リーダの育成は,どの企業や自治体においても大きな課題の1つだ.民間企業で数多くのリーダ研修など実施しているが,リーダが育成できない原因が3つある.
1つ目は,コロナ禍でのリモートワークの浸透である.2020年初頭,日本でコロナの感染拡大が問題となり,これまで現場出社が当たり前と思われた多くの職場にもリモートワークが導入された.ただ,リアル出社の部下もいたことから,マネージャが現場とリモートワークする部下の両方の管理をしなければならなくなり,管理者層の負担が急激に増えた.
2つ目は,AIやRPA(Robotic Process Automation)などテクノロジーの進化により,自動化が進んだ結果,仕事のやり方が大きく変わった.
そして,3つ目は,採用難による人材不足である.今いる人にできる限り長く働いてもらう必要があり,今いる部下からリーダを育成していかなければならない状況になっている.
上記のような問題は,コンタクトセンター界でも同様に起きた.日本において,コンタクトセンターの事業規模は,矢野経済研究所のデータ[1]によると1年間で1兆円を超えており,約100万人が従事している業界[2]であり,リーダの育成は必須である.リモートワークが導入された現場も全員がリモートワークではなく,一部のオペレータにとどまったため,現場とリモートワークするそれぞれのオペレータを両方管理せざるを得なくなったSVの負担が急激に増えた.また,AIやチャットボッドなどにより,お客様への回答の自動化が進んだ一方,お客様の問合せ内容がより複雑化,難渋化していることに起因する.コンタクトセンターでは,自動化によるコスト削減を図っており,機械で答えられるものは機械で対応し,人でしか対応できないものは人でと業務の棲み分けを行ってきた.簡単な問合せや質問については,WebページやFAQ,またはチャットボットで対応し,お客様自身がセルフで解決できるように誘導している.その結果,簡単な問合せはシステムで対応できるようになった一方,難しい案件は人でないと対応できなくなっている.その難しい案件をサポートするのがSVの仕事であるため,サポートの難易度も上がっている.
そして,コンタクトセンターは採用難の状況にある.コロナ禍は,行政が行うコロナのワクチン接種の受付センターなど,いわゆるコロナ特需が発生し,飲食業や宿泊業,旅行業で仕事を失った人たちが,採用難で困っていたコンタクトセンターに流れることとなった[2].結果,一時的にコンタクトセンターの人員数は充足したが,それも一時的で,現在は,コロナ明けでコンタクトセンター業界全体が再び採用難に陥っている.採用難の原因はいろいろあるが,1つは,コンタクトセンターに対するイメージが悪いことに起因している.コンタクトセンターへの就職や部署異動の話を聞いた人は,皆,口を揃えて「大変ですね」と言われる.実態を表してないが,クレームが多いというマイナスイメージが先行しているのも起因している.採用難である状況からしても,現在のメンバをリーダとして育てていく必要がある.
コロナの感染拡大により,コンタクトセンターは,続々とリモートワークを導入した.また,感染拡大防止のため,他社同士のコンタクトセンター見学や外部との接触が著しく制限された.研修も例外ではなく,リーダを育成しようと思っても,企業側の方針で,外部スーパーバイザへの参加の取りやめなどが発生した.リアルで行っていた研修がオンライン研修に切り替わり,それに伴い,リーダ研修も,オンライン研修へと切り替わっていった.コロナの感染が拡大したときは,私への研修の依頼も9割以上(依頼件数ベースでの集計)がリアルでの研修を取りやめ,オンライン研修に変更になったのだ[3].また,オンライン研修への移行に伴い,eラーニングや動画研修なども取り入れられるようになった.
オンライン研修は,最初,その効果を疑う向きもあったが,実際にやってみると,オンライン研修も想像以上の効果を発揮することとなる.確かにオンライン研修の場合,どうしても緊張感がリアル研修に比べて薄かったり,研修中に別の業務をやってしまう,いわゆる内職ができてしまったりする点で,効果がないのではないかという問題があった.しかし,緊張感に関して言えば,研修のやり方を工夫さえすれば,オンライン研修でも十分緊張感を保ったまま,研修を実施することができることも分かった.たとえば,オンライン研修の場合,講師と受講生の双方向のコミュニケーションがなかなか取りづらく,講師側から伝えるだけの一方通行の研修になりがちだが,質問の頻度を高くすることで,緊張感も保てるし,内職等も防止することができる.
