情報処理学会60年のあゆみ
第2編―情報技術標準化活動のあゆみ
第2章 情報規格調査会10年間のあゆみ

 

2.3 新たなSC活動の動き

この節では,この10年の間に設置された新たな組織の状況について述べる.

SCの組織としては2009年にSC 38,2012年にSC 39,2013年にSC 40,2016年にSC 41,2017年にSC 42がJTC 1傘下に設立された.また,SCを設置することなく,JTC 1直下のWGとして規格開発を開始したグループもある.WG 7 Sensor NetworksとWG 10 IoTはSC 41として統合され,WG 9 Big Dataは5つのプロジェクトを開始したが後にSC 42に統合された.統合されたWGの状況は統合したSCの項目で記載している.WG 11 Smart CitiesとWG 12 3D printing and scanningは,現時点でもWGとして活動を続けており,独立の節にて活動状況を記載する.WG 13 Trustworthinessは2019年11月のデリー総会で設置されたところである.

2.3.1 SC 38

(1)委員会のタイトルおよびスコープ

タイトル:クラウドコンピューティングおよび分散プラットフォーム

スコープ:クラウドコンピューティングおよび分散プラットフォームの分野における標準化を行う.

  • 基本的な概念と技術
  • 運用上の問題
  • クラウドコンピューティングシステム間および他の分散システムとの相互作用

特にSC 38は,クラウドコンピューティング,分散型プラットフォーム,およびそれらの技術領域に焦点を当て,当該技術を主導するとともにシステムインテグレーションの中核となる国際規格作成を行う.またSC 38は,JTC 1,IEC,ISO,およびこれらの分野で規格を策定しているその他の団体に指針を提供する.

(2)JTC 1におけるSC 38の組織の設立と変遷

SC 38は前身のWeb Services Study Group(WSSG)を経て2009年のテルアビブ総会で設立された.Web Servicesは2000年初頭分散コンピューティング技術の筆頭としてService Oriented Architecture(SOA)とともに業界団体を中心に標準化がなされた技術である.これら技術の国際規格としてどう扱うか組織されたのがWSSGである.

(3)SC 38専門委員会の組織の設立と変遷

SC 38の国内審議体制は,すでに情報規格調査会内に設置されていたWSSG小委員会を母体としている.国際規格開発対象となる分散コンピューティング技術が業界主導で開発されていたことから一部の例外を除き全員が当該技術領域のステークホルダとなる企業出身者である.SC 38専門委員会設置以降,国際での年2回の総会,毎週数回開催される電話会議に対応すべく毎月1回程度の会合を持ち,必要に応じアドホックを開催し,規格の開発状況の確認と,投票案,寄書案,コメント案の作成を行っている.ちなみに委員各位の参加効率を最大にするために小委員会を持たない.委員長は鈴木俊宏(日本オラクル)が設立時から8年間務め,2018年から山下経(当時日立)に交代した(鈴木俊宏は幹事に(対国際ではHoDを継続)役職を変更).

(4)主な活動の歴史

SC 38は2009年の設立から4つの段階を経て現在に至る.

(第1段階) 分散アプリケーションプラットフォームとサービス(Distributed Application Platforms and Services)規格開発の開始.

SC 38設立当時のタイトルは分散アプリケーションプラットフォームとサービス(Distributed Application Platforms and Services),呼称はDAPSであった.

Webサービスとサービス指向アーキテクチャ(SOA)をSC 38の主な技術領域として取り上げ規格開発を行った.またクラウドコンピューティングに関するSC 38 Study Groupを設置し,クラウドコンピューティングに関するStudy Reportを公表するとともにこれまでのSC 38の主な規格開発の礎を導いた.

(第2段階) クラウドコンピューティングの基本規格開発の開始とDAPS規格開発の完了.

クラウドコンピューティングに関する規格開発を開始した.特にITU-Tと共同で以下の2つの基本規格を開発し,現在でもこの2つの規格を原点にしてさまざまな規格が開発されている.

  • ISO/IEC 17788:2014 Information technology―Cloud computing―Overview and vocabulary
  • ISO/IEC 17789:2014 Information technology―Cloud computing―Reference architecture

ISO/IEC 17788:2014についてはJIS規格(以下)も発行されている.

  • JIS X 9401:2016情報技術―クラウドコンピューティング―概要及び用語

DAPS規格開発については,標準の大部分が業界標準化団体主体で開発されデファクト標準となっていくのが現実である.このためSC 38では競合となるような規格は開発せず,業界標準化団体からのPAS提案を期待しSC 38独自の規格開発を行わないこととした.

