会誌「情報処理」Vol.65 No.2(Feb. 2024)「デジタルプラクティスコーナー」

「コンタクトセンターの未来像」座談会

ファシリテータ:千葉広宣((株)ZOZO)
スピーカー:渡邊 博((株)WOWOWコミュニケーションズ),内藤礼志((株)Mindsocietylab),寺下 薫(クリエイトキャリア)

本インタビューでは,センター運営・システム・人材育成の専門家にコンタクトセンターの「採用難」「キャリアアップ」「コンタクトセンターのイメージ」などの課題,「経営貢献」「テクノロジーと人」「求められるスキル」など,コンタクトセンターの未来像について,各社の事例や実務者ならではの考察などを議論していただいた.

千葉広宣
千葉広宣(非会員)((株)ZOZO)
2011年ファッションEC「ZOZOTOWN」コンタクトセンターのアルバイトスタッフとして(株)スタートトゥデイ(現・(株)ZOZO)に入社.2014年に正社員登用後,顧客対応,対応品質向上,情報システムなどの担当を経て,2020年よりアドミニストレーションブロック ブロック長(課長職)としてセンター内の総務を担う.スタッフが業務に集中して楽しく働ける,ZOZOらしいコンタクトセンターの整備を行い,企業理念である「世界中をカッコよく,世界中に笑顔を」の実現を目指す.
渡邊博
渡邊 博(非会員)((株)WOWOWコミュニケーションズ)
2005年(株)WOWOWコミュニケーションズ入社.複数コンタクトセンターにおけるプロジェクト立ち上げ,業務改革を経験,その後品質管理部門,マーケティング部門,営業部門にて新規顧客開拓,顧客接点設計を担当,現在マーケティングソリューション事業本部 部長.
内藤礼志
内藤礼志(非会員)((株)Mindsocietylab)
(株)Mindsocietylab代表取締役.製造小売業を中心としたグローバル日系企業で,全体業務改革から情報システムの企画,開発,運用まで,事業全体のDXの推進に従事,その中でコンタクトセンターの改革を複数実施.2022年に(株)Mindsocietylabを設立.精神社会の実現を目指し,現在は,講演や研修,コンサルティングなどで企業のDX活動の支援を行っている.
寺下薫
寺下 薫(非会員)(クリエイトキャリア)
フォーラム代表.外資系企業やYahoo! JAPANで数多くのコンタクトセンターの立ち上げ,立て直しに従事.Yahoo! JAPANで,人材開発の責任者を長く務める.スーパーバイザーの問題解決養成塾「SV研究会」を2013年から立ち上げ,71社236名以上のSVを育成.2019年にヤフー(株)を退職して独立.現在は,講演や研修,執筆,コンサルティングなどで企業の支援を行っている.著書は「世界一速い問題解決」(ソフトバンククリエイティブ),「実は,仕事で困ったことがありまして」(大和書房).「ChatGPTで経営支援 強い組織の築き方」(日経BP).元サイバー大学客員講師.ソフトバンクユニバーシティ認定講師.IT協会カスタマー表彰制度2023審査委員.コンタクトセンター・アワード2023個人表彰部門審査員.

千葉:今回「コンタクトセンターの未来像」をテーマに,3名の方にお集まりいただきました.短い時間ですがよろしくお願いします.私は,今回モデレーターを務めさせていただきます,(株)ZOZOの千葉と申します.よろしくお願いいたします.それでは,みなさんの自己紹介をお願いします.まず初めに内藤さんからお願いいたします.

内藤:皆様,はじめまして(株)Mindsocietylab代表の内藤です.私は, これまで金融機関のシステム開発や,広告代理店の事業企画を経た後,製造小売業にて事業企画から,業務改革,業務定着,業務改善を,商品計画から店舗,EC,コンタクトセンターまでの各領域において,会員アプリやECシステム含めたSCM全体の改革を一通りやってきました.私のモットーは「ITを事業に活かしきる」ことです.企業文化改革を含めたDX推進の支援をしております.最近は自社データを学習させたChatGPTの構築支援をしています.本日はよろしくお願いいたします.

千葉:内藤さん,ありがとうございました. 続きまして,(株)WOWOWコミュニケーションズ渡邊さんお願いします.