オンライン研修は,出張や移動など伴わないため,研修の開催のしやすさでいえば,リアルに比べ格段に高い.特にコンタクトセンターでは,シフト制でコストの関係から,できるだけ最低限の人数で運営しているため,なかなか現場から人を抜いて研修できないからである.また,通常,リアル研修でグループワークなどすると模造紙や付箋,ペンなどを使って成果物を出してもらったりするが,オンラインになると,PCが使用できるため,使うツールにもよるが,パワーポイントやエクセルなどを使って,たとえば,月次報告書の作成やマニュアルの作成など,より実践的な研修を実施することができる.
我が国では,コンタクトセンターにおけるリーダ育成が,長年の課題であった.コンタクトセンター業界は,約100万人が従事する業界[3]であるにもかかわらず,アメリカや韓国のようにコンタクトセンターに関する大学や専門学校が日本には存在しない.一部,群馬大学情報学部で河西憲一准教授がコンタクトセンターでも関連する待ち行列理論の研究をされているが,コンタクトセンター全体を体系的に教育している学校はない.
コンタクトセンターでSVのようなリーダに体系的に教えたくても教える際に参考になる書籍等が少ないことも問題の1つだ.コンタクトセンターのリーダ育成に関する実務書を取り扱う出版社もあまりない.センター長やマネージャ向けのビジネス書や資格取得向けの本は数冊出版されているものの,特にSV向けのものは,本屋で探しても,ほとんど見当たらない.そのため,リーダ育成を考えるセンター長は,コンタクトセンター以外でも活用できる汎用的なビジネス書を参考にするほかない状態になっている.
コンタクトセンターにおけるリーダ育成で,一番大きな問題は,リーダに登用された者のほとんどがビジネス基礎スキルを教えられていないことだ.通常,企業に就職すれば,1週間ほど会社の作法(その会社独自のルールなど)や一般的なビジネス基礎スキル(ビジネスマナーやタイムマネジメント,問題解決,ロジカルシンキング,プレゼンテーションなど)研修などを学ぶが,コンタクトセンターの場合,そういったことを学ぶ機会が与えられていない.その理由は,即戦力が求められるからである.お客様対応に必要な知識を急速に学ばせる必要があるため,ビジネス基礎スキルは後回しになり,その後の習得もない結果となっている.また,優秀なオペレータからSVに登用されることがほとんどのため,コンタクトセンターでは,モニタリングやクレーム対応,KPI(Key Performance Indicator,重要業績評価指標)管理など,コンタクトセンター特有のスキルは教えても,ビジネス基礎スキルは教えたりしない.その結果,ビジネス基礎スキルの教育を受けてないため,応用が効かず,他部署への異動もなかなか実現できないでいる.コンタクトセンター内のキャリアにとどまる原因の1つもここにあると考える.
実は,リーダを育成できない一番の問題は,コンタクトセンターのリーダは,多忙のため,研修や外部のスーパーバイザがあっても,なかなか参加することができないでいることだ.コンタクトセンターは他部署と異なり,シフト制でかつ,対応も即時性が求められ,また,必要最少人員数で運用している関係上,あまり余剰のある状態では運用していない.そのため,社内でトレーニングする人がいればよいが,トレーニングする人もおらず,外部の研修もシフトに穴が空いてしまうため,参加できず,スキルの習得ができないでいる.
ある企業から32名のSVを10カ月間かけて育成し,コンタクトセンターの副センター長を輩出するというミッションを私は引き受けたことがある.まずは,リーダに必要なスキルをピックアップし,育成の全体像を作成していった.育成の際,経営層からよく言われたのが,「途中で脱落してもよいので,厳しく指導してほしい」だ.最近は,パワハラを恐れて強く指導できない上司,先輩が多い.本気で次世代リーダを育てたいという経営層の強い思いもあり,研修で厳しく指導することとなった.