(第3段階) クラウドコンピューティング拡張規格の開発.

DAPSで扱っていたWebサービスとSOAの規格開発に一定の終止符を打つことになり,本格的にクラウドコンピューティングに関する規格を開発するようになる.この段階ではタイトルはDAPSからCCDP(Cloud computing and distributed platforms)へ,スコープも更新した.

この段階ではクラウドコンピューティングの相互運用性とデータ可搬性,クラウドコンピューティングで流通するデータ分類,クラウドサービスカスタマ(CSC)とクラウドサービスプロバイダ(CSP)とのSLAの枠組み,といった(第2段階)基で開発した基本規格で言及した諸問題(cross-cutting aspects)に呼応する規格開発に注力した.

  • ISO/IEC 19086-1:2016 Information technology―Cloud computing―SLA Framework―Part1: Overview and concepts
  • ISO/IEC 19941:2017 Information technology―Cloud computing―Interoperability and portability
  • ISO/IEC 19944:2017 Information technology―Cloud computing―Cloud services and devices: Data Flow, Data Categories & Data Use

ISO/IEC 19086-1:2016についてはJIS規格(以下)も発行されている.

  • JIS X 9501-1:2019情報技術―クラウドコンピューティング―サービスレベル合意書(SLA)の枠組―第1部:概要及び概念

(第4段階) クラウドコンピューティングの利用規格開発と分散システム規格開発の開始.

これまで開発した基本規格を引き続き拡張するとともに,社会がグローバル規模で影響を及ぼし合う今,クラウドコンピューティングが社会を下支えすることを考慮し,たとえば,クラウドサービス内に存在するデータの越境移転,認証と個人情報保護,サイバーセキュリティへの配慮,指数関数的に増大するデータ量と複雑になる処理形態,といった社会に浸透しているクラウドコンピューティングが抱える諸問題はそれら社会問題から密接に影響を受けている.そのためクラウドコンピューティングのより一層の利用促進を図るべく,次のような利用規格の開発を開始し現在に至っている.

  • ISO/IEC TR 23186:2018 Information technology―Cloud Computing―Framework of Trust for Processing of Multi-sourced data
  • ISO/IEC TR 22678:2019 Information technology―Cloud Computing―Guidance for Policy Development
  • ISO/IEC DTR 23613 Information technology―Cloud service metering and billing elements

また分散プラットフォームという観点からIoTとクラウドコンピューティングとの間に存在するエッジコンピューティング(Edge computing)に焦点を当て規格利用者の理解を深める以下の規格を開発している.ちなみにエッジコンピューティングで利用される技術やテクニックはクラウドコンピューティングのそれらに負うところが多い.

  • ISO/IEC DTR 23188 Information technology―Cloud computing―Edge computing landscape
  • ISO/IEC DTS 23167 Information technology―Cloud Computing―Common technologies and techniques

(5)課題と展望

SC 38では単なる技術や機能の標準化から政策や規制に影響を及ぼす国際規格開発へと軸足が移っている.そのため,SC 38専門委員会ではたとえば日本の法令による遵守事項が国際規格と齟齬が起きないよう各プロジェクトに積極的に参加し,日本特有の事情を盛り込むべく積極的な働きかけを行っている.

課題としては,他のTC/SCがクラウドコンピューティングや分散プラットフォームを前提とした国際規格を開発する際,当該エキスパートの理解不足や自分本位の規格開発により実運用にそぐわない国際規格が開発されることがある.SC 38ではこの事態を憂慮し,システムインテグレーションエンティティの中核として,たとえば他のSCとの連携強化を図るべくSC 38内にLiaison Coordination Group(SC 38独自のリエゾン方式であり,SC 38決議を通さずに当該SCと直接調整を行うSC 38内Ad Hocを指す)を設置し,集中して当該SCの規格開発のサポートに努めている.

(鈴木俊宏,日本オラクル)

2.3.2 SC 39

(1)委員会のタイトルとスコープ

SC 39はいわゆる「グリーンIT」を対象としたSCとして発足した.その後,データセンタ関連の標準化を多く扱うようになったため,タイトルは,「ITとデータセンタの持続可能性」と修正された.

スコープは,ITとデータセンタの省資源化及び持続可能性実現に向けた,設計・運用・マネジメントに関する標準化(Standardization of assessment methods,design practices,operation and management aspects to support resource efficiency,resilience and environmental and economic sustainability for and by information technology,data centres and other facilities and infrastructures necessary for service provisioning.)とされた.

