情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
[DCC]デジタルコンテンツクリエーション研究会

 

1. 最近10年間の動向

デジタルコンテンツクリエーション(DCC)研究会は2012年4月に発足しており,今年度で8年目となる.60年の歴史のある情報処理学会の中ではまだ新しい研究会である.

表1にDCC研究会の登録人数,発表件数を示す.登録人数は100人程度で推移している.研究会は毎年度,5月頃,10月頃,1月頃の3回実施している.また,他の研究会と共同で,DICOMOとインタラクションのシンポジウムを主催している.DICOMOでは併設のデジタルコンテンツ制作発表会も開催している.

表1 登録数と発表件数の推移

そしてDCC研究会では,研究会または研究会主催のシンポジウムで発表された研究や作品を投稿対象として,情報処理学会論文誌デジタルコンテンツ(DCON)を年2回のペースで発行している.

2. 研究分野の変遷

DCC研究会が取り扱う分野は,デジタルコンテンツクリエータを支援するための制作技術,管理技術,およびそれにかかわる利用技術に関する研究と,それらを用いて制作された作品自体を対象としている.そのため,技術としてはCG,VR,通信,モバイル,サウンド,センサ,デザイン,コンテンツ管理などを含む非常に幅が広いもので,制作される作品もCGアニメーション,スマートフォンアプリ,メディアアート,ゲーム,CG,Web,実用システムなど多岐にわたる.

ここでは,2012~2013年度,2014~2016年度,2017年度以降の3つの年代に分けて,特徴的な研究や制作を紹介する.

2.1 2012~2013年度

2012年にはiPhone 5が発売され,2013年にはiPhoneが3大キャリアで使用できるようになり,日本においてスマートフォンの普及が大きく伸びた時期である.そのため,DCC研究会でもスマートフォン活用に対する注目度は高く,発足当初からこれまでに多くの関連研究が報告されている.たとえば,観光案内アプリ1,高解像度パノラマ写真撮影手法2,などが報告されている.

また,2013年頃からチームラボによる創作活動とデジタル技術の融合が世間で注目を集め始めたが,DCC研究会でも同時期かより早い時期に近いコンセプトを持つコンテンツが提案されている.たとえば,お絵描きからリアルタイムで3次元CGの生成とインタラクションを実現する手法3図1)が発表されて,その後にDCONの第1号採択論文になった.また,ペーパークラフト作りと3次元CGゲームを融合したコンテンツ4なども発表されている.

図1 お絵描きから3次元CG生成

2.2 2014~2016年度

この時期はインタラクション技術が成熟・普及して,世間でも建物に対するプロジェクションマッピングがブームになるなど,デジタルコンテンツの活用範囲も大きく広がった.そして,DCC研究会でもさまざまな分野でのデジタルコンテンツ適用に関する研究がいくつも報告されている.たとえば,デジタルサイネージ5,音楽演奏支援6,伝統工芸との融合7に関する研究や作品が発表された.

2.3 2017年度~

2016年はHTC Vive,Oculus Rift,PSVRなどさまざまなHMDが発表されてVR元年とも呼ばれている.そのため,この頃からDCC研究会でもHMDを用いたりドーム映像を用いたりしながら,さまざまなコンテンツの可能性を探る研究がいくつも報告されている.そしてドームやHMDで鑑賞することを前提とした3DCG作品8,HMDを用いたライブの自由視点視聴9などが報告されている.

また,氷を用いる3Dプリンタ10,二酸化炭素を用いたARマーカ11など,新しい素材を用いたデジタルコンテンツの提案がいくつも出ている.

3. 今後の展望

これまで,DCC研究会で発表された研究や作品は,新しく出現したデバイスをいち早く取り入れたデジタルコンテンツを提案したり,世間で広がり始めた表現手法を応用したりといった傾向が見られた.そのため,今後も新しいデバイスや表現が出現するたびに,それをうまく取り入れた新しいデジタルコンテンツが発表されるのではないかと思われる.たとえば,AIの活用,ホログラムやドローンによる立体映像,大規模な人々を対象としたインタラクションなどが思い浮かぶ.

そして,時代を先取りした研究や作品が多く発表されてきた流れをより強くしながら,今後も,だれも想像が付かず,次代の時流を生み出すようなデジタルコンテンツがDCC研究会から提案されることを期待している.

(水野慎士)

[参考文献]

1)長尾聡輝,加藤福己,浦田真由,安田孝美:スマートフォンを用いた観光アルバム作成アプリケーションの開発,情処研報,Vol.2012-DCC-2, No.11, pp.1–4(2012).
2)東 剛秀,小田謙太郎,下園幸一,山之上卓:スマートフォンを用いた失敗の少ない高解像度パノラマ画像の撮影・共有システム,情処研報,Vol.2012-DCC-2, No.12, pp.1–8(2012).
3)近藤菜々子,水野慎士:スケッチブックでのお絵描きを拡張する映像ツールの提案と実現方法,情処研報,Vol.2012-DCC-2, No.20, pp.1–6(2012).
4)鈴木 浩,佐藤 尚,速水治夫:子どもを意欲的にペーパークラフト工作へと導く3次元ゲームシステムの開発,情処研報,Vol.2014-DCC-6, No.18, pp.1–6(2014).
5)鈴木 浩,服部 哲,佐藤 尚,速水治夫:ポスターの複数の座標位置に対応したデジタル情報が閲覧できるハイパーパネルVer.2の提案,情処研報,Vol.2014-DCC-7, No.19, pp.1-6(2014).
6)高津良介,牧 宥作,権藤聡志,井上智雄,岡田謙一:複数の仮想指揮者によるオーケストラ演奏の支援,情処研報,Vol.2015-DCC-9, No.42, pp.1–9(2015).
7)岩崎妃呂子,水野慎士,秋葉陽児:いけばなを用いたインタラクティブデジタルコンテンツ“デジタル枯山水”と“いけばな影絵”,情処研報,Vol.2016-DCC-13, No.5, pp.1–5(2016).
8)牧奈歩美:フルドーム短編3DCGアニメーション“THE PLANET CUBE”,情処研報,Vol.2017-DCC-16, No.6, pp.1–6(2017).
9)粕谷貴司,塚田 学,菰原 裕,高坂茂樹,水野拓宏,野村譲誉,上田雄太,江崎 浩:LiVRation:VRによる自由視聴点映像音声のインタラクティブ再生,DICOMO2018, 3C-2, pp.514–522(2018).
10)藤田大樹,中野亜希人,羽田久一:Elsa:氷を素材とした3Dプリンターの開発,情処研報,Vol.2017-DCC-17, No.22, pp.1–7(2017).
11)小俣慎太郎,小川剛史:触覚フィードバックを提示可能な不可視ARマーカに関する検討,情処研報,Vol.2019-DCC-21, No.55, pp.1–6(2019).

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