情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
[SSR]「会員の力を社会につなげる」研究グループ

 

1. 最近10年間の動向

2011年12月27日に公開された『情報処理学会教育ビジョン2011』に記載されている,「教育に携わる諸部門とのさまざまな形での協働の推進に努めます」を実践する場として,2012年度より研究会グループとして活動を開始した.

2013年度から高等学校の学習指導要領が改訂され,その中で普通教科「情報」も,情報A,情報B,情報Cの3科目選択制から情報の科学,社会と情報の2科目選択制へ変更されることになっていたこともあり,高等学校での情報教育に携わっている教員の方々との情報交換の場を設けながら,会員の力を社会とつなげるための活動として何が求められているかについて,実験的な実践を行いならが探求し続けている.

2. 研究分野の変遷

本会の新しく展開していくべき活動対象を探り,結果として会員の力を社会とつなげることを目指して,可能な内容・形態を探るのがこの研究グループの目的とするところである.特に,教育に携わる諸部門とのさまざまな形での協働を推進するのに,何が求められているか,何が今できて,どうすればそれを学会活動の1つとして発展させていけるのか,そこに新しい研究テーマとしてどんなものがあるのかを探ることを目的として活動を続けている.

2.1 立ち上げ

2012年度は,高校の先生,大学の先生に声かけをし,SSR研究グループの活動に関するヒアリング会を3回開催した.2012年05月22日のヒアリング会では,高校の先生から「大学でのしっかりした情報の授業を聴きたい」という声があり,これを実現したものが,“東大での『一般情報教育』を体験しよう”という会合である.

図1 第7回 東大での『一般情報教育』を体験しよう2018(2018年8月1日(水)~3日(金))

また,2012年07月25日のヒアリング会では,“高校の先生と大学の先生のコミュニティを活用して,複数大学間にまたがって,情報科の先生になりたい学生さんを応援するプロジェクト”を検討しようということになり,これを実現したものが,“情報科教員を目指す学生さんに向けてのガイダンス会”である.

図2 第7回 情報科教員を目指す学生さんに向けてのガイダンス会2018(2018年9月30日(日))

2.2 以後の活動

毎年,原則として春・秋の2回,SSR研究グループ「秋の意見交換会」を開催して,高等学校の情報教育現場の教員,情報科免許を取得する学生を抱える大学教職課程教員と意見交換を行っている.そこでの意見交換からは,運営委員会がSSRの活動を計画し実行するための貴重な意見が得られている.

それぞれの年度の夏休みには,「大学での『一般情報教育』を経験しよう」と題する高校教員向けの体験教室を開催してきている.多くの場合,この体験教室は,本会が実施している教員免許更新講習(10年ごとの教員免許の更新に際して受講が義務付けられている講習会,文部科学省の承認を得て実施している)と併設して行ってきている.また,「情報科教員を目指す学生さんに向けてのガイダンス会」も毎年開催してきている.このガイダンス会の講師には,高等学校の教員にも参画していただいている.当該学生を抱える教職課程の大学教員も参加して,学生にとって有意義な会となっている.ただ,情報科教員の採用が今なお限られていることもあって,該当する学生の人数が限られているばかりか,減少する傾向にあるのが懸念事項となっている.

学会の初等中等教育委員会が主催する毎年秋に開催する『高校教科「情報」シンポジウム』(秋の東京での定例開催に加えて,春に関西で追加開催された年もある)とも相まって,高校の情報教育の現場とのつながりは年々深まっている.

3. 今後の展望

2020年度からは,小学校でのプログラミング教育が始まる.2021年度からは新しい学習指導要領に従って技術科のなかで「計測と制御」として外界の状況をセンサで感知しそれに応じて模型を動かす,といったプログラムを作るなどの学習が実施される.そして,2021年度からは高等学校普通科の生徒全員が科目「情報1」でプログラミングを含む情報教育を学ぶことになっている.

それに向けて準備が始まっているものの,教員不足を解消できるめどは立っていない.そうした中,わが会の会員がどのような形で社会とつながっていけるかについて,知見を深めていくことを目指している.次の10年の間には,こうした教育,とりわけ情報教育に関して社会状況が大きく改善されていくことを願い,この研究グループがそうした改善に貢献していけることを願っている.

(筧 捷彦)

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