて報告しています.障がいや介護などさまざまな事情で外出困難となっている従業員(パイロット)が分身ロボットを自宅から遠隔操作することで,配膳や接客等のサービスを提供することの利点や課題を議論しています.

招待論文から各論文を理解するのに助けとなるキーワードを数ワード選択し,簡潔な解説をしています.

小野田 弘士(正会員)

早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科 2017年早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科教授,現在に至る.博士(工学).

江谷 典子(正会員)

全日本空輸株式会社.IEEE Technical Committee and Co-Chair on Service Robots.2024年3月まで本会デジタルプラクティス編集委員会編集委員.博士(工学).

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