(2)設立の経緯

社会におけるITの利用・重要性が増大する一方で,ITおよびそのサービス実現のためのデータセンタの消費電力急増への関心が高まってきた.そこで,Sustainability for and by Information Technologyということで,ITそのものの環境負荷低減とITサービスによる社会の環境負荷改善をテーマとして,2012年6月にSC 39が設立された.

(3)主な活動の歴史

具体的には3つのWGで活動を行っている.WG 1はデータセンタの資源効率(省エネ)を扱っている.WG 2はデータセンタから端末までを含む情報システム全体の資源効率を扱っていたが,2018年で活動を終了した.また,2017年にはデータセンタ設備の標準化,規範を広くカバーする目的で,WG 3が新設された.

データセンタの省エネKPI(WG 1)

WG 1は,データセンタの効率指標(KPI:Key Performance Indicator)の定義のIS化を主に扱っている.以下の5つのプロジェクトについては,2017年10月までにすべてISとして発行された.

  • ISO/IEC 30134-1 Overview and general requirements(英国提案)
  • ISO/IEC 30134-2 PUE(Power Usage Effectiveness)(米国提案,日本もエディタ)
  • ISO/IEC 30134-3 REF(Renewable Energy Factor)(日本提案)
  • ISO/IEC 30134-4 ITEEsv(IT equipment Energy Efficiency for servers)(日本提案)
  • ISO/IEC 30134-5 ITEUsv(IT equipment Utilization for servers)(日本提案)

これにより,日本がSC 39設立当初から提案してきた,4つの指標によってデータセンタ省エネのすべての側面を評価する手法であるDPPE(Datacentre Performance Per Energy)を構成する,PUE,REF,ITEE,ITEUがすべて国際標準となった.これで,DPPE方式によるデータセンタの省エネ目標管理ができることになった.

省エネデータセンタに関するドキュメント(WG 1)

高効率データセンタのガイドラインについては,ITU-Tとのリエゾンを参考にしながら,SC 39としてISO/IEC TR 30133を韓国が作成した.

複数のKPIを組み合わせて,データセンタの総合的な省資源性能を評価する⼿法はHolistic Approachと言われている.日本からDPPEというレーダチャートを用いた手法を紹介した.韓国と日本の共同執筆でドキュメントが作成され,2016年12月にISO/IEC TR 20913として発行された.

データセンタの設備に関する国際標準(WG 3)

欧州のETSI(European Telecommunications Standards Institute)が作成し,欧州標準(EN50600)として発行されたデータセンタの設備ガイドを国際標準とするTSの提案が,英独共同でなされ,2017年に発行された.空調,電源,保安設備,ケーブリングなど7分冊(TS22237-1〜-7)からなるものである.これらは,欧州の環境に基づいたものであるため,日本を含むアジア,米国などの状況もふまえた全世界ベースのものを作成しISとするために,WG 3が設立された.ここで,地震対策についての考察が欧州版ではなされていないことから,日本の地震対策についてもドキュメント化したいということになった.このシリーズの一環として,日本の地震対策のドキュメントを参考としてISO/IEC TR 22237-50の執筆を行うことになった.

(4)今後の展望

データセンタの省エネKPI

さらに続くIS案件としては,フィンランド起案の排熱利用に関するKPI(ISO/IEC 30134-6 REF)があり,2019年1月にDISが可決された.また,米国起案のサーバ単体の省エネ性能のKPI(ISO/IEC 21836 SEEM)は2019年5月末締切のDIS投票で可決され,FDIS投票待ちである.この指標は,日本の省エネ法で採用されることになっている.そのため,日本での利用に不都合がないように,担当する日本の委員会と連携して積極的にコメントを行った.

また,日本は,ソフトウェアまでをも含むITプラットフォームの省エネ効率指標の必要性を唱え,APEE(Application Platform Energy Effectiveness)というKPIを起案した.2018年8月にNWIPが可決され,標準化文書作成中である.APEEについては,アプリケーションのタイプ別に適したベンチマークソフトを選定し,これで省エネ性能を測定することにしている.ベンチマークソフトの開発と並行して進むアプリケーションのタイプもあるが,先行して開発されデファクトとなっているベンチマークソフトを用いて国際標準の開発を行っている.

日本がデータセンタの設備から,各種機器,さらにはソフトウェアへとエネルギー削減の技術対象を拡大する一方で,欧州はエネルギー以外の資源の利用効率に対象を広げようとしている.2019年1月には,炭素の利用効率指標(CUE:Carbon Usage Effectiveness),水の利用効率指標(WUE:Water Usage Effectiveness)のNWIPをドイツが提出し可決された.