研修を企画する際,一番の懸念点は,単発研修によるモチベーションの持続性と肝心なスキルの習得である.コンタクトセンターが自社でSVを育成する際もそうだが,特に外部の研修を受講させて育成させるケースがある.ただ,その場合,短時間研修や1日研修にとどまることが多い.単発の研修でも効果の高い研修は確かにある.しかし,これまで数千人のリーダ教えてきて分かったこと,それは,皆,習ったことをすぐ忘れてしまうことだ.「エビングハウスの忘却曲線」[4]はご存じだろうか.ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスは,意味のない3つのアルファベットの羅列を,実験に参加してくれた人にたくさん覚えさせて,その記憶がどれくらいのスピードで忘れられていくかを実験し,調べた実験だ.
図1は,その結果をグラフ化した「エビングハウスの忘却曲線」である.この実験から,
つまり,1カ月もすれば,8割近くは忘れてしまうのだ.1回の研修を受講したとしても,研修直後は,学んだことを覚えていたとしても,すぐ忘れてしまうということだ.
実際の経験値としても,悲しいかな,5分前に伝えたことも忘れてしまう人もいる.講師側の伝え方が悪いのかと思うこともあるが,実態はそうだ.人は忘れることを前提に研修内容を組み立てる必要がある.だからこそ,反復練習が必要なのだ.何度も繰り返し,教えた内容に関する質問を投げかけたり,説明をしていたりすると,誰でも自然と覚えていくようになる.実際に質問を当てられ,答えられなかった人は,皆の前で恥をかくようになる.その恥ずかしさが奮起させるのか,次回から答えられるように努力するのだ.
10カ月間の研修の実施にあたり,何を一番意識していたかというと,研修内容の習得はもちろんのこと,受講生のモチベーションの持続だ.研修を受講したリーダ候補者は,研修受講した当日から約1〜2週間は,モチベーションが高い.研修を受講してきたからには,学んだことを現場で実践しようと思うからだ.しかし,モチベーションは,そう長くは続かない.なぜなら,受講した本人のモチベーションが高くても,職場にいる受講していない同僚のモチベーションは,上がっているわけではないからだ.そのため,周りの状況にも影響され,時間が過ぎれば元の自分に戻ってしまっている.そのため,ほぼ1〜2カ月に1回研修を実施し,しかも事後課題を課していけば,10カ月間という長期間であってもモチベーションは自然と続くようになると考えたのだ.経営層もそれを十分理解していていたからこそ,10カ月かけてリーダを育成することにしたのである.その結果,本研修では,受講者32名のうち31名が研修を完了し,脱落者を1名のみに抑えることができた.10カ月の間,eラーニング受講も同時に実施したこともモチベーションの持続に寄与したといえる.
10カ月でリーダ育成していくにあたり,どのような研修スタイルを採用するかが問題となった.本来であれば,リアルで集合型の研修でほぼ決まりだが,コロナ禍ということもあり,各社コロナによる感染拡大を恐れ,オンライン研修一択になるケースがほとんどだった.
リアル研修,オンライン研修,動画研修のどれが受講生から見たときに効果的かを考える上で,いろいろな視点で検討する必要がある.表1はリアル,オンライン,動画研修の違いを比較した表である.
リアルの研修は,対面式で実施するため,センターへの現場出社が前提となる.グループワークは同じグループになったメンバとワイワイと複数人が同時に話すことができ,緊張感もオンラインや動画研修とは異なり,緊張感を持って,受講生も研修を受講できる.研修中の内職も講師がいるため,基本的にはできない.発表も前に立って,発表してもらう際,ジェスチャも含めて発表できる.
一方,オンライン研修は,移動に要する時間は不要のため,地方拠点があっても,出張することなく研修が可能である.グループワークもたとえばZoom[6]であれば,ブレイクアウトルームという小部屋を使って,ディスカッションすることができる.ただ,1人が話すとほかの人が話しにくい状況になる.メインルームでは,トレーナ以外は,ミュートにしている.参加者がミュートを解除にしてしまうと,雑音などを拾ってしまい,受講生にとってはノイズになってしまうからだ.受講時の集中力は,リアル研修に比べて薄れてしまう.オンライン研修は,テキストも印刷すれば別だが,PDFで配布されることも多く,メモの取りづらさは課題として残る.
