情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
[GN]グループウェアとネットワークサービス研究会

 

1. 最近10年間の動向

グループウェアとネットワークサービス研究会は,2020年に設立28年を迎える.本研究会の最近10年の動向は,一定数の発表件数を確保しており安定した研究会活動を維持してきた(表1).

表1 GN研究会のアクティビティの推移

年間の主な活動は,研究発表会を3回(5月,1月,3月),ワークショップ(GNワークショップ)を1回,共催のシンポジウム(DICOMO,インタラクション)を2回,国際会議(CollabTech)を1回開催するほかに,情報処理学会論文誌に特集号を1回企画している.

設立20周年を迎えた2012年のGNワークショップでは,歴代主査の先生方に参加いただき,これまでの振り返りと,本研究会の対象とする研究分野の方向性について活発な議論を行った.2018年のGNワークショップでは,初代主査の故松下温先生を偲び,1995年に先生が編著された書籍「201X年の世界」1を題材に,すでに実現されたもの,いまだに実現されていない課題などを再確認することで,先生の洞察の深さに感銘するとともに,今後の研究の方向性を再認識した.

国際会議(CollabTech)は,これまで海外の研究団体が主催する国際会議CRIWGと合同開催にしていたものを,2019年からCollabTechに統合した.これにともない,CollabTechに注力するために開催日程の近い9月の研究発表会を削減した.

本研究会のアクティビティは,他分野とのコラボレーションも積極的に行っている.5月研究会は,SPT研究会と共催,および電子情報通信学会LOIS研究会と連催.1月研究会は,CDS,DCCの両研究会と共催.3月研究会は,HCI研究会と共催.情報処理学会シンポジウムでは,DICOMOは,DPS,MBL,CSEC,ITS,UBI,IOT,SPT,CDS,DCCの各研究会と共催し,インタラクションは,HCI,UBI,EC,DCCの各研究会と共催している.これにより,幅広い分野の研究者との交流を推進している.

ほかに,若い世代からのアクティビティを高めるために,これまでアクティビティの高い発表者を表彰するために設けていたGN研究賞を,学生向けに限定し,さらに,国際会議に参加し,研究会で報告した場合は,国際活動認定証を発行する施策を行っている.

2. 研究分野の変遷

2.1 研究領域

設立以来,情報共有,同期・非同期コミュニケーション,組織知とナレッジマネジメント,サイバースペース,グループウェアインタフェースなどの協調基盤技術.会議支援,協調作業支援,モバイルグループウェア,ビジネスプロセスとワークフロー,グループ意思決定支援などのグループウェア応用.社会・行政サービス,電子商取引,遠隔教育サービス,コミュニティ支援,情報検索,ネットワークエンターテイメント,クラウドソーシング,ゲーミフィケーションなどのネットワークサービスを研究対象としてきた.

2.2 社会の変遷と研究事例

最近10年間の社会的な大きな出来事の1つに,2011年3月11日の東日本大震災があげられる.東日本大震災では,従来からの通信インフラやマスメディアと同等かそれ以上に,ソーシャルメディアの重要性が認識された.これはまさに,グループウェアとネットワークサービスの研究分野である.この分野における研究として,災害対策の情報共有を個人レベルの共助で推進するための方法2や,組織レベルで体系的に共助を推進することで危機対応を行うアプローチなど3,協調作業による災害対策のさまざまなアプローチが報告された.

一方,日常の生活に目を向けると,情報通信機器は誰もが手にしているデバイスであり,これらを日常の生活の中で役立てるだけでなく,社会支援の中に活用する研究も報告されている.たとえば,共通の目的を達成するためにそれぞれのスマートフォンで検索するシーンを支援する協調Web検索の研究4や,多くの健常者の歩行データを活用して街中のバリアを検出し,歩行弱者の外出を支援することを狙った研究5などである.

これらの研究事例から分かるとおり,本研究会の研究領域は,社会問題解決のアプローチに発展してきている.

2.3 組織における協調支援

従来からのグループウェアの研究領域である,組織内の協調活動支援においても,発展し続けている.たとえば,集合知を指向した会議支援の研究6や,組織内に埋もれてしまった情報を組織の知識として活用する研究7,機械学習を用いてベテラン営業職員から新人営業職員への暗黙知の継承を支援する研究8などである.これらは,実際の利用現場における課題解決のアプローチに発展してきている.

3. 今後の展望

現在,社会的なテーマの1つに働き方改革がある.働き方改革は,在宅勤務や遠隔勤務を含むため,グループウェアを活用しなくては実現できないものと考えられる.一方で,すでに多くの組織ではグループウェアを導入しているものの,働き方の多様化により,従来型のグループウェアでは協調活動が困難な状況にもなりつつある.今後は,デジタルトランスフォーメーションを含め多様な働き方を許容しつつ協調支援する仕組みの研究が必要であろう.さらには,2020年の新型コロナウィルス感染防止であらゆる活動のオンライン化が促進された.円滑なオンラインコラボレーションを実現するための研究の重要性が高まっている.

(斉藤典明)

[参考文献]

1)松下 温 編(著):201X年の世界,共立出版(1995).
2)吉野 孝,濵村朱里,福島 拓,江種伸之:災害時支援システム“あかりマップ”の地域住民による防災マップ作成への適用,情報処理学会論文誌,Vol.58, No.1, pp.215–224(2017).
3)爰川知宏,前田裕二,秋冨慎司,天野明夫,黄野吉博:ISO22320を活用した組織の危機対応力の可視化―チェックリスト比較とリスクコミュニケーション,情報処理学会デジタルプラックティス,Vol.10, No.1(2019).
4)是常雄大,高田秀志:対面協調Web検索における情報共有通知のタイミング制御,情報処理学会論文誌,Vol.60, No.1, pp.174–184(2019).
5)宮田章裕,荒木伊織,王 統順,鈴木天詩:健常歩行者センサデータを用いたバリア検出の基礎検討,情報処理学会論文誌,Vol.59, No.1, pp.22–32(2018).
6)由井薗隆也,宗森 純:発想支援グループウェアKUSANAGIを用いた集合知型会議の検討,情報処理学会論文誌,Vol.53, No.11, pp.2635–2648(2012).
7)斉藤典明,金井 敦,谷本茂明:共有フォルダからの活動計画の抽出による組織知識活用方手法の提案,情報処理学会論文誌,Vol.58, No.1, pp.153–165(2017).
8)荒川周作,諏訪博彦,小川祐樹,荒川 豊,安本慶一,太田敏澄:暗黙知に基づく飲食店向け不動産賃料推定モデルの提案,情報処理学会論文誌,Vol.59, No.1, pp.32–42(2018).

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