ネットワーク生態学研究グループでは,年に一度の合宿形式のシンポジウムを中心に活動を行ってきている.シンポジウムでは,数件の招待講演やチュートリアル講演と,一般公演,ポスター発表が行われてる.参加者は30~70名程度,一般発表は20~30件程度であり,毎年活発な議論が行われている(表1参照).
2010年度は2011年3月10~12日にわたって山形県で行ったが,3月11日の東日本大震災の影響で中断となり,6月17日に東京工科大学にてリベンジ研究会を行った.2011年度は慶應義塾大学,2012年度は沖縄国際大学でそれぞれシンポジウムを実施した.2013年度は有馬温泉にて開催したが,この年から一般参加者による発表はすべてポスター発表とし,より参加者同士の議論が活発に行われるように変更された.2014年度は湘南国際村センター,2015年度は伊東市,2016年度は千葉県木更津市と首都圏近郊でシンポジウムを開催した.その後,2017年度は北陸先端科学技術大学で2013年以来の地方での開催を実施した.2018年度はソフトウェア科学会ネットワークが創発する知能研究会と合同の研究会を大阪で行い,ネットワーク生態学研究グループ単体のシンポジウムを沖縄県石垣島で行った.いずれも地方開催ではあったが,口頭発表中心の合同研究会と,招待講演とポスターが中心のシンポジウムという特徴あるイベントを開催することで多くの研究者に議論の場を提供することに成功した.
ネットワーク生態学におけるトピックスの変化を各年の招待講演をいくつかピックアップしてみよう.
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年
次に,参加者による研究発表の変化を見るため,2010年と2018年の一般発表のタイトルで使われていた単語をその出現頻度に基づいてワードクラウドを作成した.図1が2010年の発表タイトルのワードクラウド,図2が2018年における発表タイトルのワードクラウドである.
これより,2010年時点では淘汰,構造など理論的な研究が比較的多かったことが読み取れる.一方で,2018年では交通や社会,学習,SNSなど応用よりの研究が増加していることが分かる.
以上のように,この10年の間にネットワーク生態学研究グループの取り扱うトピックスは,理論や通信,計算技術だけではなく,ネットワークを利用した応用研究へと移り変わっている様子が見て取れる.
現在,複雑ネットワーク理論の研究において,技術的には深層学習の波が押し寄せ,Graph EmbeddingやGraph Convolutionなどの技術を使った研究がさかんになると考えられる.
一方で,データについてもソーシャルメディアだけでなく,さまざまなネットワークデータが利用可能であり応用先は社会,産業,経済,通信など多岐にわたる.
IoTデバイスの拡充により,モノを介した人々の行動や自然現象に基づくさまざまなデータが利用することにより,センサデータと行動ログなど,複数データを同時に分析するマルチモーダルデータ分析技術にも近年注目が集まっている.
人々の暮らしの中からも,監視カメラ,チェックイン,天気,GPSなどさまざまな情報と紐づけ,空間ネットワークと実社会のなかで,人々の行動を理解し,よりよい社会を実現していくために,複雑ネットワーク理論もさらなる発展が期待されている.
複雑ネットワーク理論の研究は,データサイエンスや人工知能研究とともに今後も発展し,その応用先も広がっていくことが期待される.
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