動画研修は,一方的に視聴するため,リアル研修,オンライン研修に比べて,緊張感や集中力などは格段に劣る.ただ,理解できなかった場合,繰り返し見ることができるのが1つの利点だ.ただ,オンライン研修も録画機能があるため,録画機能を使えば,その点も解消できる.
講師側としては,リアル研修,オンライン研修,動画研修,それぞれの一長一短を踏まえて選択し,実施している.コロナ禍では,9割以上の研修がオンライン研修に切り替わっていったが,それに対応できない講師もたくさん出た.リアルで行っている研修のコンテンツをオンラインではそのまま使えず,カスタマイズが必要になったからである.また,システムの操作に慣れない講師もオンライン研修に対応できなかった.ただ,出張が必要な地方のセンターもオンラインや動画であれば,出張やそれにかかる往復の時間なども削減でき,効率的に実施することができた.講師側の手間は,実はリアル研修,オンライン研修,動画研修もさほど変わらない.ただし,リアルの場合は,グループワークをする際,すべてのチームをパッと一瞥できるため,進捗状況など把握しやすい.オンライン研修では,グループごとに小部屋があり,そこをいちいちのぞきに行かないといけない点で,面倒さは残る.
オンライン研修で,一番用いられるツールがZoomである.一部金融機関系のコンタクトセンターでは,Zoomのセキュリティの脆弱性を危惧して,Microsoft Teams(以下,Teamsと表記する)で運用しているセンターが多い.受講生側からすると,Zoomであろうが,Teamsであろうが,受講に際し,使い勝手はあまり変わらない.表2にZoomとTeamsの違いを示す.Teamsの方がグループワークの際,部屋を開く作業を受講生側に協力をお願いしないといけない点やタイマーなどがない点で,少し使い勝手が悪いところがある.一方,Zoomは,講師側からすると,操作性が非常に優れている.特にグループワークの際の操作性,特にタイマーの設定ができたり,受講生のグループ間移動が容易にできたりなど,使い勝手がよい.
リーダを育成する際,基本となる育成方法がある.それは,元連合艦隊司令長の山本五十六の有名な言葉に大きなヒントが隠されている.
「やってみせ,言って聞かせて させてみて,誉めてやらねば,人は動かじ」
有名な言葉であるため,一度は聞いたことがある人も多いだろう.この中には,人を育成する際のポイントがほとんど詰まっている.ただ,山本五十六の言葉には,研修に必要な準備すること,そして,指導の際の叱ることの大切さが不足しているため,追加すると,
「準備して,やってみせ,させてみて,叱って誉めてやらねば,人は動かじ」
となる.この言葉を実践すれば,リーダを育成していくことができる.
リーダを育成するには,4つのステップ,つまり「準備」「提示」「実行」「評価」で育成していくことが近道だ.「教える準備をして」「やってみせて(率先垂範)」「本人にやらせてみて」「フィードバックする」というやり方.このサイクルを意識的に回していけば,リーダを育成することができる.
まず,人を育成するには,準備が必要である.人に教えるには,教えるためのマニュアルを用意したり,教えるべきポイントを予習したりしなければならない.
次に,SVに教える講師が自ら実際にやってみせる.これが,いわゆる提示である.単に「やれ」とSVに言うよりも,見本をやってみせる方がとても説得力がある.これまでの企業や自治体で実施した研修においても,単に「やれ」と受講者であるSVに指示するよりも,まず講師が見本を見せて,その後にSVに指示をしたほうが,高い育成効果を得ることができた.
続いては,実行である.SVに教えたことを実際にやらせてみる.講師側がやってみせるだけではなく,やらせてみると,自信もつくし,達成感も味わえる.
最後に,評価だ.つまり,フィードバックである.できていることはもちろん誉め,こうしたらもっとよくなるといった改善すべきことを率直にフィードバックする.
実は,この4つのステップの重要度は同じではない.一番重要なステップは「評価」である.すなわち,最後のフィードバックが4つのステップの中で一番大切である.しかし最近は,叱れない上司が増えつつあり,肝心の評価がままならなくなっている.その結果,叱れず,リーダを育成できない管理者から私のところに多くの相談が寄せられることとなる.