渡邊:WOWOWコミュニケーションズの渡邊です.当社は,衛星放送WOWOWの100%子会社で1998年に,WOWOWの顧客接点窓口を専門に扱う会社として設立.会社としての歴史はまだ浅く,設立から25年になります.創業の1998年から数年間は主にWOWOWのコールセンターをメインに事業を展開しその後,入札・一般企業BPOなど,外部クライアントへのサービス提供も行っております.現在は,顧客接点であるコンタクトセンターサービスだけでなく,プロモーションやCXの向上を提供しています.私の現職でのキャリアとしては,コンタクトセンターの運営から始まり,BPO新規顧客獲得の営業部門や品質管理部門での調査・研修担当,マーケティング部門で経験を積み,現在はBPOの営業部門とコンタクトセンター運用部門の責任者を兼任しております.本日はよろしくお願いいたします.

千葉:渡邊さん,ありがとうございました.最後にクリエイトキャリアより,寺下さん,お願いいたします.

寺下:はじめまして,クリエイトキャリアの寺下です. コンタクトセンター業界には2002年から従事しており,携わってから約21年になります. 当初は外資系企業で,コンタクトセンターの立ち上げや改善を行いました.その後,Yahoo! JAPANに入社し,Yahoo! JAPANでもコンタクトセンターの立ち上げプロジェクトに取り組みました.Yahoo! JAPANの北九州センターは,ヤフー内で最大の規模で,約500ブースで稼働しています.センターの立ち上げや大規模なトラブルの際に,1.5日で200席のクレーム対応センターを構築するなど,多くのプロジェクトに参加しました.その後,約7年間,人材育成部門のマネージャーを務めました.その後人事部門に異動し,約1,500人の従業員を管理する立場になりました.新卒採用も含めて人材育成に尽力し,2018年にクリエイトキャリアを設立し.2019年に独立.現在で5年目に入ります.私の仕事の約半分はコンサルティングで,残りの半分は企業や自治体向けの研修,講演,執筆活動など多岐にわたります.渡邊さんとは約10年以上の付き合いで,WOWOWコミュニケーションズにも何度か訪問しました.内藤さんとは経営者団体でご一緒させていただいており,約1年ほどのお付き合いです.本日はよろしくお願いいたします.

千葉:寺下さん,ありがとうございました.今回の座談会のテーマは「コンタクトセンターの未来像」です.まず初めに,現在のコンタクトセンターの課題について,内藤さんからお話しいただけますでしょうか?

内藤:結局,人材不足から始まっているのかなと思っています.コンタクトセンターの役割はなかなかハードワークですが,日本における生産労働者の全体的な人材不足が問題に挙げられ,各業種間での人材の奪い合いの中,採用や給与の面など,経営側に理解がなくコストセンターとして見られ給与水準が上がってこないと,結果,離職率が高くなり,度重なる採用と,それに伴う研修や教育コストが都度発生します.その固定費を嫌って効率化を目指し,アウトソースを利用すると今度はCSの付加価値が低下してしまいます.最終的にこうした負の連鎖に陥ってしまうことが課題と認識しています.

千葉:続いて渡邊さんはいかがでしょうか.

渡邊:コンタクトセンターの市場規模は2020年に1兆円を越え,今後もコンタクトセンター効率化コンサルティングなどのアウトソーシング事態の需要は,増加するのではないでしょうか.一方で,コンタクトセンター業界全般の人手不足が今後最大の課題ではないかと考えます.特に人口減少による採用難,離職率の増加,人材育成が難しくなっていくことが課題として挙げられます.コンタクトセンターではクライアント事業の繁閑に合わせて人員を採用しては,繁忙後の退職を繰り返すことが課題だと感じます.そして業界全体の人的課題は,キャリアステージの狭さです.スーパーバイザー(以下SV)を経験し,正社員にキャリアアップする方もとても増えており,業界として裾野が広がる非常によい状況ではありますが,その先のキャリアステージを考えると,コールセンター長など,一定役職以上のキャリアの狭さがあり, そこから先は,一般企業と比べた場合に業界全体が頭打ちになっているとも思いますので,業界全体的に課題があるという風に感じています.