省エネデータセンタに関するドキュメント

欧州のデータセンタ構築標準EN50600は,欧州独自の環境を反映したものであり,そのままでは日本の環境にそぐわない.特に,データセンタの可用性については,欧州版では,その実現方法が規格の中に書き込まれているので,国際規格では目標とする可用性の水準を定義し,実現方法は規定しないように規格文書の記述を行う方針である.

その他

SC 39の当初のスコープは,地球環境の持続可能性とITであったが,参加者の関心はデータセンタにシフトしており,データセンタ関連であれば地球環境の持続可能性に関係のないもの,たとえば災害耐性などにまで広がっている.そこで,SC 39のタイトルとスコープの見直しが行われ,データセンタという言葉を明示的に入れ,地球環境以外のテーマも扱うこととなった.

このように,SC 39のスコープはデータセンタ全般にシフトしつつある.しかし,世の中全体では,国連がSDGsを提唱し,この考え方が,政治・経済・社会全般に適用されつつあるように,持続可能性はどんどん世の中の重要なテーマとなってきている.そこで,日本としては,このデータセンタ全般のトピックもカバーしつつ,社会の持続可能性の側面も継続してテーマとして対応していくつもりである.

(椎野孝雄,キューブシステム)

2.3.3 SC 40

(1)委員会のタイトルおよびスコープ

タイトル:ITサービスマネジメントとITガバナンス

スコープ:ITガバナンス,ITサービス管理(ISO/IEC 20000シリーズ)およびITを使ったビジネスプロセスアウトソーシング(ISO/IEC 30105シリーズ)に関連する標準,ツール,枠組み,ベストプラクティスおよび関連する文書の作成を行う.IT活動領域には,監査,ディジタルフォレンジック,ガバナンス,リスクマネジメント,アウトソーシング,サービス運用およびサービス維持が含まれるが,SC 27およびSC 38の適用範囲およびその既存の業務によってカバーされる項目は除外される.

(2)JTC 1におけるSC 40の組織の設立と変遷

SC 40の源流は,次の3つのWGの新設から始まる.

  • 2006年5月:SC 7/WG 25(ITサービスマネージメント),コンビーナ:英国
  • 2008年5月:SC 7/WG 1A(ITガバナンス),コンビーナ:ニュージーランド(のちに,SC 7/WG 40と変更)
  • 2011年5月:SC 7/WG 27(ITを使ったビジネス・プロセス・アウトソーシング),コンビーナ:インド

このうちITガバナンスを扱うWGに関しては,設置する委員会についてJTC 1総会で何度も議論になり,SC 7/WG 1A新設の後もJTC 1/WG 6,SC 7/WG 40,JTC 1/WG 8と変遷した.

2013年11月のJTC 1 Perros-Guirec総会にて,2013年12月1日付でSC 40を新設し,前述の3つのWG(SC 7/WG 25,JTC 1/WG 8,SC 7/WG 27)をその配下に移動させること,および,幹事国と議長は豪州にすることが決まった.背景には,巨大化したSC 7を分割する狙いがあった.WGの構成はSC 40に任されたため,2014年2月にSC 40電話会議が行われ,WG 1(ITガバナンス),WG 2(ITサービスマネージメント),WG 3(ITを使ったビジネス・プロセス・アウトソーシング)として踏襲する形に決まった.

第1回のSC 40総会は,2014年6月にシドニーで開催された.当初はSC 7総会と同時開催していく計画だったが,規模が巨大すぎて実現が難しく,結局,同時開催はしていない.

2016年5月に,WG 2から派生してWG 4(インフラのITサービスマネージメント)が新設され,WG 2は名称を「ISO/IEC 20000の保守と開発」に変更した.

現在,次のWGが活動している.

  • WG 1 ITガバナンス(コンビーナ:韓国)
  • WG 2 ISO/IEC 20000の保守と開発(コンビーナ:米国)
  • WG 3 ITを使ったビジネス・プロセス・アウトソーシング(コンビーナ:日本)
  • WG 4インフラストラクチャーのITサービスマネージメント(コンビーナ:中国)

幹事国は発足時から継続して豪州で,議長は,John Sheridan(豪州,2013年12月~2016年11月),Jan Begg(豪州,2016年11月~現在)が務めている.また,2017年6月から,WG 3のコンビーナを榎本義彦(日本IBM)が務めている.

(3)SC 40専門委員会の組織の設立と変遷

国際の動向に合わせて,2014年2月にSC 40専門委員会,WG 1小委員会,WG 2小委員会,WG 3小委員会が設置された.なお,国内には関係者がいないため,WG 4小委員会は設置せず,SC 40専門委員会のなかで審議している.

