情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
[CS領域]コンピュータサイエンス領域

 

1. コンピュータサイエンス領域について

CS領域の特徴(研究会の傾向など)

本会は1959年設立である.設立30周年の1989年は元号が昭和から平成に変わった.その30年後設立60周年に再び元号は変わり,平成から令和になった.

令和になって,学会も還暦を迎えるが,学界設立後に生まれた会員がほとんどである.30年前,筆者はまだ,駆け出しの若者であった.研究会幹事で,昭和天皇の大葬の礼の1989年2月24日に研究会が開催された.当日人気のない都内で当時学会のあった機械振興会館で研究会を開催した.今なら中止したであろう.

領域性が導入されたのもこの頃である.1993年度に「グループ制」として試行を始め,1994年度に正式に「領域制」としてスタートした.詳細は,https://www.ipsj.or.jp/kenkyukai/ryoiki.htmlを参照されたい.

今は亡き恩師から領域制度の意義を聞いた.学会は単に便利で使える,だけでなく,学問的および研究教育分野の根拠,アイデンティティとして,計算機科学Computer Scienceが本分野を規定する重要な分野である.CS領域内の研究会には他学会にはない分野が散見される.

文部省の委託を受けて情報処理学会が“J90”と呼ぶ大学の情報系学科におけるCSの専門教育コアカリキュラムを提言した.その後も,大学の理工系学部情報系学科のためのコンピュータサイエンス教育カリキュラム“J97”(https://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/J97-v1.1.pdf)およびその後継のコアカリキュラムのJ07なども計算機科学が基礎である.

これらのカリキュラムはACM/IEEEのコンピューティングカリキュラムを規範としている.2005年度版についてはhttps://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/J07/J0731/181-CC2005.pdfに本会から概要報告がある.これらの分野については,本会では全領域合わせて,網羅している.

2. コンピュータサイエンス領域の活動

本領域は,計算機科学分野として,研究開発,研究成果公表と人材交流,分野交流の場を提供しており,授賞を通じて人材発掘と育成を行っている.本分野で顕著な研究成果をあげた若手にCS領域奨励賞を,2018年度から研究だけでなく,より幅広く成果を認める功績賞を設けた.なお,本領域の分野横断的なシンポジウムとして,過去にはJSPPで並列処理,SACSISで先進的計算機システムを扱ってきたが,2017年からxSIGとして,本領域のシステム・アーキテクチャ研究会,ハイパフォーマンスコンピューティング研究会,システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会,プログラミング研究会の主催共催で催された.これら以外の分野でも分野横断のシンポジウムが開催されている.

3. 領域の変遷

本領域では,2006年に組込みシステム研究会設立後,2020年に量子ソフトウェア研究会が発足する予定ではあるが長らく大きな変化はなかった.計算機科学の基盤として,流行を追い求めて朝令暮改で変化してはいけない.

世の中は,改革に対する脅迫観念があって,変革それ自身を追い求める傾向にあるが,自己目的化することなく,真に本分野の根幹として研究会活動を行っている.今後も役に立つことだけではなく,自己目的化した改革,流行に流されることなく,計算機,情報処理分野の研究・教育の基礎として活動が続くであろう.

(並木美太郎)

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