情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
[AVM]オーディオビジュアル複合情報処理研究会

 

1. 最近10年間の動向

AVM研究会は1993年の設立以来,画像・映像・音声・音響信号の情報処理・配信・検索・インタフェースに関する課題を対象とし,ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 1(JPEG),ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11(MPEG),およびITU-T SG 16における画像・映像・音声・音響符号化およびシステム等の国際標準化に関する国内研究発表の受け皿としての役割を担ってきた.

AVM研究会の研究課題は,国際標準化に関する技術を中心とし,周辺技術や基礎的な技術へ拡大してきた.国際標準化では5年や10年の間隔で標準を策定されることが多いため,標準化の準備期間での学術的な技術の発掘やコミュニティとしての弾込めとしても寄与してきた.このために,最新のマルチメディア技術の動向調査や共有を積極的に実施し,研究課題として活動を進めた.特に複数年を通じて,世界的に著名な国際会議であるACM Multimediaの動向調査を行い,研究課題自体の最新化を図った.また2018年度に100回目開催の研究会においては,近年の劇的に発展しているAI(人工知能)技術の応用を想定し,テーマをVR(Virtual Reality)×AIに設定して応用分野とのコラボレーションを活性化している.

また研究者コミュニティの拡大のために,他学会を含む研究会と積極的に併催や連催を実施した.2014年度からは,若手研究者の育成を進めるためAVM研究会独自で表彰を開始した.国際活動を促進するために2014年からは,電子情報通信学会スマートインフォメディアシステム研究会との連携の中で,International Workshop on Smart Info-Media Systems in Asia(SISA)において本研究会がAVM Special Sessionを主催し,若手研究者や学生を対象としたAVM Special Session Student Paper Awardsにより若手研究者への奨励を継続し,国際的にもAVM研究会のプレゼンス向上を行った.

近年のAVM研究会の登録数・発表数を表1に示す.登録数は減少傾向だが発表件数は維持している.

表1 登録者数と発表件数

2. 研究分野の変遷

近年10年間のうちに,インターネットが通信インフラとして通常利用され,さらにワイヤレス通信の高速化や通信機器の高機能化・低価格化にともない,マルチメディアデータが日常的に当たり前のように利用されるようになった.MPEG等の国際標準化団体により策定された各標準の貢献は大きく,市場に影響力のある主要な企業らが,マルチメディアデータの圧縮符号化フォーマットやファイルフォーマットのMPEG国際標準化に参画して,それらを彼らのサービスやシステムで活用している状況である.またMPEG国際標準化のスコープは圧縮符号化だけではなく,コンテンツ検索のためのメタ情報や,コンテンツ管理のためのメタ情報,これらを含めたマルチメディアシステム全体のフォーマットについても国際標準化が進められ,国際標準化にかかわる技術分野が広がっている.このような周辺含めた拡大により,ディジタル放送,ディジタルメディア(DVD,Blu-ray等),ディジタルカメラ,音楽配信,映像配信,IP放送,IPTV等の応用分野が開花し,ITを支える基盤技術としてますます重要性が高まっている.

特に,高効率映像符号化方式の技術開発について,H.264(AVC,Advanced Video Coding)は2003年に規格化されてから,インターネットやモバイルでのビデオコンテンツ配信に利用され,Blu-ray等のFixed Mediaのコンテンツのフォーマットに採用される等あらゆるコンテンツで利用された.2008年には,標準を策定した,MPEGとITU-T SG 16の共同チームであるJoint Video Team Standards Committee(JVT)がAVC High Profile(H.264/MPEG-4 AVC)の標準化活動で米国テレビ芸術科学アカデミー(The Academy of Television Arts & Sciences: ATAS)よりエミー賞(R)を受賞した.

2009年には,当時の3D映画や3Dテレビの流行を背景に,H.264の3D拡張フォーマットMVC(Multi-view Video Coding)が標準化された.この標準はBlu-rayでの3Dコンテンツ提供に利用され,当時の3Dコンテンツの流行を後押しした.

2013年にH.265(HEVC,High Efficiency Video Coding)がH.264の後継標準として標準化された.現在,4K・8K映像に対応する符号化方式として,国内外で活発な技術開発が行われ,製品が提供されはじめている.

さらに2018年度より,次の汎用映像符号化標準として,H.266(VVC,Versatile Video Coding)の標準化活動が始まっている.この標準は近年のVR(Virtual Reality)の流行を反映して,現在,MPEG-I(MPEG Immersive media)のビデオフォーマットとして位置づけられている.また近年の3次元形状情報のフォーマットとして3次元点群が注目されており,MPEGでも新たに3次元点群の符号化標準PCC(Point Cloud Coding)の検討が始まっている.

またMPEG標準は音楽コンテンツの配信にも広く活用されている.1999年にMPEG-4 AAC(Advanced Audio Coding)が標準化されてから,拡張標準も含めて広く利用されている.2015年に,立体音響の普及を想定して多チャンネルのオーディオデータのフォーマットとしてMPEG-H 3D Audioが国際標準化された.現在,4K・8K映像に対応する立体音響の符号化方式として,国内外で活発な技術開発と実装が行われている状況にある.

以上のように,本研究会が扱う分野は,日本が戦略的かつ重点的に取り組むべき分野であり,国内の研究開発機関における研究開発レベルの維持向上を目指すための受け皿として,引き続き関係する研究者の研究成果発表や意見交換の場,ならびに,関連技術の最新動向やチュートリアルの提供等の役割を果たす必要があると考える.

3. 今後の展望

スマートフォンの普及にともない,ビジネスユースやパーソナルユースともに,オーディオやビデオのデータは日常的に利用されている.国際標準化がその普及の後押しに多大な貢献をしてきた.AVM研究会も国際標準化に関する国内研究発表の受け皿として機能してきた.これらの傾向は,今後も国際標準化が5年や10年のサイクルで実施されていくことに鑑み,引き続き継続していくものと予想される.

一方でオーディオやビデオの利用に関する研究もますます盛況になることが期待される.たとえば,オーディオデータやビデオデータが膨大に増えてきており,それらは1人の人間が視聴するリソースや能力を超えはじめている.ある意味で冗長ではあるが,安価で済むためにそれらのデータが蓄積されていく傾向にある.実は,このような場合にもMPEG標準は解を用意してきた.MPEG-7とMPEG-21と呼ばれるコンテンツのメタデータの標準がある.ただしメタデータをあらかじめ付与することが想定されているため,利用シーンは限定される可能性がある.AVM研究会でも国際標準の動向を継続して調査しつつ,標準が生む新たな課題解決にも取り組むことが期待される.

(木全英明)

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