委員長は,平野芳行(2014年~2017年10月),岡崎靖子(日本IBM,2017年10月~現在)が務めている.

WG 1小委員会主査は,原田要之助(情報セキュリティ大学院大学),WG 2小委員会主査は八木隆(日立),WG 3小委員会主査は清水裕子(東京システムリサーチ)が務めている.

(4)主な活動の歴史

これまでに制定した主要な国際標準は次のとおりである.※印は複数パート構成.[ ]内は対応する日本工業規格.

  • ISO/IEC 38500※ITガバナンス(IS:2パート,TS:1パート,TR:3パート)[JIS Q 38500 ITガバナンス]
  • ISO/IEC 20000※ITサービスマネージメント(IS:5パート,TR:4パート)[JIS Q 20000-1,JIS Q 20000-2サービスマネージメント]
  • ISO/IEC 30105※ITを使ったビジネスプロセスアウトソーシング・ライフサイクルプロセス(IS:5パート,TR:1パート)

2017年6月にSC 40総会を日本に招聘し,約80人が参加した岡山総会を開催した.

(5)課題と展望

「ITガバナンス」は,多くの場面で利用が可能なため,「データのガバナンス」,「AIのITガバナンス」,「DLT(分散台帳技術)/ブロックチェーンのガバナンス」などの新分野への展開や,ガバナンスの範囲を拡張してデジタル・トランスフォーメーションを扱う検討がされており,スコープが拡大し続けている.関係するJTC 1/SCやISO/TCとの連携,および,協力体制の確立がより重要となっている.

ISO/IEC 20000は,パート1(要求事項)の2回目の改訂版が2018年9月に発行され,改訂版のJIS化をすすめている.国際においては,ISO/IEC 20000をさらに普及させるために,IT以外の分野に展開することが検討されている.

ビジネスプロセスアウトソーシングに関しては,認知度を上げるため,ISO/IEC 30105の普及活動とJIS化を進めている.

(岡崎靖子,日本IBM)

2.3.4 SC 41

(1)委員会のタイトルおよびスコープ

タイトル:インターネットオブシングスと関連技術

スコープ:インターネットオブシングスとセンサネットワークとウェアラブル技術等の関連技術分野の標準化.

(2)JTC 1におけるSC 41の組織の設立と変遷

JTC 1におけるIoTに関連した規格開発としては,2007年に韓国の提案によりStudy Group on Sensor Network(SGSN)が設置されてセンサネットワークに関する調査が開始されたことから始まった.このSGSNは韓国が幹事国を務め,2009年にWG 7 on Sensor Networksと改組されて規格開発を本格化させた.また,IoTに関しては2012年に,これも韓国の提案によりSpecial Working Group 5 on Internet of Thingsが設置されて調査が開始された.このSWG 5も韓国が幹事国を務め,2年間の活動で報告書をまとめて2014年のJTC 1総会に報告し,WG 10 on Internet of Thingsとして改組されて規格開発を本格化させた.SC 41は2016年のJTC 1総会においてこのWG 7とWG 10を吸収して,ウェアラブル等の関連技術をスコープに追加し,WG 7とWG 10で開発されていたプロジェクトを移管してその活動を開始した.

SC 41は2019年4月1日時点で25カ国のPメンバと11カ国のOメンバから構成され,議長はカナダのFrançois Coallier氏,幹事国は韓国が務めている.

2016年のJTC 1総会でのSC 41の設立時点ではWG 7とWG 10をそのままWGとして引継いだ形で2つのWG(WG 1:センサネットワーク,WG 2:IoT)が設置されたが,2017年5月に開催されたSC 41の第1回ソウル総会では,3つのWG(WG 3:IoTアーキテクチャ,WG 4:IoT相互運用性,WG 5:IoTアプリケーション)に再編され,コンビーナはそれぞれ米国,中国,韓国が務めることとなった.また,新たな規格テーマの発掘を目的としてStudy Group(SG)が設置されて活動している.

(3)SC 41専門委員会の組織の設立と変遷

SC 41の国内審議体制は,第1回のソウル総会に向けた準備を行うことを目的として,2016年12月に専門委員会の設置について情報規格調査会としてプレスリリースを行って委員募集を始め,2017年4月にSC 41専門委員会として第1回の委員会を開催した.以降,ほぼ毎月1回の委員会を開催して,審議事項の対応等について議論している.委員長は河合和哉(IPA)が務めている.