千葉:最後に寺下さん,いかがでしょうか.

寺下:お2人の話と重なりますが, まずコンタクトセンター業界の長年変わっていない部分としては,コンタクトセンターに対する世間のイメージがあまり良くないというところです.そのため人気もないですし,特に電話の部門などは採用をかけてもなかなか人が集まってきません.逆に事務職はどんどん人が集まる傾向にあるというのが,非常に残念です.本当は会社の中でたくさん貢献できる重要な部署でもあり,クレーム対応が大変とか,そういうイメージが先行してしまっていて,それが1つの原因になっているのではないかと思います.そして,先ほど渡邊さんもおっしゃっていましたが,コンタクトセンターのキャリアが,この部門に閉じられてしまっているっていうところでしょうか.いわゆるセンター長以上は,どこにもキャリアアップしていく仕組みがないのは, 1つの大きな課題かなと思っています.たとえば,DHLの小川景徳さんは, コールセンターのセンター長から人事部門の責任者になり,その次は執行役員になっていらっしゃいます.そのような他部署でも活躍できる人材っていうのをもっと輩出できるといいと思いますが,やはりその辺のキャリアアップがなかなかできていないのではないかと思っております.あとは,私への仕事の依頼で多いのは,コールセンターのSVやセンター長研修です.よくあるケースとして,SV以上のリーダ・センター長の育成で結構悩んでらっしゃるところが多く,いつもセンターの課題のベスト3ぐらいに入ってきます.うまく克服できていないというのは,今も感じており,やはり,今のところコンタクトセンターの大きな課題の1つかなと思っております.これが現在の人手不足と相まっていて,コールセンターの中にいる人をなんとか育てていかなきゃいけないところを,なかなか育てられないところが,さらなる課題を生んでいるのではないでしょうか.

あとは,長い間言われ続けているのですが,まだ経営貢献まで至っていないセンターも多いところが,また1つの課題かなと思います.

千葉:寺下さん,ありがとうございました.やはり皆様の共通するところは,人材不足, 離職になると思いますが,今コンタクトセンター業界で働いている方の年齢層はいかがでしょうか. 年齢層は上がっているのか,それとも,若い方たちが増えているのかというと,どんな状況でしょうか.

渡邊:当社はいろいろな業務を受託しておりまして, それぞれに合わせて年齢層にはあまり偏りがないです.WOWOWカスタマセンターですと, 扱ってるのがWOWOWのコンテンツですので,求職者のイメージとして,エンタメ性に惹かれて比較的若い方が集まりやすい傾向にあります.

受託する業務の中でも,美容や健康関連などのセンターですとスタッフの募集は,商品の需要や購買属性層も考えてターゲットとなる消費者と同じくらいの世代の方で,同じ気持ちで寄り添ってお話できる方.採用の仕方として,世代や性別の指定はできないものの,求める人材要件はこういった目線に合わせられる方を歓迎します.比較的年齢層が高い方々もいらっしゃったりと,業務に合わせて,我々も狙ってそういった方々をお迎えしています.このような事由もあり年齢層についてはあまり偏りはないです.

千葉:それでは離職について,考えられる離職原因などがあれば教えてください.

渡邊:先ほどの寺下さんがおっしゃっていた,キャリアの部分にも非常に近いです. コミュニケータがランクアップしていただくと,ラウンダーという,手上げ対応を行っていただく役職に昇進いたします.そのもう1つ上がリーダ,そのさらに上がSVという形で4つの階層があります.SVまでの4階層は有期契約の雇用をしています.最近他社様とお話しする機会があり,コミュニケータでも正社員の方がいるという会社もあるとお聞きしたのですが,やはりBPO事業社である以上,正社員採用のみでの運営が厳しく,雇用面では有期前提とならざるを得ないため,皆さん特定のセンターで働き遂げるというよりは,条件や働きやすさで各企業を選択されていると感じます.そこが業界全体を見ても定着率に影響しているのではないか? と思います.

千葉:ほかに内藤さんは思い当たる点などはありますか.

