情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
[DC]ドキュメントコミュニケーション研究会

 

1. 最近の10年間の動向

本研究会は,2015年4月より「ドキュメントコミュニケーション」(通称DC)研究会として新たなスタートを切った1

これまで「デジタルドキュメント」(通称DD)研究会として達成してきたドキュメントに関するさまざまな研究を継いでいくとともに,ドキュメントを単なる情報を記述する媒体や手段ではなく,人間同士がドキュメントによってコミュニケーションを取ってつながっていくという,ドキュメントそのものをダイナミックな「情報」ととらえて研究をする方向に大きく舵を切ったことになる.

その意味で,この10年間は成熟したドキュメント研究と,萌芽的なドキュメントコミュニケーション研究が広がりを持って混在する過渡期の10年であったといえる.

表1に,主な研究会活動を示す.

発表件数の推移は以下のとおりである.2018年度までの平均発表件数は約32件である.

表1 発表件数・開催数の推移

この9年の研究会開催数は38回,中止1回(2011年3月の第80回研究会)である.

また,第103回研究会(2016年11月開催)は研究会発足20周年の記念回として,3件の招待講演とパネルディスカッションを実施し,ドキュメントコミュニケーションの新たな研究領域について議論した2

2. 研究分野の変遷

年に4回程度開催される研究発表会では,ドキュメントおよびその周辺研究の視点を持って世の中の動向や技術トレンドを俯瞰し,テーマを設けている.本稿では,DC研がどのようなテーマ変遷(研究分野の変遷)をたどってきたか,この10年をデジタルドキュメント研究会時代(2010~2014年),ドキュメントコミュニケーション研究会時代(2015~2019年現在)に分けて論じる.

2.1 デジタルドキュメント(DD)研究会時代

DD研は,1996年に発足.印刷文書の編集ツールとしてのワープロやDTP(Desk Top Publishing)の研究からはじまり,2000年代にはXMLを中心とするWebドキュメント研究,2010年代にはスマートフォン等の多様なモバイル端末やSNSの広がりをふまえた,ドキュメントを媒介とするコミュニケーション研究へと,その研究対象を移行・拡大させてきた.

その中で2010年から2014年は,いくつかの研究トレンドを見てとることができる.

まず電子書籍や電子教科書とその周辺技術の進展がある.スマートフォンやタブレット等の多様な読書環境の整備にともない,電子書籍を表現するHTML5やCSS(Cascading Style Sheets),文字集合,フォント方式などの研究が行われた.

次に,グローバル化にともなうドキュメントの品質向上とマルチユース展開がある.Web技術に加えて,DITA(Darwin Information Typing Architecture)を用いた効率的なドキュメントの制作,UX(User Experience)を考慮した効果的な利用などの研究が報告されている.

さらに,東日本大震災とその復興という社会背景をふまえ,場所や時間にとらわれない情報編纂やチーム活動の可能性に関する研究も行われた.

特に3点目の研究トレンドは,次に説明するドキュメントコミュニケーション研究への発展の兆候としてとらえることができる.

2.2 ドキュメントコミュニケーション(DC)研究会時代

2015年から現在までの主な研究の1つに「チーム活動を支援するドキュメントコミュニケーション」への取り組みがある3.これは研究会をプラットフォームとして横断的な研究課題に取り組む活動を目指したものである(図1参照).研究会に属するメンバの研究領域をベースに,研究リソースや研究課題を共有することで,新たな視座や課題を探索するものである.今後,具体的な成果に結び付けるために試行錯誤を要するが,本研究会を特徴づける大きな取り組みの1つであるということができる.

図1 チーム活動を支援するドキュメントコミュニケーションの概念

また,この時期は他研究会との連携強化も行われた.2018年度以降は,すべての研究発表会において他研究会との合同開催となっている.

3. 今後の展望

ドキュメントコミュニケーション研究は,人はどのようにドキュメントの内容を理解するのかという認知科学系のアプローチから,より具体的なドキュメント作成の自動化や効率化まで,そのすそ野は広い.

今後は,これまでのドキュメントそのものを中心とする研究から,ドキュメントが人に及ぼす影響,それをより論理的に構成できる構造化や視覚化,ストーリー表現,さらには組織への影響や効果,その評価手法等の研究が進むものと思われる.

上述のような状況をふまえ,本研究会では現在,新たなビジョンの策定に取り組んでいる.ビジョンをより明確なものにするため,社会のどのようなシーンで役立つ技術が生み出せるのかを検討すべく,近年は他研究会との連携を強化し,より実課題の解決に軸足を持つ研究会として,方向づけをしていきたいと考えている.

(守島 浩,秋元良仁)

[参考文献]

1)情報処理学会ドキュメントコミュニケーション研究会,http://sigdd.sakura.ne.jp/index.php
2)第103回ドキュメントコミュニケーション研究会,http://sigdd.sakura.ne.jp/index.php?title=第103回研究会(20周年記念回)
3)第95回ドキュメントコミュニケーション研究会,http://sigdd.sakura.ne.jp/index.php?title=第95回研究会

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