(4)主な活動の歴史

SC 41総会は2017年5月に第1回のソウル総会が開催されて以降,毎年5月と11月の年間2回開催されている.2018年の11月総会は日本に招致し,横浜で開催した.

SC 41はWG 7とWG 10を吸収して設置されたことから,SC設置時にWG 7とWG 10で開発中のプロジェクトが移管され,2019年4月1日時点で20規格が発行済,14規格が開発中である.

このうち日本は2規格を提案して規格開発を推進中である.

(5)課題と展望

2014年のWG 10の設置時はToR(Terms of Reference)で基礎的な規格(fundamental standard)を開発することとされたことから,参照アーキテクチャと用語の規格開発を開始した.また,これらと合わせて規格開発の参考とするためにユースケースを集めた技術文書を開発した.2016年にSC 41に改組されてIoTに関係する規格開発をすることとなり,活動範囲が広がった.IoTは非常に幅広い応用分野で利用され始めていることから,SC 41となってからは特定の応用分野に関する規格提案が目立つようになり,ISOやIECのTCが所掌する応用分野に関連する提案もされている.このため一部の規格提案には,他のTCからスコープの競合が指摘されていることから,応用分野に関連する規格を提案する場合には関連したTC等との調整を行うことが重要であることが共有され,2018年の横浜総会で応用分野ごとにSectorial Liaison Groupを設置して,関連のTC等との情報交換・調整活動を行うこととなった.SC 41としては,特定の応用分野によらない分野横断的な規格開発を進めていくことが望まれる.

(河合和哉,IPA)

2.3.5 SC 42

(1)委員会のタイトルおよびスコープ

タイトル:人工知能(Artificial Intelligence,以下AIと略記)

スコープ:人工知能分野の標準化.

(2)JTC 1におけるSC 42の組織の設立と変遷

2017年10月,JTC 1総会へ「AIについて取り組むべき」というレポートが提出されたのを皮切りに,米国からAIに関する新たなSC設置と標準化項目が提案され,米国を幹事国,Wael Diab氏を議長とする決定がなされた.設立は2018年4月と定まった.

当初スコープには,「人工知能の概念と用語」“AI Concepts and Terminology”,「機械学習を用いた人工知能システムのフレームワーク」“Framework for AI Systems Using Machine Learning(ML)”と,Societal Concern,Big Dataなどがあがったが,Societal Concernは技術的議論からはみ出る懸念があり,Big Dataは大きなテーマなため,SC 42で取り組み方を議論すべきとなり,前者2つが最初のスコープとなった.

2018年4月に北京にて最初の会合が開催され,前記,「人工知能の概念と用語」,ならびに「機械学習を用いた人工知能システムのフレームワーク」の検討を進めるWG 1が立ち上がった.同時に,3つのStudy Group,SG 1(Computational approaches and characteristics of artificial intelligence systems),SG 2(Trustworthiness),SG 3(Use cases and applications)が立ち上がった.

SG 3は日本がコンビーナとセクレタリとなった.また,JTC 1/WG 9(Big Data)をSC 42傘下とすることも決議された.議論のあったSocietal Concernについては,技術へ議論を特化することを条件に,SC 42での議論を認めるよう,JTC 1へ答申を出すことが確定した.これは,後日,承認された.

SC 42第2回総会では,WG 1に加え,SG 2がWG 3,SG 3がWG 4となった.また,ISO/IEC AWI 38507 “Information technology―Governance of IT―Governance implications of the use of AI by organizations”を審議するSC 40とSC 42のJoint Working Group設立が検討され,JWGをSC 42傘下に設立する答申が作成され,後日承認された.

また,2014年アブダビ総会で設置されたWG 9 on Big Dataは,ビッグデータの参照アーキテクチャや,用語の定義,ユースケースなどの規格開発を進めてきたが,2017年のウラジオストック総会でSC 42へプロジェクトの移管が決議された後,ISO/TMBでの移管否決があったものの,SC 42からの移管要請を受け,SC 42にWG 2として,統合された.

以上により,4WG+JWG+SGが作業母体となり,プロジェクト総数は11となった.このため,第2回総会から第3回総会までの,寄書総数は500件を超えた.

第3回総会では,SG 1がWG 5となり,5WG+JWGとなった.トピックとしては,SC 38からの喫緊の要請もあり,5つ提案されていたAI定義を1つの案へ絞ることに成功した.WG 4からは,ユースケースに関して17の関連組織へリエゾンレターを出すことが日本発議で決まった.これはAIの関連する活動が,横の広がりを持ち,標準化として運営も議論も未経験な分野へ乗り出したことを示している.