内藤:言葉選びが難しいですが,私が見てきた中ですとレギュラーな出来事というよりも,イレギュラーな出来事が起きた際の顧客対応と,従業員の心のケアの部分が思い当たる部分です.繁忙期と閑散期のコール数の差が倍近く違うため,どれだけオペレータの人数や配置に配慮をしたとしても,繁忙期の負荷がとても大きく,心が折れてしまい,退職してしまう.ほかには,トラブルが起きた際や新しいサービスを導入したときの準備不足により,コール数が急拡大かつ長期化したときに,スタッフの心のケアが手薄になりがちです.私が過去に経験した例を出すと,ECで遅くとも1~2週で配送するものが,3カ月経っても届かないで,当然そのコールがコールを呼んでしまい,他部署も含めて忙しくなってしまったので,イレギュラーに耐えられずバタバタと辞めていくということがありました.

ほかの会社さんですと,本部社員が繁忙期にはコールセンターの助けに入るっていうようなことを決めて入ってはいるようですが,それでもなかなか補いきれないところで,イレギュラーが続いた結果,離職が離職を呼ぶというバッドサイクルに入ってしまいます.

教育やサポート体制が手薄になってしまうこともさらなる離職の原因なので,イレギュラーなときにどう踏ん張れるか手を入れてかないと,全体的に手遅れになり,人手不足を招く離職が数カ月遅れでやってきます.

千葉:なるほど!採用から1人前のお客様対応は,最低でも約1年程度かかり,人材育成に多くのコストがかかるのがコンタクトセンター業界であると感じています.寺下さんほかに何かありますか?

寺下:ほかの方と被ってしまう意見もありますが,私が考える離職原因は5つあります.

1つ目に,人間関係で辞めていかれる方です.特にSVとの関係性が悪くなると,オペレータは辞めていく傾向にあります.

2つ目に,センターによっては半年近い時間をかけ,一人前にしていくセンターもあり,業務知識が覚えられないため(特に金融関係のセンターになると研修期間も非常に長い傾向にある)研修期間の長さと覚えることの多さに耐えられず,辞めていく方も多いという印象です.

3つ目に,内藤さんもおっしゃっていましたが,業種・業態にもよりますが,業務量やクレームによって,受けるストレスを原因に辞めていかれたりするケースです.

4つ目は昨今,リモートも出てはきましたが,主婦層が多いセンターだと,旦那さんの転勤でも辞めざるを得ない部分も,離職率が上がっている原因だと思います.こちらに関しては私も経験があり,結構仕方がない面もあります.

最後の5つ目に,労働条件のきつさによっておこる体調不良が原因なのではないかと思います.普通の会社員のように月~金曜日の朝9時から夕方6時までというような,固定のシフトのセンターはほぼなく,どちらかというとシフト制のセンターが多いからです.

シフトのパターンはいくつかありますが,センターによっては24時間365日で,夜勤もあったりします.私も経験がありますが,正直夜勤はかなりきつかったという印象です.一応仮眠の時間はあるとはいえ,ちゃんと寝られないです.あとはシフトの状況によって,特に夏は日中に寝ることが非常に難しかったです.睡眠不足によって体調不良を起こし,人によっては突発性難聴を起こしてしまったりと,やはり労働条件は,1つの辞めていく要因になっているのではないでしょうか.

千葉:なるほど.昨今,20代前後の方は,テキストコミュニケーションが非常に多い印象が見受けられます.特にLINEをメインの連絡ツールとして使っており,電話でのやり取りは,日常の友だち同士でも少なくなっている印象です.スタッフが電話対応に苦手意識を持っている等の様子は見受けられますか?

寺下:私はあると思います.毎年,ある企業の新卒研修をやっているんですけど,コールセンターだけではなく,いろいろな業種の研修をさせていただいています.その中で不安と悩みはなんですかと聞くと,1番多く電話対応が挙がります.電話がかかってきたとき,どうやって対応したらいいのか分からない方や,そもそもあまり電話をかけないという方が多いです.そのため若い方は,コンタクトセンターに限らず,比較的電話対応が苦手なのかもしれないです.

千葉:私も20代前半の方は,電話ではなくLINEのようなチャットでの問合せが多い印象です.そもそも電話の習慣がなく,内線でも電話を避けるケースをよく目にします.ほかにありますか?

