情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
[CE]コンピュータと教育研究会

 

1. 最近10年間の動向

コンピュータと教育研究会(CE研究会)は,1988年の設立後,30年以上の歴史を持つ研究会である.毎年継続して5回の研究会を開催し,10年間で50回を開催した.2019年6月には第150回の研究会を開催することができた.登録数は500名を超え,シンポジウムを含めて年間100件以上の発表が行われている.表1に研究会登録数と発表件数の推移を示す.

表1 研究会の発表件数

1999年からは毎年「情報教育シンポジウム(SSS)」を開催している.2010年からは教育学習支援情報システム研究会(CLE研究会)との共催になった.表2にSSSの発表件数と講演件数(招待講演のほか,パネルディスカッションやチュートリアル等を含む)を示す.

表2 情報教育シンポジウムSSSの発表件数

2014年からは教育学習支援情報システム研究会(CLE研究会)と合同で年3回のトランザクション「情報処理学会論文誌「教育とコンピュータ」(TCE)」を発行している.2018年度までに13号を発行し,16編の招待論文を含む75編の論文を収録することができた.

研究会の活性化としては,研究発表を論文誌の投稿につなげるための「研究論文セッション」を設け,発表論文に対する模擬査読を行っている.10年間の研究論文セッションの発表数は63件であった.

また,2014年からは発表時間を短めに設定することで発表しやすいように工夫した学生セッションを設け,5年間で138件の発表が行われた.同時に優れた学生発表に対する学生奨励賞を新設し,5年間で高校生を含む39件の発表を表彰した.小学校から高等学校までの学校教員の優れた発表に対する奨励賞も新設し,5年間で4件の発表を表彰した.

運営体制としては,主査と4名の幹事で幹事団を結成し,39名の運営委員と協力する形で研究会を運営している.研究会の研究分野は初等中等教育から高等教育や職業訓練までの幅広い教育を扱うことから,運営委員には大学教員以外に高校教員(10名),中学校教員(1名),小学校教員(1名),企業(1名)などに加わってもらい,多様な立場からの視点を運営に反映させている.

2. 研究分野の変遷

情報教育の研究領域について,この10年間の最も大きな変化は初等中等教育でのプログラミング教育を含む情報教育の必修化である.学習指導要領が10年ぶりに改訂され,プログラミングを中心とした情報教育に大きな変化があった.

1つは小学校からのプログラミング教育の必修化である.背景としては国としてのICT系の技術に関する期待と危機感があり,プログラミング教育のキーワードとして「人工知能」「IoT」「ビッグデータ」などが使われることになった.

表3に,新しい教育課程で扱われる小学校から高等学校までのプログラミング教育の内容を示す.

表3 小中高の段階的なプログラミング教育

小学校では算数や理科などの教科の中でプログラミングを体験し,中学校では計測・制御と双方向コンテンツでプログラミングを学び,高等学校ではアルゴリズムを含んだプログラミングを学ぶことになる.

小学校では,プログラミングを体験し,日常触れる身近なソフトウェアがプログラムによって作られていることを理解する.そして,体験を通して学んだプログラミングの考え方を教科の学習で活用する.

中学校では,技術・家庭科の技術分野において,ネットワークを介してデジタルデータを対話的に扱うプログラミングと,外部機器のセンサとアクチュエータを活用した計測・制御のプログラミングが扱われる.

高等学校では2003年に教科「情報」として「情報A」,「情報B」,「情報C」の科目が新設され,その後,現行の「社会と情報」,「情報の科学」の科目として整備された.新学習指導要領では,それらは必履修科目の「情報I」にまとめられ,発展科目として「情報II」が新設された.

情報Iでは情報デザイン,プログラミングとアルゴリズムの基礎,ネットワークとデータ活用などが扱われ,情報IIではデータサイエンス,情報システムとプログラミングなどが扱われる.

このような小学校段階からの系統的なプログラミング教育は従来行われてこなかったものであり,これらの教育を可能にするための教材や教授法の研究が行われている.

3. 今後の展望

今後の情報教育については,大きく2つの方向性が期待されている.

1つは初等中等教育でのプログラミング教育を支援する研究である.小学校からのプログラミング教育を含む新しい情報教育が行われることになったが,小学校での児童の発達段階に応じたプログラミング概念の適切な与え方,中学校での通信を含むプログラミングの適切な例示と説明,高等学校でのアルゴリズムの効果的な教え方などは従来扱われたことのない情報教育の新たなチャレンジであり,活発な研究が期待されている.

もう1つは技術の発達により可能になった情報技術の教育である.新しい学習指導要領ではさまざまな強化においてデータの適切な活用が求められており,情報教育においては大量のデータ処理,統計的な分析などを行うための教材の研究が求められている.また,機械学習などの人工知能関係の技術をどのようにプログラミングを含む情報教育で活用するかは今後の課題であり,本研究会での研究が期待されている.

研究会としては,情報系の学会としての新しい技術の研究を続けるとともに,今まで培ってきた知見を学校でのプログラミング教育などに貢献するための研究にも取り組んでいきたい.

国際的な協力も必要とされている.国際会議としては,IFIP(International Federation of Information Processing 情報処理国際連合)TC 3(情報教育に関するTechnical Committee)が主催するWCCE(World Conference on Computers in Education)が2021年に広島で開催される予定であり,本研究会を中心に委員会を作り準備を進めている.

(兼宗 進)

« PrevNext »

 

目次に戻る

All Rights Reserved, Copyright (C) Information Processing Society of Japan