(3)SC 42専門委員会の組織の設立と変遷

SC 42国内専門委員会は,2018年4月スタートであるが,SC 42の設立直後に総会が予定されていたため,準備会合を3回,2018年1月から3回開催し,各国の提案等に対する課題形成ならびに,スタンスを議論した.委員長は杉村領一(産総研)が務めている.

SC 42第1回総会後は,各SGの議論を専門委員会を中心に議論することで足りたが,第2回総会後は,国際の動きに合わせて,議論をする体制強化が急務となったため,国際のスキームに合わせる形で,WG 1,WG 2,WG 3,WG 4の小委員会を設置した.

第3回総会後には,WG 5に対応する小委員会を設立した.

(4)主な活動の歴史

日本の主要な貢献は,WG 4のConvenorである丸山文宏(富士通研)を中心としたUsecases & Applicationsの収集であり,関連するリエゾン団体も17を超え,各WGの議論へ資する情報の収集を各国の協力を得て,継続的に行っている.日本として関心の高い品質やLifecycleについても力を入れて収集を行っている.

WG 2は,JTC 1/WG 9 Big Dataの活動を引きついだものであり,最も検討が進んでおり,榎本義彦(日本IBM)のリード,伊藤雅樹(日立),鈴木俊宏(日本オラクル)の豊かな経験に支えられた活動もあり,各国との関係構築に基づいた戦略的な動きができている.

また,ITU等での経験豊かな江川尚志(NEC)からは,JTC 1でのリエゾンの取り方など運営について,高いレベルで適用可能な知見が貢献されている.

AI技術関連では,機械学習の一般定義や170を超えるバイアス定義提供などが杉村領一よりなされている.

(5)課題と展望

専門委員会の見解は多岐にわたり,種々の見解が示されているが,実質的なドキュメントの提案ベースで見る限り,日本のメンバは,AI Lifecycleと,AI品質についての新しい標準策定への関心・期待が大きい.

これは,参加各国も類似の状況であり,各国との個別の議論をまずは先行させ,複数国による標準提案への流れを作ることがWinWinの条件となりそうである.Directivesでもこれは推奨されている.

課題は,

  1. AIが技術横断的な分野であり,適切な技術議論には,多くの専門家の参加が必要になること.
  2. AIが社会システム全体へ影響を持つため,社会全体がどういう価値を優先するかという議論の影響を受けざるを得ない面があること.

などであろう.①については,ユースケースなど具体的な技術実体をベースに議論をすることが,実務的に確かな道を歩むベースとなる.この意味で,日本がユースケースをリードしている現状には期待が持てる.②については,元米国ホームランドセキュリティ長官ミハエル・チャートフ氏著のExploding Dataの議論構築にあるように,たとえば,データであれば,各社会の具体的な歴史経緯や価値観についての大きな方向性の確認が,技術内容を検討する際に支えとなる.Society 5.0など,日本としての大きな方向性を意識しながら,各国の背景などの理解を進めておくことも必要になる.これは,JTC 1の議論の方法や技術の汎用性などの議論とは異なる,新たな観点が,標準化で必要になっていることを示しており,人材の育成も必要な分野である.

(杉村領一,産総研)

2.3.6 WG 11 Smart Cities

(1)委員会のタイトルおよびスコープ

タイトル:スマートシティズ

スコープ:JTC 1におけるスマートシティズの標準化活動の集約点および提案者として活動する.

(2)JTC 1におけるWG 11の組織の設立と変遷

2015年11月のJTC 1北京総会で,スマートシティのJTC 1における標準化の可能性を2年間にわたって検討してきたStudy Groupの報告を受けて,WG設置が決議された.Study Groupに引き続き,WGの幹事国も主査も中国が担当している.

設置の決議後,中国から提出された「スマートシティICT参照フレームワーク」,「スマートシティICT指標」のNPが承認され,2016年5月に第1回会合が開催された.その後,カナダから提案された「スマートシティ指標のための高位オントロジ」が承認され,また,「スマートシティICT参照フレームワーク」は「ビジネスプロセスの枠組み」,「知識管理の枠組み」,「エンジニアリングの枠組み」の3つに分割され.さらに,中国提案の「スマートシティ・デジタル・プラットフォーム」の開発も始まった.

(3)WG 11小委員会の組織の設立と変遷

日本においては,WG 11に先駆けて2012年に設置されたISO/TC 268(持続可能な都市およびコミュニティ)をスマートシティ関連の標準化活動の主体と捉えていたため,WG 11の設置当初には有志エキスパートが個別に参加し,様子を見る程度であった.そうしたなかで,規格開発が本格化してきた2017年初頭に,日本としても国の意見をまとめて対応するために小委員会を設置した.以来,伊藤雅樹(日立)が主査を務めている.