渡邊:電話とメールが主な業務内容だった時代に,チャットセンターを立ち上げました.まず研修はメールから入り,業務内容を理解しながら進めます.その次に電話対応の研修に入ります.電話はレスポンスの速さを含め,顧客対応満足度への影響が大きいので,いかに電話対応がしっかりと行える人材を育成するかが肝となります.しかし,最近はチャット対応の流れに変わりつつあります.そのため,電話研修をどのタイミングで行うか,育成プランが難しくなっています.

千葉:そうですね.せっかく電話研修を実施したにもかかわらず,電話対応が終了となってしまうと,もったいないですよね. このような部分も,現代のコンタクトセンターにおける課題の1つだと思います.続きまして,皆さんが考えるコンタクトセンターの未来像というところで,お伺いさせていただければと思います.まずは寺下さんからお願いします.

寺下:コンタクトセンターの未来像として,考えられることを大きく分けると4つあります.まず1つは,コロナは落ち着いてきましたが,一定数のリモートワークは残るのではないかと思っています.その結果,家族の転勤などで働けなくなってしまう方々が,仕事を継続できる可能性が,非常に高くなっていくのではないかと思っています.

2つ目に,SVを含む管理者は,いろいろなことを学ぶことができる重要な機会を得られているのではないかと思っています.たとえばSVでも,採用やトレーニングをしたりと,さまざまなジャンルの業務に携わることができている結果,他部署でも活躍できる人材がもっと増えていくと考えています.そうなれば,コールセンター外への異動がさらに増える可能性があるので,課題として挙がっていた部分も解決に繋がるのではないでしょうか.そうすると,今働いているコンタクトセンターの方々も,こういうキャリアアップもできると感じてもらえるのではないかと思います.

3つ目にリーダの育成に関してなのですが,今なぜリーダが育ってないのかという部分を深堀りすると,ビジネス基礎スキルがコンタクトセンターのSVには不足していると思っていました.今リーダになっている方は,ロジカルシンキングやプレゼンテーションなどはあまり教わらないまま,KPIやクレーム対応,モニタリングなどコンタクトセンター特有のスキルばかり教えられ,育っている人が多いと思います.今後リーダになるような人材にはそのようなビジネスの基礎スキルを身に付けていけば,いろんな部署のリーダとして活躍できる人材になれるのではないかと思っています.

最後に,コールセンター・コンタクトセンターが経営貢献できる部署になっていくことが,ここで働く方々の労働条件や給与条件などが変わっていく,1つのきっかけになるのではないかと考えております.

千葉:寺下さん,ありがとうございました.では続いて渡邊さん,お願いします.

渡邊:コロナ感染症の世界的な流行も影響して,今までの日本文化に根付いていた対面主義が強制的にリセットされました.そのため,我々の仕事だけではなく,消費者のサービスへのかかわり方がだいぶ変わったという印象を受けています.実際にコロナ以降は,AIやチャットbotなど,DXが進んだ印象です.DXが進んだメリットは,消費者全体の自己解決力が向上したことです.コンタクトセンターの未来像としては,先ほど千葉さんもおっしゃった通り,Z世代はテキストコミュニケーションが増えています.弊社のお問合せ窓口に1回も電話したことない世代が,今後メインの消費者になっていくとすると,コンタクトセンターの姿はこの数年でさらに変化していくと思っています.そうなると,消費者はまずは自分で調べる.その後,商品やサービスを試して,実際に解決できないこと,分からないことに対して,お問合せの行動へ繋がるのではないでしょうか.すると,コンタクトセンターへお問合せのある内容は難易度も難しくなると予想します.最終的に,人がかかわる部分のコールセンターの存在価値が重要視されます.加えて,CXやホスピタリティ,専門性の高度化が求められるのではないかと予想します.つまり「テクノロジーと人」のバランスが大切です.

寺下:システムエンジニア(以下SE)さんなども,もっとコンタクトセンターに入ってくるといいなと僕は思っています.

渡邊:おっしゃる通りです.自動化やカスタマーエフォートレスを進めるDX.ヒューマンタッチを伴う感情的なサポート.これらは,人間が顧客満足を高め,主導権を持ってやっていくことが必要であると思ってます.バランスをうまく活用していくことで,人と機械の住み分けができ,少子高齢化や採用難の解決策も見えてくると思います.