フィードバックの際,叱ったりすると,職場の雰囲気を壊してしまうのではないかとか,その後が気まずくなって仕事に支障を来すのではとか考えがちだ.しかし,叱ることもリーダ育成に必要な指導法だ.これまでの経験で言えば,叱るときは,本気で叱ればよい.ただし,リーダの成長を願いながら,叱ることが大切だ.怒る,つまり感情をぶつけたりするのは,厳禁だ.
叱ったりしたら,嫌われるんじゃないかとか,仕事がやりづらくなるのではないかとか,心配になる人も多いと思う.しかし,叱った後にそれを引きずらずに普通に接し,フォローをちゃんとすれば問題ない.一時的には,職場の雰囲気が真冬のように凍りつくかもしれないが,その後のフォローをきちんとやれば,時間もあまりかからずに元どおりに戻る.余計な心配はしないことだ.
もちろん,誉めることも忘れてはいけない.教えたことがちゃんとできたときや素晴らしいと感じたときには,しっかりと誉めることが大切だ.そしてその際には,叱るときと違って,人前で誉めることだ.誉めるときは,徹底的に誉めることを忘れないことだ.
私は,研修内では,グループで取り組んでもらうワークショップを多数用意している.それは,グループワークの中で,リーダシップを育てたいからである.まず,4人1チームにして,リーダ,発表者,資料作成者,タイムキーパを決めてもらう.リーダになった人は,チームが決断に迷ったときに決断してもらったり,成果物を出すためにチームメンバの意見を取りまとめたりする役割がある.演習前に与えられた役割を100%発揮するよう伝え,もし,時間内に成果物が作成し終わらなかった場合は,発表やフィードバックの機会がもらえなくなるというルールも同時に伝える.そうすることで,リーダは,チームをまとめ,成果を出すためにがむしゃらに頑張るようになる.役割分担を付与し,ルールを設定することで,リーダのリーダシップを鍛えるのだ.
オンライン研修としての大きな課題は,受講生の集中力をいかに持続させることができるかどうかである.オンライン研修の場合,講師側が話す時間が長くなり,どうしても受講生は受身型の受講になってしまう.また,講師側から受講生一人ひとりの様子や反応は見えづらく,また,受講生側がミュートにしているため,双方向のコミュニケーションが取れているかどうかも分からない状態である.だからこそ,集中力を切らさない工夫が必要なのだ.その工夫がワークショップや質問である.オンライン向けのグループワークを行ったり,質問を投げかけたりすることで,集中力を切らさない仕組みが必要だ.
リアルの研修の場合,1〜2時間で1回,5〜10分の小休憩を取ることが多い.長くやっても,受講生の集中力は続かないからだ.研修にはメリハリが大切なため,小休憩を挟んで,メリハリを付けていくことになる.オンライン研修では,受講生は,PCの画面に集中するため,疲れやすい.また,ワークもPCへの入力作業などが多くなり,体を動かすことがほとんどないため,脳が活発化せず,ほかのことを考えたりしがちとなる.そのため,オンライン研修では,こまめに休憩を取る必要がある.休憩は,1時間に1回程度,5〜10分程度の休憩を取ることが大切だ.休憩が多くなる分,研修時間が削られてしまうが,集中力の点を考慮すればやむを得ないと考える.
Zoomなどオンライン研修を実施するにあたり,いろいろな機能があるが,それを使いこなすことだ.タイマーの設定やアンケート機能,チャット機能など,リアル研修ではあまり使えていない,オンラインならでは機能を使いこなすことである.受講生を飽きさせない工夫を常に考えながら,研修を実施する必要がある.
オンライン研修で陥る罠は3つある.1つ目は,技術的問題である.つまり,通信環境が良くないとスムーズに研修を運営することができない.自宅の無線LAN通信環境が悪いと画面が止まってしまったり,音声が途切れがちになってしまったりする.2つ目は,集中力が散漫になってしまうことである.受講生はミュートにして,パソコンに向き合って,研修を受講することになるため,メールなどの着信音に反応してしまったり,自宅の場合は,宅配業者などの訪問ベルが鳴ったりして,集中できない可能性がある.そして,3つ目は,コミュニケーションが円滑に取れない問題である.リアルに比べて,グループでは話しにくく,また1人が話をしていると,ほかの人が話をしづらく,そのため,意思疎通したくても十分できない恐れがある.