(4)主な活動の歴史

日本からは,ソーシャルメディアなどから市民の意見や感情を拾い上げる技術を規格に反映すべく,関洋平(筑波大)が「スマートシティICT指標」および「スマートシティICT参照フレームワーク」の「エンジニアリングの枠組み」のco-editorを務めている.指標には,市政への市民の声の反映率といった指標を加え,「エンジニアリングの枠組み」にはその指標を計測するための仕組みを加えた.

「スマートシティICT指標」は2019年10月にWG 11からの初規格として発行された.本稿執筆時点(2019年12月)では,すでに「スマートシティ指標のための高位オントロジ」が発行プロセスに入っており,「エンジニアリングの枠組み」もDIS投票中,他の2件もCDまたはDISへ進んでおり,着々と開発が進捗している.「スマートシティ・ディジタル・プラットフォーム」は,当初の中国提案がJTC 1の範囲を超えていたため,2019年5月のJTC 1総会でタイトルとスコープが見直されたが,これが中国の意図とのずれを生じてしまったため,改めてタイトルとスコープから見直しており,実質の開発には至っていない.

(伊藤雅樹,日立)

2.3.7 WG 12 3D Printing and Scanning

(1)委員会のタイトルおよびスコープ

タイトル:3Dプリンティングおよびスキャニング

スコープ:JTC 1における3Dプリンティングおよびスキャニングの標準化活動の集約点および提案者として活動する.

(2)JTC 1におけるWG 12の組織の設立と変遷

2017年10月のJTC 1ウラジオストック総会で,3DプリンティングおよびスキャニングのJTC 1における標準化の可能性を1年間にわたって検討してきたStudy Groupの報告を受けて,関連するNPの成立をもってWGを設置することが決議された.Study Groupに引き続き,WGの幹事国も主査も韓国が担当している.

この決議後,韓国から提出された「付加製造サービスプラットフォーム(AMSP)の枠組み」のNPが承認され,2018年10月に第1回会合が開催された.いくつかのNP案も議論されているが,本稿執筆時点(2019年12月)では,AMSPプロジェクトのみの開発を進めている.

(3)WG 12小委員会の組織の設立と変遷

日本は,Study Groupにも参加していた経緯もあり,WG 12設置と同時期に小委員会を設置した.以来,伊藤雅樹(日立)が主査を務めている.

本小委員会では,WG 12に先駆けて2011年に設置されたISO/TC 261(付加製造)と連携して国内の意見をまとめるため,TC 261国内委員会からもリエゾン参加をいただいている.

(4)主な活動の歴史

本稿執筆時点(2019年12月)では,WG 12は発足して間もなく,発行された規格は存在しない.唯一のAMSPプロジェクトはWeb会議を利用して活発に開発を進めており,当初予定の2022年8月に対して大幅に前倒して発行されることが期待される.

(伊藤雅樹,日立)

2.3.8 WG 13 Trustworthiness

(1)委員会のタイトルおよびスコープ

タイトル:トラストワージネス

スコープ:ICT Trustworthinessのフレームワーク,タクソノミー,オントロジ等の基盤的規格を開発.JTC 1内でのTrustworthinessの全景を反映したヒートマップの完成と保守.

(2)JTC 1におけるWG 13の組織の設立と変遷

2018年11月のJTC 1ストックホルム総会で,複数のSCにおいて個別に検討が進められている実情を踏まえて,JTC 1としての共通認識や用語の使用に関するガイドをつくるべきとの意図でアドホックグループ(後にAGに改組)が設置された.1年の活動を行い,ガイド文書の作成を終えたが,SC 27にてICT Trustworthinessのオントロジに関する規格開発が新規に承認されたことから,その作業をJTC 1直下にWGを設置して移管すべき,という意見が多く,2019年11月のニューデリー総会で設立が決まった.あわせて共通基盤的な規格としてフレームワークやタクソノミーなども扱うことになった.

(3)WG 13小委員会の組織の設立と変遷

2018年のアドホック設置のタイミングで,日本では技術委員会の傘下にアドホックを設置して対応していた.河合和哉(IPA)が主査を務めている.今回,WGになったことにより,小委員会への改組を行う計画である.

(4)主な活動の歴史

本稿執筆時点(2019年11月)では,WG 13は発足して間もないため,発行された規格は存在しない.

(河合和哉,IPA)

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