寺下:いままでだとセンターにSEさんが入ってこられる余地はあまりありませんでした.今こそ入ってきてほしいですし,もっといろいろセンター内でできることがあると思います.さらに,渡邊さんがおっしゃっていたテクノロジーがどんどん進んで,人と機械の住み分けが進んでいって,基本的にはセルフで解決するようになれば,ほとんどのお客さんがコールセンターに電話しなくても解決できるような仕組みができます.一方で,人に残るのは結構,複雑で難しい問題だと思います.そういった問題が起きたときに,結局またコンタクトセンターで人がやる仕事は,きついイメージになってしまうのではないでしょうか.この辺り渡邊さんはどういう風にお考えですか.

渡邊:1つ目は商品,サービスの技術的なもの.2つめは感情的な部分.チャットやボットでは顧客の気持ちを全然受け止めてくれません.この2個をヒューマンタッチで受け止めるしかないと考えます.いままではこれらをすべて人が応対してきましたが,今後は恐らく6~7割は機械が応対することになります.そこから先の煮詰まった課題感のあるお問合せを人が応対します.するとおっしゃる通りオペレータの負荷がいままで以上に大きくなります.そのケアをどうするかとともに,残りの3割,つまりヒトが行うサービスやコミュニケーションはマーケティングデータの宝庫であると思っています.商品やサービスやブランドイメージなどの定量的な分析は機械で集計できると思います.しかし,商品やサービスの中には,定性的な部分も絡んでいます.この定性的な価値を獲得できるのはコンタクトセンターしかありません.コンタクトセンターの価値が高まれば,地位も向上します.各社がコンタクトセンターの役割を戦略的に再定義する必要があると感じています.

寺下:なるほど.

千葉:ありがとうございました.では,内藤さん,いかがでしょうか.

内藤:私はコンタクトセンターの未来は明るいと思っています.私の論文にも書いてる骨子の部分でもあるわけですが,VUCAの時代に入り,コンタクトセンター単体というよりも各社の事業として,あるべき姿をどう目指すかというときに,コンタクトセンターがきわめて重要な役割を果たさざるを得ないという話だと思っております.ビジネスはいかに顧客のそばにいるかだと思っていて,顧客から離れると当然うまくいかず,いかに顧客を見るかだと思います.競合は過去,顧客は未来とも言われますが,競合ではなくて顧客を見る.そして顧客を見ているのはどこかと言ったら,コンタクトセンター以外なく,顧客中心にどうビジネスを作っていくのか,もっと言えば,ビジネスのサイクルの中に顧客をどう組み込んでいくのか,その起点になるのはどう考えてもコンタクトセンターであり,顧客の代理人そのものであるコンタクトセンターの果たす役割というのは,自社ビジネスを作りあげる,そのものだったりします.そういう意味だと,単に応対がというレベルではなく,そこから見えてくる自社の課題を商品そのものに対してもそうですが,店舗のサービス,ECのサービス,アプリの作り方,プロモーション等の展開の仕方を含めて,それをいかに各部門がその声をベースに,もう一度商品やサービスを作り直す. そして,それをまた世に出して,お客さんの反応をもらい,デザイン思考的なサイクルをいかに回していけるか.そのための軸になるものがコンタクトセンターかと思います.そうなると,きちんと作り上げていこうとすると,先ほどキャリアの話もあったと思うんですけど,実はそういうハードな役割であるからこそ,すごくビジネス的に,業務的には鍛えられて,すごく付加価値も上がるポジションになると思います.

今私のそばにいる人の例で言えば,いかに大変なオペレータの心に寄り添い, 励ましながら一緒に乗り越えて,コーチングをするか.コールセンター以外にも人材の価値は上がってますから,私も全社の中での社員のエンゲージメント向上みたいなこともやってたりしますが,そういうところのポジションにも活かされたりしますし, それがコンタクトセンターという1番厳しい中でやれたコーチングだったら,僕はどの部署でもやっていけるんじゃないかと思います.お客様が何を求めてるのか,言ってることではなく,言いたいことはなんなのか, というところもわかるポジションになるので,実はサービス企画などの方にも回っていけるでしょう.

