トランザクションデジタルプラクティス Vol.5 No.1(Jan. 2024)

「アフターコロナのコンタクトセンター」編集にあたって

寺下 薫1

1クリエイトキャリア 

1Create Career 

1. はじめに

コロナによって大きな影響を受けたコンタクトセンターは,リモートワークの導入や回答の自動化,などが急速に進んだ.従来,メインのチャネルであった電話対応からチャットボットや有人チャットのように電話対応以外のノンボイスチャネルが少しずつ普及し始め,FAQのように顧客が自己解決する仕組みも増えている.アフターコロナとなり,リアル出社が戻りつつある中,採用難やキャリアアップ,リーダ育成に関する課題が出てきている.そこで,アフターコロナを踏まえた,更なるDX化や顧客ニーズの変容に応じたコンタクトセンターの改革が必要となる.また,長年の課題であるコンタクトセンターにおけるリーダの育成も大きな課題である.それらの課題をどのように克服していけばよいのかを考え,今回のコンタクトセンター特集号を企画した.

2. 本特集の論文について

本特集では3編の招待論文と1編の投稿論文を掲載している.

内藤礼志氏の招待論文「DXにおけるコンタクトセンターの役割–顧客エージェントとしてのコンタクトセンター–」では,VUCA時代に突入し,お客様の変化がますます速くなる中,企業もお客様に合わせて迅速に変化し続ける必要があり,そのためにはDXが必須となると論じている.DXは,単なるシステムの導入ではなく,全社改革であり,その実現に向け,全業務の改革が必要と述べている.特に継続的なUX向上が求められる中,全社の中でのコンタクトセンターの役割を再定義し,具体的にどのような業務改革がコンタクトセンターに求められるのかを明らかにしている.論文では,主に製造小売業を中心に語られているが,今後,コンタクトセンターにおいても十分活用できる内容である.

コンタクトセンターにおけるリーダ育成は,長年の課題でもあるが,採用難が続いているコンタクトセンターにおいては,喫緊の大きな課題である.寺下薫の「ハイブリッド式リーダ育成」では,コンタクトセンター内で使用するAIやチャットボットなどのシステムが進化して自動化が進み,人間が答えなくても機械で答えられる仕組みが整えられつつある一方,機械で答えられない複雑かつ難易度の高い問い合わせをオペレータが対応せざるを得なくなり,オペレータを指導,サポートするSVの管理やサポートも年々難しくなっている問題を提起した.

オペレータの導入研修は,整備できても,SVなどリーダの育成は十分できていないセンターが多い.これまで,SV育成にはオンライン研修とリアル研修を組み合わせた「ハイブリッド式リーダ育成」の効果が高いことが判明し,どのようにすればリーダを育成できるかについて述べたので,参考にしてほしい.

渡邊博氏の招待論文「市場や顧客ニーズの変容に対応したコンタクトセンターの変革」では,顧客ニーズの多様化やコロナ禍による生活様式の変化もあり,企業は高速スピードで変化に対応しなければならないという課題提起をしている.お客様との接点のあるコンタクトセンターも,時代の変化に対応したサービスや顧客接点の多様化に対応するための変革をしなければならなくなっている.顧客の事前期待を把握し,データを活用してマーケティング会社になるべく変革を進めている.サービスサイエンスとITを活用した顧客アプローチで実践的な事例を紹介しており,参考になる.

吉村喜予子氏らの特集投稿論文「医療従事者向けチャットボット会話の概念抽出による特徴分析:コールセンター会話との比較」では,チャットボット会話の特徴を製薬企業のコールセンター会話と比較して検証している.医療従事者がャットボットを使用して実際に質問しているため,最適な情報を提供できるチャットボットを開発するべく具体的な知見を提供している.

製薬会社が医療従事者向けにコールセンターで行っている業務をチャットボットに置き換え,それが効果があるかどうかの検証をしており,参考になる.

グロッサリでは,招待論文から各論文を理解するのに助けとなるキーワードを数ワード選択し,簡潔な解説をしている.

招待論文は会誌「情報処理」のデジタルプラクティスコーナー,投稿論文は論文誌デジタルプラクティスに掲載されている.全文は,https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/をご覧いただきたい.

寺下 薫(非会員)

クリエイトキャリア代表.情報処理学会コンタクトセンターフォーラム代表 キャリアコンサルタント(国家資格)

外資系企業やYahoo! JAPANで数多くのコンタクトセンターの立ち上げ,立て直しに従事.Yahoo! JAPANで,人材開発の責任者を長く務める.スーパーバイザーの問題解決養成塾「SV研究会」を2013年から立ち上げ,71社236名以上のSVを育成.2019年にヤフー株式会社を退職して独立.現在は,コンサルティングや研修,講演,執筆などを中心に活動している.

著書は「世界一速い問題解決」(ソフトバンククリエイティブ),「実は,仕事で困ったことがありまして」(大和書房).「ChatGPTで経営支援 強い組織の築き方」(共著)(日経BP).元サイバー大学客員講師.ソフトバンクユニバーシティ認定講師.I T協会カスタマー表彰制度審査委員会2023審査委員.コンタクトセンター・アワード2023個人表彰部門審査員.

情報処理学会論文誌 デジタルプラクティス Vol.5 No.1 (Jan. 2014)

情報処理学会論文誌 デジタルプラクティス Vol.9 No.2 (Apr. 2018)

情報処理学会論文誌 デジタルプラクティス Vol.62 No.2 (Feb. 2021)

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