オンライン研修としての大きな課題は,緊張感をいかに持続させることができるかどうかである.
私は,リーダ育成で大切なことは,研修で学んだ内容はもちろんのこと,モチベーションを持続させることであると考えている.そのモチベーションの持続がその後のリーダが成長に大きく影響するからだ.しかし,研修を受けても数日で,モチベーションは受講前と同じようになっていく.そのため,私は,研修終了時に毎回事後課題を参加者に与えている.どんな事後課題かといえば,GoogleやYahoo! JAPANのようなインターネットでの検索サイトで検索しても答えが出てこない問題,つまり,自分の頭で必死になって考えなくてはならない問題である.なぜなら,インターネットで検索して出てくるような問題を出せば,参加者は,自分の頭で一切考えることなく,安易にインターネットで調べた内容に少しアレンジしてまとめ,提出してくるからである.今であれば,OpenAIが2022年に公開した生成AIの1つであるChatGPT(学習済みのデータを活用してオリジナルデータを作成するシステム)を利用して回答を作成することもあるため,その考慮も必要である.また,研修の内容に紐づいた事後課題であることももちろん必要である.
ある企業のリーダ育成プロジェクトでは,プロジェクトの最終成果発表前の2カ月ほど前にリアルでの合宿研修を行った.コロナの感染拡大が続いていたころであったため,オンラインでやるか,リアルでやるか悩んだが,少し感染が落ち着き始めたころであったため,先方の人事担当者と打合せの上,リアルでの実施をした.
AM9〜PM9までやるので,1に勉強,2に勉強,3,4がなくて,5に勉強といったカリキュラムになっている.特にリアルの場合は,寝食も同じにするため,3日間で受講生同士のコミュニケーションも取れるようになる.研修内容についても,前日の内容の振り返りの時間も取れ,習熟度を高めることもできる.カリキュラムの内容については,流れや順番など熟慮した上で,決定している.単に合宿研修を実施しても意味はない.今回,首都圏のホテルの会議室を借りて,実施となったが,やはり,環境を変えて実施することで受講生の集中力は高まる結果となった.
単元ごとに教えていくが,振り返りをまめにして,学んだことを受講生に定着させる必要がある.先ほど教えたことについて,質問をして,答えてもらうのだが,ほとんどの受講生は答えられない.たった5分前に教えたことでも答えられなかったりするのだ.しかし,質問に対して答えられなかった受講生は,そこで恥ずかしい思いをすることになるが,その結果,覚えることができるようになる.重要なことは,何度も振り返りを行い,受講生に伝えていく必要がある.面倒くさがらずにやることが大切である.
研修で学んだことを最終成果発表で発表してもらうことにしている.しかも,その最終成果発表には,経営層の参加を呼びかけている.なぜなら,どう参加者がリーダ育成研修を通じて変化したのか,そして実際に成果がどのように出たのかを確認してもらうことが必要だからだ.そのため,人事や参加者だけの成果発表では不十分である.最終成果発表前に経営層にアポイントメントをとっておき,できるだけ数多くの経営層に参加してもらうことで,参加者のモチベーションも俄然として上がる.
最終成果発表では,1人5分ずつ自身の取り組みを発表してもらい,その後,経営層や私からの質疑応答の時間を取っている.全員がプレゼンテーションするので,一人ひとりを観察しているのだが,資料も違えば,発表の仕方も人によってさまざまである.練習や資料の準備ができてないと,プレゼンの差になって現れることになる.
成果発表を聞いている人に届く良いプレゼンテーションと自己満足で,相手に伝わらないダメなプレゼンテーションがある.以下では,良いプレゼンテーションとダメなプレゼンテーションの特徴を述べる.
以上がダメなプレゼンテーション10個だ.
プレゼンテーションは,訓練で誰でも上手になることができる.ある意味,カラオケに似ている.ただ,基本を押さえずに訓練しても意味がない.基礎をしっかり勉強しつつ,上手な人からフィードバックを受け,課題を修正していく.そんな訓練の繰り返しこそが,プレゼンテーション成功への近道だと言える.