機械などで応答的に対応できるところは,機械に任せる.そして,僕はやっぱりファンだと思うんです.自社のファンが電話なり問合せをしてくるわけですから, いかに本当のファンかというところを見抜くか.そことの対話ほど自分たちを鍛えてくれるお客さんはいません.コミュニティやマーケティングと言ってもいいようなところを吸い上げて,いかに自社のファンを増やしていくか,そんな文脈にもなれる役割かなとも思います.そういう意味だと,すごく良いポジションにいて,かつ,コンタクトセンターに限らない,全社の価値向上にきわめて貢献する役割ではないかと思っております.

千葉:皆様素敵なお話をありがとうございます.10年ぐらい前は,将来AIによってコンタクトセンターはなくなるのではないかと言われていました.しかし,皆さんのお話を聞くと,今後は今以上にコンタクトセンターの役割が重要になってくるのではないかと感じました.それでは,今後,オペレータやSV,管理職といった方々に,さまざまなスキルが求められていくかと思います.自動化に伴い,問合せが減っていくにつれて,私たちはどのようなスキルを手に入れていかなければならないか.何かお考えがありましたら,それぞれ教えていただけないでしょうか.

渡邊:私たちはコンタクトセンターという役割から,マーケティングセンターに役割と意識を変えていかなくてはならないと思います. 働いていただいてる皆さんがマーケターということを理解する必要があります.

単純に電話を受電,発信する役割だけではなく,サービスを愛していただいてる消費者の皆さんとのファンマーケティング,コミュニティの場を醸成してゆくための仕事だということを理解する必要があります.ホスピタリティや,応対品質はもちろん大切なのですが,それは手段でしかありません. 私たちが目指すマーケティングセンター化に向けて,役割定義を明確にすること.そこに向けて成長することで,お客様とサービスを共創しより良い関係を継続的に構築することができると考えます.

千葉:つまり,カスタマーサポートセンターの理念や目的を明確にすることが必要ですね.全スタッフに浸透させて,しっかりと土台作りが必要ですね.

寺下:1つ質問です.たとえばそれがインハウスだったら,理念の浸透ってやりやすいと思います.ただ,アウトソーサーになるとBPO(Business Process Outsourcing:ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ベンダーに対してどうすれば,理念を理解していただけるようになるんですかね.

渡邊:難しい課題です. クライアント側がコンタクトセンターをコストをして管理されておられる場合などは理念浸透よりも生産性・効率性を重視されるケースもあります.しかし,そこをクライアントの事業ミッションやフィロソフィーを初期研修として依頼し当社メンバと共有させていただくなどのご提案することもあります.直近では顧客接点をマーケティングに活かすことに,共鳴していただいたお客様と,いくつかのお取引を共創的に進めさせていただいております.

寺下:パートナーみたいな感じですね.

内藤:そうですね.

千葉:では,寺下さん,内藤さん,ほかにございますか.

寺下:私は,ビジネスの基礎スキルはちゃんと付けてあげるといいと思います.オペレータやSVは,トークスクリプト,モニタリング,クレーム対応,人員予測などの方に話が行ってしまいがちです.結果, 他部署で通用しない人材ができあがってしまう,だからこそ,ビジネスの基礎スキルを付ける必要があると考えます.私は問題解決養成塾であるSV研究会を2013年から10年やっています.最初はSVに何を教えるか悩みました.クレーム対応のテクニック, モニタリングのコツ,マニュアル作成のポイントなどを考えました.しかし,それを教えたところで,SVは何も変わらないと気付いたのです.そこで,問題解決の正しい考え方や,問題解決のテクニックを教えることにしました.100人が100人キャリアアップしたとは言いませんけど,多くの方が課長,部長になっているところを見ると,やっぱりそういったスキルを身に付けさせたのは,正解だったのかなと考えています.さらに,テクノロジーを使いこなしていくことです.今でいえば,ChatGPTなどの生成AIをどう使っていくかがとても大事です.これらを使いこなし,センターでどういう風にうまく経営貢献まで結びつけていくかをSVやセンター長,マネージャーが自分たちで考えていくことが大切です.今の生成AIは,日本語の精度も格段に上がっています.チャット対応や,メール対応などのテキストコミュニケーションに,どうやって活かせるかを考えていく力,スキルが求められているのではないでしょうか.

