情報処理学会60年のあゆみ
第3編―情報技術の発展と展望
はじめに

第3編は,本会の40研究会および4研究グループについて,それぞれの研究会・研究グループが対象とする分野に関する最近10年間の動向および研究分野の変遷,今後の展望をまとめたものである.本会では,研究会は3つの領域のいずれかに所属している.それに合わせてここでも領域ごとに,かつ研究会の発足順に記事を掲載している.本来であれば,分野の近い研究会を並べるなど,編集上の工夫の余地は考えられたのだが,1次元的に順番に並ぶ記事ですべての研究会の関係を表すのは残念ながら不可能であった.それだけ研究分野は多岐にわたっており,また多くの技術が相互に関連しているということでもある.

振り返ってみればこの10年間は,日本では平成の最後の10年間として,情報処理技術がかつてなかったほど人々の生活に浸透し,生活を変えた時代だったのではないかと思われる.それまで,移動時でも利用可能な通話手段として用いられていた携帯電話は,スマートフォンとして常時利用可能な情報端末になり,多くの人にとってふだんの生活になくてはならないものとなった.このような情報端末がつねに身近にあることによって,さまざまな情報サービスを享受することができるようになったことが変革の端緒となった.また,情報処理技術の進化は特にBigDataやAI(人工知能)といった分野に大きな進化をもたらし,それが我々の生活に影響を与え,その結果が再びBigDataとして集められ,さらに進化をもたらす,というある種のフィードバックループが構築され,我々の生活にも急速な変化が起こっていることも間違いのないところである.また,集められた巨大なデータはAIを通して学習され,画像認識や音声認識など,分野によっては人を超える能力を発揮している.これらの技術が応用される形で自動運転など,さまざまな応用が発達してきている.一方で,科学技術,特にITの光と影といった言葉で,ITが引き起こす新たな問題も注目を集めている.様々なIT機器が人々の身近な生活に急速に浸透していることから,その影の部分がすでに大きな社会問題となっているケースも見受けられるが,これから社会問題となりかねない可能性のある研究分野も数多くあり,こういった問題やその対策も,研究分野を横断する形で検討を進めていくことが必要であろう.

このような情勢の中で,相互に関連するさまざまな研究分野について,各研究会で2ページにまとめてもらうのは大変な作業であったと思われる.しかし,その結果として,これらの資料を通読すると,情報処理学会がいま,どのようなトピックに対して取り組んでいるのか,今後,どのようなトピックに対して取り組もうとしているのかが見えてくる資料になったと自負している.

本会の研究会の数は,基本的に増加の一途をたどっており,ここ10年で35から40に増えた.1つには研究テーマが増えた,ということも関係しているが,古くから活動を続けている研究会も,多くがいまでもなお活発な活動を続けている.目先の流行だけに捉われず,バランスを持って活動している結果と考えてもよいであろう.今後とも本会の屋台骨の1つとして,さらなる発展が期待される.

(屋代智之)

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