通常,研修後に受講者に対してアンケートを配布して,研修の良し悪しを検証する.アンケートは,通常,非常に満足,満足,普通,不満,非常に不満などの5段階評価でつけさせることが多いが,適切ではない.なぜなら,直後に行うアンケートで,あまりに低い点数はつけない人がほとんどだからだ.アンケートで大切なことは,記述式の部分,つまりフリーで書いてもらった部分である.分かりにくかったところや難しかったところなどを自由に記述してもらい,それを参考に研修のコンテンツや教え方をブラッシュアップしていく必要がある.
オンライン研修としての大きな課題は,3つある.
1つ目は,ネット環境に左右されることである.今は,光回線を引いて,自宅で通信状況も安定的に受講するメンバも増えたが,回線が混み合う時間帯だったり,ネットワークの通信状況により,音声が途切れがちになったり,画面が止まってしまったりすることがある.再入室すれば解消することもあるが,その間の研修は,受講できないこととなる.
2つ目は,緊張感がリアルに比べてないことである.オンライン研修の成否の鍵は,緊張感をいかに持続させることができるかどうかで決まる.オンライン研修の場合,どうしても受講生は受身型の受講になってしまう.また,受講生の様子は,講師側から見えづらく,集中力を欠いているのかも把握しにくい.その結果,講師は,受講生の反応が不明瞭のまま,研修を進行することになる.
3つ目は,少人数のコミュニケーションは問題ないが,コミュニケーションが取りづらいことである.通常,オンラインでの集合研修の場合,講師以外は,ミュートにして受講者は参加している.ミュートにしないと,ちょっとした咳や生活音などが発生した際,ノイズになってしまうからだ.そのため,グループワーク時以外はミュート対応となり,双方向のコミュニケーションはとりにくくなる.
リーダを育成するのに,リアルでの対面研修,オンライン研修,動画研修,eラーニングとコロナをきっかけに研修方法は,多様化した.どれも一長一短があるため,1つに決め打ちして実施するのは望ましいとは言えない.それぞれの強みを活かし,複合的な組合せで研修を実施するのが実は,リーダ育成の近道だと考えている.ただ,どの方法を採用したにせよ,人の目による状況確認やサポートは必須だ.リーダ育成には,労力も時間もかかる.ただ,それを惜しんでいては,リーダ育成はできない.リーダを育成していくには,経営者のリーダを育てるという強い決意と時間をかけて育成していくという根気強さが必要だ.
リーダ育成は,今後もコンタクトセンター業界において,大きな課題の1つである.特に採用難の状況が続いているコンタクトセンターでは,今いる人を育て,長く働いてもらう必要がある.そのため,育てる人を育てる必要が発生している.人の育成は,正直,簡単でもないし,じっくり時間をかけてやっていく必要がある.ただ,今回のリーダ育成プロジェクトを通して感じたことは,率直なフィードバックは,リーダに気づきを与え,成長を加速するものであること,そして,単発で行う研修ではなく,長期で行う研修で,モチベーションを持続することができるということだ.今回は,何より,最終的に副センター長を輩出できたことが育成の成果でもある.多くのセンターがこの論文を参考にして,リーダ育成できることを希望して,執筆を終えたいと思う.
寺下 薫(非会員)
create.career.2018@gmail.com
クリエイトキャリア代表.キャリアコンサルタント(国家資格).本会コンタクトセンターフォーラム代表.外資系企業やYahoo! JAPANで数多くのコンタクトセンターの立ち上げ,立て直しに従事.Yahoo! JAPANで,人材開発の責任者を長く務める.スーパーバイザの問題解決養成塾「SV研究会」を2013年から立ち上げ,71社236名以上のSVを育成.2019年10月末にヤフー(株)を退職して独立.現在は,講演や研修,執筆,コンサルティングなどで企業の支援を行っている.著書は『世界一速い問題解決』(SBクリエイティブ),『実は,仕事で困ったことがありまして』(大和書房).『ChatGPTで経営支援 強い組織の築き方』(日経BP).元サイバー大学客員講師.ソフトバンクユニバーシティ認定講師.IT協会カスタマーサポート表彰制度2023審査委員.コンタクトセンター・アワード2023個人表彰部門審査員.
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