千葉:はい,ありがとうございます.

内藤:私が考える求められるスキルは,いかに顧客の声をちゃんと拾って,何が本当の課題なのかを切り分けて,各部門に相手が分かる形で届けることです.

共感インタビューのスキルで,クレームや問合せの感情的な部分と元の事実と呼ばれる部分をちゃんと切り分けて聞けること.各部門への伝達のスキルという意味で.ゴール設定と解決手段の話をごっちゃにしないなど.いかにゴール設定して,現状把握して,根本原因を特定して,解決策を考えて,計画立てて実行して,結果チェックするといった,一体相手はどこの話をしてるのかっていうのをちゃんと理解すること.そして,自分はどこの話をしようとしてるかみたいな基本的なビジネススキルとも言えるようなものは,全員身に付けてほしいです.これらができて初めて,お客様が何を言っているのか,それを各部門にどう伝えるか,寺下さんがおっしゃってるようなスキルが必要です.私もIT周りをやってきましたが,生成AIはインターネットが初めて登場した以上の衝撃です.まさに使う使わないという次元ではなく, いかに使いこなすかだと思います.どんどんアップデートや成長についていけるかで大きく差が出ます.オペレータの方々含めて使いこなせるように本部側のサポートが必要です.

千葉:ありがとうございます.早いもので時間を迎えてしまいました.最後に皆様から一言ずついただけますでしょうか.

内藤:最後にチャットGPTのことを話しましたが,私はDXの推進を支援してます.ちょっとしたITなどを使いDXをやってるつもりになるのが1番危険です. 改めて顧客を創造する,顧客のために何ができるのか,何をしているんだというところの意識をちゃんと持つことが大切です.いわゆる,全社改革を伴うような本当のDXをやって,その中心的な役割が,先ほどの明るいコンタクトセンターが1番の中心になります.そういうところで進化していければと思います.気軽にご相談いただければと思います.

千葉:続いて渡邊さん,お願いします.

渡邊:皆さんとお話をさせていただく中で,共通的な課題の再認識や,業界全体の将来に向けて各社がやるべきことが具体的に整理できました..我々の中では,たとえば内藤さんのようなITの専門知見だったり,寺下さんのような課題解決や人にかかわる部分のプロであったりと.皆さんそれぞれの角度で同じ課題を眺めることができていました.未来像について,明るい将来を描いていた自分と,皆さんの考えが一致してよかったです.各社自信を持って,チャレンジを行ってゆくべきだと再確認をさせていただきました. 良いお話を皆さんからお伺いできて大変貴重な時間でした.ありがとうございました.

千葉:それでは最後に,寺下さん,お願いします.

寺下:本日はありがとうございました.内藤さん.渡邊さん,千葉さん,ありがとうございました.コンタクトセンターに21年いますが, テクノロジーは進化したけど,人に関する課題ってそんなに変わってないなと思っています.これからはもっとそこを変えていかなければならないなという思いがすごくあります.コロナ禍で色んな気づきもありましたし,今コロナが明けて,私はよりコンタクトセンター本当の価値が試されてるんじゃないかなと思っています.コンタクトセンターは,働きがいがあるとか,コンタクトセンターに勤めるとこんないいことがあるみたいなことがあれば,やっぱり皆さん応募します.そうじゃなければ,皆さん去っていくと思っているので,そういった価値が試される段階にきてるんじゃないかなとに思っています.先ほども話に出てましたけども,テクノロジーは,今後もさらに進化していくと思っています.より人と機械との住み分けが明確になっていく.そういう意味では,コンタクトセンターは今からそれを見据えて,人にはどういうことをやってもらわなきゃいけないのかというのも考えていかないといけないです.私は今までコンタクトセンターに育ててもらって今の自分があると思っているので,その恩返しをしたいなと思っています.以上です.ありがとうございました.

千葉:改めまして,内藤さん,渡辺さん,寺下さん,本日は短い時間でしたが,ありがとうございました.私自身も,コンタクトセンターで働く当事者として, コンタクトセンターの未来を明るくしていきたいと思います.引き続きよろしくお願いいたします.本日はありがとうございました.

座談会開催日時:2023年10月22日

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