情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
[IE領域]情報環境領域

本編は,情報環境領域に属する16の研究会について最近10年間の動向および研究分野の変遷,今後の展望をまとめたものである.本会では,特定のテーマを定めた研究会といえども,時代の変化に合わせて研究テーマ,さらには場合によっては研究会名称を変更することがある.情報環境領域においても,この10年間でいえば,2010年に情報学基礎研究会が情報基礎とアクセス技術研究会に,2015年にデジタル・ドキュメント研究会がドキュメントコミュニケーション研究会に,2015年にモバイルコンピューティングとユビキタス通信研究会がモバイルコンピューティングとパーベイシブシステム研究会に,2014年に高度交通システム研究会が高度交通システムとスマートコミュニティ研究会に,といった具合である.また,2011年に情報セキュリティ心理学とトラスト研究会(2012年にセキュリティ心理学とトラスト研究会に改名),コンシューマ・デバイス&システム研究会,2012年にデジタルコンテンツクリエーション研究会,2015年に高齢社会デザイン研究会がそれぞれ新設された.また,インターネットと運用技術研究会とシステム評価研究会が2012年に統合してインターネットと運用技術研究会となった.それぞれの研究会の名称変更の意図や目的,活動内容については,それぞれの研究会のページをご参照いただきたい.なお,この10年間に終了した研究会はない.

全体として見ると,新しい分野や新しい研究テーマの発掘を目指して,研究会が活動範囲を広げるとともに,適宜新しい分野・新しい研究会の仕組みを目指して改革が行われているように見受けられる.

情報環境領域では,領域の積立資金を原資として,IEプロジェクトと称して,各研究会が行う,研究会および領域の活性化・発展につながる施策を支援する試みを行っている.近年は年間5件ほどプロジェクトに対して支援を実施している.これが領域の活性化に効果を発揮しているのかは今後の評価が必要であるが,多くのイベントが活発に実施されるようになってきているという傾向は見てとれる.

一方で,2015年以降は研究会・研究グループの新設や研究会名称変更といった動きが見られなくなっている.しかし,本領域がカバーする範囲で見ても,移動通信技術は5G時代を迎えようとしており,基幹ネットワークへの接続環境として有線と比肩する性能を得ようとしている.さらに従来Wi-Fiがカバーしていた領域にローカル5Gと称して5G技術を利用しようという動きがある.また,Edge Computingや自動運転,AIなどの技術が目覚しく進展し,人々の生活が大きく変わろうとしている.一方で,GDPR(General Data Protection Regulation)など個人情報を広範に保護する法的な仕組みが用意され,倫理面ではELSI(Ethical,Legal and Social Issues),社会との将来的な共存を考えるSDGs(Sustainable Development Goal)などの新しい考え方も登場している.このように情報処理を取り巻く環境は急速に変化しており,それに対応する動きが少ない点は気にかかるところではあるが,一方で動きが激しい分野の大部分はいずれかの研究会がすでにカバーしているという実態がある.また,現在,多くの研究会がその垣根を越えて合同研究発表会などをさかんに開催している.これらが今後の研究分野の発展にどのように影響してくるのか,期待されるところである.

(屋代智之)

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